ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜

nagamiyuuichi

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コールオブホーリーガール

狂乱の魔道士アリサ

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「なっ!? なっ?」

 不意に現れた魔法の縄により、全身を縛り上げられるクレール。

 なすすべもなく地面に転がるクレールは視線だけを動かして声の方向を睨むと、鉄の魔王の上に立ちこちらを憤怒の形相で睨む一人の少女の姿を捉える。

「あ、アリサ??」

「本当、踏み潰しても放逐しても、どこまでもどこまでもグレイグにまとわりつくゴミ虫が」

 侮蔑と憎悪を隠すことなく吐き出すアリサに、クレールは一瞬目眩を覚える。

 品行方正でいて、物腰柔らか。
 かつて聖女と呼ばれたほどの少女の面影からは微塵も感じられず、魔物にでも魅入られたかと見間違うほど、アリサは杖の先から禍々しい魔力を放っている。

「お、おいアリサ!? 一体何するんだよ! てか、ゴミ虫って酷くない!?」

「黙りなさい!!! 男に寄生して欲求を満たす事にしか能のない淫売が。追放されて己の無能を悔いるどころか、グレイグの悪評を流布した挙句、獲物の偸盗までしておいて。よくもまぁ恥ずかしげもなくまた寄生するために擦り寄ってこれますね?五臓六腑の底の底から腐乱した女狐が!!」

「……」

 ゴミを見るかのような目で見下してくるアリサに、クレールは思わず言葉を失う。

 ただ、それは罵詈雑言の嵐にではなく。

(……何言ってるかさっぱりわからない。寄生? 狐?)

 アリサの言っていることが理解できないためであるが。

「あ、アリサ!? き、君は何を言ってるんだ。君がそんなひどい言葉を使うなんて」

(あ、悪口言われてたんだ私)

 驚いたようにそうアリサを諫めるグレイグに、クレールはようやく暴言を吐かれているのだと気づく。

「とりあえず何が何だかわからないけどさ! グレイグにはもう危害は加えないから解いてよアリサ!このままじゃ魔王が復活しちゃうぞ!」

「本当、脳みその代わりに汚泥でも詰まってるのかしらあなたは? 決まってるじゃない。復活させるのよ」

「は、はぁ!? な、何言ってんだよ! 魔王なんて復活されたらそれこそ街が!?」

「こんな小さな街一つ吹きとぼうが関係ないわ。むしろそちらの方が好都合よ。魔王の強大さをしって、グレイグを馬鹿にした奴らが自分がしたことの愚かさを学んでくれるならいい話じゃない。そうね、国の一つでも魔王に焼き払われてくれれば、きっとバカでもわかるでしょ? そんなもの相手に戦い続けたグレイグの凄さを、高潔さをねぇ!」

「な、何言ってるのさアリサ! ぐ、グレイグも見てないでアリサを止めてよ!?」

「く、クレール」

 必死のクレールに、グレイグは一瞬迷うような表情を見せるが。

「騙されないでグレイグ! この女はあんたを踏み台にする事しか考えてない! 被害者面して、あんたに擦り寄って!またあなたの栄光に泥を塗るつもりなのよ!」

「なっ!? そ、そんなことしないってば!」

「どうかしら? 事実、あんた達はこの魔王を倒すつもりだったのでしょう? グレイグを挑発して、魔王を倒すはずだったグレイグの剣をへし折って。最初から横取りする気満々なのは見えてるのよ!小賢しい子悪党の考える愚行だわ! 穢らわしい!!」

「そもそも最初に煽って来たのはグレイグの方だっつーの!」
 
 流石の言いがかりにクレールも怒りを露わにして吠えるが、アリサは聞く耳持たないと言った様子で、杖をクレールに向ける。

「あなたの吐く吐息一つ一つが癪に触る毒素だわ。ここできっちり消毒して上げる。燃え尽きなさい!」

 火球を杖から精製するアリサ。

 その大きさは人間相手に用意するにはあまりにも巨大であり、恐らくその身に受ければ骨すら残らないほどの殺意なのは明白であった。

「ちょ!? アリサ!! それ洒落にならないから!待って待って!!」

「うるさい!! グレイグに色目を使うゴミ虫が!!
消えてなくなってしまいなさい!!」

「アリサ! や、やめるんだ!?」

「グレイグは下がっていてください!」

「うわっ!?」

 アリサの強行をグレイグは止めに入るが、アリサはそんなグレイグを魔法で強引にクレールから引き離すと。

「死ねっ!! クレーール!!」

 大きく杖を振りかぶり、アリサはクレールにその巨大な火炎を放つ。

「あ、マジでこれ死──!?」

 それは間違いなく必殺の一撃であり、間違いなくクレールを焼き尽くす業火。

 その絶対的な【死】に、クレールは自らの運命を諦めるが。

「ファンブル、大失敗だね」

 カラカラとサイコロの音が響き、放たれた火球は放たれることなく消滅する。

「なっ!? ふ、不発!? この私が!?」

 間違いなく放たれた魔法の炎は、不発に終わる。

 まるで運命が書き換えられたかのように消滅した火の玉に、クレールは何が起こったのかを瞬時に理解する。

「トンディ!!」

「!」

 相棒の名前を叫んだクレールに、アリサは第三者の介入をようやく理解し、声の方向に杖を向ける。

 だが。

「遅い」

 短いそんな声と共に、二つの矢が放たれ、一つが杖の横腹を打ち抜き豪快な音を立ててへし折れる。

「っ!? そ、そんな、杖が! だ、誰よ!? 姿を現しなさい!?」

 正確無比な射撃にアリサは驚嘆の声を上げる。
 不意打ちという卑怯な手段に、アリサは激昂をして洞窟内に声を響かせるが。

「姿ならとっくに見せてる、探し方が下手なだけ」

 不意に鉄の魔王の頭頂部、アリサのすぐ真上から声が響く。

 驚愕をしながらアリサはその声の方を見ると、そこには杖の折れた魔法使いを呆れたように見下すトンディが弓をつがえた状態で立っていた。

 その表情は氷のように冷たく。

(やっば、トンディめっちゃ怒ってる……大丈夫かな、アリサ)

 クレールはその姿に思わず自分を殺そうとした人間の心配をしてしまう。

 と、そんな心配をクレールがしていると、不意にトンディはわざとらしく、大きなため息を漏らしてみせる。

「はぁ、反応も遅い、杖を折られて呑気に棒立ち。挙句の果てには周りも見えてない。こんな場所危ないから来ちゃダメでしょ、ルーキー」
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