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コールオブホーリーガール
ヤッコの潜入
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「いやはや、まさかヴァルチカン教会の聖女様が、わざわざ私の元にお尋ねいただけるとは……このダルハザも随分と有名になりましたものですなぁ‼︎ あっはっはっはっはっは‼︎」
ダルハザとの面会は、トンディたちの思惑通りあっさりと成った。
貴族への謁見は本来それなりの手順を踏まないといけないのだが、一万年前のノートの切れ端に認められたアリアン教会の聖女、シャトー・マルゴー直筆の手紙は、その手順を悠々と飛び越えて、ダルハザとの面会を可能にしたのだ。
「えぇ、おっしゃる通りダルハザ様のお名前は、遥かヴァルチカンにも届いております。一代で財をなし貴族にまで上り詰めたその手腕は、商いというものを知らない我ら教会の人間にとっては憧れの的なのですよ」
「いやはや、参ってしまいましたなぁ……あっはっはっはっは‼︎」
小太りな体に小柄な体躯……そんな体を飾り立てるかのように、全身に宝石や黄金の装飾をこれでもかと身に纏ったダルハザが笑うと、まるでミラーボールかのように部屋中を七色に輝かせる。
────天井に吊り下げたら面白そうですね。
そんな姿にシャトー・マルゴーはそんな愉快な想像をしながら窓に視線を向け、不自然のないようにそっと窓側の方からダルハザへと近づいていく。
「しかし驚きましたぞ、まさか行方不明になっていたヴァルチカンの聖女様がまさか、お忍びで私の元へとやってくるとは。文が届いた時は一体何事かと目を疑いましたが……」
訝しむような表情を向けるダルハザ。
当然だろう、先日襲撃を受けて行方不明になったと言われている人物が、ひょっこり自分の目の前に現れているのだ、疑うなと言う方が無理な話だ。
だからこそ、シャトー・マルゴーは後ろ手に指で十字を作り、用意していた嘘を並べる。
「此度、ダルハザ様にお見せしたい代物は……アリアン教会にとっては罪深き代物でしたので……私も秘密裏に調査を行わなければならなかったのですよ」
「罪深き代物……手紙に書かれていた遺物(レガシー)のことですかな?」
「えぇ……ですのでダルハザ様、あくまでここに居るのはシャトー・マルゴーではなく、ただのナグリヤッコとしていただければと……」
「ふむ、それは構いませんがなナグリヤッコどの……わかりませんね、なぜアリアン教会にとってレガシーは罪になるのです?」
理解に苦しむと言った表情でワインを飲むダルハザ。
その言葉にヤッコは占めたと内心で思いながら窓の方へと歩いていき、あたかも青々と広がる空を眺めるようなふりをして……そっと内鍵を握りつぶして破壊する。
「……それは単純な話ですよダルハザ様……この世界は鉄の時代に、海も大地も空を除く全てが魔王たちにより焼き払われた。これはアリアン様の信心が薄れたことによる悲劇だと言われています。鉄の時代はレガシーに頼り神への感謝を忘れて滅んだ罪深き時代であり、その名残であるレガシーもまた、罪深き遺物なのですよ」
当然、そんな事実などありはしない嘘八百ではあるが、ダルハザは納得したようにふむと頷いた。
「そこまで言いながら、貴方はここに来た。何故深き遺物を、わざわざ私の元まで? 世界を騒がしてまで?」
酔って暴れて途中で荷馬車に捨てられた。
とはいえないので、ヤッコは胸元から燕の紋様が描かれたノートを取り出し、マルハザの前に差出す。
「ダルハザ様は、ウスの異本を探しているとお聞きしましたので」
「なぜそれを?」
「教会は、神は人の営み全てを知っていますので」
にこりとはったりをかます聖女に、ダルハザは眉を顰めうなる。
一瞬の静寂に部屋が包まれ、ピンと張り詰めた空気が漂った。
だが、ダルハザは少し思案する様に目を閉じ、「まぁいいか」とこぼして話を続ける。
「まさか教会もウスの異本を探しているのですか? あれは、ただの預言者だ」
「えぇ、ですが世界の崩壊を止める手がかりとなる」
にこりと微笑むヤッコに、ダルハザはヒヤリとしたものを感じる。
