ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
上 下
23 / 55
二人の冒険者

狙撃

しおりを挟む
「ぐえっ」

  引き金を引いた瞬間、鈍器で殴られたような衝撃に襲われ、トンディは少女には到底似つかわしくない声を上げて後ろ向きに転び後頭部を強打する

「なんて衝撃……お帽子をかぶっていなければたんこぶだった……クレール、大丈夫?」

  柔らかい平原の土に帽子のお陰でなんとか後頭部の強打はまぬがれたトンディは、ヒリヒリとする頭を抑えながら立ち上がり相棒の無事を確かめる。

  幸い、クレールは腹ばいに状態であったため吹き飛ばされることはなかったようだが。
 
 引き金に指をかけたまま呆けたように微動だにせず、トンディの問いかけにも答えない。

「まさか……クレール、大丈夫聞こえる? 鼓膜やられた?」

 慌ててクレールに駆け寄り肩を揺するトンディ。
 
 しかしそれでもクレールは反応する様子はなく……しばらくすると返事の代わりにクレールはゆっくりと膝立ちをしてトンディの方へ振り返る。

 その目からは一筋の雫が流れており、トンディはギョッとする。

「‼︎‼︎ く、クレール‼︎ 大丈夫? どこか痛いの‼︎?」

「っ……か」

「か?」

「快……感‼︎ いやっほおおーう‼︎」

「おごぅ‼︎?」

 奇声をあげながらトンディに抱きつくクレール。
  
 その速度と衝撃にトンディは、大型犬の突進を思い浮かべながらなすすべもなく、もう一度後頭部を強打する。

「すごいよこの銃‼︎ なにこれ本当に最高‼︎ 発砲音も、遅れてくる風切り音も、手に伝わる反動も何もかも最高‼︎ 手がまだジンジンしてるよ」

「私は頭がジンジンしてる……」

「あ、ごめん。大丈夫?」

 絞り出すようなトンディの苦言に、ようやくクレールは我に帰ったのか。
 
 慌ててクレールはトンディの上からどく。

「まぁ……なんとか。 それで、魔物は?」

「あ‼︎ 確認してなかった、ええと」

 呆れたような表情のトンディに、クレールは慌てて立ち上がり双眼鏡をのぞく。

  倍率が高く設定された望遠鏡に映ったのは、こちらを睨みつけるような巨人の顔。

「あ、あれ‼︎? 立ってる。 うそ‼︎? どうしようトンディ、全然効いてない!? そ、そんなぁ、すごい威力だったのに……うぅ、やっぱりグレイグの言う通り私は役立たず……」

「落ち着けクレール。よくみて」

「ふぇ? みるってどこを」

「……ふんす」

 不意にトンディは膝カックンをかまし、「ふひゃあ」なんていう声と同時にクレールは地面に膝をつく。

「おいトンディ、膝カックンはびっくりするからやめろって言ってるだろ」

「いいから、その姿勢で見てごらん」

  膝立ちのまま抗議をするクレールであったが、その抗議をむししてトンディは前を向くように告げ、クレールは訝しげになりながらもそのまま双眼鏡を覗く。
 
 と。

 「‼︎‼︎ な、なんだあの大穴?」

  巨人の胸のあたりには、先ほどまでは確かになかった巨大な穴が空いており、ぼたぼたとそこから赤い液体のようなものがこぼれ落ちている。
 
 体を10mだとするならばその穴の大きさはおおよそ直径1mほどであり、生物であれば間違いなく致命傷であることは誰が見ても明らかだ。
 
「自分で開けたんでしょうに……。まったく、おめでとうクレール約束通り今夜はフルコース。もちろん、クレールの奢りね」

 言葉と同時に、双眼鏡越しの巨人の体がぐらりと揺れ、その場に崩れる。

 遠方より響くズシンという音と、大地を揺らす振動。

  それはまるでクレールの一撃を喝采するかのよう。

   だがこの時、クレールとトンディは知る由がなかった。

   彼女たちが撃ち抜いたのが、暴食の魔王・ガルガンチュアであったことを。

                                 ◇
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

勇者の国~行き過ぎた主義の結果~【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
ある時代に、勇者至上主義にしている王国があった。 そんな国で冒険者として働いていた男が居た。 彼のもとに、勇者の補佐という仕事を依頼しに4名の騎士が来る。

旅の道連れ、さようなら【短編】

キョウキョウ
ファンタジー
突然、パーティーからの除名処分を言い渡された。しかし俺には、その言葉がよく理解できなかった。 いつの間に、俺はパーティーの一員に加えられていたのか。

【短編】追放した仲間が行方不明!?

mimiaizu
ファンタジー
Aランク冒険者パーティー『強欲の翼』。そこで支援術師として仲間たちを支援し続けていたアリクは、リーダーのウーバの悪意で追補された。だが、その追放は間違っていた。これをきっかけとしてウーバと『強欲の翼』は失敗が続き、落ちぶれていくのであった。 ※「行方不明」の「追放系」を思いついて投稿しました。短編で終わらせるつもりなのでよろしくお願いします。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

処理中です...