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王族の剣【御剣】
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「……本当に死ぬかと思ったわ」
その後、見事ギルドとやらの入団テストに合格をした俺は、セッカとともに人間の街【リガルドへルム】へとやってくる。
本来人狼族である俺は、許可なしに立ち寄ることのできない人間の領域であったが、セッカはこの街でもそこそこ顔が知れ渡っている人間らしく、門番は人狼族でみすぼらしい俺を警戒することもなく街に入れてくれた。
俺は初めて訪れた街を口を尖らせて未だに文句を垂れてくるセッカと並んで歩く。
「聞いてるー‼︎? 本当に‼︎ 死ぬかと、思ったのじゃー‼︎」
「聞こえてるよ、っていうかそれは俺のセリフだから。ほかの入団者はみんなあれを倒してるのか?」
「まぁ、あれは最高難易度といったところよな。 龍をうまく回避し、我に触れられれば合格じゃ」
「随分簡単なテストだな。 それでよかったのか」
「簡単とかいうがの其方、あのテスト合格したもの其方以外おらぬからな?」
「そうなのか?」
「あぁ、たやすく突破するとは思ったがまさか両断するとは、ちょっとショックじゃ」
「そう言われてもなぁ」
ぶすーっとふてくされるセッカに、ルールをちゃんと説明しなかったお前が悪い……と心の中で俺は呟いてみるが。
そんなことを言おうものなら余計に機嫌が悪くなることを何となく察知できたため、それ以上は何もいうことなく代わりに街の様子を見回してみる。
街は草と森に囲まれ、緑と茶色しかなかった村とは異なり、色彩豊かに彩られた街には赤や青や黄色といった様々な色が、視界いっぱいに広がっていて心が躍る。
まるで虹の中を歩いているようだ……そんな感想を抱きながらも、セッカと一緒に中央通りを抜けていくと。
「さて、ここじゃ」
「え? ここって……」
到着をしたのは一つの巨大な建物。
中央通りを抜けた先の広場。 その中央に堂々と立つその建物の看板には大きく【雪月花】
と書かれている。
「これがギルドじゃ。 これからはここが其方の家で、其方の仕事場になるぞ」
「ギルド……なんかもっとこじんまりとした場所を思い浮かべてたけど……。俺、これからこんなところにすむのか」
待遇改善なんてもんじゃない。
村では石の家に住むことが許されるのは族長だけだったというのに。
こんなにあっさりと石の家に、しかもレンガの家に住むことが許されるだなんて。
「まぁ、普通のギルドメンバーであれば自分の家を持ってたりするが、其方は我の護衛だ。故にここで我と共に暮らすことになる」
「こんなおっきな家に住めるだなんて。 ありがとうセッカ、俺、あんたについてきてよかったよ」
「まだギルドの中にすら入っていないのじゃが……。 其方本当にろくな扱いされてなかったようだの。まぁいい、とりあえず中に入るぞ」
そういうと、セッカはギルドの巨大な門を開く。
「……人がいっぱいだ」
石造りの建物の中は、鏡のように磨かれた床やテーブルが並ぶ酒場。
体の大小、種族問わずに酒を飲み交わし、談笑をする人間の姿。
一番奥には、沢山のビンが並んだカウンターと、書類が大量につまれたカウンターの二つがならんで立っており、人々はそこで酒を飲んだりカウンターで書類を眺めたりとおもいおもいの時間を過ごしている。
柱や壁を見ると、そこには至る所に魔物や人の顔が描かれた紙が貼ってあり、その下には金額が書かれている……それもすごい金額だ。
「どうだ? 東洋出身の堅物が営んでいる冒険者ギルドだが、なかなかに良い場所であろう」
にやりと自慢をするように語るセッカであるが。
「たしかに……すごいよ」
騒がしくもどこか落ち着いた室内は、とても居心地がよく。
俺はそんな称賛の言葉しか思い浮かばずそのままを口にする。
「くふふー‼︎ そうであろう? 其方はやはり見る目があるの」
嬉しそうに笑うセッカ。
しかしながら俺はここで一つ疑問に思う。
