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ガルドラ
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「で、そのガルドラって奴が今回の騒動の元凶なの?」
「可能性が高いってだけだ。 泥の中にほかの人狼族のやつらの匂いは混じってるけど
たしかに言われてみればガルドラの匂いが混ざってない」
「匂いねぇ、私なんかは腐敗臭くらいしか感じないけど……人狼族の鼻ってのは便利でうらやましいねぇ」
軽口を叩きながら、俺たちは人狼族の村の奥、ガルドラとガルルガの家へと向かう。
村の入り口付近は完全になりそこないに飲み込まれていたが、村の奥に入るとそこにはまだ無事な建物がいくつか残っており、俺たちは泥の少なくなった村をなりそこないから隠れながら歩んでいく。
フェリアスの怪我は見た目ほど大したことないようで、血はもう止まったらしく、肩を抑えながらもしっかりとした足取りで俺の隣を歩く。
俺はというと、そんなフェリアスの手を引きながら、片手でいつでも剣を抜ける状態にして一緒に歩いている。
一旦フェリアスだけ街に返すということも考えたのだが。
平和とはいえこの辺りはまだ盗賊が多く、手負いの女性が一人歩いていて面倒ごとに巻き込まれないわけがない。
それならば、俺がそばで守るのが一番賢明だろうという判断にいたり。(この際フェリアスは最初渋るような顔をしたが)こうして二人手を繋いでガルドラの行方を探している。
「まぁ、鼻が効くのは便利だと思う。実際何度もこれに助けられてるからな。 だけど、族長の息子であるガルドラは俺よりも断然鼻が効く」
「へぇ……ガルドラって奴の方が犬に近いってこと?」
「そうともいうけれども、純粋に人狼族の戦士は敵や獣の位置や場所を匂いから正確に把握ができるように、子供の頃から訓練を受けさせられるんだ」
「あんたはしてないの?」
「俺はなりそこない……って言われてたから。訓練中はずっと本を読んでたよ。本は弱い奴が読む物だからお前にはお似合いだってね」
「なりそこない?」
「あぁ、俺は人狼に変化をしても、生まれつき牙と爪が生えない特殊な体質なんだ。まぁセッカに聞いたら、それは俺の【剣聖】ってスキルのせいらしいんだけど」
「け、剣聖ぃっいたたたっ‼︎?」
俺の言葉に、フェリアスは驚くように声をあげ、同時に苦悶の表情をうかべる。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「き、聞いてないわよそんなの‼︎? あぁもうあのバカギツネ……だから余裕綽々で勝負挑んできたのね……くっそー嵌められた。何よ剣聖って、反則じゃない‼︎」
むきーっと腹をたてるフェリアス。
しかしながら俺にはそのすごさが分からず首をかしげる。
「……なぁ、セッカも驚いてたけれど、その、剣聖ってスキルはそんなにすごいものなのか?」
「あなた、本気で言ってんの?」
目を丸くして本気で驚いているフェリアス。
しかし俺はそれに頬を膨らませて抗議をする。
「生まれつき備わってた能力だし、今までその力を比べる相手すらいなかったんだ。
仕方ないだろう?」
「なるほど……あんたが抜き身の刃な理由はなんとなくわかったわ……無為自然の境地。たしかに比べる相手が一人としていなければ、その剣はたしかに無垢なまま完成をする。あぁ、剣聖のスキルには何かしらの意思が働いているっていうけれども。なるほど、信じざるを得ないわね」
得心がいったという表情で一人頷くフェリアスだが、俺にとってはちんぷんかんぷんだ。
「セッカも似たようなこと言ってたけど、そもそもなんなんだよ剣聖って」
剣技がすごくなるスキルだっていうのはなんとなくわかるものの。
なんでここまで毎度毎度驚かれるのか。
そして、二人ともどうしてスキルに意思がある、みたいなことを言っているのか?