「まさかそこまでご存じとはね。教会も侮れませんな」
──正直私も昨日まで知りませんでしたが。
と、心の中でヤッコはそう呟き、トンディからレクチャーされた話をそっくりそのままダルハザへと話す。
「運命を司る神アリアン様にはかつて、世界を焼き払った魔王を封じ、新たに魔法の時代を作りました。その際に、この世界の始まりと終わり全てを上下巻からなる書物に記したとか。何故その様なことをしたのかは分かりませんが、世界に終わりが来るならば、それは止めなければなりません」
「解せませんね。教会としては神が終わりを決めているならば従うべきなのでは?」
「いいえ、我々アリアン教会は、この崩壊を試練と解釈しています。神は超えられる試練しか与えません。与えられた崩壊にいかに立ち向かい、神の予言を超えていくのか。神は我らに期待をするからこそ、永遠に続く世界ではなく終わりの約束された世界を創造なさったのです。人が驕り高ぶり滅ぶのではない、学び成長できる存在となれる様に」
「……なるほど、興味深いお話しですな。となると、その崩壊を止めるためアリアン教会は、ウスの異本を探していると?」
「えぇ、そしてこれはその手がかりになるやもとお持ちしました」
そういうとヤッコは、ダルハザの目の前にレガシーのノートを置く。
鉄の時代に残されたノート。
それだけでも歴史的価値の高いものではあることは間違いない。
だがダルハザの財力であれば、これ自体驚くほどのものでもないが、そこに書かれている文字にダルハザは目を丸くした。
「運命と偶然」
その言葉に、ダルハザから笑みが消え、慌てる様にノートへと駆け寄る。
「ほほぉ、これは」
「我々の教会では、表紙を解読したばかりではありますが。恐らくは、アリアン様のことを記した鉄の時代の手記だと認識しています。あるいは、ウスの異本についての手がかりもあるかと」
思わず手に取ろうとするダルハザから、ヤッコはノートを取り上げると、ダルハザはおもちゃを取り上げられた子供の様な表情を見せる。
──トンちゃんの言った通り、すごい食いつきようですわね……面白っ。
「た、確かに興味深い代物ですな。ですが何故、これを私に?」
「簡単な話です。色々と申し上げましたが、教会の力を持ってしてもウスの異本についてまだ確定的な情報を得られていないのです。だからこそ」
「だからこそ?」
ゴクリと息を呑むダルハザに、ヤッコは微笑んでノートを見せつける様にパラパラと捲る。
「取引をしましょう? 協力関係と言うやつです」
そう持ちかけた。
「取引ですか?」
「えぇ、あくまで非公式、書面も残さない口約束だけの関係にはなりますが」
「ふむ、交渉材料はノートと」
「えぇ」
「その見返りに私は何を差し出せば?」
「我々が求めるのは情報です。ウスの異本についての情報と、その道に精通してる方を紹介していただければ。そうですねぇ、例えばクロノア ゲイト ハネール氏や、情報屋のガイウス氏とかね」
薄らと笑みを讃えてヤッコは揺さぶりをかけると、ダルハザの頬から一筋の汗が垂れる。
「ガイウスのことを、一体どこで?」
「言ったでしょう? アリアン教会はなんでも知っています。ガイウスを使ってウスの異本についての情報を集めていることも。 ある日パッタリと消息を絶ったことも。 えぇ、お子さんが相当心配しておりましたわ……それこそ、冒険者ギルドに駆け込むぐらい。そしたら、ギルドが襲撃されて、大騒ぎだったみたいですねぇ? それはそれはSランク冒険者まで出払う大捕物だったとか」
しれっとヤッコはさらに揺さぶりをかけると、ダルハザは睨む様にヤッコを見つめる。
「なるほど、全部お見通しって訳かい。聖女様が脅迫なんて、世も末だなまったく」
あからさまに不機嫌そうにダルハザは悪態をつくと、足を組んでワインをボトルでラッパ飲みを始める。
「いえいえ、脅迫だなんてとんでもない。交渉ですよこれは、この貴重なレガシーを、買い叩かれても困りますから。勿論交渉が成った時には神の名に誓って、今の話を私がギルドにいうことは有りませんわ」
────もう全部バレてますし。
「けっ、それで? 教会は俺に何をさせようってんだ?
