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コールオブホーリーガール
プリンリゾットの呼び声
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「さてさて……私がちょーっと出ている間にギルドがぶっ壊されてたり、冒険者広場が気持ちの悪いゴムまりで埋め尽くされてるわけなんだけど」
珍しく困ったような表情を浮かべ、ギルドマスターアキは部屋で縛り付けられた二人の襲撃者を交互に見比べる。
彼女からしてみれば晴天の霹靂とでも言ったところか。
出張から戻ったところ、なんの前触れも兆候もなくギルドは無残な姿に。
しかもその破壊の大部分がスポンサーでもある聖女によるものだという言葉に、ギルドマスターは生まれて初めて胃痛のようなものを覚える。
「あ、あのマスター……聖女さまは狙われた私とアイシャさまのお二人を守るために仕方なく……」
「あーわかってるさ。うん、お陰で依頼人を連れ去られるなんてことにもならなかったし、最悪の事態は免れたのもわかっている。わかってるんだけど……」
がっくりと肩の力が抜けるギルドマスター。
今にも魂が抜けそうな表情だ。
「……何人かホムンクルスに襲われて怪我をしたみたいだが、幸い死人は出なかったようだ。 マスターはあんな感じになってしまったが、お前たちには感謝をしても仕切れない。 礼を言う」
「大したことはしてないし、気にしないでキリサメ。 それよりも、この人たちにアイシャのお父さんの居場所を聞かないと」
そう言ってトンディは、椅子の上に蜘蛛の糸で縛られている襲撃者二人を見る。
槍使いである男は、生死の境をさまようほどボロボロに傷つけられていたものの、ヤッコの回復魔法により現在は数カ所の骨折。
トンディに足を射抜かれた男は傷こそ直していないが、出血を止めている状態で、お互いに命に別状はない。
だが、とっくに目を覚ましていると言うのに、椅子に並んだ二人はだんまりを決め込んでおり、どんなことをされても依頼人は売らないという気概が見て取れる。
「二人ともさぁ、奇襲して負けたんだから。依頼人の情報を吐いてくれないかなぁ。 そうでないとあんたたち二人にこの惨状の賠償をしてもらわなきゃなくなるぞ?」
そう言って軽くクレールは脅しをかけてみるが、ホムンクルスを操っていた錬金術師はカカカと笑う。
「誰が依頼人を売るような真似するかよ。 奇襲かけた上に無様晒して、おまけに依頼人まで売り飛ばしたなんてことになりゃ、俺たち傭兵は信用を失っちまう。 そうなりゃ野垂死にさ。だったらここでお前らに殺された方が万倍マシだね」
「うーん……困ったなぁ」
「なんだお前その覇気のかけらもない脅し方は……そんなんじゃマゾ子すら落とせないぞ?」
困った表情を作るクレールに、キリサメは怒ったようにそうツッコミを入れる。
「そう言ってもなぁ、私こういうの苦手で……」
「まったく、だったら私が手本を見せてやる。 おいお前たち‼︎ これだけのことをしでかしたんだ‼︎ 顎砕かれて一生オートミールしか食べられないような生活を送りたくなかったら、さっさと情報を吐くんだ‼︎」
「そんな脅し文句を言う奴、久しぶりに聞いたわ。おばさん、歳いくつ?」
「誰がおばさんだくおおおおおぉらあああああ‼︎ぶっ殺す、八つ裂きにしてぶっ殺す‼︎ ケツに手突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやる‼︎」
「お、落ち着けキリサメ‼︎? お、おばさん以前に女の子として色々大事なもの失ってるぞお前‼︎」