その疑問にフェリアスはふむ、と一瞬考えるそぶりを見せる。
それは、どう説明するべきかではなく、話すべきか否かを値踏みするような表情であり。
「ま、いっか。あんた気にしないでしょうし」
そう呟く。
「なんだよ、気にするって」
「ううん、まぁ人によってはこれ聞いて絶望しちゃう人もいるってだけ。 でもあんた、運命とかそういうの信じる人間じゃなさそうだし話すわね」
「鈍感って言ってんのか?」
「いいえ、あなたが完成された剣聖だからこそよ。 だけどセッカには私が言ったってことは内緒よ? あいつ、そういうの自分が気にする奴だから……ん? そしたら言った方がいいのかしら? 嫌がらせになるし」
「どっちでもいいよ……もったいつけないで教えてくれ」
「あはは、ごめんごめん。 剣聖っていうのはね、かつて世界の全てを飲み込もうとした厄災。九尾の妖狐を見事打ち倒した剣士・ハクメンが持っていたとされるスキルなの。そしてその剣聖のスキルは、言い伝えではハクメンの生まれ変わりにのみ現れるって言われてるのよ」
「……九尾の妖狐を……倒した?」
「うんうん、セッカの古―いご先祖様って話らしいんだけどそこはまゆつば物ね。だけどまぁ、実際魔獣塊を圧倒するその剣技を見るに、ハクメンの生まれ変わりっていうのは信じられるかも……うっわ、剣聖のお嫁さんになったとか……お父様これ知ったら大喜びするわよきっと」
「そんなにすごいやつなんだな、ハクメンって……でもなんでそれを知って絶望するんだ? 嬉しいことじゃないか」
「まぁ、剣聖ってそれ以外のスキルを犠牲にしちゃうから、結局剣の道を生きる運命に縛られちゃうのよね。 人によっては人生をハクメンに奪われたって病んで自殺しちゃう人もいるのよ」
「なんでだ?」
「まぁ、人それぞれあるのよ」
「ふーん」
説明が面倒になったのか、フェリアスはそう言葉を切り上げ、俺も特にそれ以上聞くことなく軽く流す。
面倒な話はごめんだったから、というのもあるが。
もう一つの理由は族長の家に到着をしたから。
「ここがあの族長のハウスね……見ればわかるわ、派手だもの」
フェリアスはそういい、俺はたしかにと思いながら家を見上げる。
そこには、来客を知らせる白煙が立ち上っている。
「……いるな。 フェリアス。 離れるなよ?」
「……」
俺はそうフェリアスに声をかけると。
フェリアスは少し唇を尖らせながらもこくりと首を縦に降る。
剣を手にかけたまま、族長の家の前の扉に立つ……。
と。
「……ははははお:kふぁhfんくぇあくあ:lfjけめえあええあええんん‼︎‼︎」
なにかの怨嗟のような声が響き、狙い澄ませたかのように扉から泥が溢れ出て俺を、そしてフェリアスを飲み込まんと大口を開ける。
だが。
「二度も同じ手を喰らうか‼︎」
フェリアスを後ろ手に隠し、俺は真正面からその泥を叩き斬る。
【我流・大演爪‼︎】
幾重にも重ねた刃は、迫り来る泥をも飲み込み霧散させる。
扉の前に立ったと同時に放たれた泥。
それは間違いなく外に俺たちがいるということを理解した上での奇襲であり。
それは俺の予想が正しいことを告げていた。
「ガルドラ……」
霧散し床へと散らばる泥の先……。
そこには触手のように伸びた泥に全身を絡め取られたように眠るセッカと、その隣に、目や口や鼻から泥を垂れ流しながら立つガルドラの姿。
「あl;fkじゃkれっるうるるるるる……――――アシしししーさいいおっしいいしいいし‼︎?‼︎」
「ガルドラ……」
「もう完全に飲まれてるわ……あいつは、核になってしまったのよ」
それが俺の名前なのか、それともただの奇声なのか、俺にはよくわからない。
だがその胸にかけられた壊れたペンダントが、今回の騒動の原因がガルドラで会ったことをつげている。
なんでこんなことを……なんて聞くつもりはなく、俺は錆びた銅の剣を構える。
声をかけてもガルドラはきっと何も答えない。