敷地にバカでかいアリアンの銅像でも建てようか?」
「ふふふ、それも魅力的な提案ですが。今回私がいただきたいものはもっと単純なことです」
「なんだ?」
「ガイアスは一体、ウスの異本について何を知ったのか? そして何故、貴方を裏切ったのか?」
「……何を言ってるのかさっぱりだな」
とぼける様にダルハザは視線を外に向けるが、ヤッコはその様子に確信を持って話を続ける。
「貴方とガイウスは依頼人と依頼主の関係だった。ガイウスはそれなりに名のしれた情報屋です。よっぽどのことがない限り、依頼主を裏切るなんてことはしないはず」
「……報酬の話で揉めたんだ。今は頭を冷やさせてるところだ」
「そんな理由で、ギルドを襲撃するなんて危険を貴方は起こすのですか?」
「っ……」
ヤッコの問いかけに、ダルハザはしばらく考える様な素振りを見せ。
やがて観念した様に大きく息を吐くと。
「奴がしたのは裏切りと破壊工作だ。ウスの異本についての手がかりを破壊しようとした」
「何故?」
「……見てみるか?」
ヤッコの質問に対し、ダルハザは不気味な笑みを浮かべたのであった。
□
「ウスの異本は、上下巻からなるこの世の全ての運命が記された歴史書を兼ねる予言書であり。その内容は必ず現実になると言われている。そこまでは教会は把握している様だな」
「えぇ、そう聞いています」
暗い地下室を歩きながら、ヤッコは一人ダルハザの後をついてゆく。
どうやらダルハザは元々地下空洞のあった場所に豪邸を建てたらしく、鍾乳洞の様になっている洞窟からはあちこちから水滴の垂れる音が反響をしている。
「では、そのウスの異本が現在幾つかに分けられて封印されてるって話は?」
「封印?」
「あぁ、世界の終わりが書かれた書物なんて危険極まり無いからな。どっかの魔法使いだか、知らないが。絶対に破られない場所に封印をしたのさ」
「封印って、何処に?」
ヤッコの問いにダルハザは答えず、代わりに足を止める。
「……ついたぞ」
そこは洞窟の最新部であり、自然にできた鍾乳洞には似つかわしく無い巨大な鉄扉で覆われている。
扉の中央には黄色と黒のマダラ模様が描かれており、本能的にヤッコはここに危険な物があると言うことを察する。
「これは一体? これも、鉄の時代のレガシーなんですか?」
「あぁ、かつては鉄の時代の兵器工場として使われていたらしい場所だ。そしてこれが、隠し場所だ」
だん、と叩く様にダルハザは赤いボタンの様なものを押すと、ゆっくりと鉄の扉は開きその姿を現す。
「これは」
ヤッコは息を呑む。
何故ならそこにあったのは巨大な機械の兵器であり、それでいて巨大な鉄でできた人形であった。
「鋼鉄の魔王と呼ばれる、おとぎ話が本当なら鉄の時代を焼き払った張本人さ」
「魔王?」
思わず身構える様な仕草をとるヤッコであったが、そんなヤッコにダルハザは愉快そうに笑って魔王の足をガンガンと叩く。
「安心しろ、こいつはまだ眠ってる。ただの鉄屑だ。今はまだな」
「眠っている?」
「あぁ、封印されている状態。アリアンの魔法で動きを封じられ、身動きひとつ取れない状態だ。ガイウスのやつが、ここで発見した」
「ガイウスがこれを? じゃあ、この街の地下にこんな物が眠っていたってことですか?」
「ああ。ずうっとこの町で眠ってたのさ。大事なウスの異本を抱えてな?」
「え? どう言う??」
「さっきの質問の答えだよ。どうやったかは知らないが、ウスの異本は今、バラバラにされてこの魔王の核に封印されてるのさ」
□
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「えぇ、おっしゃる通りダルハザ様のお名前は、遥かヴァルチカンにも届いております。一代で財をなし貴族にまで上り詰めたその手腕は、商いというものを知らない我ら教会の人間にとっては憧れの的なのですよ」
