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その後の物語は単調なものだ。
俺とセッカは九尾の尾をヒノモトの国に再度封印、呪いと瘴気にまみれたセッカの故郷は人の住める場所となった。
もちろん、人が住めなくなってから10年以上。 国の復興にはまだまだ時間はかかるし、荒れ果てたヒノモトが国として元どおりになるにはおそらくは何年も掛かるだろう。
そのため、変わったことといえば俺たちの活動拠点がヒノモトに変わったことと。
フェリアスがギルド雪月花のギルドマスターになったことだろう。
「何で私が、ギルドの支部長なんかやらなきゃならないのよ‼︎」
なんて最初は憤慨したフェリアスだったが。
始めてみれば性に合っていたのか、元気に王女兼ギルドマスターの生活を楽しんでいるみたいであり、昨日は巨大なドラゴンを倒してみせたなんて自慢話の書かれた手紙と竜の逆鱗が送られてきた。
「相変わらず、負けず嫌いなやつよな……。 狐尾をなくした今でも、お主に張り合おうとしておるぞあのゴリラは……逆立ちしたって勝てるわけなかろうに」
手紙を岩に腰掛けて読むセッカは、呆れた様にため息を漏らしリンゴをかじる。
だが、そう語りながらも友人の元気そうな様子にどこか嬉しそうに頬が緩んでいる。
「ははは、わからないぞ? ドラゴンを倒すなんてたいしたもんだよ。気を抜いてたらいつか追い抜かれるかもわからない」
「ふん、伴侶には随分と甘いことよな剣聖殿は……だが、その上位種を秒殺しておいて言うセリフかの、それ」
呆れたようにセッカはそういたずらっぽく笑う。
「もちろん、それはまだまだ……これから先の未来の話さ」
『ぐ、ぐぐぐ、よくぞ私をここまで追い詰めたな人間よ。 どうだ? ワシと手を組まないか。 そうすれば世界の半分を貴様に……』
「ハイ終わり」
『ぐぽぉ‼︎?』
そう笑って俺は、目の前で倒れ臥す神龍王とか言う魔物の首を落とし、とどめを刺す。
最後になにか言っていたような気がするがまあいいだろう。
「ほい、おつかれルーシー。 山登りで疲れたじゃろ、リンゴでも食うか?」
「いや、別にほとんど疲れなかったし。 瘴気を吸って凶暴化したとか言うからどれほどのものかと期待したけど、案外たいしたことなかったな」
「大したことあったら困るじゃろうに……お主より強い化け物なんかがヒノモトの周りにあと六体もいたら、それこそ復興を諦めざるをえんだろうに。流石の我も絶望するっつーの」
「それもそうか……」
頬を膨らませるセッカに、俺はたしかにと納得をする。
その後、ヒノモトの国に活動拠点を移した俺たちであったが、二つの難題にぶち当たった。
一つは金がないこと。
わかりきったことだが、十年も瘴気の中で放置をされた国だ。
国の復興にそれはもう数え切れないほどの金が必要になり、ざっと計算しただけでも俺は意識を失いかけたほどだ。
そしてもう一つはこれ、瘴気に当てられた魔物たちが凶暴化し、ヒノモトは七体の強大な魔物が支配する魔物の国になってしまったと言うことだ。
聞けばこの神龍王を始め、なにやら悪魔王だか、冥界王だとか名乗る魔物がこの国を我が物顏で占領しているらしく。
同時にその強大すぎる魔物たちはヒノモトの隣国に多大な損害を出しているらしく、それはそれは莫大な懸賞金がかけられていた。
まぁ、そうなればセッカのことである。 復興のための資金稼ぎのついでに、ヒノモトを荒らす不届きものを成敗しようと考えるのは当然の流れであり、俺たちはこうして現在ヒノモトを回りながら、七体の魔物の王を討伐しているわけで……セッカの願いを叶えても、俺の御剣としての仕事はまだまだ続いていると言うわけだ。
「なぁセッカ。 ドラゴンの素材って、売ったらいい値段になるんじゃないか?」
「ふむ、確かにそうだな……持ち運ぶのも面倒だからな。またハヤブサあたりを呼びつけて運ばせるかの、確かあいつ今この近くの国に密偵として送り込ませておるからな」
