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74.吐露

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 勢いのままにウェイトナーが言葉を吐き出していく。

「赤ん坊だったお前は知らんだろうが、父は毎月の定期訪問でお前に会いに行くのを何よりも楽しみにしていたよ。生徒として屋敷に通うことが決まった時はこれ以上ないくらい喜んでいた。一時は不義の子じゃないかって疑ったくらいだ。それに比べて俺は毎月変わるはずもない魔力値を測られ、落胆する父の顔を見続けるだけ。毎日研究研究で、ろくに構ってなんてもらえなかった」

 普段なら心臓が縮み上がるような怒声も、間に別の自分という緩衝材があるせいか、不思議と怖くは無かった。

「祖父だってそうだ。自分の息子よりお前を優先した。お前が魔力持ちだから。ただそれだけなのにっ。お前がずっと憎かったよ。なんの努力もしていないのに、魔力があるだけで大事にされているお前がっ」

 内に溜めていたものを一気に出し切ったせいか、ウェイトナーの息がわずかにあがっている。
 リントの口はそんなこと関係ないとばかりに冷静に言葉を刻み続けた。

「血を、飲んでいたでしょう?」
「は?」
「ち?」

 ウェイトナーの間の抜けた声が、リントに制されしばらく黙っていたユールの言葉と重なった。

「私の血。あなた魔導士になりたかったんでしょ?イーガン先生も継いで欲しいって思ってた。だから魔力が上がる方法を探してた」
「私のって…彼はリントの血をエドに飲ませてたの?」

 ユールの声が震えて聞こえるのは、気のせいだろうか。
 ウェイトナーは心当たりがあるのか、押し黙ったままだった。
 彼の問いに答えることなく、リントは話し続ける。

「研究に必要だって言われてた。けど、イーリス先生はそんな事しなくていいって。不思議に思って専科に入ってから調べた。魔導科なら禁書も閲覧可能だから。それで知った。昔は魔力持ちの血肉を食すとその力が手に入るとか、寿命が延びるとかって言われてたみたい。それを信じた人たちのおかげで孤児やお金のない魔力持ちが何百人も犠牲になったって。戦争も奴隷もいた時代だから仕方ないのかもしれないけど」

 魔導士庁が出来る前の話だ。
 リントが生まれるもっと、ずっと、昔の話。

 当時書かれたという書物はかなり詳細に記されていて、初めて読んだときはあまりの残忍さにしばらく物が食べられなくなった。
 けれど、それと同じことを自分も他の生き物にしているのだと思ったら、よくわからなくなってしまい、結局考えるのをやめた。

 食べないと生きていけない以上、倫理から外れない様にすることくらいしか、自分にはできない。

「切られるのは痛かったけど、終わると『がんばったね』って頭を撫でて、回復薬とお菓子をくれるの。今は魔法使いが貴重だから使い捨てができなかっただけなのに、あの時は役に立ててるって素直に嬉しかった。でも、思うようにいかなかったのか段々量が増えていって。あの日も試したいことがあるからって―」

 あの日?あの日とはいつだ。
 リントの中で、せわしなく記憶が流れていく。
 頭が割れるように痛い。

「っ…ぁ…」
「リント?」
「何か思い出したのか?!」

 頭を押さえだしたリントをユールが不安そうに見ている中、ウェイトナーは身を乗り出した。

『だめだよ。忘れていないと。約束したでしょ?』

 可愛らしい声が頭に響いたとたん、リントの意識はぷつりと途切れてしまった。
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