意識もなく、命もなく、そこにいるのはただのなりそこない。
あるのはただ俺とセッカへの殺意のみ。
あいつは俺を殺したいし。
俺はセッカを助けたい。
ならばもはや、語りかける言葉はなく……。
ただ自然に俺は【死合う】ことにした。
ただ一本の刀となる。
それが、単純で一番簡単な答えだったから。
「可能性が高いってだけだ。 泥の中にほかの人狼族のやつらの匂いは混じってるけど
たしかに言われてみればガルドラの匂いが混ざってない」
「匂いねぇ、私なんかは腐敗臭くらいしか感じないけど……人狼族の鼻ってのは便利でうらやましいねぇ」
軽口を叩きながら、俺たちは人狼族の村の奥、ガルドラとガルルガの家へと向かう。
村の入り口付近は完全になりそこないに飲み込まれていたが、村の奥に入るとそこにはまだ無事な建物がいくつか残っており、俺たちは泥の少なくなった村をなりそこないから隠れながら歩んでいく。
フェリアスの怪我は見た目ほど大したことないようで、血はもう止まったらしく、肩を抑えながらもしっかりとした足取りで俺の隣を歩く。
俺はというと、そんなフェリアスの手を引きながら、片手でいつでも剣を抜ける状態にして一緒に歩いている。
一旦フェリアスだけ街に返すということも考えたのだが。
平和とはいえこの辺りはまだ盗賊が多く、手負いの女性が一人歩いていて面倒ごとに巻き込まれないわけがない。
それならば、俺がそばで守るのが一番賢明だろうという判断にいたり。(この際フェリアスは最初渋るような顔をしたが)こうして二人手を繋いでガルドラの行方を探している。
「まぁ、鼻が効くのは便利だと思う。実際何度もこれに助けられてるからな。 だけど、族長の息子であるガルドラは俺よりも断然鼻が効く」
「へぇ……ガルドラって奴の方が犬に近いってこと?」
「そうともいうけれども、純粋に人狼族の戦士は敵や獣の位置や場所を匂いから正確に把握ができるように、子供の頃から訓練を受けさせられるんだ」
「あんたはしてないの?」
「俺はなりそこない……って言われてたから。訓練中はずっと本を読んでたよ。本は弱い奴が読む物だからお前にはお似合いだってね」
「なりそこない?」
「あぁ、俺は人狼に変化をしても、生まれつき牙と爪が生えない特殊な体質なんだ。まぁセッカに聞いたら、それは俺の【剣聖】ってスキルのせいらしいんだけど」
「け、剣聖ぃっいたたたっ‼︎?」
俺の言葉に、フェリアスは驚くように声をあげ、同時に苦悶の表情をうかべる。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「き、聞いてないわよそんなの‼︎? あぁもうあのバカギツネ……だから余裕綽々で勝負挑んできたのね……くっそー嵌められた。何よ剣聖って、反則じゃない‼︎」
むきーっと腹をたてるフェリアス。
しかしながら俺にはそのすごさが分からず首をかしげる。
「……なぁ、セッカも驚いてたけれど、その、剣聖ってスキルはそんなにすごいものなのか?」
「あなた、本気で言ってんの?」
目を丸くして本気で驚いているフェリアス。
しかし俺はそれに頬を膨らませて抗議をする。
「生まれつき備わってた能力だし、今までその力を比べる相手すらいなかったんだ。
仕方ないだろう?」
「なるほど……あんたが抜き身の刃な理由はなんとなくわかったわ……無為自然の境地。たしかに比べる相手が一人としていなければ、その剣はたしかに無垢なまま完成をする。あぁ、剣聖のスキルには何かしらの意思が働いているっていうけれども。なるほど、信じざるを得ないわね」
得心がいったという表情で一人頷くフェリアスだが、俺にとってはちんぷんかんぷんだ。
「セッカも似たようなこと言ってたけど、そもそもなんなんだよ剣聖って」
剣技がすごくなるスキルだっていうのはなんとなくわかるものの。
なんでここまで毎度毎度驚かれるのか。
そして、二人ともどうしてスキルに意思がある、みたいなことを言っているのか?