「見てて面白いなぁ、お前ら……からかい甲斐があるわ」
「……ふふっ、そう笑っていられるのも今のうち。地獄を見る前に白状した方がいい」
ケラケラと笑う槍使い。しかしそんな二人にトンディは静かに諭す。
「なんだぁお嬢ちゃん。 あんたが俺に地獄を見せてくれるって言うのかい?」
「私、これでも拷問は得意……だけど、きっと貴方のような人の口を割るにはまだ足りない」
「へぇ? それじゃあ誰が俺たちに地獄を見せてくれるって言うのかねぇ?」
「……貴方はまだクレールの恐ろしさを知らない身をもって体験した私が言うのだから、間違いない」
「っ………‼︎?」
光が消えていく瞳……その表情は、トンディ自身それを受けたと言うことを物語っており、 冗談や酔狂ではないことを理解し二人は息を飲む。
希望すらない、絶望に叩き落とされた人間が見せるその瞳。
輪郭すらも朧げになるその哀愁は、トラウマを想起させるものであり、二人はさらに恐怖を覚える。
拷問とは、他人が嫌がることの最たる場所にある行為。
痛み、嫌悪、陵辱、恥辱。尊厳を踏みにじり、誇りを踏みにじり、感覚を染め上げて相手を屈服させる暴力の極致。
故にそのカケラでも友人、身内、愛人に振り撒けばその関係は一瞬にして崩壊する。
だからこそ、相棒に向かい拷問をする人間などいるはずもなく。
拷問をした相手とともに行動をするなどあり得てはならない異常。
だが、トンディは間違いなく「された」と言う。
何故……そんな人間と共に行動をしているのか。
二人は想像してしまう。
行動しているのではなくて、行動させられているのではないかと。
拷問をされ、全てを否定され何もかもを失った先に……想像もできないほどおぞましく名状しがたいナニカをされてしまうのではないかと。
それはきっと、死よりも恐ろしく。
そのただの妄想は臓腑をひっくり返してしまいそうなほどの恐怖になる。
なにより、一見するとただの人畜無害そうなとぼけた少女にしか見えないところ。
それが二人をさらに恐怖に陥れる。
ここで全てを吐き出して仕舞えば。きっとその恐怖を感じることはない。知ることはない。
そう語るトンディの言葉は紛れもなく甘い毒のようで。
一瞬流されそうになる。
だが、二人は歯を食いしばり恐怖に耐えた。
「……舐めるな……お前たちなんかに屈するおれたちじゃねえ‼︎」
「傭兵にも、傭兵のプライドがあるんだよ‼︎」
強がる二人の声は震えている。
願わくばただのハッタリであってほしい。
そんな願望が今にもこぼれ落ちてしまいそうな強がり。
だが、トンディは「そう」とだけ呟き残念そうに、ほんとうに残念そうに首を振ると。
「クレール」
その拷問の開始を告げる。
「ん? なんだ、トンディ」
「……二人が、クレールのプリンリゾット食べたいって」
「‼︎‼︎」
その言葉に、クレールは心から嬉しそうな笑顔を作った。
だが、トンディと男二人にはその笑顔が、ぐにゃりと歪んで見える。
どこかでカラカラとサイコロが転がる音が響く。
◇
「いやー、一度やってみたかったんだよねぇ、尋問の時のカツ丼食うか?ってやつ」
そう笑いながら二人の前に出されたのは。食事ではなく【門】だった。
プリンの香りに混じるコンソメとチーズの香り。
名状し難く、理解し難いそれは怪奇なんて言葉はあまりにも優しすぎる。
サイコロの音はなりやまず、二人は目の前に出されたそれを見た瞬間、胃の腑のものが喉に詰まって死ねたらどれだけ楽であろうかと心の中で思った。
視界が揺れる、鼻が曲がる。 プリンとリゾットと言っているのに潮の香りが漂ってくる。
(何故黒い、何故黒い、何故黒い‼︎?)
(何故動く、何故動く、何故動く‼︎?)
