追放されて良かったと君たちにこう伝えよう〜冒険者パーティーを追放された後、迷宮の絵を趣味で描いていただけなのに成り上がるのが止まらない〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
上 下
33 / 51

国王襲撃

しおりを挟む
手持ちの油が売り切れになった頃。

『う、う、うぎゃああああああああぁ‼︎』

 不意に森の中からそんな声が響きわたった。

「‼︎‼︎この声……」

 その声は悲鳴とも絶叫とも異なる音。
 生への執着、死への恐怖、痛みへの憎悪。
 いろんな感情が混ざった言葉ですらないその鳴き声は……。
 
 声の主はもはや助からないと、その場にいる全員が理解するのに十分な断末魔であった。

「何事か‼︎」

  そんな異様な音に流石の王様も不機嫌を忘れて倒木から腰を上げると、警戒するように槍を構え、兵士たちもそんな王様を守るように槍を構えて声の方を睨みつけると。
 
 しばらくして声がした方の茂みが音を立てて揺れ始める。

「陛下お下がりを‼︎」

「えぇいワシに気を使うな‼︎ たかが獣の一匹や二匹、ワシの槍で貫いてくれるわ‼︎」

 緊張した面持ちで、それでもどこか楽しそうに王様はそういいながら王様は槍を構えて茂みを睨みつけ……兵士たちは諦めたように王様を囲むと、猟師の一人が恐る恐る茂みをかき分ける……。


と。

 
瞬間、兵士の首に狼が喰らい付いた。

「ひっ───ッ!? ひぎゃああああああぁぁぁ‼︎?」

 猛り狂う猛獣の咆哮と同時に、猟師の悲鳴が森に響く。
 覆い被さるように真っ黒な塊は兵士の頭を腕のようなもので掴むと、真っ赤な牙を光らせて喉元に食らいつき、真っ赤な血飛沫をあたりに飛散させる。。

「え……あ……うそ……?」

 ぶちぶちと嫌な音が聞こえ、やがて兵士の悲鳴は「こひゅー、こひゅー」という風が抜ける音に変わる。

 あまりにも唐突で一瞬の出来事。
 セレナだったらきっと、すぐに狼を引き剥がして彼を救うことが出来たのだろう。

 でも僕は悲鳴をあげることすらもできず、ただただ一人の人間が肉の餌になる様子を見つめることしかできなかった。

 いや、僕だけじゃない。
 他の兵士たちも、猟師である仲間が獣に一方的に狩られている様子をポカンと眺めていることしかできていなかった。

 そんな中。

「何を呆けとる‼︎ こんの腑抜けどもが‼︎」

 一人王様は槍を掲げると、飛び跳ねるように左足で地面を蹴って獣へと飛びかかり、食事に夢中な獣の頭を槍で差し貫く。

 その一撃はまるで、稲妻のように真っ直ぐ鋭く獣の頭を捉え。

【ギャッ─────‼︎?】

 悲鳴すらもまともに上げられずに獣は首と胴を切り離されて絶命した。

「ちっ、犬畜生が調子に乗りおって……」
 
 苛立たしげに王様は槍を振るって返り血を飛ばすと、ようやく兵士たちは事態を理解したのか慌てて王様の元に駆け寄る。

「へ、陛下、お怪我は?」

「あるわけなかろう馬鹿者……それよりもなんだあの化け物は?」

「何って…………んなっ‼︎?」

 獣の死体にそう吐き捨てる王様に、僕たちは獣の死体みて愕然とする。

 王様に切り落とされた頭は狼なのだが、死んだ兵士に覆い被さっていたのは、体は黒い毛で覆われていたが、紛れもなく手と足がついた人間の体であった。

「な、なんだこれは……こ、こんな獣は見たことがありません陛下……妖精? それとも森の主?」

 混乱するように猟師たちはその怪物の姿に目を白黒とさせるが。
 僕だけは何度かその姿を見たことがあった。

「……人狼(ライカンスロープ)……迷宮にいたから間違いない……危険な魔物だよ」

「ふむ、知っているのか? 息子よ」

 思わず王子のふりをしていることを忘れてつぶやいてしまったが、今はそんなことを気にしている場合じゃないだろう。

「こいつは素早い上に力も強い魔物で、鉄の鎧ぐらいなら簡単に引き裂くぐらいの鋭い爪と牙を持っているんだけど……この魔物が一番危ないのは、人間並みに賢いことろで……単独じゃ獲物を狙わない上に人を襲うときは、必ず群れで襲ってくるんだ」

「何だと? おい、お前たち……」

 刹那。

 僕が忠告をしていた内容が聞こえていたのか、それとも偶然か……。
 茂みの中から黒い塊が四つ飛び出し、僕たちに襲いかかる。

 油断したところを食い殺す算段だったのだろう。

 まんまと残された兵士は魔物に覆い被さられ、悲鳴をあげるまもなく肉塊となる。

「ぬえええぇい‼︎」

 だが王様は、飛びかかってきた人狼の喉笛を槍で突いて絶命させる。

「す、すごい……」

「当然だ‼︎ 魔王との戦いに備えて訓練を積んできたのだ。右足が動かなくさえならなければ、こんな狼に遅れを取ることなんてないのだが……くそ、忌々しい右足め‼︎」

 自分の右足を叩いて王様は苛立たしげに槍を構え直す。

【WOOOOOOOOOOOOOOOOO‼︎】

 しかし、人狼たちもまた王様の脅威を理解したのだろう。
 残った三匹は遠吠えをすると、森の奥からぞろぞろと仲間が姿を現し、あっという間に包囲をされてしまった。

「ど、どうしましょう王様……なんかすごい数ですよ?」

「う、う、狼狽えるな馬鹿者‼︎」

「で、でも、いくらなんでもこの数、二人じゃどうしようもないよ王様……」

「っくそ、せめて自由に走り回れさえすれば……いつもいつも大事な時に、動け、動かんか‼︎」

 バンバンと右足を王様は叩きながらそう叫ぶ。
 その様子を見て、僕はふと閃いた。

「……もしかしてだけど王様、自由に走り回れればあの狼たちを追い払える?」

「ん? 当然だ、自由に動ける足があるならあんな怪物程度に遅れはとらん。だがそれがどうした?」

 僕の質問に王様は不思議そうな表情を見せるが、それならば勝機があった。

「王様、指示を出して。 僕が王様の足になるよ」

「は? お前何を言って……ってうわあぁ‼︎?」

 王様を僕は肩車するように担ぎ上げる。

「お、おま……そんな細っこい体のどこにそんな力が‼︎?」

「心配しないで‼︎ 重いものを持つのは慣れてるから、王様一人ぐらい重さのうちに入らないよ‼︎」

 そう言って自分の言葉を証明するように、僕は王様を肩車した状態でステップを踏んで見せる。

 冒険者時代、迷宮で見つけたお宝や時には一月分の水と食料を背負ったまま迷宮を走ったり飛んだり壁を登ったりを続けていたのだ。
 それに比べれば大したことはない。

「……お、おぉ。少し揺れるが、動かん右足よりも断然マシだ……だが、ワシの指示通りに本当に動けるのかお前?」

「動けなかったら死んじゃうだけだから、頑張るよ」

「ははっ……頼もしいやつだ‼︎ だったらまず、東に向かって全力で走れ‼︎ あっちじゃ‼︎」

「了解王様‼︎」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...