「いやはや、参ってしまいましたなぁ……あっはっはっはっは‼︎」
小太りな体に小柄な体躯……そんな体を飾り立てるかのように、全身に宝石や黄金の装飾をこれでもかと身に纏ったダルハザが笑うと、まるでミラーボールかのように部屋中を七色に輝かせる。
────天井に吊り下げたら面白そうですね。
そんな姿にシャトー・マルゴーはそんな愉快な想像をしながら窓に視線を向け、不自然のないようにそっと窓側の方からダルハザへと近づいていく。
「しかし驚きましたぞ、まさか行方不明になっていたヴァルチカンの聖女様がまさか、お忍びで私の元へとやってくるとは。文が届いた時は一体何事かと目を疑いましたが……」
訝しむような表情を向けるダルハザ。
当然だろう、先日襲撃を受けて行方不明になったと言われている人物が、ひょっこり自分の目の前に現れているのだ、疑うなと言う方が無理な話だ。
だからこそ、シャトー・マルゴーは後ろ手に指で十字を作り、用意していた嘘を並べる。
「此度、ダルハザ様にお見せしたい代物は……アリアン教会にとっては罪深き代物でしたので……私も秘密裏に調査を行わなければならなかったのですよ」
「罪深き代物……手紙に書かれていた遺物(レガシー)のことですかな?」
「えぇ……ですのでダルハザ様、あくまでここに居るのはシャトー・マルゴーではなく、ただのナグリヤッコとしていただければと……」
「ふむ、それは構いませんがなナグリヤッコどの……わかりませんね、なぜアリアン教会にとってレガシーは罪になるのです?」
理解に苦しむと言った表情でワインを飲むダルハザ。
その言葉にヤッコは占めたと内心で思いながら窓の方へと歩いていき、あたかも青々と広がる空を眺めるようなふりをして……そっと内鍵を握りつぶして破壊する。
「……それは単純な話ですよダルハザ様……この世界は鉄の時代に、海も大地も空を除く全てが魔王たちにより焼き払われた。これはアリアン様の信心が薄れたことによる悲劇だと言われています。鉄の時代はレガシーに頼り神への感謝を忘れて滅んだ罪深き時代であり、その名残であるレガシーもまた、罪深き遺物なのですよ」
当然、そんな事実などありはしない嘘八百ではあるが、ダルハザは納得したようにふむと頷いた。
「そこまで言いながら、貴方はここに来た。何故深き遺物を、わざわざ私の元まで? 世界を騒がしてまで?」
酔って暴れて途中で荷馬車に捨てられた。
とはいえないので、ヤッコは胸元から燕の紋様が描かれたノートを取り出し、マルハザの前に差出す。
「ダルハザ様は、ウスの異本を探しているとお聞きしましたので」
「なぜそれを?」
「教会は、神は人の営み全てを知っていますので」
にこりとはったりをかます聖女に、ダルハザは眉を顰めうなる。
一瞬の静寂に部屋が包まれ、ピンと張り詰めた空気が漂った。
だが、ダルハザは少し思案する様に目を閉じ、「まぁいいか」とこぼして話を続ける。
「まさか教会もウスの異本を探しているのですか? あれは、ただの預言者だ」
「えぇ、ですが世界の崩壊を止める手がかりとなる」
にこりと微笑むヤッコに、ダルハザはヒヤリとしたものを感じる。
「まさかそこまでご存じとはね。教会も侮れませんな」
──正直私も昨日まで知りませんでしたが。
と、心の中でヤッコはそう呟き、トンディからレクチャーされた話をそっくりそのままダルハザへと話す。
「運命を司る神アリアン様にはかつて、世界を焼き払った魔王を封じ、新たに魔法の時代を作りました。その際に、この世界の始まりと終わり全てを上下巻からなる書物に記したとか。何故その様なことをしたのかは分かりませんが、世界に終わりが来るならば、それは止めなければなりません」
