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「っ‼︎ フェリアス‼︎ セッカを外に‼︎」

「言われなくてもそうするわよ‼︎? あのドロドロしたやつ本当に気持ち悪いもの‼︎?本当に生理的に無理‼︎」

  フェリアスはそう叫びながら、同時に族長の家の外に飛び出す。

  ひとまずは一安心だろう。

「か;lfhしfにjくぇ‼︎」

  奇声をあげながら、首が俺の喉元に食らいつく。

  俺の剣を見極め、受け止めたガルドラの首。

  まるで大砲のような速度で一直線に走るその顎に、俺は二つの刃を交差させて首を切る。

「ぎゃん‼︎?」
 
  やはり、左右同時に放たれた斬撃を止めることは叶わなかったか。
 
  ガルドラの額に刃が刺さり、ごとりと音を立てて床に落ちる。

  だが、何度やっても現れる狐の尾が切られた部分を再生させる。

「がkvんdくぃお@のじぇr‼︎」

  びたびたと床を叩きながら突進を仕掛けるガルドラの体。
 
  その体は全身から鋭い触手を伸ばし、俺を狙う。

【獣王無尽‼︎】

  足のみ人狼に変化をさせ、部屋の中を文字通り自在にかける。

  右に左に伸びる触手に対し、上下左右全ての空間に生まれた隙間に潜り込み、根元から触手を断つ。

  フェリアスとセッカがいない分、回避は容易だ。

  回避さえできれば両断も容易であり、俺は三度壁を蹴る間に、全部の触手を切り落とし、最後にもともと心臓があったであろう場所に、銅の剣を突き刺す。

  だが……ここまでやって手応えはなし。

  切り落とすことこそできるものの、手に残るのは泥や粘土を切るような感覚のみ。

  切れども切れども……狐の尾は切断面をたやすく接合し混ざりあう。

  それがどれほど歪であろうが、腹から腕が生えるという奇々怪界な出で立ちになろうが、御構い無しと言わんばかりに、泥は幼子がいたずらに組み立てた人形のように、切るほどに人ではない何かに成っていく。
 
「なりそこない……あぁ、元に戻ろうと足掻くほど損なっていく……確かにあんたはなりそこないだな」
 
  誰に語るでもない皮肉を漏らし。
 
  俺は刃の柄を握り直す。

  魔獣塊の核……もしこの泥と化したガルドラの死体が核となっているのなら、剣で殺し切ることは不可能だ。

  目に見える物ならなんでも切れるが、そも斬られることに不利益を被らない相手には剣などどれほどの対抗になろう。

  核を切り落とせないならば、他の何かを切り落とす必要がある。

「あlk;んb@いえrんbrt‼︎」

  再生をしたなりそこないは、苦痛に悲鳴をあげるように切り刻まれた体を再生させる。

  狐の尾の魔力を用いてその力を解放しているのか。
 
  機能を停止するごとに狐の尾が浮かび上がりガルドラの体を再生していく。

  ん?

  ふと浮かび上がったアイデアに、俺はもう一度ガルドラの体を両断する。

  切り落とされた体は動かなくなり、再度狐の尾を中心に分かたれた泥が一つに集まるように接合され、新たな肉体ができる。

  目に見える物ならなんでも切れる。

「あの尾……実は切れるんじゃないか?」

  ならば、いままで考えすらもしなかったが……あの狐の尾も可視化できるほど濃縮された魔力の塊……。

  俺の脳裏に浮かんだのはそんな疑問。
 
  しかし俺の体は、その疑問の真偽を検討するまもなく、狐の尾に向かい刃を振るっていた。

  斬‼︎

「浅いか……でも‼︎」

  手応えは確かにあった。

  空間を切るように、炎を両断するように……切り方に少々コツは存在するが、切った狐の尾は苦しむようにその尾をくねらせ、同時に泥ではない黒い霧のようなものが、溢れ出す。

