ユリとウサギとガンスミス〜火力不足と追放された【機工術師】ですが、対物ライフルを手に入れてからは魔王すら撃ち抜く最強の狙撃手になりました〜

nagamiyuuichi

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二人の冒険者

常連客

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「よー、ダイク。 昨日ぶり……キセル片手に歯車磨きなんて、珍しいことしてるじゃないか」

「あぁ、領主んとこの柱時計のゼンマイが壊れたってんで依頼があってな。 二百年は壊れねえパーツを拵えてやったら、あれもこれもと要求して来やがってよ。 おかげさまで潰れて廃墟になる心配はなさそうだ。 残念だったな」

「聞こえてたのか……」

「けっ。お前のアホみたいなでけえ声は毎日のように聞かされてるからな。 いい加減聞き飽きたぜ」

「常連を捕まえていうセリフかそれ? よくまぁそんな愛想のなさで領主の仕事任されたもんだね」

「それだけまともな技術者がいねえってこったな。 お陰で鉄屑あさりに行く暇さえありゃしねえ」

「忙しいんだ……珍しいこと、ある」
 
  目にも止まらぬ速さで錆が落とされていく歯車を物珍しそうに眺めながらトンディはそう呟くと、ダイクは肩をすくめて「珍しいは余計だ」と呟く。

「なんだよダイク、水臭いな。忙しいなら手伝おうか?」

「結構だ。 二流の仕事をされて評判が落ちたらかなわねえからな」

「失礼だなー……半端な仕事はしないぞー私」

  ダイクの言葉にクレールは頬を膨らませて抗議をするが、撤回をするつもりはないと言わんばかりにダイクは大げさにかぶりを振る。

「言ってるだろうクレール。 遺物師、其は平穏と豊かさのために……。いくら腕が良かろうが、人を傷つける銃なんて道具しか作らねえ奴(ガンスミス)を俺は一流とは認めねえんだよ……」

  鋭い眼光に突き放すような冷たい言動を投げかけるダイク。

  しかしクレールはその言葉にキョトンとした表情をつくる。

「と、いう割には何だかんだいつも素材とか部品とかの面倒見てくれるよな?」

「別に一流なのを認めねえってだけで、お前の生き方自体を否定するつもりはねえ、それだけだ」

「その言い方だと、本当は一流って事を認めてるみたいに聞こえるけど」

「認めてない、断じて認めてねえからな」

「素直じゃない……」
 
  いつものダイクとクレールのやりとりにトンディは呆れたようにため息が店に響き、ダイクはそれになにか抗議しようと口を一度開くが、らちがあかないと言わんばかりに大きなため息だけを口から漏らし、話題を変える。
 
「はぁ……まぁいい。それで今日は何の用だクレール。まさか俺をおちょくるためだけに来たわけじゃねえんだろ?」

「おちょくったわけじゃないけど……まぁいいや。 実は修理したいものがあってさ。 ちなみにタングステンなんかこの店に置いてる?」

「わきゃねーだろうが。 鉱物の皇女様だぜ? お前はガラクタ屋でダイヤの指輪を探すのか?」

「だよなぁ」

「だいたいなんだってそんなものが必要なんだよ」

「実はこいつを直すのに必要でさ」

  そう言うと、クレールはポケットからレガシーを取り出すとダイクへと手渡す。

  見慣れないレガシーにダイクは訝しげな表情を浮かべるが、手渡されたレガシーを見ると嬉しげに「ほぅ」と呟いた。
  
「……ヘッドライトか。 随分と珍しいもん手に入れたな。 普通はかなりダンジョンの奥深く、埋もれた旧世界まで行かねえと手に入らないもんだぞ?」

「偶然手に入れてね……自力で直せはしそうなんだけど、どうにもフィラメントのパーツが足りなくて」

「なるほどそれでタングステンか。 銅線ならいくらでもあるが、フィラメントの部分は自分で探せ、うちにゃそんな大層なもんは置いてねえよ。取り寄せてやってもいいが時間かかる」

「だよねぇ」

  やっぱりな、と肩を落とすクレールに、トンディは首を傾げて問いかける。

「タングステン? とかいうやつじゃないと、絶対ダメなの?」

「ダメってわけじゃないが質が落ちる。 俺の知る限り、鉱物や植物でタングステンよりも熱に強い物を俺は知らねえな」

「熱に強ければ良いの?」

「いや、フィラメントってのは電気抵抗を利用して発光をさせるから……」

「?」

  なにいってんだこいつという表情を見せるトンディに、ダイクは一度眉間にしわを寄せて考えるそぶりを見せた後。

「……とりあえずは、熱に強くて電気を通しにくいものじゃねーとダメってことだ」

  そうわかりやすく説明をしなおした。

「熱に強くて……電気を通さない……あー」

「なんだ? 思い当たるものでもあったのか」

  トンディのつぶやきにダイクは興味深げに問いかける。

  しかしトンディは一拍間を開けると。

「いいや、なんにも」

  ケロリとした表情で首を左右にふった。

「ダメかぁ……となるとやっぱ、時間がかかるよ、ごめんなトンディ」

「別に、すぐ必要な物でもないし。あったら便利ってだけだから。気にしないでクレール。それよりもダイク……」

  落ち込むように項垂れるクレールの頭を、トンディは仕返しとばかりにーーー当人にはご褒美になっているがーーー撫でながら、ダイクへと声をかける。

「あん? なんだトンディ」

「お金できた、頼んでたものよろしく」

「なんだ、金貨5,000枚もう溜まっちまったのか?」

「私、やりくり上手」

  驚くダイクにトンディは胸を張って鼻を鳴らす。 

  むっふー! という鼻息が可愛らしい。

「そうかそうか、偉いなートンディは」

「子供扱いしない! 私、クレールよりお姉さん‼︎」

「がはは……そうだったな、悪い悪い。 お前さんを信じてある程度準備は進めておいたからな。 明日には準備が出来ると思うぜ?」

「本当!? ありがとうダイク」

「いいってことよ、お前にはいくつも借りがある」

「気にしなくていいのに」

  律儀な大工に呆れるようにトンディは苦笑を漏らすと、そんな二人の間にクレールが割って入ってくる。

「なぁトンディー、一体何を買ったんだよー? 頑なに教えてくれなかったけど、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねーのー?」

「だめ、内緒」

「ぶー。いいじゃんかケチー。 別に教えてくれたって減るもんじゃないだろー」

「やだ、クレールに言うと減りそうな気がする。 というかきっと減る」

「減るの⁉︎ なんだよそれー、余計気になるじゃーん‼︎」

  頑として断るトンディと子供のようにごねるクレール。
 
  仲良くじゃれる二人を口元をゆるめながらダイクは仕事を再開する。

  静まり返った工房の中、じゃれるように喧嘩をする二人の声に拍子を取るように、キセルを叩く音が響き渡る。
 
  そんな音を聞いて、また工房が歌いだしたと誰かが言った。
                                         ◇
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