「相変わらず人使いが荒いなセッカ」
「なにを言うか。 裏切り者を打ち首にせずチャンスを与えたのだ。大海の如き器の大きさに感謝してほしいくらいじゃな」
頬を膨らませるセッカは、魔法で鳩のような生物を召喚すると、本当にハヤブサに伝言を伝えて空に放る。
「本当に送ったよ……」
「なんじゃい、それなら其方が運ぶか? ルーシー」
じとりと睨みつけてくるセッカに、俺は両手を上げて降参をする。
「仰せの通り、ハヤブサには尊い犠牲になってもらうとするよ」
「うむ、わかればよろしい……さてと、ハヤブサが来るまで時間もあるだろうし、今日はここで野宿でもするかの。 竜の肉は美味いと聞くし、うむ。実直な働きへの報酬だ、今日は我が腕によりをかけた料理を振舞ってやろう。 期待して良いぞ?」
「あぁそりゃ楽しみだな。ここに来てからは、雪月花の酒場の料理が恋しくてたまらない」
「ふふふっ、泥水でも喜んですすっていたお主が随分と贅沢なことを言うようになったなぁ?」
「おかげさまで、これもセッカに拾ってもらったおかげだ。 ありがとう」
俺の言葉に上機嫌に笑うセッカ。
そこにはもう背伸びをしたような少女の表情はない。
王女の風格とでも言うのだろうか……どこか威厳のあるその出で立ちは、まさに人の上に立つ存在として……。
「にょっ‼︎? にょわああああぁ‼︎? る、ルーシー‼︎? ご、ごきゅぶりいいぃ‼︎? 茂みからでっかいごきゅぶりでたああぁ‼︎?」
訂正、やっぱりそれほど変わってないかもしれない。
「まったく、しっかりしてくれよ王女様」
「ううぅ、うるさい‼︎ 我だって女の子なんじゃぞ‼︎ ゴキブリ平然と鷲掴みにして欲しいのか貴様は‼︎」
「フェリアスは握りつぶしてたぞ?」
「あのゴリラと一緒にするな‼︎? ああぁこっちに捨てるな、そっち‼︎ 出来るだけ遠くに捨てて‼︎ お願い‼︎」
「はいはい……」
呆れながら俺は手に持ったゴキブリを野に放ち、セッカのとなりに腰を下ろす。
山を覆う木々の隙間から覗く青空とのどかな虫の声は、どこか清々しくここが今まで瘴気と呪いにまみれた土地であったと言うのが嘘のようで、しばらく俺は目を閉じて静かな時間を楽しむ。
と。
「……なぁルーシー」
ふとセッカが声をかけてきた。
「なんだ?」
「いやな……最近少し考えることがあるんじゃが」
「なにを?」
「時々わからなくなるのじゃ。 本当にこれで良かったのか……とな」
「というと?」
「……狐の尾を集めて、我はヒノモトを取り戻した。 悲願をなした……だがそれと引き換えに失ったのは産みの親と育ての親だ」
ポツリと呟くような言葉。
それはセッカの胸に刺さったまま取れない棘なのだろう。
「……そうか」
「あぁ、今でも考える。 もし、狐の尾など、世界など国などどうでもいいと割り切れれば……我は二度も父親の死に立ち会う事などせんで良かったのかもしれない。我が父をこの手にかける事もなかったのかもしれない。 もしかしたら我は間違っていて、この今は身勝手な望みの代償なのではないか……ふとそんなことを思ってしまうのだ。身勝手な話だがな、お前はどう思う? ルーシー」
セッカの言葉に、俺は少しだけ考えて。
「間違ってないんじゃない? 知らないけど」
率直な意見を語る。
「そなたなぁ、我、意外と真面目な話をしているのだが、もう少しまじめに考えて……」
「だって、過去には戻れないんだし。 たらればの話をしたってどうしようもないだろ?」
「それはそうだが……」
「それにさ、間違ってないって言える理由はちゃんとあるぞ?」
「む? そうなのか?」
「あぁ、すっごい単純だけど。 少なくとも、あんたと出会わなけりゃ。俺は一生なりそこないのままだ」
「……ルーシー」
「だから、俺はセッカと出会えて良かったよ。そりゃ、セッカが幸せかどうかっていうのは分からないし、そもそも幸せって比べられるものなのかすら分からないからそこはなんとも言えないけれども、俺自身のことはわかる。俺はあんたに会えてよかった。それだけは自信を持って胸を張って言える。拾ってくれてありがとうってな」
