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二人の冒険者
息を殺す森
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「とかなんとか言って安請け合いをしたけど。 山、真っ暗だな」
エリンディアナの街の外壁を抜けた先にある小高い山は、標高はそんなに高くはないものの、鬱蒼と生い茂る木々のせいで夜になれば月明かりさえも閉ざし完全なる闇を作り出す。
背の高い木々は、一つ一つが巨人の影法師のようで、手に持ったランタンの明かりだけが心細くクレールとトンディの足元を照らす。
「問題ない……山は得意」
しかし、そんな暗闇の中でもトンディは昼間のように森の奥深くまで進んでいく。
もとより森とともに生きるラヴィーナ族。しかも暗闇の中で罠を解除できるほどの鋭い感覚を持った彼女にとっては、この程度の暗闇は障害にもなり得ないようだ。
「頼りにしてるよ」
そんなトンディに対し、クレールはそう零すと、トンディは「任せて」と言ってさらに奥へと進んでいく。
森は奥へ進めば進むほど静けさを増す。
聞こえるとすれば、湿った土を踏む音と、クレールが踏んだ木の枝が折れるぱきりという音くらい。
お互いの心臓の音すらも聞こえてきそうな静けさに。
トンディは緊張するように、息を飲んだ。
「……すごい静か。 森が息を殺してる」
「どういうこと?」
「動物も、植物も、森が魔物を恐れて隠れてる……しかもここにいる魔物、それを利用して静寂に溶け込んでる。 強力で……それでいて頭もいい」
「なるほど……そうなると、クエストにも書いてあった通り、魔物がいるのは分かるけど正体は掴めないってことか?」
「……普通の人ならね……だけど、ここまで綺麗に隠れられる魔物は限られてくるから。あとは。 じゃん」
そういうとトンディは、バッグの中から瓶を取り出しクレールへと見せつける。
瓶の中には、薄緑色に光る虫のようなものが詰められている。
「これって」
「タンポポの綿毛に、ヒカリダケのエキス塗りつけたやつ。前にクレールがくれた」
「あぁ、トンディが蛍が見たいって言うから代わりに作ったやつか……でもなんで今そんなもの? 確かに光ってるけど、あたりを照らす程じゃ……」
「まぁ見てて」
そう言うとトンディは瓶から手のひらにタンポポの綿毛を取り出すと。
「ふーーー‼︎」
上空に向かって勢いよく息を吹きかける。
キラキラと蛍のように空を舞うタンポポの綿毛。
その姿はまるで妖精がワルツを踊っているようでもあり、クレールはその様子を言われるがまま見守っていると。
……不意に、空を舞っていた光が動きを止める。
落下したわけではない。
まるで空間に固定されたかのように……縫い付けられたかのように不自然に動きを止めた光る綿毛たち。
「あれ? なんで綿毛がとま……────え?」
不思議な光景にクレールは思わずランタンを上へとかざし……息を呑む。
「やっぱり、アラクネ……」
淡いランタンの光……それが映し出したのは歪に歪んだ巨大な蜘蛛の顔。
その頭部に光る無数の赤い瞳が、音もなく値踏みをするようにじぃっとクレールを見つめていた。
エリンディアナの街の外壁を抜けた先にある小高い山は、標高はそんなに高くはないものの、鬱蒼と生い茂る木々のせいで夜になれば月明かりさえも閉ざし完全なる闇を作り出す。
背の高い木々は、一つ一つが巨人の影法師のようで、手に持ったランタンの明かりだけが心細くクレールとトンディの足元を照らす。
「問題ない……山は得意」
しかし、そんな暗闇の中でもトンディは昼間のように森の奥深くまで進んでいく。
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「頼りにしてるよ」
そんなトンディに対し、クレールはそう零すと、トンディは「任せて」と言ってさらに奥へと進んでいく。
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聞こえるとすれば、湿った土を踏む音と、クレールが踏んだ木の枝が折れるぱきりという音くらい。
お互いの心臓の音すらも聞こえてきそうな静けさに。
トンディは緊張するように、息を飲んだ。
「……すごい静か。 森が息を殺してる」
「どういうこと?」
「動物も、植物も、森が魔物を恐れて隠れてる……しかもここにいる魔物、それを利用して静寂に溶け込んでる。 強力で……それでいて頭もいい」
「なるほど……そうなると、クエストにも書いてあった通り、魔物がいるのは分かるけど正体は掴めないってことか?」
「……普通の人ならね……だけど、ここまで綺麗に隠れられる魔物は限られてくるから。あとは。 じゃん」
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瓶の中には、薄緑色に光る虫のようなものが詰められている。
「これって」
「タンポポの綿毛に、ヒカリダケのエキス塗りつけたやつ。前にクレールがくれた」
「あぁ、トンディが蛍が見たいって言うから代わりに作ったやつか……でもなんで今そんなもの? 確かに光ってるけど、あたりを照らす程じゃ……」
「まぁ見てて」
そう言うとトンディは瓶から手のひらにタンポポの綿毛を取り出すと。
「ふーーー‼︎」
上空に向かって勢いよく息を吹きかける。
キラキラと蛍のように空を舞うタンポポの綿毛。
その姿はまるで妖精がワルツを踊っているようでもあり、クレールはその様子を言われるがまま見守っていると。
……不意に、空を舞っていた光が動きを止める。
落下したわけではない。
まるで空間に固定されたかのように……縫い付けられたかのように不自然に動きを止めた光る綿毛たち。
「あれ? なんで綿毛がとま……────え?」
不思議な光景にクレールは思わずランタンを上へとかざし……息を呑む。
「やっぱり、アラクネ……」
淡いランタンの光……それが映し出したのは歪に歪んだ巨大な蜘蛛の顔。
その頭部に光る無数の赤い瞳が、音もなく値踏みをするようにじぃっとクレールを見つめていた。
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