追放されて良かったと君たちにこう伝えよう〜冒険者パーティーを追放された後、迷宮の絵を趣味で描いていただけなのに成り上がるのが止まらない〜

nagamiyuuichi

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「フリーク‼︎ 西だ‼︎ そのまま西に走れ‼︎ 絶対に逃すなよ‼︎」

「う、うん。振り落とされないでね王様‼︎」

「わかっとるわフリーク‼︎ さぁ息子よ‼︎ しっかりついて来るんだぞ‼︎ 獲物は虹色に光るカブトムシだ‼︎ 絶対捕まえるぞ‼︎」

「は、はい‼︎ お父様‼︎」

 森での大騒動があった後、僕はすぐに迷宮画家から王の足という仕事についた。
 こうして森の中で王様を背中に乗せて運ぶのが仕事らしく、月に一度、王子様との虫取りの時間に王様を担いで森を走り回る。

 昔に比べればとても単純で簡単な仕事だったが。

 驚くことに給料は宮廷画家だった頃の三倍近くになり、おまけに色々な人や貴族の人たちから、王の足様……なんて様付けで呼ばれるようにまでなったのだから驚きだ。

 メルトラが言うには、王様を肩にのせる仕事というのは王宮では二番目に位の高い仕事であるらしく。

 図らずも僕はセレナやボレアス、メルトラよりも出世をしてしまったらしい。

 王様を肩車するのがそんなに偉いのかと疑問に思ったのだが。

 一番位の高い仕事が『王様のお尻を拭く仕事』だと聞いて、色々と納得してしまった。

 王宮の常識というのは、一般人である僕たちには到底理解できるものではないのだろう。

 まぁ、理解はできないとはいえ位が上がったのは僕にとって幸運に働いた。

 食事の後に、大きなパンケーキがつくようになったし。
 頼めばいつでも甘いお菓子が出てくるようになった。

 それに何より、王様を肩車する権利を持ったことで、僕の仕事場が王様の居るところ。
 つまりはセレナと同じ仕事場になったということだ。

 これは、進展のなかったセレナと僕の関係を大きく前進させることになった。

「陛下、虹色のカブトムシは現在、森林北部に昆虫風情が出して良いスピードを遥かにオーバーして移動中です。正直この速度、生命の創造主たる神って奴がこの虫の設計図を適当に引いたとしか思えないですね。足を悪くしていらっしゃる陛下に対する当て付けにしか思えないので、今度教会にクレームをだしておきます、ざっと羊皮紙60枚分くらい」

「いやいやいや‼︎? お主が教会嫌いなのは知っておるが、ワシをだしに喧嘩しようとするな‼︎?今下手したら教会の方が権力ワシより強いんだから‼︎? 下手したらワシ、教会前で土下座する羽目になるからやるんじゃないぞ本当に‼︎?」

「ご安心ください陛下、そのような事態に陥るようならば、それを好機……国の有事ですので、道中私の道を塞いだ二匹の熊のように適切に、惨たらしく処理いたしますのでご安心を」

「やめろバカもん‼︎? あと、熊の排除はありがとうな‼︎」

 セレナの冗談に噛みつく王様であったが、その口ぶりは友人との会話のように楽しげだ。 

「恐縮です陛下、では引き続き殿下との虫取りをお楽しみください……あとフリーク、足元悪くなってるから転ばないように気をつけるのよ?」

 人狼騒ぎ以降、王様は狩りや王子様との虫取りの時もセレナを同行するようにさせた。
 
 なんでも、ボレアスの助言があったとのことらしいが……僕に気を使ってくれたのだろう。
 
 そのおかげもあってか、初めのうちはギクシャクしていた僕たちであったが、今ではこうして昔のようにやりとりができるようになっていた。

「うん、ありがとう……セレナも気をつけてね」

「えぇ、ありがとう」
 
 僕の言葉にセレナは微笑む。 

 うん、かわいい。

 彼女以上に美しく微笑む女性を僕は知らない。
 僕としては、願わくばずっとその笑顔を見ていたかったのだが。

「っああん‼︎? お、お父様ぁ~‼︎? フリーーーク‼   足首を挫きましたああぁ‼︎?」

 それは森中に響く王子様の鳴き声によって中断させられてしまった。

「……あと、王子様がそろそろ限界かもしれないから、少し気にかけてあげてセレナ」

「えぇ、そうね。あの様子じゃ到底カブトムシに追いつけなさそうだし……体力増強魔法を静脈に直接注射ぶすりして立派な狂戦士バーサーカーにしてあげたほうがいいかしら。やかましいからついでに怒ったり泣いたりできなくしてあげるわ」

