変身が出来ないと追放された人狼だけど、剣聖だったので亡国の姫の剣になります

nagamiyuuichi

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ハヤブサ

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ゲンゴロウの見舞いを終えて、俺たちはその日街の酒場に集まる。

  今日も今日とて騒がしい一日であったが、口に含んだ麦酒の泡が、そんな苦労や疲労を溶かすかのように口の中で弾けていく。

「……はああぁああぁ、あんなジジイのいうことなんて聞くんじゃなかったあぁ」

  ため息をついてセッカはそう頭を抱える。
 
「そう肩を落とすなよセッカ……何だかんだ言って、狐の尾がしっかり手に入ったんだからよかったじゃないか」

「よくないわ‼︎ あのギルド建て直すのにどれだけ時間がかかると思っておるのじゃ‼︎
 あーもぅ。 あんなにボロボロにされてしもうて……その間ギルドの仕事はできないし、依頼も滞る……あぁ~う~~……みんなが路頭に迷ってしまう~~」
 
  ブツブツと言いながらピーナッツをかじるセッカ。
  
  なんだかんだと自分のことよりもみんなのことを考えているところを見ると、やっぱりお姫様だったんだな。

  ぽやぽやとセッカは両親のことを評していたが、きっと平和でのどかな国だったのだろう。

「なんなら、私がお金貸してあげようか? 困った時はお互い様だし」

「貴様に借りたら、利息三羽ガラスであっという間に潰されるだろうに」

「ふふふっ、なんだバレてたか」

「くそっ、ゴリラめが、いっちょまえに知恵をつけ始めてきおって、姑息な奴め」

  けっ、と悪態を吐くセッカ。
 
  その表情に愉快そうに麦酒をフェリアスはビンでラッパ飲みをする。

  と。

「あのぉ、えらいすんまへん」

  飄々とした声が酒場に響き、同時に何者かが俺たちのテーブルの前に現れる。

「……誰だ?」

  そこにいたのは、一人のコートを羽織った男。
 
  少し赤らんだ顔で、笑っているのか、それともただ目が細いだけなのかよくわからない表情をしている。
 
  セッカは鬱陶しげに男を睨む。

「おぉ怖い……そんな顔で睨まんといてくださいよ。 恩を売るつもりは毛頭あらへんけど、一応僕、ギルドの恩人ですよ?」

  ニヤリと口元をゆるめるその表情。
 
  ちらりとコートの内側に見える一振りの刀。

  その言葉だけで、その男がゲンゴロウが話していたガルルガを斬った男だということを告げる。

「貴様が? ハヤブサか」

「あら、ぎっくり腰のおじいちゃん僕の名前覚えとってくれたんですか。 そりゃ話がはようてえらい助かりますわ。そうです、僕がハヤブサです」

  パンと嬉しそうに手を叩くハヤブサ。

  行動一つ一つが胡散臭い。

「それで? そのハヤブサが何の用じゃ? ギルドを救ってくれたことは感謝する。 じゃが、あの惨状を知っているなら、今すぐに報酬が払える状況にないということもわかっておろうに」

「あっはは、報酬なんていりませんよぉ。 困った人を助けるのは、僕ら剣客にとっては当たり前のことやし? ただ、ただなぁ。報酬はいらんねんけど、ちょいとお願いがありましてなぁ」

