ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
上 下
30 / 55
コールオブホーリーガール

エリン新聞

しおりを挟む
「とかなんとか言うけど……作る料理はなんでもうまいんだよなぁトンディ」

 悔しそうにそうクレールは漏らすと、フォークとナイフをお皿の上に置き「ごちそうさま」と手を合わせ、トンディは勝ち誇った表情で胸を張る。

「心頭滅却すれば……」

「それはもういいって」

「むぅ」

 クレールの言葉に口を膨らませるトンディ。
 
 そんな様子に「子供か」とツッコミをクレールは入れながら、機嫌取りも兼ねて空になったトンディのティーカップに紅茶を注ぐ。

 ふとトンディの胸部分に目をやると、上着のポケットから顔を覗かせる小さな卵が見えた。

「計ったかのようにサイズがぴったりだな……その卵」

「運命感じる」

 注がれたティーカップを口を付け、トンディは勝ち誇ったように鼻を鳴らす。

「安っぽい運命だことで……。 さて、食器洗うけど、トンディのも下げて大丈夫?」

「うん、いつもありがとうクレール」

「ご飯作って貰ってるからおあいこだろ? あ、今日の新聞、いつものとこね」

「はーい……」

 食器をキッチンに運ぶクレールにトンディはそう気の抜けた返事をすると、椅子の下にあるケースから新聞を取り出す。

 エリンディアナ周辺及び各国のニュースをまとめたこのエリン新聞は、この田舎町で外国の情報を得られる唯一の情報網であり、情報不足による領地の衰退を危惧した領主の全面的な資金援助により、今では各家に年間金貨一枚という良心的価格で配布されている。

 田舎町であるがゆえに若干情報は遅いものの、領主の持つ情報網から入る情報であるため信用性が高く、近くの田舎町ではわざわざこの新聞を入手するためにやってくる人間もいるほど。

 この新聞を夕食後に読むのはトンディの密かな楽しみでもあり、ティーカップに残った紅茶をすすりながら新聞を開く。
 
 いつもであればさして興味を引くニュースがなく、流し読みで終わってしまうのが日常であるのだが。 今日は珍しく、開いてすぐにとある記事に目が止まった。
 
「なになに……バルチカンの街で、司祭6人が襲撃され重傷、聖女が行方不明……だって」

 「バルチカンの聖女ってことは、あのアリアン教会の?」

「そうだね……いつも新聞に写ってる人が、写真に出てる」

 キッチンで皿洗いをするクレールに、トンディは振り返り記事を見せると、確かにそこにはアリアン教会の聖女、マルゴーの絵が描かれている。

「本当だ……大事件じゃん」

「バルチカンでは大騒ぎ……ここから馬で一日はかかる距離にある外外国なのに、これだけ新聞に大きく取り上げられてる」

「まぁそれだけ……アリアン教会の力は大きいって証拠でもあるよな。 冒険者ギルドだって、アリアン教会には頭上がらないし」

「うん……でもそんな強大な組織の中核、聖女がバルチカン内で襲撃されたってことが問題だって書いてある」

「あー確かにそうだな。司祭だって確かバルチカンの人間はsランク冒険者並みに強いって噂聞くし、そんな集団六人もぶっ飛ばすんだもんね、よほどの人数で襲ったのか、それともものすごく強い奴に襲われたのか……どちらにせよ危険だ」

「うん、魔王が現れて魔王崇拝者っていうのも出てきてるらしいし……最近物騒」

「魔王崇拝者って嫌な奴だなそれ。 なんだって魔王なんかを支持するんだ? 何かしてくれるってわけでもないだろう? ただ人を襲うだけじゃないか」

「それ、私に聞かれても……だけど、力あるものを崇拝するのは昔からある事。 納得ができなくても、人の心はそれだけ多様性がある。魔王崇拝は怖くても、その多様性を否定する必要はない……言ってることわかった?」

「ははは、面白いことをいうなトンディ。そんなことわたしがわかるはずないだろう」

 食器を拭きながら笑うクレール。
 
 そんな彼女にトンディは一瞬なにか言ってやろうかと口を開くが。
 
 すぐに首を振って新聞を閉じる。

「……まぁ、それがクレールのいいところ、一緒にいてとても楽だし」

「はははーそうだろうそうだろう‼︎ ってあれ? 今もしかしてバカにされた?」

 皮肉に、そんなとぼけた答えを返すクレール。
 そんな相棒にトンディは苦笑を漏らすと。

「ふぁ~あ……さあね」

 欠伸を漏らしてそう優しく呟いた。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

勇者の国~行き過ぎた主義の結果~【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
ある時代に、勇者至上主義にしている王国があった。 そんな国で冒険者として働いていた男が居た。 彼のもとに、勇者の補佐という仕事を依頼しに4名の騎士が来る。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

処理中です...