ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜

nagamiyuuichi

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二人の冒険者

蜘蛛の糸

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「よいしょっと……戦闘終了、怪我はない? クレール」

  着地をすると同時にトンディはそう呟くと、クレールは緊張の糸が切れたかのように大きく息を吐き、薬莢を捨てる。

「怪我はないけど久々の大物で疲れたよ……トンディの方こそ怪我は?」

  疲れた……と言いながらもクレールは息一つ乱しておらず。 
 
  トンディは流石と心の中で呟きながら額の汗を拭い、アラクネに弾き飛ばされたブーツナイフを拾い上げる。

「おかげさまで。だけどホイールオブフォーチュンを一回使っちゃった」


「まだ今月1回しか使ってないからいいじゃないか」

「まぁね、半月で回復するし……まだあと4回使えるから問題はない」

「頼りにしてるよ。 さて、それよりもトンディ、ゴブたちはこいつの腹の中ってことだけど、今助け出せばまだ間に合うかな」

  大きく膨らんだアラクネのお腹を叩き、不安げにクレールは呟くが。
 
  トンディは首をふるふると左右に振ってその言葉を否定する。

「……アラクネは獲物を基本生かしたまま保存する。 だからゴブたちはまだ巣に捕まってるはず」

「そうなの? それは良かった……だけどそうなると今度は山探しか?」

「心配しないで、アラクネが居なくなって、もう森がお話してくれるようになったから」

「お話?」

「見てて」

  トンディはそういうと瞳を閉じて耳をすませる。
 
  すると、今まで怯えるように沈黙を守っていた森たちは、その身を震わせ始め。
 
  虫の声や動物たちの鳴き声が歌うように夜の森に響き渡り、トンディはその音を機敏に耳を動かし聞き入る。

  何を聞き取っているのか、それとも本当に会話をしているのか。

  クレールにはどちらなのか結局分からなかったが森と会話をするトンディの姿は美しく。

  ただただその姿に見とれていた。

  と。

「いた、こっち」

  不意に目を開き、案内をするように歩き出すトンディ。
 
「はいよ……」
 
  そんな彼女に。


 (もう少しだけ会話してくれてても良かったのに……)


  なんて心の中で呟きながらクレールはトンディについていくのであった。
 
   ◇
 
 「ゴーーーブーーーー‼︎? 怖かったゴブ、もうダメかと思ったごぶーーー‼︎? お姉さんは命の恩人ゴブよー‼︎」

  その後ゴブたちは、森の奥にある洞窟の中で発見をされた。
 
  洞窟内には動物たちが体を糸でぐるぐる巻きにされた状態で捕まっていた。

  足元には無数の骨が転がっていたが。

  ゴブたちは体が小さいため捕食は最後に回されたのだろう、誰一人欠けることなく無事に救出される。

「お姉さん……クレール。 私、お姉さん‼︎」

「はいはい……よかったね」

  わらわらとトンディの周りに集まりお礼をいうゴブたちに、トンディは得意げに胸を張るが、クレールはそれを無視してあたりを松明で見回す。

「しっかし、どれだけ森の獲物食い漁ってたんだあの蜘蛛……鹿に狼までいるぞ?」

「アラクネは糸でからめ取れる存在ならなんでも食べる……。ドラゴンの力でも切れないし、炎でも切れない糸はとても厄介。 切るのだって、私のダマスカスナイフでやっと……ん? 丈夫な糸……」

「そんなにすごい糸だったのか……でも確かに、これだけ細い糸にあれだけでかい巨体が乗っかってたんだもんな……」

「お陰でどれだけあばれようが食材が逃げないゴブ。 明日は鹿鍋に狼の肉のステーキゴブね。 狼の肉だってゴブリンの手にかかれば絶品ゴブ。いやぁ、捕まってラッキーだったゴブね」

「前向きだなぁ……」

「もちろん、いつでも元気がゴブリンの取り柄ゴブ。 さあみんなで食材を運ぶゴブ‼︎」

「ゴブゴブおー‼︎ ゴブゴブおー‼︎」

  掛け声とともに、ゴブたちは独特な歌を歌いながら糸でぐるぐる巻きになった鹿や狼をみんなで運び出す。
 
  楽しげに森に響く歌から、怪我をしたゴブはいないようであり、クレールは微笑ましいその様子に一つ胸をなでおろす。

「とりあえず、一件落着だな、トンディ……てあれ? トンディ?」

  気がつけば、先程まで一緒にいたトンディの姿は洞窟の外にはなく、クレールは振り返ると、トンディは一人洞窟の中でうずくまっていた。

「電気を通さなくて、ドラゴンの吐息でも燃えないもの……」

「なにしてんの?」

  近づいて様子を伺うと。トンディは一人洞窟内でなにかをを拾っており、クレールは訝しげになにをしているのかと問うと。

「クレール……これなんて、使えるんじゃない?」

  そう言って差し出された手には白く光る蜘蛛の糸が数本握られていた。


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