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二人の冒険者
ペコリーナ・キャンティ・トスカーナ
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「まったく……銀貨だっていつも言ってるのに、どうしてすぐに忘れちゃうのかなぁ……」
「……えっと」
「あぁ、ごめんねうちのゴブが。 こいつら料理の腕は確かなんだけど、どうにも物覚えが悪くてさ」
「あなたは?」
「私は料理長のペコリーナ・キャンティ・トスカーナ。 みんなにペコリーナって呼ばれてるからあんた達もペコリーナでいいぞ」
「珍しい名前……外国の人?」
「まぁ、出身はリタリカ王国だから外国っちゃ外国だね。 あっちこっち流れてるから生まれなんてあってないようなものだけど……それよりも、私たちの料理は気に入ってくれた?」
「あぁ、すっごい美味しかった。あんなアップルパイ食べたことないよ」
「へへーん、そうだろうそうだろう? ゴブリン族は料理に対して一切の妥協を許さないからね、オツムがちょっちー弱いのが玉に瑕だけど、ここにいるゴブリン達は全員、王城の専属シェフにも劣らない超一流の料理人達。 どんな料理も絶対に後悔はさせないって、この私が保証するよ‼︎」
「すごい自信だな……」
「でも、納得の腕前」
「気に入ってくれたなら是非夜も来てほしいな。 最高のゴブリン料理に最高のお酒でもてなすからさ」
「それは、すごい楽しみ……あ、私トンディ。 そしてこっちが相棒のクレール」
「よろしくペコリーナ」
「クレール?」
トンディの紹介に、ペコリーナは一瞬なにかを考えるような仕草を見せる。
「どうかした?」
「いや、クレールって、もしかしてだけどあなた、遺物使いのクレール・アルバス・クラリオーネ?」
「え、あっ」
名前を隠しているわけではないクレールであったが、突然瞳を輝かせるように手を握るペコリーナに、目を白黒させる。
「やっぱりクレールなんだね‼︎ 私達世界中で店開きながら冒険者もしててさぁ、まぁ、ランクはまだBランクなんだけど、まさかこんなところで最強のSランクパーティー【クロノス】のメンバーにあえるなんて‼︎」
「えっと……その、私はもう……」
クレールの瞳がわずかに曇り、口ごもる。
自分の素性を隠しているわけではない。
それでもクロノスという言葉は未だにクレールという少女の心を蝕んでいた。
しかし、そのような事情を知らないペコリーナは、クレールのわずかな表情の変化を読み取れるわけもなく、言葉を続ける。
「私、クロノスのファンなんだ。 ここにクレールがいるってことは、もしかして勇者グレイグも……」
「人違い」
ぴしゃりと短く、しかし明確なトンディの否定が会話の中に割り込まれ、強制的に会話は終了させられる。
「へ?」
「同じ名前なだけ。クレールは勇者とはなんの関係もない」
「あ、え? そうなの……ごめんなさい、私てっきり」
トンディの嘘に、ペコリーナは乾いた笑いを浮かべて謝罪を漏らすが、トンディは小さく首を振る。
「気にしないで。 ところで、アップリュパイは二つでいくら?」
「え? ああ。 銀貨二枚だよ」
アップリュパイの値段をきくと、トンディは「銀貨ね……」と呟きながら懐から二枚の銀貨を取り出す。
「はい……とっても美味しかった。 ご馳走さま」
「え? あぁ、どうも……?」
「いこ、クレール」
「あっ、ちょっ……トンディ‼︎? 引っ張るなって」
表情の暗いクレールの手を引いて足早に店を出て行ってしまうトンディ。
「またのお越しをお待ちしてるゴブー」
二人の急な変化に、ペコリーナは首を傾げ。 そんな料理長の代わりに頭にたんこぶをこしらえたゴブリンが手を振って二人を見送る。
やがて、二人が雑踏に消えたのち。
