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第2章 箱入りママの話

何よりも大切な私の天使( カトリーヌ視点)

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 私は愛する人と結婚することができて、娘を授かることができました。穏やかで、なんて幸せな日々だったのでしょう。
 しかし、そんな日は長くは続きませんでした。
 ある日のこと。旦那のクワトロが国王陛下に招集されました。彼は国の思惑で勇者に祭り上げられていたので、有事の際は駆り出されてしまうのです。
 クワトロが勇者として功績を残せたお陰で、私と彼は一緒になることができたので、国を恨むのはお門違いというものでしょう。
 実は私はクワトロの仲間として、魔王討伐の旅に同行していました。その縁で、私とクワトロは結ばれたのです。
 当時の魔王とは和平交渉を交わしたのですが、新たな魔王が現れて、クワトロに魔王討伐の命令が出されたようなのです。


「この子が生まれる頃には戻ってきてくださいね」
「ああ、約束だ」

 クワトロは明るく笑って旅立ちました。

 
 ーー半年後、娘のエリカが生まれた後もクワトロは帰って来ませんでした。
 やはり、クワトロ一人では魔王と 戦うのは無謀だったのです。
 エリカがお腹の中にいたから、私はクワトロの旅についていけませんでした。かつての仲間だったクルセイラ様も同様に赤ちゃんを身籠っていました。
 たった独りで 戦い続けているクワトロは、 勝てないながらもなんとか 魔王の 魔の手から国を守り続けているようでした。

 私も本当は、 彼の隣で戦いたいです。でも、エリカを 誰かに預けて放っておくなんてことはできません。

「エリカ」

 私が呼びかけると、エリカは まるで天使のような微笑みを浮かべます。 かわいいかわいいわたしの天使。 どんなことがあっても、絶対に私が守ってみせますからね。
 愛するクワトロよりも 大切な存在ができるとは思ってもいませんでした。 彼への想いが消えたわけではありません。 子供はそれよりも特別なつながりがあるというだけのことです。

「さあ、ご飯の時間ですよ」

 エリカはぐずることなく、私の胸に口を近づけて、上手にミルクを飲んでいます。 何もかもが可愛らしいです。 思わずニヤけてしまいますね。
 今からこんなに可愛いらしいのです。エリカは 将来、 男の子は惑わせてしまうかもしれませんね。
 私の子供の頃ですか? 男の子とは普通に仲良くしていましたよ。 特別な関係になったのはクワトロだけですけどね。キャッ! 思わずのろけてしまいました。
 今はエリカの話でしたね。自慢の娘ですよ。私とクワトロの娘だから、きっと魔法の才能があるはずです。貴族の隠謀に巻き込まれないように気を付けなければいけませんね。その辺りのことは、後でクルセイラ様に相談することにしましょう。

 エリカがどんなに可愛くても、四六時中見守っている訳にはいきません。家政婦を雇うだけの金銭的余裕はありますけど、家事を任せきりでは箱入りだと馬鹿にされてしまいます。そういうわけで、私は家事に勤しんでいました。

 その僅かな時間に問題が起きてしまいました。エリカの体が発光して、とんでもない量の魔力が渦巻いていたのです。

「エリカ!?」

 私は咄嗟にエリカを 抱きかかえ、魔法変換を試みました。
 この世界ではお金を消費して魔法を使用することになってます。けれど、 生まれたばかりでは貨幣魔法に 変換されておらず、 もしも魔法を使用したら生命エネルギーを消費することになってしまうのです。
 エリカは今、 魔法を発動しています。それも 私でも使用できないような 強力なエネルギーを 発生させている魔法です。 このままでは、エリカは 命を落としてしまうかもしれません。
 魔法変換は本来、 子供が一歳になった頃に神殿で神官に行ってもらうものです。私は専門ではないので、詳しい方法を知りません。しかし、エリカを 救うためには今すぐにでも魔法変換を 成功させなければいけないのです。

「 お願いします、女神エセリア様。 この子の命を救いください」

 目映い光に、激しい地震。私はエリカを 庇うように 机の下で丸まり、 揺れが収まるのを 待ちました。
 果たして、どれくらいそうしていたでしょうか。エリカの 発光と 地震は 収まりました。

「無事で良かったです」

 私が涙を浮かべると、エリカも 泣き出してしまいました。 母親としてもっとしっかりしなければいけませんね。エリカを 守れる 強いお母さんになりたいものです。


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