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二人の冒険者
違いのわかるゴブリン亭
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赤土色のレンガが敷き詰められた商店街は、夕日の色を吸ってまるで黄金のような輝きを放つ。
道行く人を見れば、皆が皆大きく膨らんだ買い物袋を抱えており、そんな人々の間をすり抜けるように子供たちは笑い声を上げてかけていく。
大陸の中心地に位置するここ、エリンディアナの街は小麦と羊毛が名産の田舎町。
お世辞にも先進的な街であるとは言い難いものの、魔王との戦いとは無縁であるがゆえにのどかで平和な生活を約束された場所。
「あっまあーい‼︎?」
そんなのどかな場所だからこそ、クレールのこんな呑気な声も当たり前のように街に溶け込んでいく。
「……これが、アップリュパイ……パンケーキより美味しい」
口にリンゴのソースをつけながら、クレールとトンディは甘いお菓子に瞳を輝かせる。
最近オープンし絶品と評判のこの店【違いの分かるゴブリン亭】は、この国では珍しいゴブリン族が経営する居酒屋であり、夕暮れ時にもかかわらず店は大繁盛。
店の中を見回すと、小さなゴブリンがせわしなく床を走り回ったり転げ回ったりして仕事をしているのが見える。
「ゴブリン族は食に対するこだわりが凄まじいとは聞いたけれど、こんな……こんなおいしいものが作れるなんて‼︎?」
「まぁ、頼んだのはホットケーキのはずなんだけどね」
「ご愛嬌ご愛嬌‼ ︎ ゴブリンの店で頼んだものが出てくる方が珍しいって。けど出てくるもん何でも美味いからみんな許しちゃうんだよね」
「……なるほど……たしかに、これは許せる」
ぱくりとアップリュパイを口に頬張り、幸せそうな表情をうかべるトンディ。
それにクレールは「だろ?」と呟くと。自らもアップリュパイを口に頬張る。
ゆったりと流れる時間。ダンジョン探索の疲労など彼方へと飛んで行ってしまう至福の時に、クレールもトンディも砂糖のように表情がとろけていく。
そんな中。
「あっ……」
小さくクレールから声が漏れ、その表情が青く染まっていく。
「どうしたの?」
「ごめん……財布忘れた」
「またか……」
じとっとしたトンディの目に、クレールは拝むように手を合わせて頭をさげる。
「ほんとごめん……すぐ取ってくるから」
「いいよ。多分そうなると思ってたからお金大目に持ってきてる。 立て替えておくから、後で返して」
「うぅ……いつもありがとうトンディ」
「もう慣れたから大丈夫。 まぁ、 魔物退治に銃を忘れた時は流石に死を覚悟したけど」
「半年も前のことを掘り返すなよー‼︎ それにあの時は間違えて納品用のレプリカと自分の銃を間違えちゃっただけなんだって」
「ちゃんと片付けないから」
「それ以降は納品棚は整理してるだろー?」
「私がね」
「……どうぞ、アップリュパイをお納めくださいトンディ様」
「わかればよろしい」
その姿にトンディはむふーと満足げに鼻をならすと、クレールから差し出された最後のアップルパイを平らげる。
「美味しかった」
「うん、お陰でもうお腹パンパンだよ」
お腹をさするクレールに、トンディは腰にぶらさげた懐中時計を見て息を漏らす。
「だけど時間も時間だし、もう行かないと」
「まだコーヒー全然残ってるけど……って何してんだトンディ?」
「何って、革の水筒に入れてる。これでいつでも飲める。 合理的」
「革袋コーヒー臭くなりそう……」
「洗えば案外平気。 さて、いこっか」
革袋にコーヒーを詰め終わると、トンディは手に持っていた呼び鈴をちりんと鳴らす。
するとバタバタと忙しなく、ひとりのゴブリンがトンディたちの前にやってきた。
「ゴブゴブ‼︎ お待たせしやした‼︎ ご注文伺うゴブ‼︎」
「今食べ終わったところだよ。 ご注文じゃなくてお勘定頼むよ」
「そうゴブか、お勘定ゴブね‼︎ アップリュパイ二つで銅貨二枚ゴブ‼︎」
「随分安いな……今時、卵でもそんな安くないけど、値段間違ってないか?」
「間違いないゴブ‼︎ 安くて美味しい、ゴブたちはそう言うお店を目指してるって、姉さんも言ってたゴブ。 だから、安くすれば安くするほど姉さんもきっと喜ぶ……」
「わけあるかあぁ‼︎ 店潰す気か‼︎」
「ごぶふっ‼︎?」
ごつん、という音が響き、ゴブリンの脳天に鉄拳が落ちる。
