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第2章 箱入りママの話

掛け替えのない私の天使のためにできること( カトリーヌ視点)

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「久しぶりだね、 カトリーヌ」

 フェルディナンド様は、謁見の間で明るく出迎えて下さいました。私は淑女の礼ーー カーテシーを行いました。

「 お久しぶりでございます、国王陛下」
「 堅苦しい挨拶は抜きで構わないよ」
「しかし・・・・・・」

 私はクルセイラ様の親友だから、 フェルディナンド様とも子供の頃から交流がありました。非公式の場であれば少しだけ砕けた振る舞いも許されることでしょう。ですが、謁見の間は公の場です。 フェルディナンド様のことは国王陛下として敬わなければなりません。
 私が困っていると、クルセイラ様が間に入って下さいました。

「非公式用の応接室は使えなかったのかしら?」
「この後に謁見の間で大切な用事があるから、時間の都合上、ここから離れられないんだよ。分かってくれ」

 私達の訪問は、本来の予定にはないものでした。国王陛下の スケジュールはただでさえぎっしりなのに、無理をして予定を挟んでくださったのでしょう。

「場所はともかく、非公式として扱うということかしら?」
「ああ、そういうことだ」

 フェルディナンド様は、クルセイラ様の確認に対して肯定しました。
 ありがたいことです。親友のお兄様としてなら、何とか会話を緊張せずに済みます。

「前もって仕事を片付けられないなんて、お兄様は効率が悪過ぎるわ」
「誰もがクララのようにはできるわけではないんだよ」
「 カトリーヌなら、私程ではなくても 十分対処できるわ。お兄様は王族として恥ずかしくはないの?」
「それを言われると・・・・・・」

 フェルディナンド様は肩を落として落ち込んでしまいました。
 私は確かに、効率的に事に当たれますよ。でも、 フェルディナンド様は民のことを思ってじっくりと心を砕いてくださっているのです。どうしても民を犠牲にしなければならないことがあり、なるべく多くの民を救う方法を画策しているのでしょう。彼はそういう優しいお方なのです。王族としては甘過ぎるとも言えますけどね。彼が国王陛下でいられるということは、それだけ国が安定している証拠なのです。
 もしもクルセイラ様が 女王陛下にでもなったら、国は発展するとは思いますが、ついていけない国民も出てくると思いますよ。
 クルセイラ様の 無茶振りに対応できるだけの能力がありながら、平民の立場も知っている私だからこそわかることなのです。

 そろそろ助け船を出しましょうか。というより、早くエリカを守るための話し合いを行うべきだと判断しました。兄妹喧嘩は身内だけで集まったときにでも決着をつけてください。

「そこまでです! 今はエリカのことを話し合うために集まったはずですよ」
「そうだったわね。ごめんなさい」
「悪かった。この通りだ」

 私は王族二人に頭を下げさせる真似をしてしまいました。不敬罪にならないでしょうか。国王陛下自ら心からの謝罪をしているのですから、喜んで謝罪を受け入れればいいだけですよね。

「許します。だから、頭をお上げください」
「 カトリーヌが許してくれてよかったわ」
「ああ、 カトリーヌが暴れたら、 国が滅びてしまうかもしれないからな」

 随分失礼なことを言っていますね。私は確かに 幼少の頃はクルセイラ様の わがままについていけるほどお転婆でしたけど、今はごく普通の平民ですよ。王族に喧嘩を売るような真似をするわけがありません。本当ですよ?

「それで、エリカについてですけど・・・・・・」
「取り合えず、体に異変がないのか調べる必要があるわね」
「もしもエリカのことを狙うものがいるのなら、国の力を持って全力でそいつを地獄に 叩き落としてくれる」

 お二人は、エリカのことをまるで自分の娘のように心配してくださるのですね。涙が出るほど嬉しいです。

「王宮で匿うのが一番手っ取り早いのだけれど、 カトリーヌはそれでもいいかしら?」
「それは・・・・・・」
 
 私もクルセイラ様の意見が 正しいことは理解できます。しかし、気持ちがついてこないのです。それに、貴族のやっかみというのも気になるものです。かつての私なら、売られた喧嘩は全て言い値で買っていたのですけど、エリカのためには穏便に済ませたいと思っています。

「エリカだけを特別扱いするのは色々と不味いのではないでしょうか?」
「それもそうね。では、どうしようかしらね?」

 私達はエリカのために名案がないか思案し続けます。
 木を隠すなら森の中と言います。他の魔法の才能のある子供達を集めて、離宮辺りで英才教育を行うことにすればいいのではないでしょうか。平民はごく一部で、メインは貴族の子息令嬢とすればいいのです。 フェルディナンド様のご子息の フレドリック様との交流の場を早くに持てるとなれば、誰も文句は言わないはずです。

「お城の敷地内に幼児専用の魔法学校を造りましょう!」
「面白そうね」

 私の案に、クルセイラ様は賛同してくれました。 フェルディナンド様は今一乗り気ではないようですが、私とクルセイラ様が手を組むのですよ。何としてでも押し通して見せます。愛する天使のためになら、 母は最強になれるのですよ。


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