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86.差異

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 翳る雰囲気を払拭しようと、リントは努めて明るい声を出す。

「属性の事、ずっと黙っててくれたじゃないですか。証拠ならそれで十分ですよ。信用も信頼もしてますから、そんなに気にしないでください」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しい」

 ユールはほっとした表情を浮かべたものの、いつもの彼と比べると、まだ硬さが残っているように見えた。
 博識の彼ならば、気分が上がる話題でも振ってくれるのだろうが、自分にそんな能力はないので、せめてもと目標を掲げてみせる。

「私こそお役に立てるよう、練習頑張りますね。先輩が指導役の内に公表できた方がいいでしょうし」

 てっきり応援してくれると思ったのに、ユールは顔をしかめた。

「属性の事、魔導士庁に報告する気なの?」
「そのつもりでしたけど…駄目でした?」

 人前で使おうと思ったら、黙っているわけにはいかない。
 暫くは周りが騒がしくなるだろうが、魔力持ちの時点でそういうのには慣れている。
 我慢していれば、そのうち飽きて通り過ぎていくだけだ。

「駄目というか、危険すぎる。属性はまだしも、自分の魔力値の高さわかってるよね?リントにその気がなくても、上にしてみたら脅威にしかならないよ。今は魔法板で十分間に合ってるんだから、焦らないでよく考えて決めよう?リントの理想に近い形にできるよう俺も手伝うから」

 ユールの言葉にはっとした。
 属性の事ばかりで、魔力値の事など頭になかった。

 そもそも、値を測っただけで全力を出したことのないリントには、どの程度なのか想像がつかない。
 自分の甘さを猛省しつつも、今度はユールのことが気にかかり、質問を投げかける。

「けど、先輩はそれでいいんですか?せめて魔導士庁には報告しないと、庁舎の設備を使えないし、研究成果として認められないですよね?」

 リントの言い方が悪かったのか、うまく伝わらなかったらしい。
 ユールが怪訝な顔でこちらを見た。

「何のこと?」
「何のって、研究の話です。実践はヤトルの草原でもできますけど、例えば属性魔法で作った薬と従来品との比較とか、庁舎の設備が無いと出来ない事っていっぱいありますよね?」

 リントとしては当たり前の話をしたつもりだった。
 けれど、話が進んでいくにつれてユールの表情は暗く沈んでいき、ひどく傷ついた顔を見せる。

「…何でそうなるの。俺、君を調べたいなんて言ってない」
「え、でも私の魔法『綺麗』だって。『傍にいたいから指導役になった』って…」
「それは…っ」

 リントはユールの言葉を『興味を惹かれた属性魔法の持ち主を、自分の監視下に置いておきたい』という意味で捉えていたのだが、どうも違ったらしい。
 
 他の理由が思い浮かばないリントは、ユールの言葉の続きを待ったが、彼は何かに耐えるように膝の上できつく手を握り、黙って下を向いたままだった。
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