追放されて良かったと君たちにこう伝えよう〜冒険者パーティーを追放された後、迷宮の絵を趣味で描いていただけなのに成り上がるのが止まらない〜

nagamiyuuichi

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狩り

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「良いか息子よ。狩りとは我らリナルド家にとっての嗜みだ……王たるもの時に多くの命を奪う決断を迫られる時がある。その時に常に、最善の選択を取れるようこの猟場で己の判断力を磨くのだ」

 街の西に位置する黒の森。

 空を覆い隠すほど高く雄大に育った木々が群生する森の入り口で、王様は僕に荷物と槍を持たせると、小難しい話をした。

 正直意味がわからなかったが、ボレアスからは。

『いいですかいフリーク?お前はただ王様の言われたことに素直に頷いて、従ってりゃいいですから。そうすりゃ、なんの問題もなく帰って来れますからね』

 と言われていたのを思い出し、とりあえず頷いておく。

「はい、お、お父様」

「ほっほ、まだ緊張が残っておるようだが、文句を言わなくなったのは成長だ。大人になったな息子よ」

 満面の笑みで僕の肩を叩く王様に、僕はぎこちない笑みを返す……。
 
 指輪で顔だけは王子様にすることはできてはいるが、相手は実の父親。
 正直替え玉でここに来ているとバレやしないか、肝が冷える思いでいたのだが。
 
 その心配は杞憂に終わった。
 
 王様は狩りに夢中なようで、気付くどころか鼻歌混じりにお腹をたぷたぷ揺らしながら、護衛の騎士数名を引き連れて森の奥へと進んでいく。

「まさかセレナもボレアスも来ないなんてなぁ」

 今回は森林での狩りということもあってか専門外なセレナとボレアスは参加していない。
 
 代わりに猟師の経験がある騎士数名が騎士団から派遣されているのだが、セレナと話す機会が来るのではと期待していたのに、少しがっかりだ。

「猪を狩る時に重要なことは、新鮮な痕跡を探すことだ息子よ‼︎ 乾いていない糞や形の整った足跡を見つけて迅速に距離を詰めるのだ‼︎ だが気をつけろ? 相手も命懸けだ、気を抜けば角でぶすり、牙でガブリとやられるぞ‼︎ むはははは」

 と、偉そうに(いや、実際偉いのか)語る王様ではあったが、痕跡を探すのはもっぱら騎士の仕事らしく、高らかに笑う王様の傍で騎士たちが地面に残る痕跡を探している。

 王様や僕は手伝わなくて良いのだろうか。

 そんな感想を一人浮かべて王様の話を聞き流していると。

「陛下……ここに痕跡が、新しい足跡です」

 探索をしていた騎士の一人がそう報告をする。

「おぉ、誠か‼︎ 褒めて遣わすぞお主‼︎ どれどれ、猪か? それとも鹿か?」

「足跡の特徴から、おそらくはウサギのものかと……フンも落ちていますが。ウサギにしてはそれなりの大物です。いかがいたします?」

「ウサギ狩りか……まぁ我が息子に狩りを教えるならばちょうど良い獲物か。 よし、急ぎ追うぞ、槍を持て息子よ‼︎」

「‼︎ は、はい。お父様‼︎」

 威勢よく王様はそう叫んで槍を構え、僕もつられて槍を構えるが……。

「お待ちください陛下‼︎ 我々がウサギをそちらに追い立てますので、いつものように陛下はここでお待ちを‼︎」

「なっ何故、止めるのだ馬鹿者‼︎ まさか、高々ウサギ一匹に遅れをとるこのワシだと思うのか貴様は、今日と言う今日はワシもいくぞ‼︎」

「え、えと。僕もいくぞー‼︎」

 進路を塞ぐように立つ兵士たちに王様は憤慨するように地団駄を踏むが、兵士たちは慣れた様子で王様を宥める。

 王様に倣って僕も地団駄を踏んだが、兵士の一人に怖い顔で睨まれたのですぐにやめた。

「なりません陛下。王子の前で張り切る気持ちはわかりますが、貴方はこの国の王。万が一御身に何かがあれば、この国の存亡に関わるのですよ?」

「そんなことは百も承知だわい‼︎ だからこそ数多の魔物を屠った我が槍を持参したのだ‼︎ 森に住まう獣などものの数ではないわ‼︎」

「陛下……それはもう10年も前のことですし。足を悪くしていらっしゃるその体で森を走り回るのは不可能です。戦場から離れて長いのですから無理をなさらないでください……ここは猟場とはいえ、大型の熊も狼もいます。 いくら我々でも、今の御身を担いで逃げるなんてできません。いつも通り我々がウサギをこちらに追い立てますので、こちらでお待ちください」

 そう言われた王様は一度自分のお腹と足を忌々しげに睨みつけ、その後に兵士たちを一人一人睨みつけるが。

「……ふん、さっさとウサギを連れてこい」

 特に言い返すこともせずに近くにあった倒木の幹にどっかと腰をおろす。

 苛立たしげな様子であったが、特に兵士たちは慌てる様子もなく。
 全員で二、三言葉を交わしたのちに、半分の兵士がウサギの捜索のため森へと入っていった。

 様子から見るに、王様と彼らのやりとりはいつものことなのだろう。
 王様は依然苛立たしげに腰の皮袋に入れた葡萄酒をすごい勢いで飲んでいるが。

 兵士たちはそんな王様の様子を気にも止めることもせず、涼しい顔で当たりの様子を伺っている。

 困ったのは僕だ、思えばこうなったときに王子様は何をすればいいのかを、ボレアスやメルトラに聞くのを忘れていた。

「お、おう、お父様」

「なんだ、息子よ」

「僕は何をしてればいい?」

「獲物が来るまでそこらへんで油でも売っていろ」

「油……わかりました」

 王様に言われた通り、僕はバッグから油絵具とランタン用のオイルを取り出し。

「……油いる?」

 兵士の人たちに売り歩いたのであった。


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