上 下
36 / 39

聖邪激突

しおりを挟む
  降りしきる雨は止むことはなく土砂降りの中、傘もささずに俺とセッカは目的地へと向かう。

  フェリアスの手に握られていた布の切れ端。
 
  そこに染み付いたヨタカの匂いをたどって、俺は町のはずれにある廃墟へと向かう。

  人狼族である俺にとって、この雨の中でもしっかりと染み付いたヨタカの香りをおうのは難しいことではなく。

  そのことを知っていたのか、それとも偶然か、廃墟の前では一人の男が同じように傘もささずに俺たちのことを出迎えた。

「お父様……いや、ツキシロヨタカ」

  セッカの言葉に、俺は剣の柄に手を触れる。

【やぁセッカ……随分と大きくなったね。 といっても、こっちの男の中に眠っている映像と比較しただけなんだけどね】

「……お父様とは似ても似つかん喋り方よな。これではヨタカと呼ぶのも違和感がある……貴様のことは、なりそこない……いや、出来損ないとでも呼べば良いか?」

  皮肉を織り交ぜてそう語るセッカ。
 
  その言葉にヨタカは少し不満げな表情を見せる。

【できそこないとは随分と言葉の悪い……しかし言い得て妙なのが腹立たしいな。セッカ】

「軽々しく我の名前をよぶな下郎。 怖気がする」

【そう言っても、俺はセッカの父親なんだ。娘の名前を呼ばない父親がどこにいるっていうんだ?】

「偽物が、父を語るな」

【ヨタカの見た目で、ヨタカの記憶を保有する存在。それはもはやツキシロヨタカに他ないだろう? それとも、不純物が混じったらそれは父親ではないのか? だが、例え水に絵の具を一滴垂らそうが水は水だろう? それと同じように俺だってツキシロヨタカには変わりがないんだ】

「哲学にすらなってない屁理屈はよせ阿呆。 さっきも言ったであろう? 不純物が混ざったならばそれは父親であって父親ではない……出来損ないというのだよ」

【くっくく、釣れないねぇ。 君のところの大事な犬を殺されてご立腹? それとも君に親殺しをさせないために一人挑んだ友達を切り刻んだことへの憤りか? くくく、心地いいねぇ。 なんなら、どんなふうに、どんな言葉をあげてあの王女様が切り刻まれたかも教えて……】

「ルーシー」

「応」

  言い終わるよりも早くセッカは俺に命令を下し、その言葉と同時に俺はおっさんの刀を引き抜き、ヨタカの首めがけて刃を振るうが、読んでいたとばかりにヨタカは体をそらしてその一閃を回避する。

【おっと危ない】

「まだまだぁ‼︎」

  逃げた先に、さらに剣を振るうが、ヨタカはその全てを回避しつつ愉快げに笑う。

【ふっははは……随分と荒々しい剣だな。打ち込みは激烈にして剣閃は達人の域……その刃に絡め取られればいくら俺でも殺されちまいそうだ。だがそれだけに惜しいな、殺気がこもりすぎて、攻撃のタイミングがバレバレだぞ】

  にやりと笑いながら、剣を抜き反撃に出るヨタカ。

「‼︎」

  攻撃の隙を縫うように、剣閃を湾曲させながら急所を狙うヨタカ。
 
  的確にしていやらしいその剣は、剣技というよりも曲芸に近く。
 
  俺の攻撃を先読みして回避しては、一手先を読むかのような反撃を繰り出してくる。

  一閃を放てば返すように一閃が返ってくる。
 
  互いに互いの攻撃を紙一重で回避はするものの。
 
 どちらが優勢かは火を見るよりも明らか。

  技量・実力は確実にこちらが上なのは確かだが。
 
  冷静か否かという点で、圧倒的にあちらが優勢に立っている。

  おそらく、フェリアスのこと、ゲンゴロウのことを忘れ剣を振るえば勝てるだろう。

  だが、セッカは「憎しみを持って殺害をしろ」と命令を下した。

  いや、そうでなくても。

  この戦いにおいて、怒りを消して戦うなんてことできるはずがない。

【ふぅん、忠告をしてやったというのに。 まぁいい、そのまま怒りに飲まれて死ね‼︎】

   力任せの一撃は大地を割るが、体を翻して俺の剣を回避したヨタカは、そのまま剣を俺につきたてようと放つが。

【狐火‼︎】

【ぐっ……なにっ‼︎?】

  その横腹に、火柱が走りヨタカを撃ち抜く。

「一騎打ちなどと誰が言った出来損ない……貴様は殺す、どんな手を使っても殺す。憎悪を込めて、呪いを込めて、全霊を持って殺してやる‼︎」

  怒りにまみれ、俺から引き剥がし取り込んだ狐の尾を四本を浮かび上がらせながらセッカは炎を巻き上げる。
 
  その瞳は赤く光り、セッカの周りだけ雨が蒸発する。

  ……猛り狂うセッカの肌をその炎が焼いていたが、それすらもセッカは気がつかないようにセッカは炎を巻き上げる。

【……はっ、ははは……あぁやばいな。 憎しみが深すぎて、気持ちよすぎる‼︎  いいぜいいぜ‼︎ 二人掛かりで俺を殺してみろよ‼︎ その呪い、その憎悪、あぁ、本当に災厄だ‼︎】

  対し、ヨタカは狐の尾を五本を生やして剣をかまえる。

  集うはこの世の災厄狐尾九本。

  セッカが復讐を果たそうが。
 
  ヨタカが野望を果たそうが。

  九尾の物語はここで終わりを告げる。


 狐尾五本・悪鬼羅刹の大厄災    ツキシロ ヨタカ
 
 対

狐尾四本・復讐姫               ツキシロ セッカ
狐尾零本・御剣                 ルーシー

 最終局面・いざ尋常に、勝負‼︎

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

パーティーを追放された装備製作者、実は世界最強 〜ソロになったので、自分で作った最強装備で無双する〜

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
ロイルはSランク冒険者パーティーの一員で、付与術師としてメンバーの武器の調整を担当していた。 だがある日、彼は「お前の付与などなくても俺たちは最強だ」と言われ、パーティーをクビになる。 仕方なく彼は、辺境で人生を再スタートすることにした。 素人が扱っても規格外の威力が出る武器を作れる彼は、今まで戦闘経験ゼロながらも瞬く間に成り上がる。 一方、自分たちの実力を過信するあまりチートな付与術師を失ったパーティーは、かつての猛威を振るえなくなっていた。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

処理中です...