絵に描いたようにその場に沈んでいくゴブリンを見送りながら拳の主を見ると、そこにはドワーフ族の少女が立っていた。
道行く人を見れば、皆が皆大きく膨らんだ買い物袋を抱えており、そんな人々の間をすり抜けるように子供たちは笑い声を上げてかけていく。
大陸の中心地に位置するここ、エリンディアナの街は小麦と羊毛が名産の田舎町。
お世辞にも先進的な街であるとは言い難いものの、魔王との戦いとは無縁であるがゆえにのどかで平和な生活を約束された場所。
「あっまあーい‼︎?」
そんなのどかな場所だからこそ、クレールのこんな呑気な声も当たり前のように街に溶け込んでいく。
「……これが、アップリュパイ……パンケーキより美味しい」
口にリンゴのソースをつけながら、クレールとトンディは甘いお菓子に瞳を輝かせる。
最近オープンし絶品と評判のこの店【違いの分かるゴブリン亭】は、この国では珍しいゴブリン族が経営する居酒屋であり、夕暮れ時にもかかわらず店は大繁盛。
店の中を見回すと、小さなゴブリンがせわしなく床を走り回ったり転げ回ったりして仕事をしているのが見える。
「ゴブリン族は食に対するこだわりが凄まじいとは聞いたけれど、こんな……こんなおいしいものが作れるなんて‼︎?」
「まぁ、頼んだのはホットケーキのはずなんだけどね」
「ご愛嬌ご愛嬌‼ ︎ ゴブリンの店で頼んだものが出てくる方が珍しいって。けど出てくるもん何でも美味いからみんな許しちゃうんだよね」
「……なるほど……たしかに、これは許せる」
ぱくりとアップリュパイを口に頬張り、幸せそうな表情をうかべるトンディ。
それにクレールは「だろ?」と呟くと。自らもアップリュパイを口に頬張る。
ゆったりと流れる時間。ダンジョン探索の疲労など彼方へと飛んで行ってしまう至福の時に、クレールもトンディも砂糖のように表情がとろけていく。
そんな中。
「あっ……」
小さくクレールから声が漏れ、その表情が青く染まっていく。
「どうしたの?」
「ごめん……財布忘れた」
「またか……」
じとっとしたトンディの目に、クレールは拝むように手を合わせて頭をさげる。
「ほんとごめん……すぐ取ってくるから」
「いいよ。多分そうなると思ってたからお金大目に持ってきてる。 立て替えておくから、後で返して」
「うぅ……いつもありがとうトンディ」
「もう慣れたから大丈夫。 まぁ、 魔物退治に銃を忘れた時は流石に死を覚悟したけど」
「半年も前のことを掘り返すなよー‼︎ それにあの時は間違えて納品用のレプリカと自分の銃を間違えちゃっただけなんだって」
「ちゃんと片付けないから」
「それ以降は納品棚は整理してるだろー?」
「私がね」
「……どうぞ、アップリュパイをお納めくださいトンディ様」
「わかればよろしい」
その姿にトンディはむふーと満足げに鼻をならすと、クレールから差し出された最後のアップルパイを平らげる。
「美味しかった」
「うん、お陰でもうお腹パンパンだよ」
お腹をさするクレールに、トンディは腰にぶらさげた懐中時計を見て息を漏らす。
「だけど時間も時間だし、もう行かないと」
「まだコーヒー全然残ってるけど……って何してんだトンディ?」
「何って、革の水筒に入れてる。これでいつでも飲める。 合理的」
「革袋コーヒー臭くなりそう……」
「洗えば案外平気。 さて、いこっか」
革袋にコーヒーを詰め終わると、トンディは手に持っていた呼び鈴をちりんと鳴らす。
するとバタバタと忙しなく、ひとりのゴブリンがトンディたちの前にやってきた。
「ゴブゴブ‼︎ お待たせしやした‼︎ ご注文伺うゴブ‼︎」
「今食べ終わったところだよ。 ご注文じゃなくてお勘定頼むよ」
「そうゴブか、お勘定ゴブね‼︎ アップリュパイ二つで銅貨二枚ゴブ‼︎」
「随分安いな……今時、卵でもそんな安くないけど、値段間違ってないか?」
「間違いないゴブ‼︎ 安くて美味しい、ゴブたちはそう言うお店を目指してるって、姉さんも言ってたゴブ。 だから、安くすれば安くするほど姉さんもきっと喜ぶ……」
「わけあるかあぁ‼︎ 店潰す気か‼︎」
「ごぶふっ‼︎?」
ごつん、という音が響き、ゴブリンの脳天に鉄拳が落ちる。
絵に描いたようにその場に沈んでいくゴブリンを見送りながら拳の主を見ると、そこにはドワーフ族の少女が立っていた。
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