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二人の冒険者
宝箱
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神々の残した迷宮を解き明かし、古代文明人の残した遺物を発掘する。
未開の地を切り開き、不毛の大地を緑で満たし、朝を忘れた街を日輪で照らす。
魔を操り、武を極め、鉄を紐解く。
そんな存在を人々は……冒険者と呼ぶ。
◇
――― 1年後
「なぁー……まだおわんないのかよートンディー」
赤土色のレンガに覆われた人工の洞窟の中に、退屈そうな声が反響する。
声の主はさして大きな声を出したつもりはなかったのだろうが、壁にかけられた燭台の明かりが揺れ、洞窟全体がゆらりと揺れたように見える。
まるで洞窟に抗議をされているようだとクロノア・トンディ・ハネールは思いながらも、目の前で暇そうに口を尖らせる少女に返事を返した。
「もう少しで終わる。 大人しくしててクレール」
「さっきからもうちょっともうちょっとって言ってるけどさー。 ずーっと宝箱とにらめっこしたまんまでもう30分以上たってるよー? お腹減ったよー」
「罠の解除は複雑で時間がかかる。 おまけにランタンの明かりじゃ、ほとんど手探り状態。せめてもっと光源があれば……。 というかお腹減ったの?」
「すっごく」
「じゃあ、私のジャムサンド食べ……」
「やったー、いっただっきまーす」
「早いな……まぁいいんだけど」
トンディはやれやれとため息を漏らしたのち、ハットから飛び出た白いウサギ耳を近づけて宝箱を手に持ったトンカチで軽く二、三度叩く。
「何してるんだ?」
「振動で反応するような罠がないことは確かめたから、今度は反響音で罠の確認中。 音の具合でだいたい中の構造が理解できる」
「すっごいなーラヴィーナ族。 そのウサギ耳は伊達じゃないってわけだ」
「ラヴィーナ族がすごいわけじゃない。 すごいのは私」
「そっか、さすがトンディ!!」
「それほどでもある」
まんざらでもない様子でトンディは自慢げに胸を張り、再びトンカチで宝箱を叩く。
「ふむふむ。 筒状の何かに、かすかに弦を弾くような音。 よくある蓋に紐を引っ掛けて開けたらズドンのやつ……そしたら弦を切っちゃえばいいから」
独り言で情報を整理。
次に一つ深呼吸をして、宝箱の蓋に手をかける。
罠の鑑定を間違えていたら……そんな不安が汗となって額を伝うが。
己の経験と自信でその不安を上塗りしてわずかに宝箱を開ける。
――――――ぎぃ。
かすかに宝箱の軋む音が響き、同時にまた静寂が訪れる。
「鑑定成功……」
ホッと一息を着き、隙間からブーツに仕込んだナイフを差し込む。
何度か空洞の中でナイフを動かすと、糸に触れるような感触がナイフから伝わり、同時に今度ははっきりとしたプツンという音が洞窟内に響く。
「お、行けたみたいだね。 お疲れ様」
その音に、罠の解除の終了を察したのか、クレールは立ち上がりひょこひょこと宝箱の元へとやってきて、トンディに水筒を渡す。
「ありがとう……とりあえず誤作動をしない限りはこれで安心なはず……疲れた」
「やっぱり持つべきものはシーフの友ってやつだねぇ」
「クレールも手先は器用なんだから、やろうと思えばできるはず。興味があるなら教える」
「そうかな………あ、いや、やっぱり無理だよ。私その……短気でガサツだし……迷惑かけちゃうから」
「短気なのはそうだけど……まぁいいや。 仕事もこれで終わりだし、帰る準備するね」
無理に明るく笑うクレール。
その様子にトンディは気づきはするものの、一つ首をかしげるのみでそれ以上は追求をしないことにする。
言いたくないことを無理に聞き出さない。
それが彼女なりのクレールへの心遣いであり、トンディは疑問を流し込むように水を飲むと、道具の片付けを開始した。
「あれ? せっかく罠解除したのに、開けないのトンディ」
「後でいい。 別に宝箱の中身は逃げない」
「そう言う問題じゃなくて、宝箱だよ? 中身を確認したいーとか、なにが入ってるんだろう? とかいうワクワクはないの?」
「それはクレールの方でしょ。 いいよ、開けたいなら開けて」
「え、本当に? いいのか?」
「誰が開けても中身は変わらない」
正気か? というような表情をするクレールに対し、眉ひとつ動かさずに道具を片付けるトンディ。
冒険者、しかもシーフである彼女が宝箱に興味がないという発言はにわかには信じがたい話であるが、宝箱に見向きもせずにあくびすら漏らしている姿から、本当に彼女が宝箱に興味がないことはうかがい知れた。
「いいんだなー? 本当に開けちゃうからなー」
とうとうしつこいとばかりにトンディは返事すら返さず、代わりに片手をひらひらと降って返事をする。