「なんだ……?」

  結局ねだるんじゃないか、と言うような表情をしてセッカは片眉をあげてハヤブサを見やる。

  と……その時にはすでに、ハヤブサは腰の刀に手をかけていた。

「いやね、金はいらんけんど、君たちの持ってる狐の尾が欲しゅうてな、ちょいと死んでくれまへんか?」

「っ‼︎? あんた‼︎」

  ニヤリと笑みをうかべる姿と同時に放たれる殺気。

  それに真っ先に反応をしたのはフェリアスであり、冷気を巻き上げて剣を抜こうとするが。

「あぁ、あきまへん……あきまへんなぁお嬢ちゃん」

  それよりも早く、ハヤブサは刀を逆手にもって抜くと、白刃を首元でピタリと止める。

  剣を抜いて構える二動作にたいし、ハヤブサは抜きと斬を一つの動作で終了させる。

  抜刀術……というものの一種であろうが、恐ろしいのはフェリアスの刃がまだ半分も抜き切られていない状態で、フェリアスの首に剣をつきつけたところだ。

  あの抜き方、いい勉強になる。

「なっ……」

「こんな狭いところで、剣をそんな風にもったらあきまへん。 せっかくの狐の尾を使った楽しい楽しい殺し合いが……ただの棒振り遊びになってまいますよ?」

  ねっとりと笑うハヤブサ。

  それにフェリアスは冷や汗を垂らして息を飲む。

  勝負は決した……。

  この一瞬で、なにをすることもできずにフェリアスは敗北をしたのだ。

  まだフェリアスの首が胴体とつながっているのは、ただこの男がフェリアスを敵とすら認識していないため。
 
  もし、誰かが少しでも殺気を放てば、フェリアスの首はこの酒場の床にゴトリと音を立てて転がることだろう。

「……刀をおさめよハヤブサ……貴様戦争をするつもりか」

  しかし、そんな中でセッカは臆することなくそうハヤブサに言い放つ。

「んん? そんなこと言っていいの、狐のお嬢ちゃん……このお嬢ちゃん、君の大切な部下とちゃうの?」

「くふふっ。部下というよりかはメイドだが、殺したいなら殺せば良いよ。 貴様がこのリドガドヘルムという大国を相手に、単身戦争を挑むというのなら我にはどうでも良いことだ」

「? リドガドヘルム? どういうことや?」

「なんだ貴様このあたりの人間ではないのか。 こやつはフェリアス……このリドガドヘルム王が一人娘よ」

「ひ、姫さん‼︎? な、なんでそんな大層なんが、メイドさんの服を?」

「それは、聞かないであげてくれ」

  慌てるように剣を引くハヤブサに、俺はボソリとそう呟いた。

「……あぁ~なるほどなぁ~。 そういうこと。武闘派の国とは聞いとったけど、まさか一国の姫さんが狐の尾を持っとるとは……いやはやこの国恐ろしゅーて敵わんな。いくら僕とて国と戦争なんてやってられまへん。やめややめ」

  意外とあっさり刀を収めるハヤブサ。

「ハヤブサ……貴様狐の尾が欲しいのか?」

「まぁなぁ。 天下無双の大剣豪。 男の子なら誰だって一度は憧れるものやろ?」

「まぁその考えは否定はせん。 だが、狐の尾は呪いの塊、たしかに力は手に入るが、その先にまつのは破滅のみだぞ? 貴様が真に大剣豪として名を馳せたいというのなら、むしろ手にしてはならぬものだ」

  飄々と語るハヤブサに、セッカはそう落ち着いて説得をしようと試みるが、ハヤブサはにんまりと楽しげに首を振る。

「関係あらへん……世界中の強者がその狐の尾を求めて覇を競ってる。 なら、それを全て集めればそれこそ名を馳せる大剣豪ってことやろ? それに……こんな平和な世界でのおままごと見たいな試合は正直もう飽き飽きなんよ……僕は殺し合いの、あのヒリヒリした感覚が好きやねん……棒振り遊びはもう飽き飽きなんや」

  ニヤニヤと笑うハヤブサ、その細い目から覗く赤い瞳に、俺は寒気のようなものを覚える。

  穏やかな口ぶりではあるが、それは間違いなく危険なやつだということを教えてくれる。

「なるほどな……ならばその期待に答えようか」

「ん?」

「無駄に血を流す必要はない……。貴様がうちのルーシーとの死合に見事勝利できれば……貴様に我の持つ狐の尾五本全てくれてやろう。賭け試合というやつだ」

「……ほんまか‼︎?」

「あぁ、だがあくまで賭試合、貴様にもそれ相応のものを賭けてもらおう。 天下を収める狐の尾五本……それに見合うものを果たして用意ができるかな?」

  いやらしく嗤うセッカ。

  なるほど、こう言えば試合の申し込みを却下できるし。
 
  もし金持ちだったらギルドの復興資金をここで確保しようという魂胆だ。

  性格が悪い。

「……んー。あいにく僕根無し草やからなぁ。 とりあえずは僕が持ってる狐の尾一本と……」

  一瞬ちらりとこちらの方を見るハヤブサ。

  おぞけがするような冷たい視線。

「……なんだ?」

  セッカはそれになにかを感じ取ったのか、耳をピンと立てるが、勤めて冷静にそう返すと。
 
  ハヤブサは楽しげに首を振ると。

「いやいや……これで釣り合うかはわかりませんが。 セッカはん、君の国を滅ぼした人間の名前……とかどうでっしゃろ?」

  まるで、抜き身の刀のような提案をつきつけた。
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