「解せませんね。教会としては神が終わりを決めているならば従うべきなのでは?」
「いいえ、我々アリアン教会は、この崩壊を試練と解釈しています。神は超えられる試練しか与えません。与えられた崩壊にいかに立ち向かい、神の予言を超えていくのか。神は我らに期待をするからこそ、永遠に続く世界ではなく終わりの約束された世界を創造なさったのです。人が驕り高ぶり滅ぶのではない、学び成長できる存在となれる様に」
「……なるほど、興味深いお話しですな。となると、その崩壊を止めるためアリアン教会は、ウスの異本を探していると?」
「えぇ、そしてこれはその手がかりになるやもとお持ちしました」
そういうとヤッコは、ダルハザの目の前にレガシーのノートを置く。
鉄の時代に残されたノート。
それだけでも歴史的価値の高いものではあることは間違いない。
だがダルハザの財力であれば、これ自体驚くほどのものでもないが、そこに書かれている文字にダルハザは目を丸くした。
「運命と偶然」
その言葉に、ダルハザから笑みが消え、慌てる様にノートへと駆け寄る。
「ほほぉ、これは」
「我々の教会では、表紙を解読したばかりではありますが。恐らくは、アリアン様のことを記した鉄の時代の手記だと認識しています。あるいは、ウスの異本についての手がかりもあるかと」
思わず手に取ろうとするダルハザから、ヤッコはノートを取り上げると、ダルハザはおもちゃを取り上げられた子供の様な表情を見せる。
──トンちゃんの言った通り、すごい食いつきようですわね……面白っ。
「た、確かに興味深い代物ですな。ですが何故、これを私に?」
「簡単な話です。色々と申し上げましたが、教会の力を持ってしてもウスの異本についてまだ確定的な情報を得られていないのです。だからこそ」
「だからこそ?」
ゴクリと息を呑むダルハザに、ヤッコは微笑んでノートを見せつける様にパラパラと捲る。
「取引をしましょう? 協力関係と言うやつです」
そう持ちかけた。
「取引ですか?」
「えぇ、あくまで非公式、書面も残さない口約束だけの関係にはなりますが」
「ふむ、交渉材料はノートと」
「えぇ」
「その見返りに私は何を差し出せば?」
「我々が求めるのは情報です。ウスの異本についての情報と、その道に精通してる方を紹介していただければ。そうですねぇ、例えばクロノア ゲイト ハネール氏や、情報屋のガイウス氏とかね」
薄らと笑みを讃えてヤッコは揺さぶりをかけると、ダルハザの頬から一筋の汗が垂れる。
「ガイウスのことを、一体どこで?」
「言ったでしょう? アリアン教会はなんでも知っています。ガイウスを使ってウスの異本についての情報を集めていることも。 ある日パッタリと消息を絶ったことも。 えぇ、お子さんが相当心配しておりましたわ……それこそ、冒険者ギルドに駆け込むぐらい。そしたら、ギルドが襲撃されて、大騒ぎだったみたいですねぇ? それはそれはSランク冒険者まで出払う大捕物だったとか」
しれっとヤッコはさらに揺さぶりをかけると、ダルハザは睨む様にヤッコを見つめる。
「なるほど、全部お見通しって訳かい。聖女様が脅迫なんて、世も末だなまったく」
あからさまに不機嫌そうにダルハザは悪態をつくと、足を組んでワインをボトルでラッパ飲みを始める。
「いえいえ、脅迫だなんてとんでもない。交渉ですよこれは、この貴重なレガシーを、買い叩かれても困りますから。勿論交渉が成った時には神の名に誓って、今の話を私がギルドにいうことは有りませんわ」
────もう全部バレてますし。
「けっ、それで? 教会は俺に何をさせようってんだ?