「……」
ぽかんと呆けたような顔をするセッカ。
俺はそれに口を尖らせてみる。
「なんだよ、俺にはこれぐらいしか言えないぞ。これ以上頭のいい返答が欲しいんだったらフェリアスにでも聞いてみるんだな。絶対拳骨が飛んでくるけど」
「それは面白そうだが、うん、その必要はなさそうだ。 答えを得た……とまではいかないが、そなたのいう通りだルーシー」
セッカはそういうと、ストンと腰をかけていた岩から立ち上がり、こちらに振り向く。
森を覆う木々から差し込む木漏れ日。
その姿に照らされるセッカはどこか妖艶で思わず見惚れてしまいそうなほど神々しい。
「……なにが?」
「そなたと出会えてよかった。 うん、確かにお主のいう通りじゃな」
笑顔は肩の力が抜けたように清々しい。
過去のしがらみも、使命も何もない。
そこにあるのはツキシロセッカという少女そのままの笑顔。
「そっか。そりゃよかった」
「うむ、よかったよかった。 これからもよろしくな、相棒」
「あぁ、こちらこそ……相棒」
正しいのかはわからない、間違っていたのかもわからない。
だけど俺たちは前に進むしかない。
逃げるのは構わないし、うまくいかないのならば環境を変えればいい。
そうやってもがき苦しみながら、色々なつながりを結んだり切ったりを繰り返しながら、俺たちは今日も前に進む。
だから俺の口から続きの物語を語るつもりはない。
セッカという最高の相棒がいれば、これからの物語は山も谷もない俺達の自慢話にしか……。
「にょ、にょわあああぁ‼︎? る、ルーシー‼︎ また、またゴキブリでたあぁ‼︎?」
訂正……最高に頼りない相棒のせいで、これからの物語は愚にもつかない笑い話にしかならないだろう。
まぁ、気になる人のため、先に結末だけ明かすとするならば……最後は全てめでたしめでたしで終わったという、そんな当たり前なことだけだ。
俺とセッカは九尾の尾をヒノモトの国に再度封印、呪いと瘴気にまみれたセッカの故郷は人の住める場所となった。
もちろん、人が住めなくなってから10年以上。 国の復興にはまだまだ時間はかかるし、荒れ果てたヒノモトが国として元どおりになるにはおそらくは何年も掛かるだろう。
そのため、変わったことといえば俺たちの活動拠点がヒノモトに変わったことと。
フェリアスがギルド雪月花のギルドマスターになったことだろう。
「何で私が、ギルドの支部長なんかやらなきゃならないのよ‼︎」
なんて最初は憤慨したフェリアスだったが。
始めてみれば性に合っていたのか、元気に王女兼ギルドマスターの生活を楽しんでいるみたいであり、昨日は巨大なドラゴンを倒してみせたなんて自慢話の書かれた手紙と竜の逆鱗が送られてきた。
「相変わらず、負けず嫌いなやつよな……。 狐尾をなくした今でも、お主に張り合おうとしておるぞあのゴリラは……逆立ちしたって勝てるわけなかろうに」
手紙を岩に腰掛けて読むセッカは、呆れた様にため息を漏らしリンゴをかじる。
だが、そう語りながらも友人の元気そうな様子にどこか嬉しそうに頬が緩んでいる。
「ははは、わからないぞ? ドラゴンを倒すなんてたいしたもんだよ。気を抜いてたらいつか追い抜かれるかもわからない」
「ふん、伴侶には随分と甘いことよな剣聖殿は……だが、その上位種を秒殺しておいて言うセリフかの、それ」
呆れたようにセッカはそういたずらっぽく笑う。
「もちろん、それはまだまだ……これから先の未来の話さ」
『ぐ、ぐぐぐ、よくぞ私をここまで追い詰めたな人間よ。 どうだ? ワシと手を組まないか。 そうすれば世界の半分を貴様に……』
「ハイ終わり」
『ぐぽぉ‼︎?』
そう笑って俺は、目の前で倒れ臥す神龍王とか言う魔物の首を落とし、とどめを刺す。
最後になにか言っていたような気がするがまあいいだろう。
「ほい、おつかれルーシー。 山登りで疲れたじゃろ、リンゴでも食うか?」
