追放されて良かったと君たちにこう伝えよう〜冒険者パーティーを追放された後、迷宮の絵を趣味で描いていただけなのに成り上がるのが止まらない〜

nagamiyuuichi

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偽物

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商業区……武具や防具、雑貨や日用品まで様々な商店が並ぶこの区域は、大きい店から露天商など様々な取引が行われる場所であり、冒険者時代は何度も立ち寄ったが、迷宮の地図を版画と苔の汁で作るようになってからはめっきり近寄らなくなった場所でもある。
 
「商人の建てる店には足が生えてるなんて言われるくらいなだけあって、一年半も顔出さないとやっぱり知らないお店とかが結構増えてるなぁ」

 武器や防具のお店や、魔導書やスクロールの店が軒を連ねている印象が強かったが。
 香水や羽扇子……宝石商なんてものが随分と増えている。

 気のせいではなくて、やっぱり冒険者以外の人が頻繁に立ち寄るようになったようだ。

「あ、あの店だ」

 身なりのいい人たちの跡をつけていくと、どうやらみんな同じ店を目指していたらしく。
 吸い込まれるように周りの商店よりも一際大きな派手なお店にたどり着く。

 看板の文字は相変わらず泳いでおり読めないが。

「……画廊? かな」

 店先に並んだ絵画をみて、何となくここが絵を売っているお店であるということを理解する。

 中を覗いてみると、目を奪われるような絵が並んでおり、思わず僕は感心してため息を漏らしてしまう。

 なるほど、僕のようにありのままを描き写すだけではない本物の芸術家の絵をこの店では売っていると言うことだ。

「入ってみよう……」

 もしかしたら今描いている絵の何かヒントになるかもしれない。

 珍しくウキウキとした心持ちの中、僕は画廊の扉を開けて中にはいった。



「す、すっごーい」

 中はまさに絵の宝箱であった。

 黄金の額縁に収められ、鮮やかにキャンバスに彩られた風景や人物の絵。
 描き写すだけではなく、少しばかりユーモアや空想で脚色をされたその絵画に僕は感動を覚えながら絵画の値段を見て。

「た、たっかーーー……」

 金貨500枚やら金貨1000枚という値段が提示されているのをみて卒倒する。

「僕の地図が一枚金貨一枚と考えると……ははは、やっぱり芸術家ってすごいなぁ」

 お父さんの言うことは正しかったことを改めて痛感させられつつも、素晴らしく感情を揺さぶられるほどの絵画の数々に、目を白黒させて僕は画商店の奥へと入っていく。

と。

「あれ、なんだろうあの人だかり……」

 画商店の一番奥……小さな舞台のようになっている場所に人だかりが出来ていることに気がつく。

 よほど良い絵が飾られているのだろう。
 身なりのいい人達が絵を取り囲んではざわついている。

 金貨1000枚の絵に見向きもせずに絵に注目していると言うことは、よほどの名画なのだろう。

「あ、すいません。すみませーん」

 ざわつく人だかりを泳ぐように掻き分け、僕はやっと顔だけだしてその絵画を拝むと。

「あれ」

 そこには迷宮の絵が飾られていた。

「迷宮の絵?」

 なんで迷宮の絵に人だかりが出来てるんだろう?
 それにこの絵、どこの迷宮だろう?? 見たこともないけれど。

 そんなことを疑問に思いながら僕はしばらくその絵を見つめていると。

 舞台の袖からシルクハットを被った小太りの男がニコニコとした表情で現れる。

「皆さま、遠路はるばるこのカースの画廊にお越しいただき誠にありがとうございます。
いかがでしょう、本日の目玉商品として掲示させていただきました。迷宮画家フリークによるラプラスの迷宮の風景画でございます」

「はえ? 僕の絵? ラプラスの迷宮??」
 
 男がそういうと、ざわつきは動揺に代わり、その反応に小太りの男は満足気に頷く。

「皆様ご存知の通り、迷宮画家フリークの迷宮画は王都にて金貨三百万枚ほどで取引をされております。ただでさえ、侵入するだけでも危険極まりない迷宮内部。そんな場所の風景画をこれほどのクオリティで描くことのできる画家など、これから二度と生まれてくることはないでしょう。冒険者としての才、画家としての才。まさしく天により二物を与えられたものであるからこそ成し遂げられた奇跡の一枚‼︎ 流通している枚数も極めて少ないこの一品……本日こちら、フリークの描いたラプラスの迷宮。なんと金貨百万枚からご入札を始めさせていただきたいと……」

 何となく迷宮の絵がとても価値があると言うのは分かった。
 俄には信じ難いがそう言うこともあるのだろう。

 そしてこのおじさんは僕の絵じゃない他の画家の絵を僕の絵を本物と勘違いをしていると言うことも理解した。

 正直、放っておいても良かったのだけど……何だかむず痒いから、僕は本当のことをおじさんに教えてあげることにした。


「……えっとその……これ、ラプラスの迷宮の絵じゃないですよ?」

 しん……という耳鳴りが反響しそうなほど、その一言により会場は静まり返る。

 周りの人々は皆一様にポカンと口を開けて僕と絵画を見比べ。

 おじさんはと言うと、鼻水を垂らしながら目を見開いてこちらを見つめていた。
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