追放されて良かったと君たちにこう伝えよう〜冒険者パーティーを追放された後、迷宮の絵を趣味で描いていただけなのに成り上がるのが止まらない〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
上 下
25 / 51

影武者

しおりを挟む
ルードに言われ、ふとセレナの表情を見てみると、確かにルードの言うとおりセレナは殺気だった様子で辺りをしきりに気にしている。

「ふっふふ、腕のいい冒険者とは聞いちゃあいましたが、オタクも随分と鼻がいいもんですねぇルードさん。いつから気づいてたんです?」

「初めて王城に入った時だよ……お妃がいない王様に、王子を睨みつける子供を抱えた女。どう見たって修羅場の匂いだろ?」

 ボレアスの質問にルードはそうつまらなそうに答えると、ボレアスはパチパチとルードに拍手を送る。

「ご明察……今あそこにいる王子様ってのはお妃様の忘れ形見なんですがね、いかんせん王様は魔王復活の阻止のために奔走していたせいで、王子様の後継者としての地盤を固めることをちょーっち後回しにしちまったんですな、これが」

 あ、だめだ。 話が難しくてついていけなくなってきた。
 聞き取れはするし記憶はできるが、完全に右から左に抜けていってしまう。

「それじゃあいっつも子供抱えておっかねえ顔してる女は差し詰め、王位後継を狙う第二王妃ってところか?」

「またまたご明察! 魔王復活に備えて王様がたくさん子供をこさえちまったもんでねぇ、王子が死ねば、時期摂政の座を狙える貴族がごまんといる。おかげで派閥争いが激化していってるわけですよ。もっとも、プロの殺し屋なんて雇って暗殺なんて企ててやがんのは第二王妃の派閥だけですけどねぇ」

「それだけ分かってるのに、とっ捕まえられねーのか?」

「まぁねぇ。証拠もある程度ありますし、確証もある。ですがね、あちらは性根が腐ってたとしても王妃様なんですよ。 迂闊に動けばこっちの首が飛びますし、決定的な証拠じゃなきゃ揉み消されちまいます。だからこそ情けない話、守りに徹することしかできないんですわ……新参者の俺たちの言葉と王妃……あの王様がどっちの言葉を信じるかなんて火を見るよりも明らかでしょう?」

「確かにな、獅子身中の虫とはよく言ったもんだ……いや、この場合、王子様が飛んで火に入る夏の虫って行ったところか?」

「えと、どういうことですかぁ?ルードさん?」

「その暗殺者がこの会場に紛れ込んでる可能性がある……そうだろ? ボレアスさんよ」
 
「おっしゃる通り、何を隠そう今回王子にお忍びでオークションへ向かうように唆したのは第二王妃だって話ですからね。困ったことに、王子様はオタクが言うように呑気なお人でねぇ。平和ボケって言うんですか? 子供だからってのもあるだろうが、そのことに全く微塵も気づいてねーのよね」

「なるほど……そりゃあのおっかないねーちゃんがあんなに殺気だつ訳だ……それで? そんな話をこのタイミングでするってことは……まさかとは思うが俺たちに何かさせるつもりじゃぁねえだろうな?」

「へっへへ、話が早くて助かりますよルーディバイスの旦那は。まぁ簡単な話です、一般席に王子様を座らせてちゃ何が起こるかわからねえですからね。背格好の似てるフリークに王子様と席を変わってもらいてーんですわ。先程のお話の通り、アレじゃ格好の的なんでね」
 
 難しい話のため、僕はしばらくぼうっと聞いていただけであったが。

「え、ぼ、ボレアス。そ、それって、僕せ、セレナの隣に座るってこと?」

 王子様と席を代わると言うことだけははっきりと聞き取れた。

「まぁ、そう言う事ですね。あんたさえ良ければですがね、フリーク」

 ひゃっほう。

 僕の心が最初に思いついたセリフはそんな感動のセリフであり、心臓がバクバクと長い階段を一気に走り終えた後のように早鐘を打つ。

 多分これはきっと、ウキウキした気分というのが当てはまるだろう。
 セレナとこんな劇場で二人きりなんて、まるで夢みたいで、僕は正直うかれていた。

「っざけんな‼︎」

 だけど、ルードはそうではなかったらしく、ドンと机を叩くとボレアスの胸ぐらを掴む。

「あ゛っ」

 びっくりして思わずワインを胸にこぼしてしまった。

「クソったれ。体よく相棒のこと追い出しておいて、まだこれ以上利用するつもりかよ。いくらなんでも虫が良すぎねえか?」

「ル、ルードさん~まずいですよぉ……ここ、一応争いはご法度ですから、下手したらオークションも中止に……」

「うるせぇ‼︎」

「ひゃうぅ‼︎?」

 ど、どうしよう……あんなに怒ってるルードにこのことがバレたらもっと怒られる。
 そ、そうだ。胸の部分だから上着を羽織れば……。
 ちょっと暑いけれど、これならなんとか隠せるかも。

「……手、離してくださいよ、ルーディバイスの旦那。こっちだって虫が良いのは重々承知だ。あんたが怒るのも最もでしょう。でも、俺はフリークにビジネスを持ちかけてるんです。どうするか決めるのはフリーク本人だ? ただの友達であるあんたが口を挟むのは筋違い……違いますかい?」

「っ、よくもまぁいけしゃあしゃあと……」

「でも間違いじゃない……でしょ?」

「ちっ、やっぱり俺はあんたたちのことが嫌いだよ……銀の風さんよ」

「嫌われちまうのには慣れてますよ、と……それで、どうするんですフリーク?」 

 怒りで震えながらも、ルードもボレアスの言葉に納得をしてしまったのだろう。
 
 静かにボレアスとルードはこちらに視線を向け、答えを促してくる。

「え、あ、も、もちろん受けるさ。うん、絶対」
 
 険悪なムードの二人には申し訳ないが。
 内心浮き足立つような思いだった。
 
 もちろん暗殺とか、危険とかいう言葉は聞こえていたが。

 僕が心配だったのは、ついさっきワインをこぼして作ってしまったシャツのシミが上着でちゃんと隠せるかどうかだけだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...