「いや、別にほとんど疲れなかったし。 瘴気を吸って凶暴化したとか言うからどれほどのものかと期待したけど、案外たいしたことなかったな」
「大したことあったら困るじゃろうに……お主より強い化け物なんかがヒノモトの周りにあと六体もいたら、それこそ復興を諦めざるをえんだろうに。流石の我も絶望するっつーの」
「それもそうか……」
頬を膨らませるセッカに、俺はたしかにと納得をする。
その後、ヒノモトの国に活動拠点を移した俺たちであったが、二つの難題にぶち当たった。
一つは金がないこと。
わかりきったことだが、十年も瘴気の中で放置をされた国だ。
国の復興にそれはもう数え切れないほどの金が必要になり、ざっと計算しただけでも俺は意識を失いかけたほどだ。
そしてもう一つはこれ、瘴気に当てられた魔物たちが凶暴化し、ヒノモトは七体の強大な魔物が支配する魔物の国になってしまったと言うことだ。
聞けばこの神龍王を始め、なにやら悪魔王だか、冥界王だとか名乗る魔物がこの国を我が物顏で占領しているらしく。
同時にその強大すぎる魔物たちはヒノモトの隣国に多大な損害を出しているらしく、それはそれは莫大な懸賞金がかけられていた。
まぁ、そうなればセッカのことである。 復興のための資金稼ぎのついでに、ヒノモトを荒らす不届きものを成敗しようと考えるのは当然の流れであり、俺たちはこうして現在ヒノモトを回りながら、七体の魔物の王を討伐しているわけで……セッカの願いを叶えても、俺の御剣としての仕事はまだまだ続いていると言うわけだ。
「なぁセッカ。 ドラゴンの素材って、売ったらいい値段になるんじゃないか?」
「ふむ、確かにそうだな……持ち運ぶのも面倒だからな。またハヤブサあたりを呼びつけて運ばせるかの、確かあいつ今この近くの国に密偵として送り込ませておるからな」
「相変わらず人使いが荒いなセッカ」
「なにを言うか。 裏切り者を打ち首にせずチャンスを与えたのだ。大海の如き器の大きさに感謝してほしいくらいじゃな」
頬を膨らませるセッカは、魔法で鳩のような生物を召喚すると、本当にハヤブサに伝言を伝えて空に放る。
「本当に送ったよ……」
「なんじゃい、それなら其方が運ぶか? ルーシー」
じとりと睨みつけてくるセッカに、俺は両手を上げて降参をする。
「仰せの通り、ハヤブサには尊い犠牲になってもらうとするよ」
「うむ、わかればよろしい……さてと、ハヤブサが来るまで時間もあるだろうし、今日はここで野宿でもするかの。 竜の肉は美味いと聞くし、うむ。実直な働きへの報酬だ、今日は我が腕によりをかけた料理を振舞ってやろう。 期待して良いぞ?」
「あぁそりゃ楽しみだな。ここに来てからは、雪月花の酒場の料理が恋しくてたまらない」
「ふふふっ、泥水でも喜んですすっていたお主が随分と贅沢なことを言うようになったなぁ?」
「おかげさまで、これもセッカに拾ってもらったおかげだ。 ありがとう」
俺の言葉に上機嫌に笑うセッカ。
そこにはもう背伸びをしたような少女の表情はない。
王女の風格とでも言うのだろうか……どこか威厳のあるその出で立ちは、まさに人の上に立つ存在として……。
「にょっ‼︎? にょわああああぁ‼︎? る、ルーシー‼︎? ご、ごきゅぶりいいぃ‼︎? 茂みからでっかいごきゅぶりでたああぁ‼︎?」
訂正、やっぱりそれほど変わってないかもしれない。
「まったく、しっかりしてくれよ王女様」
「ううぅ、うるさい‼︎ 我だって女の子なんじゃぞ‼︎ ゴキブリ平然と鷲掴みにして欲しいのか貴様は‼︎」
「フェリアスは握りつぶしてたぞ?」
「あのゴリラと一緒にするな‼︎? ああぁこっちに捨てるな、そっち‼︎ 出来るだけ遠くに捨てて‼︎ お願い‼︎」
「はいはい……」
呆れながら俺は手に持ったゴキブリを野に放ち、セッカのとなりに腰を下ろす。
山を覆う木々の隙間から覗く青空とのどかな虫の声は、どこか清々しくここが今まで瘴気と呪いにまみれた土地であったと言うのが嘘のようで、しばらく俺は目を閉じて静かな時間を楽しむ。
