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87.告白
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自分の言葉のどれがそんなに彼を傷つけたのか分からなかったが、悪いのが自分というのは明白なので、リントは謝罪を口にした。
「ごめんなさい」
「何で謝るの」
「それは…傷つけたから」
「理由、わかってないのに?」
嘲るような言い方に、リントはなんて返したらいいのか迷う。
戸惑うリントに焦れたのか、ユールは腕を掴んで引き寄せた。
「あっ…」
一気に距離が縮まり、視線が絡む。
ユールの口が、確認するようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺が君を好きだから傍にいた、とは思わないの?」
「―――」
瞬間、頭が真っ白になった。
想定していなかった言葉に、身体まで囚われたように動けない。
「リントが好き。確かにきっかけは魔法だけど、それで惹かれたわけじゃない。そんなの無くたって俺はリントの傍にいたいし、支えたいって思ってる。できれば先輩でなく、恋人として」
「わた、し…」
『私も』と言ってしまえばいい。
そうは思うのに、トートや他の女性達の顔、同僚やリック達の噂話、昔の苦い経験が急激に頭を過って踏み出せない。
なによりも、ウェイトナーの言葉が強くリントを縛っていた。
もし彼の言う通りだったら。
魔導士の道に外れるようなことをしていたら。
自分は一度取った手を、離すことができるのだろうか。
離れたくなくて、間違った選択をしてしまわないだろうか。
「ごめん。昨日の事だってまだ整理ついてないだろうに、こんな話して」
黙ってしまったリントを気遣うように、優しい声が聞こえた。
考えているうちに、いつの間にか視線が下がっていたらしい。
ゆるゆると顔をあげたリントを見つめるユールの瞳は、先ほどの熱を帯びたものではなく、慈愛に満ちたものに変わっていた。
「落ち着いてからでいいから、考えてみてくれないかな。もちろん断ったからって仕事に支障は出さないし、リントが気まずいなら、時間ずらすとか、配置換えとか、俺と会わなくて済むようにするから」
『ね?』と片方の眉を少し下げて、困ったような笑みを浮かべるユールに、リントは彼の申し出に甘えてしまう自分の狡さを感じながらも、頷く事しかできなかった。
「ごめんなさい」
「何で謝るの」
「それは…傷つけたから」
「理由、わかってないのに?」
嘲るような言い方に、リントはなんて返したらいいのか迷う。
戸惑うリントに焦れたのか、ユールは腕を掴んで引き寄せた。
「あっ…」
一気に距離が縮まり、視線が絡む。
ユールの口が、確認するようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「俺が君を好きだから傍にいた、とは思わないの?」
「―――」
瞬間、頭が真っ白になった。
想定していなかった言葉に、身体まで囚われたように動けない。
「リントが好き。確かにきっかけは魔法だけど、それで惹かれたわけじゃない。そんなの無くたって俺はリントの傍にいたいし、支えたいって思ってる。できれば先輩でなく、恋人として」
「わた、し…」
『私も』と言ってしまえばいい。
そうは思うのに、トートや他の女性達の顔、同僚やリック達の噂話、昔の苦い経験が急激に頭を過って踏み出せない。
なによりも、ウェイトナーの言葉が強くリントを縛っていた。
もし彼の言う通りだったら。
魔導士の道に外れるようなことをしていたら。
自分は一度取った手を、離すことができるのだろうか。
離れたくなくて、間違った選択をしてしまわないだろうか。
「ごめん。昨日の事だってまだ整理ついてないだろうに、こんな話して」
黙ってしまったリントを気遣うように、優しい声が聞こえた。
考えているうちに、いつの間にか視線が下がっていたらしい。
ゆるゆると顔をあげたリントを見つめるユールの瞳は、先ほどの熱を帯びたものではなく、慈愛に満ちたものに変わっていた。
「落ち着いてからでいいから、考えてみてくれないかな。もちろん断ったからって仕事に支障は出さないし、リントが気まずいなら、時間ずらすとか、配置換えとか、俺と会わなくて済むようにするから」
『ね?』と片方の眉を少し下げて、困ったような笑みを浮かべるユールに、リントは彼の申し出に甘えてしまう自分の狡さを感じながらも、頷く事しかできなかった。
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