プリンと銘打っているのに、リゾットと銘打っているというのに、まるでそれは夜の闇のように黒く。
食べ物という形で出されたはずだというのに、もぞもぞと生き物のようにうごめいている。
二人の疑問は口には出せない。
何故なら口に出せば理解してしまうから。
理解してしまえば、認めて仕舞えばそれは、この世界の外にあるものが這い出てしまうから。取り込まれて連れ去られてしまうから。
だから【門】。
現実と言う名の城に出来た、外なるものの侵入を許す門。
それに取り込まれればなるほど確かに……死よりも恐ろしい結末が待っている。
「い、い、い、いやあああああぁああ‼︎? 話す‼︎ 話すから‼︎ う、ううぅぅ、ごめんなさい‼︎ ごめんなさい‼︎ 俺が、いや僕は悪い子でした‼︎ これからは改心します‼︎ いい人になるから、なりますからどうかゆるしてお願いお願いお願いお願いお願い許して許して許してエエェ‼︎?」
まず、耐えきれず錬金術師が発狂し。
「う、うううぅうあああああぁぁあぁぁぁ、ああああああああぁぁ、うあああぁぁぁぁ‼︎?」
次に槍使いが涙をボロボロと流し嗚咽をもらした。
「すげー‼︎? やっぱりカツ丼効果ってすごいんだな‼︎?」
それならカツ丼をたべさせてあげて……とその場にいた誰もが二人に同情をした。
「さすがクレール」
「お、トンディが褒めてくれるなんて珍しいな。 トンディも食べ……」
「遠慮しとく……私が食べちゃうと二人が可哀想」
口角を、く、と上げて笑うトンディであったが、その瞳には光が灯っていない。
「そ、か。うん、そうだよな。 せっかくすぐに白状してくれたんだし、お預けにするのは可哀想だよな」
「「んんんんんんんんん‼︎? うあああああああぁああ‼︎?」」
悲鳴に近い嗚咽を漏らし、拒絶をしようと試みる二人。
しかし哀れなことにすでに二人は言葉すら失っていた。
「そんなに喜ばれると照れるなぁ……」
そう言って、泣き叫び泣きわめく二人に、クレールはスプーンで【門】を流し込む。
嗅覚と視覚のみならず、味覚と触覚、そして聴覚全てを凌辱される音が口の中に響く。
【てけりっり、てけりっり、てけりっり、てけりっり】
という咀嚼音が耳に響き、二人は耐えきれずに声を上げる。
「「あああぁ‼︎‼︎ 腹に、腹にぃ‼︎‼︎?」」
そこから二人の記憶はない。
何かをしゃべった気もするが、そんなことこの世界……外なる宇宙から見れば全ては瑣末ごと。
二人の頭の中で、十では足りないほどのサイコロが振られる音が鳴り響く。
カラカラカラカラ。
鳴り響く音の中二人は、クレール・アルバス・クラリオーネという存在には決して逆らわないことを固く心に誓ったのであった。
◇
珍しく困ったような表情を浮かべ、ギルドマスターアキは部屋で縛り付けられた二人の襲撃者を交互に見比べる。
彼女からしてみれば晴天の霹靂とでも言ったところか。
出張から戻ったところ、なんの前触れも兆候もなくギルドは無残な姿に。
しかもその破壊の大部分がスポンサーでもある聖女によるものだという言葉に、ギルドマスターは生まれて初めて胃痛のようなものを覚える。
「あ、あのマスター……聖女さまは狙われた私とアイシャさまのお二人を守るために仕方なく……」
「あーわかってるさ。うん、お陰で依頼人を連れ去られるなんてことにもならなかったし、最悪の事態は免れたのもわかっている。わかってるんだけど……」
がっくりと肩の力が抜けるギルドマスター。
今にも魂が抜けそうな表情だ。
「……何人かホムンクルスに襲われて怪我をしたみたいだが、幸い死人は出なかったようだ。 マスターはあんな感じになってしまったが、お前たちには感謝をしても仕切れない。 礼を言う」
「大したことはしてないし、気にしないでキリサメ。 それよりも、この人たちにアイシャのお父さんの居場所を聞かないと」
そう言ってトンディは、椅子の上に蜘蛛の糸で縛られている襲撃者二人を見る。
槍使いである男は、生死の境をさまようほどボロボロに傷つけられていたものの、ヤッコの回復魔法により現在は数カ所の骨折。
トンディに足を射抜かれた男は傷こそ直していないが、出血を止めている状態で、お互いに命に別状はない。
だが、とっくに目を覚ましていると言うのに、椅子に並んだ二人はだんまりを決め込んでおり、どんなことをされても依頼人は売らないという気概が見て取れる。
「二人ともさぁ、奇襲して負けたんだから。依頼人の情報を吐いてくれないかなぁ。 そうでないとあんたたち二人にこの惨状の賠償をしてもらわなきゃなくなるぞ?」
そう言って軽くクレールは脅しをかけてみるが、ホムンクルスを操っていた錬金術師はカカカと笑う。