ギルドというのがこれだけ大きな組織であることはなんとなく理解ができた。
となると、俺はこれからこの組織の一員となる訳だ。
「あれ? でもこれだけ大きな組織となると、いいのかセッカ? こういった組織の一員には簡単にはなれないものだろう普通? 少なくとも得体の知れない人狼族なんて、一番偉い人の許可が必要なんじゃ?」
その言葉に、キョトンとしたような表情を見せるセッカ。
その顔は「こいつ、今まで気づいてなかったのか?」とでも言いたげだ。
「其方、今まで気づいていなかったのか?」
口に出された。
「……なにをだ? まさか、お前がそのぎるどますたぁ? ってやつなのか?」
「いや、ギルドマスターではないが……だが、少なくともお主のような得体の知れない人狼族を一存でギルドに加入させられるくらいの権限はある」
「? なおさら意味が分からんぞ」
「ふむ……どう説明したものか、つまりだな……」
困ったような表情を作りながらも説明をしようとしてくれるセッカ。
だが。
「姫様あああああぁ‼︎」
セッカの声を遮るような叫び声とともに、ギルドの奥から初老の男が走ってくる。
小柄ながらその身につけているのは朱色の甲冑。
腰には立派な刀が刺してあり、口には胸まで伸びる二股の口髭がはえている。
「おや、いたのかゲンゴロウ」
「いたのか、ではありません姫様‼︎ 書き置き一つ残してまた勝手にギルドを抜け出して‼︎」
「我がおらんでも其方がいればギルドは回るであろう。 なんのためにギルドマスターに其方を据えておると思うておるのだ」
「それとこれとは話が違います姫さま‼︎ ギルドの象徴たる姫がいなければ他のものに示しがつきませぬ‼︎」
難しい話はわからないが、とりあえず俺は気になったことをセッカに確認をするために口を挟む。
「ギルドマスター? このおじさんがギルドマスターなのか? それにセッカ、姫様って」
「むっ、なんだお前は……その汚い身なりは、姫様のお召し物に汚れがついたらどうする‼︎ 去ね‼︎ 去ね‼︎」
しっしと犬を追い払うように手を払うおっさん。
どうやら嫌われてしまったようだ。
「どうしようセッカ」
「ふふっ安心せい。 おいこらゲンゴロウ、我が剣……【御剣】に去ねとは、随分と貴様偉くなったものよな」
「み、御剣‼︎?」
聞きなれない言葉に首をかしげる俺だったが、その言葉にゲンゴロウとよばれた男は目を丸くして俺とセッカを見比べる。
「みつるぎ?」
「ひ、姫さまお気は確かでございますか‼︎ このような氏素性も分からぬものを御剣に据えるとは‼︎」
「正気も正気よ。 こやつは我が目の前で魔獣塊、それも黒龍の首を核にした物をたやすく両断してみせた。 実力は我がこの目と身をもって体験をしておる」
「実力のみでは御剣は勤まりませぬ‼︎ 気品と風格と実力の三拍子揃いはじめて叶うお役目でございますぞ‼︎」
よく分からないが、悪口を言われたのはわかったぞおっさん。
「お行儀が良くて、無駄に賢いやつは裏切るが常。 忠義など砂上の楼閣、泡沫の夢。ならばこのような無垢な狼を従えるが正解だ、風格と気品など、無垢であればあとでいくらでも付け足せよう」
まくし立てるおっさんとは対照的に、さらりと受け流すセッカ。
まるで柳に風だなと思いながら俺はやらなきゃいいのに好奇心のままに口を挟む。
「なぁ、御剣ってなんだ?」
「御剣も知らぬとは……姫さま‼︎ 本当にお気はたしかですか‼︎?」
指をさして怒るゲンゴロウ。 しかしセッカはカラカラと笑う。
「知らぬことは教えてやれば良いのだ。 一を知って十を知る者はいるが、一をも知らずに十を知れるものなど存在せぬであろうて。 ルーシー、御剣とは簡単にいえば護衛のことよ。ただ少し特別な人間を護衛する場合にこう言った名前になる」
「へー。面倒だな」
「め、面倒だと貴様‼︎? 姫さまお考え直しください‼︎ 御剣ならば、私が必ず姫さまにふさわしきものを探し出しますから……」
「信用できぬ。 我が剣は我自らの目で見極める。 この話はしまいじゃ……こやつにギルドカードを発行せよ。ゲンゴロウ」