「これなら、あの尾っぽ切り落とせるな……」

  俺はそんな確信めいたものを覚えながら再度剣を構える。


  封印が目的なら、ここで殺してしまっても構わないだろう。


  俺はそんなことを思いながら。 

  体を無理やり再生する狐尾に向かい走り。


「ぶああぁっかもおおおおおん‼︎」

 セッカの飛び蹴りを背後から食らって床に地面を叩きつけた。

「ごっふぶぅ‼︎?」

「ちょっ‼︎? バカ狐あんた何やってんのよ‼︎? ご主人様床にめり込んじゃったじゃないの‼︎?」

「たわけ‼︎ こやつ今、よりにもよって狐の尾をぶった切ろうとしたのだぞゴリラ女‼︎?」

  なりそこないの前で騒ぐのは状況と話し方からしてセッカだろう。
 
  俺はめり込んだ頭を床から抜き取ると、セッカの方に向き直る。

  全身泥だらけで怒るセッカがそこにいた。

「目覚めて第一に飛び蹴りとは元気だな……セッカ」

「バカモン‼︎ 狐の尾は封印せねばならぬといったであろう‼︎?」

「いや、たしかにそう言ってたけど、見えるものだし、あれは斬って殺せるものだ。
ならそっちの方がいいじゃないか」

「その考え方が短慮だと言っておるのだ馬鹿者め‼︎ たしかに剣聖であればあの狐の尾を両断することも可能であろう。 だがな、殺された程度で呪いがおさまるなら、最初に狐を殺した時に呪いなどとうに消えておるわ‼︎」

  その言葉に俺は確かにと納得をしてしまう。

「確かに」

  言葉に出た。

「まったく……呪いとは業だ。 殺し殺され不幸を螺旋階段のように積み上げるもの。人とのよき繋がりを【えにし】と呼べば、悪しきつながりを【しゅ】とも呼ぶ。たとえ可視化されたとしても……その本質……殺された狐の恨みまでも貴様が断ち切れるわけなかろう。 貴様の剣は人の縁すら断ち切れるのか?」

「むりだな」

  見えないものまでは断ち切れない。

「そういうことだ。 呪いの塊となったあの狐の尾を貴様は断ち切ることはできるだろう。
 だが……それは呪いを散らすだけ。やがて散った呪いは狐の尾に戻る……根本的な解決にはならぬのだよ」

「……だから封印しかないと?」

「そういうことだ。 根治できぬなら隔離する……病とて同じだ。幸いあの呪いは器を壊せば人に感染る。そうやって呪いを集めるのが我ら雪月花の使命だ」

「lg;あんくぇじょんj;fんkくぇr‼︎」

  セッカの説明により、取り合えず狐の尾自身は両断してはいけないことがわかったが。
 
  説教が長すぎるために、魔獣塊は切り落とされた体を完全に再生させる。

「ちょっと‼︎? あんたの説教が長すぎるせいであいつの体元に戻っちゃったじゃないのよ‼︎?」

「うるさいゴリラ女‼︎ あの程度の魔獣塊でうろたえるでないわ‼︎」

「魔獣塊一度も討伐したこともないくせになんでこいつこんなに偉そうなのかしら‼︎?」

  こんな絶体絶命の状況でも喧嘩をやめない二人。

  けっこう呑気をしているが、正直まずい状況だ。

  一対一なら殺せないまでも相手を圧倒するのは容易だが。

  二人を守りながら、あの無数の触手を捌き切るのは難しい。

「あgk;gんら;ねfjんbwrじぇk‼︎」
 
  切り落とされた首も再生したのか、無数の触手とガルドラの首が同時に俺とセッカを狙って走る。
 
  いくら刀二本でも、これを全て切り落とすのは至難の技……こうなれば、二人の盾になるしかない……。

「フェリアス‼︎ セッカを……」

「たわけ‼︎ 我のことを気遣うのはいいがそれよりも前にこちらに手を貸せ、ルーシー‼︎」

「え?」

  しかし、セッカはそう叫ぶとおもむろに俺の手を取り。

  同時にその手から巨大な火柱を放つ。
 
  それは、入団試験の時よりも巨大であり、膨大な魔力……。

【二尾火柱ぁ‼︎】

  ふと俺の体から現れたのはフェリアスと同じように狐の尾。

  その魔力を取り込むように尾はセッカの中に入り込むと。

  同時に空をつくほどの勢いで……呪いを巻き込み火柱が上がったのであった。

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