「誰が依頼人を売るような真似するかよ。 奇襲かけた上に無様晒して、おまけに依頼人まで売り飛ばしたなんてことになりゃ、俺たち傭兵は信用を失っちまう。 そうなりゃ野垂死にさ。だったらここでお前らに殺された方が万倍マシだね」
「うーん……困ったなぁ」
「なんだお前その覇気のかけらもない脅し方は……そんなんじゃマゾ子すら落とせないぞ?」
困った表情を作るクレールに、キリサメは怒ったようにそうツッコミを入れる。
「そう言ってもなぁ、私こういうの苦手で……」
「まったく、だったら私が手本を見せてやる。 おいお前たち‼︎ これだけのことをしでかしたんだ‼︎ 顎砕かれて一生オートミールしか食べられないような生活を送りたくなかったら、さっさと情報を吐くんだ‼︎」
「そんな脅し文句を言う奴、久しぶりに聞いたわ。おばさん、歳いくつ?」
「誰がおばさんだくおおおおおぉらあああああ‼︎ぶっ殺す、八つ裂きにしてぶっ殺す‼︎ ケツに手突っ込んで奥歯ガタガタ言わせてやる‼︎」
「お、落ち着けキリサメ‼︎? お、おばさん以前に女の子として色々大事なもの失ってるぞお前‼︎」
「見てて面白いなぁ、お前ら……からかい甲斐があるわ」
「……ふふっ、そう笑っていられるのも今のうち。地獄を見る前に白状した方がいい」
ケラケラと笑う槍使い。しかしそんな二人にトンディは静かに諭す。
「なんだぁお嬢ちゃん。 あんたが俺に地獄を見せてくれるって言うのかい?」
「私、これでも拷問は得意……だけど、きっと貴方のような人の口を割るにはまだ足りない」
「へぇ? それじゃあ誰が俺たちに地獄を見せてくれるって言うのかねぇ?」
「……貴方はまだクレールの恐ろしさを知らない身をもって体験した私が言うのだから、間違いない」
「っ………‼︎?」
光が消えていく瞳……その表情は、トンディ自身それを受けたと言うことを物語っており、 冗談や酔狂ではないことを理解し二人は息を飲む。
希望すらない、絶望に叩き落とされた人間が見せるその瞳。
輪郭すらも朧げになるその哀愁は、トラウマを想起させるものであり、二人はさらに恐怖を覚える。
拷問とは、他人が嫌がることの最たる場所にある行為。
痛み、嫌悪、陵辱、恥辱。尊厳を踏みにじり、誇りを踏みにじり、感覚を染め上げて相手を屈服させる暴力の極致。
故にそのカケラでも友人、身内、愛人に振り撒けばその関係は一瞬にして崩壊する。
だからこそ、相棒に向かい拷問をする人間などいるはずもなく。
拷問をした相手とともに行動をするなどあり得てはならない異常。
だが、トンディは間違いなく「された」と言う。
何故……そんな人間と共に行動をしているのか。
二人は想像してしまう。
行動しているのではなくて、行動させられているのではないかと。
拷問をされ、全てを否定され何もかもを失った先に……想像もできないほどおぞましく名状しがたいナニカをされてしまうのではないかと。
それはきっと、死よりも恐ろしく。
そのただの妄想は臓腑をひっくり返してしまいそうなほどの恐怖になる。
なにより、一見するとただの人畜無害そうなとぼけた少女にしか見えないところ。
それが二人をさらに恐怖に陥れる。
ここで全てを吐き出して仕舞えば。きっとその恐怖を感じることはない。知ることはない。
そう語るトンディの言葉は紛れもなく甘い毒のようで。
一瞬流されそうになる。
だが、二人は歯を食いしばり恐怖に耐えた。
「……舐めるな……お前たちなんかに屈するおれたちじゃねえ‼︎」
「傭兵にも、傭兵のプライドがあるんだよ‼︎」
強がる二人の声は震えている。
願わくばただのハッタリであってほしい。
そんな願望が今にもこぼれ落ちてしまいそうな強がり。
だが、トンディは「そう」とだけ呟き残念そうに、ほんとうに残念そうに首を振ると。
「クレール」
その拷問の開始を告げる。
「ん? なんだ、トンディ」
「……二人が、クレールのプリンリゾット食べたいって」
「‼︎‼︎」
その言葉に、クレールは心から嬉しそうな笑顔を作った。
だが、トンディと男二人にはその笑顔が、ぐにゃりと歪んで見える。
どこかでカラカラとサイコロが転がる音が響く。
◇
「いやー、一度やってみたかったんだよねぇ、尋問の時のカツ丼食うか?ってやつ」
そう笑いながら二人の前に出されたのは。食事ではなく【門】だった。
プリンの香りに混じるコンソメとチーズの香り。
名状し難く、理解し難いそれは怪奇なんて言葉はあまりにも優しすぎる。
サイコロの音はなりやまず、二人は目の前に出されたそれを見た瞬間、胃の腑のものが喉に詰まって死ねたらどれだけ楽であろうかと心の中で思った。
視界が揺れる、鼻が曲がる。 プリンとリゾットと言っているのに潮の香りが漂ってくる。
(何故黒い、何故黒い、何故黒い‼︎?)