「うぐぐぐ……しかし」
「我の言うことが聞けぬのか?」
ぴしゃりと言い放つセッカ。
其の言葉にゲンゴロウは顔をしかめてしばらく額の青筋を浮かべては沈めを繰り返すと。
「……姫さまのご命令とあれば致し方ありません……ですが。その前にこのものが御剣としてふさわしいか、テストをさせてくださいませんか?」
そう呟く。
「えっと、入団テストなら済ませたんだけど」
「だまれぇい‼︎ 入団テスト程度で御剣になれるなら誰だって苦労はせんわ‼︎」
「なるほど……護衛は護衛で特別な仕事なんだな」
「素直か。まったく無駄なことを……まぁしかしそれで貴様が納得するならばそれもよかろう。ルーシー、すまぬが最初の仕事だ、あのジジイに付き合ってやれ」
「ジジイ‼︎? 姫さま、幼少より世話係を任せれてきたゲンゴロウにそのお言葉はあまりにも……反抗期でございますか‼︎? 昔は、昔はゲンゴロウのお嫁さんになるとおっしゃっていらしたというのに‼︎」
「い、いつの話をしとるのじゃ貴様は‼︎ というよりもやるならさっさとテストとやらをはじめぬか‼︎」
「はっ……」
「準備って、何をするつもりだ? 斬り合いでもするのか?」
「ギルド内での抗争はご法度……いかなる理由があろうとも、ギルドの人間であるならばここでの戦いは決して許されぬ。ここは家でありここにおる者は皆家族。ゆえに、家族同士で血を流すことだけは認めぬ……頭に血が上ったとてゲンゴロウが忘れることはない」
「心得ております」
語気を強めたセリフに、俺はセッカがどれほどここを大切にしているのかを知る。
彼女にとってここはそれほど特別な場所。
俺にはそんなものがあったことないから分からないが、でも彼女が大切にしたいと思うなら、俺はそれを壊してはいけないのだろう。
だからこそ俺は其の言葉を、馬鹿みたいに守り抜くことをきめてしまった。
「……なるほど。でも、それじゃあおっさん、戦わないなら何でテストをするんだ?」
浮かび上がる素朴な疑問。
その言葉にゲンゴロウは一瞬不敵に口元をゆるめると。
「無論、羊毛狩りよ‼︎」
勝ち誇ったようにそういった。
その後、見事ギルドとやらの入団テストに合格をした俺は、セッカとともに人間の街【リガルドへルム】へとやってくる。
本来人狼族である俺は、許可なしに立ち寄ることのできない人間の領域であったが、セッカはこの街でもそこそこ顔が知れ渡っている人間らしく、門番は人狼族でみすぼらしい俺を警戒することもなく街に入れてくれた。
俺は初めて訪れた街を口を尖らせて未だに文句を垂れてくるセッカと並んで歩く。
「聞いてるー‼︎? 本当に‼︎ 死ぬかと、思ったのじゃー‼︎」
「聞こえてるよ、っていうかそれは俺のセリフだから。ほかの入団者はみんなあれを倒してるのか?」
「まぁ、あれは最高難易度といったところよな。 龍をうまく回避し、我に触れられれば合格じゃ」
「随分簡単なテストだな。 それでよかったのか」
「簡単とかいうがの其方、あのテスト合格したもの其方以外おらぬからな?」
「そうなのか?」
「あぁ、たやすく突破するとは思ったがまさか両断するとは、ちょっとショックじゃ」
「そう言われてもなぁ」
ぶすーっとふてくされるセッカに、ルールをちゃんと説明しなかったお前が悪い……と心の中で俺は呟いてみるが。
そんなことを言おうものなら余計に機嫌が悪くなることを何となく察知できたため、それ以上は何もいうことなく代わりに街の様子を見回してみる。
街は草と森に囲まれ、緑と茶色しかなかった村とは異なり、色彩豊かに彩られた街には赤や青や黄色といった様々な色が、視界いっぱいに広がっていて心が躍る。
まるで虹の中を歩いているようだ……そんな感想を抱きながらも、セッカと一緒に中央通りを抜けていくと。
「さて、ここじゃ」
「え? ここって……」
到着をしたのは一つの巨大な建物。
中央通りを抜けた先の広場。 その中央に堂々と立つその建物の看板には大きく【雪月花】
と書かれている。
「これがギルドじゃ。 これからはここが其方の家で、其方の仕事場になるぞ」
