ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜

nagamiyuuichi

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コールオブホーリーガール

また捨てられた

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「この世全ての歴史……そしてこれから起こる全ての未来が記された伝説のレガシー、それを人々はウスの異本と呼んでいる」
 
 その日見たのは父の記憶。
 
 懐かしい映像は記憶と違わないものの、久しぶりに夢で見た父の姿はどこか、弱々しい印象を覚えた。

「未来?」

「あぁ、その予言書は望む場所、望むもの全ての未来を映し出す……いいかいトンディ。俺が旅を続けるのも、全ては神に決められたこと……神はサイコロを降らない、全ては定められたみちなんだ」

 力強く私の頭を撫でるその手は、思い出せば震えていた。

  娘を置き去りにする罪悪感か。
 それとも、彼自身もまたそう口にしながらも運命に抗おうとしていたのか。

 ただの記憶からは、その思いは伝わらない。

 お父さんは運命を変えることはできないといった。

 でも、だとしたら運命を変える私という存在は、一体何者なのだろう。



「…………重い」

 そう呟き、トンディは目をさます。
 
 窓には煌々と輝く半月と川のようにきらめく星の光。
 外でしきりに演奏会を開く虫達は、しばらく朝は訪れないことを教えてくれ、トンディは一つため息を漏らして隣の元凶を見る。
  
「すぴーー……」

 腹部にのしかかるクレールの胸。
 
 どうやって眠ればそんな体制になるのか、十字を描くようにクレールはトンディのお腹に自分の胸を乗せて気持ち良さそうな寝息を立てている。

「この……これだからおっぱいの大きいやつは」
 
 トンディはそう文句を一つ漏らしてクレールを跳ね除け、おっぱいマウントから脱出してベッドから降りる。

「すごい汗……」

 夏の近い夜に、のしかかられて眠っていたからだろう。
  
 額を伝う汗に、衣服が体に張り付く感覚。 

 さらにそれを意識すると今度は体は思い出したかのように喉の渇きを訴えてくる。
 
「……みず……あと着替えよう」

 トンディはそう呟くと、胸の内ポケットにしまってあった卵を取り出し、だらしなく寝間着をはだけさせながら今度は仰向けになって眠るクレールの谷間に卵を挟む。
 
 バッチリ安定をすることに少しトンディはイラっと
したが。
 
 そのまま卵をクレールに任せ、トンディはフラフラとキッチンへと向かった。

 キッチンは当然のごとく静かであり、窓から差し込む月明かりによって、ろうそくに火を灯さずとも足元が見える。

 
 そんな中、トンディは慣れた手つきで食器棚へと歩いて行き、クレールからプレゼントでもらったお気に入りのマグカップに手を伸ばす……と。

ガラガラバキゴシャアァ――――‼︎‼︎?

「あっ……」

 食器棚を開いた瞬間……家の外からなにかが破壊され崩れるような音が響き、同時に食器棚のマグカップが床に叩きつけられ粉々に砕け散る。
 
 だが……。

【リダイス‼︎】

 トンディはその未来を、自らの能力(スキル)で捻じ曲げ、空中でマグカップをキャッチする。

「セーフ……クレールから初めてもらったプレゼント、ここで失うのは惜しい」

 ――ホイールオブフォーチュンーー

 トンディが持つ個性(ユニークスキル)であり、その力は運命をやり直し、書き換えることができる。
 
 10秒以上経過した過去を書き直すことはできないものの。
 その運命改変は、自らの死や、他人の死すらもその原因が起こった時までやり直し、自由に結末を書き換えることができる。
 
 一月五回までという制限付きではあるが、しかし捻じ曲げたい運命などそうそうあるわけでもなく。
 
 一月で五回を使い切ることなど滅多にないため、今のように無駄うちすることも多い。

「っと……それよりも、なんの音か確認しないと」

 掴み取ったマグカップを食器棚に戻すと、トンディはちかくにあったナイフを手に取り、音のあった場所を見に行く。

 音がしたのは家の側面……道と接した場所であり、クレールが捨てられていた場所。

「なんか、嫌な予感」

 ふとトンディはそんな予感を頭に浮かべて現場を見ると。 
  
 そこには、【冒険者を捨てないで】と書いて立ててあったはずの看板が破壊され。
 
 破壊された看板にうずくまるようにひとりの少女が眠りについていた。

「まさか破壊されるとは……」

 ため息を漏らすトンディ。 その心境はもはや諦めの境地に近く。

 どうしたものかと思案をしていると、バタバタという
音とともに家の中からクレールが飛び出すように銃を構えて飛び出してくる。

「ど、どうしたトンディ‼︎? 大丈夫か……ってうわぁ、な、なんだこいつ‼︎」

「よくわからない、ここに落ちてた。クレールと一緒」
 
「いや、私もうちょっとマシな捨てられ方してたと思うんだけど」

「似たようなもの、悲壮感だけならクレールのダブルスコア」

「うぐぐ……まぁ確かに。こいつ、捨てられてるはずなのになんて幸せそうな寝顔……て、あれ? ちょっと待ってトンディ」

「どうしたの?」

「いや、この人って、たしか新聞に乗ってた聖女さまじゃないか?」

 そう言ってクレールはランタンのあかりを幸せそうに眠る女性へと近づける。

  ショートカットの黒髪に、右目下の泣きぼくろ。
 
 気品があり、どこか神々しさを放っていた写真とは異なり、眠る姿はどことなく間の抜けた印象を与えたものの。

 そこにいたのは紛れもなく襲撃され現在行方不明になっているアリアン教会本部の聖女。

 聖女マルゴーその人であり。

 そんな聖女の姿を見て。

「聖女拾っちゃった……」

 トンディはなんとも言えない表情でそう呟いた。

      ◇
 
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