「ワシの息子に何しようとしてんのお前‼︎?」

 まぁ、何はともあれ。
 僕とセレナ、そして王様と王子様もだが、この短い時間で良好な関係を築きあっているのであった。

 
 ────────……。

「と、とったあああぁ~‼︎ 取りましたよお父様ー‼︎」

「でかした‼︎ さすがは我が息子よ‼︎」

 虹色のカブトムシを手に、森の中で子供のようにはしゃぐ王子と、その姿を満面の笑みで称える王様。
 
 そんな微笑ましい親子のやりとりを僕は少し離れたところでぼうっと座って眺めていると。

「あんまりジロジロ見るのは悪いわよフリーク……」

 セレナも王様と王子様に気を遣ってか、僕のところにやってきて腰を下ろす。

「セレナ……。この辺りの見張りはもういいの?」

「えぇ、危険になりそうな動物は追い払っておいたし……魔物が近づいたらわかるように魔法も仕掛けておいたから心配ないわ」

「そうなんだ、それなら安心だね」

 セレナの言葉に僕は安堵したように言葉を漏らすが。
 セレナは少し怪訝そうな表情を見せて首を振る。

「まぁそんなことしなくても、もう魔物に襲われるなんてことないでしょうけれど……念には念を入れてと言ったところかしら」

「そうなの? 結構な数の人狼がいたけれど……僕はてっきりこの森がどこかの迷宮と繋がっちゃったのかと思ってたんだけど」

「もちろん、私も最初そう考えて、人狼騒ぎがあったすぐ直後にボレアスを引き連れて森の調査を行ったのよ……それこそボレアスが過労死寸前まで追い詰められるぐらい徹底的にね」

 ボレアス、かわいそうに……。

「え? でも待って、今の話ぶりからして、どこの迷宮とも繋がってなかったってこと?」

「まぁ、端的にいえばそう言うことかしら……もちろん自然発生っていう可能性も考えて、痕跡を探ったけれども、魔物発生の痕跡は見つからなかった。だけどその代わりに森の奥で魔法を使った痕跡と……ついさっきこれが見つかったわ」

 そういうと、セレナは少し表情を強張らせて、胸元からナイフ程度の黒い大きさの牙のようなものを取り出す。

「これは?」

「竜の骨よ……それも古竜種か、神竜種の物……古来より竜の牙は触媒として、骨は生贄として最高級の素材だと言われてる。つまり、そんな竜の牙が不自然に森に落ちていると言うことは、今回の襲撃は王様と王子様を魔物を使って暗殺しようとした誰かの仕業ってことになるわね。まぁ、なんとなく分かってたけれども」

「ええぇ‼︎? そ、それってまずいんじゃ」
 
 何でもないことのように語るセレナであったが、僕は驚きのあまり声をあげる。
 
「もちろんまずいわよ。何がまずいって、今までは王子の暗殺を企ててた奴らが、とうとう王様まで標的にしてきたってところね……。王子様が成人をしたことで王座が近くなったから、相手もなりふり構ってられなくなって来てるのね……おそらくこれからは、王様、王子様両方が狙われることになるわ……はぁ、人手がいくらあっても足りないわ。私がくるみ割り人形なら、いよいよもって顎が外れるころかしら」

 頭を抱えるセレナに、僕は首を傾げる。

「王様を殺しても王子様がそのまま王様になるだけなんだし、王様を狙う意味がないんじゃないの?」

「それは王位の継承に王様自身が興味を示して無かったからよ。迷宮攻略に手一杯で、王子様に関しては二の次三の次だったみたいだし……なのに子供はしっかり三人も四人も作るんだものね、無計画に種をばら撒いてたんぽぽかオメーは……と言いたいけれどグッと飲み込むわ。相手王族だし、私大人だから」

 飲み込めてませんよ、セレナさん。
 と言いたかったがぐっと飲み込んだ。

「こほん、まぁそんな無計画で放任主義なタンポポのせいで、今まではうまく取り入れば王子様から王位を簒奪できる余地があったんだけれども。魔王の脅威が去ってしばらくたった今は状況が違うわ」

 そう言うとセレナは視線を外にむけ、僕もその視線を追いかけると。

 そこにはカゴに入ったカブトムシを眺めながら楽しく談笑をする親子の姿がうつる。

「……あぁなるほど。 二人が仲良くなっちゃったから、このままだと王子様はほぼ確実に王様になっちゃうんだ」

「そういうこと、冴えてるわねフリーク。素直に称賛の言葉を送るわ。よっ、名探偵」

「えへへ、ありがとうセレナ……でもそうすると、これからどうするの?」

「そうね、しばらくは私と貴方で王様を、ボレアスに王子様の護衛を引き続きさせようと思うわ……」

 セレナと僕で……という言葉はとても魅力的であったが、過大評価をされすぎてもこまってしまう。

「僕は変わらず争い事とかは苦手だから、できれば戦力に数えないで欲しいんだけど」

「大丈夫よフリーク。万が一の時は、王様よりも貴方のことを守るから」

「いや、そこは王様守ってよ」

「……そうよね。やだやだ、うっかりうっかり。大丈夫大丈夫、ちゃんと手は考えてあるわ」

 表情があまり変化しないまま、セレナはコツンと自分の頭を叩く……。
 先ほどから薄々感づいてはいたものの……あえて言わずにいたのだけれど。

「……セレナ? もしかして少しはしゃいでる?」

「!?──────……な、何を言ってるのかしらフリーク。私はいつもこんな感じだったじゃない。忘れちゃったのかしら? まぁでも仕方ないわ、離れていた期間が長かったことだし……」

「いや、僕が昔のことを忘れられない人間だって……セレナもう知ってるでしょ」

「…………………」

 一瞬セレナは何か言い訳を考えるように視線をぐるぐると動かしていたが。
 やがて観念したように唇を尖らせると。

「だって、フリークとこんなにお話しできるの久しぶりだったから。楽しかったんだもん」

 そんな可愛らしいセリフを、天使みたいな表情で観念したように呟いた。
 ………その日、僕は生まれて初めてこの記憶力を授けてくれた神様に感謝の祈りを捧げた。

 ◇
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