「ギルド……なんかもっとこじんまりとした場所を思い浮かべてたけど……。俺、これからこんなところにすむのか」
待遇改善なんてもんじゃない。
村では石の家に住むことが許されるのは族長だけだったというのに。
こんなにあっさりと石の家に、しかもレンガの家に住むことが許されるだなんて。
「まぁ、普通のギルドメンバーであれば自分の家を持ってたりするが、其方は我の護衛だ。故にここで我と共に暮らすことになる」
「こんなおっきな家に住めるだなんて。 ありがとうセッカ、俺、あんたについてきてよかったよ」
「まだギルドの中にすら入っていないのじゃが……。 其方本当にろくな扱いされてなかったようだの。まぁいい、とりあえず中に入るぞ」
そういうと、セッカはギルドの巨大な門を開く。
「……人がいっぱいだ」
石造りの建物の中は、鏡のように磨かれた床やテーブルが並ぶ酒場。
体の大小、種族問わずに酒を飲み交わし、談笑をする人間の姿。
一番奥には、沢山のビンが並んだカウンターと、書類が大量につまれたカウンターの二つがならんで立っており、人々はそこで酒を飲んだりカウンターで書類を眺めたりとおもいおもいの時間を過ごしている。
柱や壁を見ると、そこには至る所に魔物や人の顔が描かれた紙が貼ってあり、その下には金額が書かれている……それもすごい金額だ。
「どうだ? 東洋出身の堅物が営んでいる冒険者ギルドだが、なかなかに良い場所であろう」
にやりと自慢をするように語るセッカであるが。
「たしかに……すごいよ」
騒がしくもどこか落ち着いた室内は、とても居心地がよく。
俺はそんな称賛の言葉しか思い浮かばずそのままを口にする。
「くふふー‼︎ そうであろう? 其方はやはり見る目があるの」
嬉しそうに笑うセッカ。
しかしながら俺はここで一つ疑問に思う。
ギルドというのがこれだけ大きな組織であることはなんとなく理解ができた。
となると、俺はこれからこの組織の一員となる訳だ。
「あれ? でもこれだけ大きな組織となると、いいのかセッカ? こういった組織の一員には簡単にはなれないものだろう普通? 少なくとも得体の知れない人狼族なんて、一番偉い人の許可が必要なんじゃ?」
その言葉に、キョトンとしたような表情を見せるセッカ。
その顔は「こいつ、今まで気づいてなかったのか?」とでも言いたげだ。
「其方、今まで気づいていなかったのか?」
口に出された。
「……なにをだ? まさか、お前がそのぎるどますたぁ? ってやつなのか?」
「いや、ギルドマスターではないが……だが、少なくともお主のような得体の知れない人狼族を一存でギルドに加入させられるくらいの権限はある」
「? なおさら意味が分からんぞ」
「ふむ……どう説明したものか、つまりだな……」
困ったような表情を作りながらも説明をしようとしてくれるセッカ。
だが。
「姫様あああああぁ‼︎」
セッカの声を遮るような叫び声とともに、ギルドの奥から初老の男が走ってくる。
小柄ながらその身につけているのは朱色の甲冑。
腰には立派な刀が刺してあり、口には胸まで伸びる二股の口髭がはえている。
「おや、いたのかゲンゴロウ」
「いたのか、ではありません姫様‼︎ 書き置き一つ残してまた勝手にギルドを抜け出して‼︎」
「我がおらんでも其方がいればギルドは回るであろう。 なんのためにギルドマスターに其方を据えておると思うておるのだ」
「それとこれとは話が違います姫さま‼︎ ギルドの象徴たる姫がいなければ他のものに示しがつきませぬ‼︎」
難しい話はわからないが、とりあえず俺は気になったことをセッカに確認をするために口を挟む。
「ギルドマスター? このおじさんがギルドマスターなのか? それにセッカ、姫様って」
「むっ、なんだお前は……その汚い身なりは、姫様のお召し物に汚れがついたらどうする‼︎ 去ね‼︎ 去ね‼︎」
しっしと犬を追い払うように手を払うおっさん。
どうやら嫌われてしまったようだ。
「どうしようセッカ」
「ふふっ安心せい。 おいこらゲンゴロウ、我が剣……【御剣】に去ねとは、随分と貴様偉くなったものよな」