と。
「……なぁルーシー」
ふとセッカが声をかけてきた。
「なんだ?」
「いやな……最近少し考えることがあるんじゃが」
「なにを?」
「時々わからなくなるのじゃ。 本当にこれで良かったのか……とな」
「というと?」
「……狐の尾を集めて、我はヒノモトを取り戻した。 悲願をなした……だがそれと引き換えに失ったのは産みの親と育ての親だ」
ポツリと呟くような言葉。
それはセッカの胸に刺さったまま取れない棘なのだろう。
「……そうか」
「あぁ、今でも考える。 もし、狐の尾など、世界など国などどうでもいいと割り切れれば……我は二度も父親の死に立ち会う事などせんで良かったのかもしれない。我が父をこの手にかける事もなかったのかもしれない。 もしかしたら我は間違っていて、この今は身勝手な望みの代償なのではないか……ふとそんなことを思ってしまうのだ。身勝手な話だがな、お前はどう思う? ルーシー」
セッカの言葉に、俺は少しだけ考えて。
「間違ってないんじゃない? 知らないけど」
率直な意見を語る。
「そなたなぁ、我、意外と真面目な話をしているのだが、もう少しまじめに考えて……」
「だって、過去には戻れないんだし。 たらればの話をしたってどうしようもないだろ?」
「それはそうだが……」
「それにさ、間違ってないって言える理由はちゃんとあるぞ?」
「む? そうなのか?」
「あぁ、すっごい単純だけど。 少なくとも、あんたと出会わなけりゃ。俺は一生なりそこないのままだ」
「……ルーシー」
「だから、俺はセッカと出会えて良かったよ。そりゃ、セッカが幸せかどうかっていうのは分からないし、そもそも幸せって比べられるものなのかすら分からないからそこはなんとも言えないけれども、俺自身のことはわかる。俺はあんたに会えてよかった。それだけは自信を持って胸を張って言える。拾ってくれてありがとうってな」
「……」
ぽかんと呆けたような顔をするセッカ。
俺はそれに口を尖らせてみる。
「なんだよ、俺にはこれぐらいしか言えないぞ。これ以上頭のいい返答が欲しいんだったらフェリアスにでも聞いてみるんだな。絶対拳骨が飛んでくるけど」
「それは面白そうだが、うん、その必要はなさそうだ。 答えを得た……とまではいかないが、そなたのいう通りだルーシー」
セッカはそういうと、ストンと腰をかけていた岩から立ち上がり、こちらに振り向く。
森を覆う木々から差し込む木漏れ日。
その姿に照らされるセッカはどこか妖艶で思わず見惚れてしまいそうなほど神々しい。
「……なにが?」
「そなたと出会えてよかった。 うん、確かにお主のいう通りじゃな」
笑顔は肩の力が抜けたように清々しい。
過去のしがらみも、使命も何もない。
そこにあるのはツキシロセッカという少女そのままの笑顔。
「そっか。そりゃよかった」
「うむ、よかったよかった。 これからもよろしくな、相棒」
「あぁ、こちらこそ……相棒」
正しいのかはわからない、間違っていたのかもわからない。
だけど俺たちは前に進むしかない。
逃げるのは構わないし、うまくいかないのならば環境を変えればいい。
そうやってもがき苦しみながら、色々なつながりを結んだり切ったりを繰り返しながら、俺たちは今日も前に進む。
だから俺の口から続きの物語を語るつもりはない。
セッカという最高の相棒がいれば、これからの物語は山も谷もない俺達の自慢話にしか……。
「にょ、にょわあああぁ‼︎? る、ルーシー‼︎ また、またゴキブリでたあぁ‼︎?」
訂正……最高に頼りない相棒のせいで、これからの物語は愚にもつかない笑い話にしかならないだろう。
まぁ、気になる人のため、先に結末だけ明かすとするならば……最後は全てめでたしめでたしで終わったという、そんな当たり前なことだけだ。
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