その疑問にフェリアスはふむ、と一瞬考えるそぶりを見せる。
それは、どう説明するべきかではなく、話すべきか否かを値踏みするような表情であり。
「ま、いっか。あんた気にしないでしょうし」
そう呟く。
「なんだよ、気にするって」
「ううん、まぁ人によってはこれ聞いて絶望しちゃう人もいるってだけ。 でもあんた、運命とかそういうの信じる人間じゃなさそうだし話すわね」
「鈍感って言ってんのか?」
「いいえ、あなたが完成された剣聖だからこそよ。 だけどセッカには私が言ったってことは内緒よ? あいつ、そういうの自分が気にする奴だから……ん? そしたら言った方がいいのかしら? 嫌がらせになるし」
「どっちでもいいよ……もったいつけないで教えてくれ」
「あはは、ごめんごめん。 剣聖っていうのはね、かつて世界の全てを飲み込もうとした厄災。九尾の妖狐を見事打ち倒した剣士・ハクメンが持っていたとされるスキルなの。そしてその剣聖のスキルは、言い伝えではハクメンの生まれ変わりにのみ現れるって言われてるのよ」
「……九尾の妖狐を……倒した?」
「うんうん、セッカの古―いご先祖様って話らしいんだけどそこはまゆつば物ね。だけどまぁ、実際魔獣塊を圧倒するその剣技を見るに、ハクメンの生まれ変わりっていうのは信じられるかも……うっわ、剣聖のお嫁さんになったとか……お父様これ知ったら大喜びするわよきっと」
「そんなにすごいやつなんだな、ハクメンって……でもなんでそれを知って絶望するんだ? 嬉しいことじゃないか」
「まぁ、剣聖ってそれ以外のスキルを犠牲にしちゃうから、結局剣の道を生きる運命に縛られちゃうのよね。 人によっては人生をハクメンに奪われたって病んで自殺しちゃう人もいるのよ」
「なんでだ?」
「まぁ、人それぞれあるのよ」
「ふーん」
説明が面倒になったのか、フェリアスはそう言葉を切り上げ、俺も特にそれ以上聞くことなく軽く流す。
面倒な話はごめんだったから、というのもあるが。
もう一つの理由は族長の家に到着をしたから。
「ここがあの族長のハウスね……見ればわかるわ、派手だもの」
フェリアスはそういい、俺はたしかにと思いながら家を見上げる。
そこには、来客を知らせる白煙が立ち上っている。
「……いるな。 フェリアス。 離れるなよ?」
「……」
俺はそうフェリアスに声をかけると。
フェリアスは少し唇を尖らせながらもこくりと首を縦に降る。
剣を手にかけたまま、族長の家の前の扉に立つ……。
と。
「……ははははお:kふぁhfんくぇあくあ:lfjけめえあええあええんん‼︎‼︎」
なにかの怨嗟のような声が響き、狙い澄ませたかのように扉から泥が溢れ出て俺を、そしてフェリアスを飲み込まんと大口を開ける。
だが。
「二度も同じ手を喰らうか‼︎」
フェリアスを後ろ手に隠し、俺は真正面からその泥を叩き斬る。
【我流・大演爪‼︎】
幾重にも重ねた刃は、迫り来る泥をも飲み込み霧散させる。
扉の前に立ったと同時に放たれた泥。
それは間違いなく外に俺たちがいるということを理解した上での奇襲であり。
それは俺の予想が正しいことを告げていた。
「ガルドラ……」
霧散し床へと散らばる泥の先……。
そこには触手のように伸びた泥に全身を絡め取られたように眠るセッカと、その隣に、目や口や鼻から泥を垂れ流しながら立つガルドラの姿。
「あl;fkじゃkれっるうるるるるる……――――アシしししーさいいおっしいいしいいし‼︎?‼︎」
「ガルドラ……」
「もう完全に飲まれてるわ……あいつは、核になってしまったのよ」
それが俺の名前なのか、それともただの奇声なのか、俺にはよくわからない。
だがその胸にかけられた壊れたペンダントが、今回の騒動の原因がガルドラで会ったことをつげている。
なんでこんなことを……なんて聞くつもりはなく、俺は錆びた銅の剣を構える。
声をかけてもガルドラはきっと何も答えない。
意識もなく、命もなく、そこにいるのはただのなりそこない。
あるのはただ俺とセッカへの殺意のみ。
あいつは俺を殺したいし。
俺はセッカを助けたい。
ならばもはや、語りかける言葉はなく……。
ただ自然に俺は【死合う】ことにした。
ただ一本の刀となる。
それが、単純で一番簡単な答えだったから。
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