敷地にバカでかいアリアンの銅像でも建てようか?」
「ふふふ、それも魅力的な提案ですが。今回私がいただきたいものはもっと単純なことです」
「なんだ?」
「ガイアスは一体、ウスの異本について何を知ったのか? そして何故、貴方を裏切ったのか?」
「……何を言ってるのかさっぱりだな」
とぼける様にダルハザは視線を外に向けるが、ヤッコはその様子に確信を持って話を続ける。
「貴方とガイウスは依頼人と依頼主の関係だった。ガイウスはそれなりに名のしれた情報屋です。よっぽどのことがない限り、依頼主を裏切るなんてことはしないはず」
「……報酬の話で揉めたんだ。今は頭を冷やさせてるところだ」
「そんな理由で、ギルドを襲撃するなんて危険を貴方は起こすのですか?」
「っ……」
ヤッコの問いかけに、ダルハザはしばらく考える様な素振りを見せ。
やがて観念した様に大きく息を吐くと。
「奴がしたのは裏切りと破壊工作だ。ウスの異本についての手がかりを破壊しようとした」
「何故?」
「……見てみるか?」
ヤッコの質問に対し、ダルハザは不気味な笑みを浮かべたのであった。
□
「ウスの異本は、上下巻からなるこの世の全ての運命が記された歴史書を兼ねる予言書であり。その内容は必ず現実になると言われている。そこまでは教会は把握している様だな」
「えぇ、そう聞いています」
暗い地下室を歩きながら、ヤッコは一人ダルハザの後をついてゆく。
どうやらダルハザは元々地下空洞のあった場所に豪邸を建てたらしく、鍾乳洞の様になっている洞窟からはあちこちから水滴の垂れる音が反響をしている。
「では、そのウスの異本が現在幾つかに分けられて封印されてるって話は?」
「封印?」
「あぁ、世界の終わりが書かれた書物なんて危険極まり無いからな。どっかの魔法使いだか、知らないが。絶対に破られない場所に封印をしたのさ」
「封印って、何処に?」
ヤッコの問いにダルハザは答えず、代わりに足を止める。
「……ついたぞ」
そこは洞窟の最新部であり、自然にできた鍾乳洞には似つかわしく無い巨大な鉄扉で覆われている。
扉の中央には黄色と黒のマダラ模様が描かれており、本能的にヤッコはここに危険な物があると言うことを察する。
「これは一体? これも、鉄の時代のレガシーなんですか?」
「あぁ、かつては鉄の時代の兵器工場として使われていたらしい場所だ。そしてこれが、隠し場所だ」
だん、と叩く様にダルハザは赤いボタンの様なものを押すと、ゆっくりと鉄の扉は開きその姿を現す。
「これは」
ヤッコは息を呑む。
何故ならそこにあったのは巨大な機械の兵器であり、それでいて巨大な鉄でできた人形であった。
「鋼鉄の魔王と呼ばれる、おとぎ話が本当なら鉄の時代を焼き払った張本人さ」
「魔王?」
思わず身構える様な仕草をとるヤッコであったが、そんなヤッコにダルハザは愉快そうに笑って魔王の足をガンガンと叩く。
「安心しろ、こいつはまだ眠ってる。ただの鉄屑だ。今はまだな」
「眠っている?」
「あぁ、封印されている状態。アリアンの魔法で動きを封じられ、身動きひとつ取れない状態だ。ガイウスのやつが、ここで発見した」
「ガイウスがこれを? じゃあ、この街の地下にこんな物が眠っていたってことですか?」
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「え? どう言う??」
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mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。
※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。
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