(何故動く、何故動く、何故動く‼︎?)
プリンと銘打っているのに、リゾットと銘打っているというのに、まるでそれは夜の闇のように黒く。
食べ物という形で出されたはずだというのに、もぞもぞと生き物のようにうごめいている。
二人の疑問は口には出せない。
何故なら口に出せば理解してしまうから。
理解してしまえば、認めて仕舞えばそれは、この世界の外にあるものが這い出てしまうから。取り込まれて連れ去られてしまうから。
だから【門】。
現実と言う名の城に出来た、外なるものの侵入を許す門。
それに取り込まれればなるほど確かに……死よりも恐ろしい結末が待っている。
「い、い、い、いやあああああぁああ‼︎? 話す‼︎ 話すから‼︎ う、ううぅぅ、ごめんなさい‼︎ ごめんなさい‼︎ 俺が、いや僕は悪い子でした‼︎ これからは改心します‼︎ いい人になるから、なりますからどうかゆるしてお願いお願いお願いお願いお願い許して許して許してエエェ‼︎?」
まず、耐えきれず錬金術師が発狂し。
「う、うううぅうあああああぁぁあぁぁぁ、ああああああああぁぁ、うあああぁぁぁぁ‼︎?」
次に槍使いが涙をボロボロと流し嗚咽をもらした。
「すげー‼︎? やっぱりカツ丼効果ってすごいんだな‼︎?」
それならカツ丼をたべさせてあげて……とその場にいた誰もが二人に同情をした。
「さすがクレール」
「お、トンディが褒めてくれるなんて珍しいな。 トンディも食べ……」
「遠慮しとく……私が食べちゃうと二人が可哀想」
口角を、く、と上げて笑うトンディであったが、その瞳には光が灯っていない。
「そ、か。うん、そうだよな。 せっかくすぐに白状してくれたんだし、お預けにするのは可哀想だよな」
「「んんんんんんんんん‼︎? うあああああああぁああ‼︎?」」
悲鳴に近い嗚咽を漏らし、拒絶をしようと試みる二人。
しかし哀れなことにすでに二人は言葉すら失っていた。
「そんなに喜ばれると照れるなぁ……」
そう言って、泣き叫び泣きわめく二人に、クレールはスプーンで【門】を流し込む。
嗅覚と視覚のみならず、味覚と触覚、そして聴覚全てを凌辱される音が口の中に響く。
【てけりっり、てけりっり、てけりっり、てけりっり】
という咀嚼音が耳に響き、二人は耐えきれずに声を上げる。
「「あああぁ‼︎‼︎ 腹に、腹にぃ‼︎‼︎?」」
そこから二人の記憶はない。
何かをしゃべった気もするが、そんなことこの世界……外なる宇宙から見れば全ては瑣末ごと。
二人の頭の中で、十では足りないほどのサイコロが振られる音が鳴り響く。
カラカラカラカラ。
鳴り響く音の中二人は、クレール・アルバス・クラリオーネという存在には決して逆らわないことを固く心に誓ったのであった。
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