「み、御剣‼︎?」
聞きなれない言葉に首をかしげる俺だったが、その言葉にゲンゴロウとよばれた男は目を丸くして俺とセッカを見比べる。
「みつるぎ?」
「ひ、姫さまお気は確かでございますか‼︎ このような氏素性も分からぬものを御剣に据えるとは‼︎」
「正気も正気よ。 こやつは我が目の前で魔獣塊、それも黒龍の首を核にした物をたやすく両断してみせた。 実力は我がこの目と身をもって体験をしておる」
「実力のみでは御剣は勤まりませぬ‼︎ 気品と風格と実力の三拍子揃いはじめて叶うお役目でございますぞ‼︎」
よく分からないが、悪口を言われたのはわかったぞおっさん。
「お行儀が良くて、無駄に賢いやつは裏切るが常。 忠義など砂上の楼閣、泡沫の夢。ならばこのような無垢な狼を従えるが正解だ、風格と気品など、無垢であればあとでいくらでも付け足せよう」
まくし立てるおっさんとは対照的に、さらりと受け流すセッカ。
まるで柳に風だなと思いながら俺はやらなきゃいいのに好奇心のままに口を挟む。
「なぁ、御剣ってなんだ?」
「御剣も知らぬとは……姫さま‼︎ 本当にお気はたしかですか‼︎?」
指をさして怒るゲンゴロウ。 しかしセッカはカラカラと笑う。
「知らぬことは教えてやれば良いのだ。 一を知って十を知る者はいるが、一をも知らずに十を知れるものなど存在せぬであろうて。 ルーシー、御剣とは簡単にいえば護衛のことよ。ただ少し特別な人間を護衛する場合にこう言った名前になる」
「へー。面倒だな」
「め、面倒だと貴様‼︎? 姫さまお考え直しください‼︎ 御剣ならば、私が必ず姫さまにふさわしきものを探し出しますから……」
「信用できぬ。 我が剣は我自らの目で見極める。 この話はしまいじゃ……こやつにギルドカードを発行せよ。ゲンゴロウ」
「うぐぐぐ……しかし」
「我の言うことが聞けぬのか?」
ぴしゃりと言い放つセッカ。
其の言葉にゲンゴロウは顔をしかめてしばらく額の青筋を浮かべては沈めを繰り返すと。
「……姫さまのご命令とあれば致し方ありません……ですが。その前にこのものが御剣としてふさわしいか、テストをさせてくださいませんか?」
そう呟く。
「えっと、入団テストなら済ませたんだけど」
「だまれぇい‼︎ 入団テスト程度で御剣になれるなら誰だって苦労はせんわ‼︎」
「なるほど……護衛は護衛で特別な仕事なんだな」
「素直か。まったく無駄なことを……まぁしかしそれで貴様が納得するならばそれもよかろう。ルーシー、すまぬが最初の仕事だ、あのジジイに付き合ってやれ」
「ジジイ‼︎? 姫さま、幼少より世話係を任せれてきたゲンゴロウにそのお言葉はあまりにも……反抗期でございますか‼︎? 昔は、昔はゲンゴロウのお嫁さんになるとおっしゃっていらしたというのに‼︎」
「い、いつの話をしとるのじゃ貴様は‼︎ というよりもやるならさっさとテストとやらをはじめぬか‼︎」
「はっ……」
「準備って、何をするつもりだ? 斬り合いでもするのか?」
「ギルド内での抗争はご法度……いかなる理由があろうとも、ギルドの人間であるならばここでの戦いは決して許されぬ。ここは家でありここにおる者は皆家族。ゆえに、家族同士で血を流すことだけは認めぬ……頭に血が上ったとてゲンゴロウが忘れることはない」
「心得ております」
語気を強めたセリフに、俺はセッカがどれほどここを大切にしているのかを知る。
彼女にとってここはそれほど特別な場所。
俺にはそんなものがあったことないから分からないが、でも彼女が大切にしたいと思うなら、俺はそれを壊してはいけないのだろう。
だからこそ俺は其の言葉を、馬鹿みたいに守り抜くことをきめてしまった。
「……なるほど。でも、それじゃあおっさん、戦わないなら何でテストをするんだ?」
浮かび上がる素朴な疑問。
その言葉にゲンゴロウは一瞬不敵に口元をゆるめると。
「無論、羊毛狩りよ‼︎」
勝ち誇ったようにそういった。
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