「なぁ……もしかして私何か、まずいこと言ったかな」
「多分ゴブ」
騒がしい店の中で、二人の声が静かにひびいたのであった。
◆
「……えっと」
「あぁ、ごめんねうちのゴブが。 こいつら料理の腕は確かなんだけど、どうにも物覚えが悪くてさ」
「あなたは?」
「私は料理長のペコリーナ・キャンティ・トスカーナ。 みんなにペコリーナって呼ばれてるからあんた達もペコリーナでいいぞ」
「珍しい名前……外国の人?」
「まぁ、出身はリタリカ王国だから外国っちゃ外国だね。 あっちこっち流れてるから生まれなんてあってないようなものだけど……それよりも、私たちの料理は気に入ってくれた?」
「あぁ、すっごい美味しかった。あんなアップルパイ食べたことないよ」
「へへーん、そうだろうそうだろう? ゴブリン族は料理に対して一切の妥協を許さないからね、オツムがちょっちー弱いのが玉に瑕だけど、ここにいるゴブリン達は全員、王城の専属シェフにも劣らない超一流の料理人達。 どんな料理も絶対に後悔はさせないって、この私が保証するよ‼︎」
「すごい自信だな……」
「でも、納得の腕前」
「気に入ってくれたなら是非夜も来てほしいな。 最高のゴブリン料理に最高のお酒でもてなすからさ」
「それは、すごい楽しみ……あ、私トンディ。 そしてこっちが相棒のクレール」
「よろしくペコリーナ」
「クレール?」
トンディの紹介に、ペコリーナは一瞬なにかを考えるような仕草を見せる。
「どうかした?」
「いや、クレールって、もしかしてだけどあなた、遺物使いのクレール・アルバス・クラリオーネ?」
「え、あっ」
名前を隠しているわけではないクレールであったが、突然瞳を輝かせるように手を握るペコリーナに、目を白黒させる。
「やっぱりクレールなんだね‼︎ 私達世界中で店開きながら冒険者もしててさぁ、まぁ、ランクはまだBランクなんだけど、まさかこんなところで最強のSランクパーティー【クロノス】のメンバーにあえるなんて‼︎」
「えっと……その、私はもう……」
クレールの瞳がわずかに曇り、口ごもる。
自分の素性を隠しているわけではない。
それでもクロノスという言葉は未だにクレールという少女の心を蝕んでいた。
しかし、そのような事情を知らないペコリーナは、クレールのわずかな表情の変化を読み取れるわけもなく、言葉を続ける。
「私、クロノスのファンなんだ。 ここにクレールがいるってことは、もしかして勇者グレイグも……」
「人違い」
ぴしゃりと短く、しかし明確なトンディの否定が会話の中に割り込まれ、強制的に会話は終了させられる。
「へ?」
「同じ名前なだけ。クレールは勇者とはなんの関係もない」
「あ、え? そうなの……ごめんなさい、私てっきり」
トンディの嘘に、ペコリーナは乾いた笑いを浮かべて謝罪を漏らすが、トンディは小さく首を振る。
「気にしないで。 ところで、アップリュパイは二つでいくら?」
「え? ああ。 銀貨二枚だよ」
アップリュパイの値段をきくと、トンディは「銀貨ね……」と呟きながら懐から二枚の銀貨を取り出す。
「はい……とっても美味しかった。 ご馳走さま」
「え? あぁ、どうも……?」
「いこ、クレール」
「あっ、ちょっ……トンディ‼︎? 引っ張るなって」
表情の暗いクレールの手を引いて足早に店を出て行ってしまうトンディ。
「またのお越しをお待ちしてるゴブー」
二人の急な変化に、ペコリーナは首を傾げ。 そんな料理長の代わりに頭にたんこぶをこしらえたゴブリンが手を振って二人を見送る。
やがて、二人が雑踏に消えたのち。
「なぁ……もしかして私何か、まずいこと言ったかな」
「多分ゴブ」
騒がしい店の中で、二人の声が静かにひびいたのであった。
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