その様子に変わってるなぁとクレールは思案しながら、宝箱に手をかけ。
開いた。
未開の地を切り開き、不毛の大地を緑で満たし、朝を忘れた街を日輪で照らす。
魔を操り、武を極め、鉄を紐解く。
そんな存在を人々は……冒険者と呼ぶ。
◇
――― 1年後
「なぁー……まだおわんないのかよートンディー」
赤土色のレンガに覆われた人工の洞窟の中に、退屈そうな声が反響する。
声の主はさして大きな声を出したつもりはなかったのだろうが、壁にかけられた燭台の明かりが揺れ、洞窟全体がゆらりと揺れたように見える。
まるで洞窟に抗議をされているようだとクロノア・トンディ・ハネールは思いながらも、目の前で暇そうに口を尖らせる少女に返事を返した。
「もう少しで終わる。 大人しくしててクレール」
「さっきからもうちょっともうちょっとって言ってるけどさー。 ずーっと宝箱とにらめっこしたまんまでもう30分以上たってるよー? お腹減ったよー」
「罠の解除は複雑で時間がかかる。 おまけにランタンの明かりじゃ、ほとんど手探り状態。せめてもっと光源があれば……。 というかお腹減ったの?」
「すっごく」
「じゃあ、私のジャムサンド食べ……」
「やったー、いっただっきまーす」
「早いな……まぁいいんだけど」
トンディはやれやれとため息を漏らしたのち、ハットから飛び出た白いウサギ耳を近づけて宝箱を手に持ったトンカチで軽く二、三度叩く。
「何してるんだ?」
「振動で反応するような罠がないことは確かめたから、今度は反響音で罠の確認中。 音の具合でだいたい中の構造が理解できる」
「すっごいなーラヴィーナ族。 そのウサギ耳は伊達じゃないってわけだ」
「ラヴィーナ族がすごいわけじゃない。 すごいのは私」
「そっか、さすがトンディ!!」
「それほどでもある」
まんざらでもない様子でトンディは自慢げに胸を張り、再びトンカチで宝箱を叩く。
「ふむふむ。 筒状の何かに、かすかに弦を弾くような音。 よくある蓋に紐を引っ掛けて開けたらズドンのやつ……そしたら弦を切っちゃえばいいから」
独り言で情報を整理。
次に一つ深呼吸をして、宝箱の蓋に手をかける。
罠の鑑定を間違えていたら……そんな不安が汗となって額を伝うが。
己の経験と自信でその不安を上塗りしてわずかに宝箱を開ける。
――――――ぎぃ。
かすかに宝箱の軋む音が響き、同時にまた静寂が訪れる。
「鑑定成功……」
ホッと一息を着き、隙間からブーツに仕込んだナイフを差し込む。
何度か空洞の中でナイフを動かすと、糸に触れるような感触がナイフから伝わり、同時に今度ははっきりとしたプツンという音が洞窟内に響く。
「お、行けたみたいだね。 お疲れ様」
その音に、罠の解除の終了を察したのか、クレールは立ち上がりひょこひょこと宝箱の元へとやってきて、トンディに水筒を渡す。
「ありがとう……とりあえず誤作動をしない限りはこれで安心なはず……疲れた」
「やっぱり持つべきものはシーフの友ってやつだねぇ」
「クレールも手先は器用なんだから、やろうと思えばできるはず。興味があるなら教える」
「そうかな………あ、いや、やっぱり無理だよ。私その……短気でガサツだし……迷惑かけちゃうから」
「短気なのはそうだけど……まぁいいや。 仕事もこれで終わりだし、帰る準備するね」
無理に明るく笑うクレール。
その様子にトンディは気づきはするものの、一つ首をかしげるのみでそれ以上は追求をしないことにする。
言いたくないことを無理に聞き出さない。
それが彼女なりのクレールへの心遣いであり、トンディは疑問を流し込むように水を飲むと、道具の片付けを開始した。
「あれ? せっかく罠解除したのに、開けないのトンディ」
「後でいい。 別に宝箱の中身は逃げない」
「そう言う問題じゃなくて、宝箱だよ? 中身を確認したいーとか、なにが入ってるんだろう? とかいうワクワクはないの?」
「それはクレールの方でしょ。 いいよ、開けたいなら開けて」
「え、本当に? いいのか?」
「誰が開けても中身は変わらない」
正気か? というような表情をするクレールに対し、眉ひとつ動かさずに道具を片付けるトンディ。
冒険者、しかもシーフである彼女が宝箱に興味がないという発言はにわかには信じがたい話であるが、宝箱に見向きもせずにあくびすら漏らしている姿から、本当に彼女が宝箱に興味がないことはうかがい知れた。
「いいんだなー? 本当に開けちゃうからなー」
とうとうしつこいとばかりにトンディは返事すら返さず、代わりに片手をひらひらと降って返事をする。
その様子に変わってるなぁとクレールは思案しながら、宝箱に手をかけ。
開いた。
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