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嘘つきの自滅と日頃の仕返し
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「遅いぞルーシー‼︎ 貴様一体どこで油をうっていた‼︎ しかも魔物も居ないとは、これだからなりそこないは……」
聞き飽きた怒声……。
その言葉に俺はうんざりしながらも無言で首を差し出す。
「ごめん、襲われたからつい魔物を殺してしまった」
「なっ‼︎? この馬鹿野郎‼︎ おびきだせって言っただろうが、人の話聞いてなかったのか?」
襲われたからという説明を聞いてなかったのかと言おうとしたが、その言葉をぐっと飲み込んで俺はさらに謝罪を重ねる。
「本当にごめん。 首だけ持ってきたから」
「まったく……本当に使えない奴だ」
そういうと差し出した首をガルドラは奪い取る。
文句を言いつつもその顔はどこか嬉しそうだ。
「こいつは、タイニードラゴンか。 この程度の魔物に親父も恐れをなすとは。老いて腰抜けになったか、情けない」
ニヤニヤと笑うガルドラに俺はハッとする。
確かに体の部分は溶けてなくなってしまったため、首だけを見ればただの龍の首にしか見えない。
「……あ、その魔物は」
その為俺は、実際に戦った際の形状を伝えようとしたのだが……。
「うるさい! いつまでそんなところにいるんだルーシー! やることが無いんだったら鎧磨きでもしてろ‼︎」
話を聞くどころか新しい仕事を押し付けてくる始末。
もう少し労いの言葉の一つもあっていいと思うのだが……まぁ、文句を言ったところで待遇がかわるわけでもないので、俺は命令通り黙って次の仕事に向かうことにする。
とぼとぼと帰るひとりの帰り道。
ふと頭に、先ほど助けた女性の声が響く。
もし、今よりはるかに高待遇な場所が其方を受け容れるって言われたらどうする?
「そりゃ、行きたいけどさ」
そんなことはありえない。 そう呟いて俺はその場を後にした。
◇
「おい、人モドキ。族長様がお呼びだ、すぐに迎え」
押し付けられた鎧磨きを一人黙々とこなしていると、族長補佐のアクルがそう声をかけてきた。
「すぐにって……俺鎧磨きをしててドロだらけなんだけど」
俺は鎧の山をアクルに見せる。
だがアクルはせせら笑うように鼻をならすと。
「どんな格好だろうと変わらんだろうお前は。いいからさっさと行けのろま」
「むぅ、なんだよもう」
どやされるように俺は立ち上がると、そのまま族長の家へと向かう。
藁で作られた俺の家とは違う、立派なレンガで作られた族長の家。
「ああは言われたけど、流石にこれはまずいよなぁ」
族長は気位が高く、特に俺のような人モドキを毛嫌いしている。
まだ、同じ村で生まれたよしみで情けをかけてもらっているが。気分を害せば藁よりも軽く俺は村を追放されてしまうだろう。
せめて砂ぐらいは落としておこう。
俺はそう思案して、家の前で簡単に体の泥を落とす。
と。
「ん? なんだこれ」
ふと手の甲をみると、なにやらあざのようなものが浮かび上がっている。
さっきのドロドロとの戦いでついたのだろうか? 羽、もしくは尻尾のような模様にも見える。
「変な形……」
俺はそんな感想を漏らし、あざを触ってみるが痛みはない……特段体に別状はないし、ただ単に先ほどの戦いでぶつけただけのようだ。
「てめぇルーシー、何サボってやがる」
そうやってあざを眺めていると、背後から響く聞きなれた声。
振り返ると案の定、先程倒したドラゴンの首を手に持ったガルドラの姿があった。
「あぁガルドラ、サボってるわけじゃ無いよ。ただ族長に呼ばれて」
「おまえが親父に? はんっ、丁度いい。 親父にこいつの首を見せてやるからお前もこいつを俺が仕留めたって証人になれ」
ニヤリと含み笑いをするガルドラ。
自分の手柄を主張したところで何もいいことはないので。
「わかったよ」
そう頷いて、意気揚々と扉を開けるガルドラの後に続いていった。
「来たようだな……おや、ガルドラも一緒か」
中に入るとそこには族長であるガルルガの姿。
白い髭に眉を携え、狼の毛皮を背中に羽織った老人であるがその眼光は衰えることとはなく俺を射抜く。
「よう親父、いい知らせが……ってなんだぁ? 客人か」
この村に珍しい、と呟くガルドラ。
ガルドラの後ろから、家の中を覗くと、そこには森で助けた女性、セッカが座っている。
人間と対立状態にある人狼族の村に用事があるなんて、珍しいとは思ったが族長のお客さんだったのか。
「っ……!」
ちらりと目が合ったが、約束はしっかり守ってくれているようで。
愛想笑いを浮かべるのみで目線をそらしてくれ、俺はほっと心の中でそっと息をつく。
「客人かぁではない……まったく、すまぬのぉ。うちの倅は体は大きいが外を知らぬゆえに礼儀を知らぬ」
「何、我は構わぬよ。なにやら大事な話のようじゃし、聞いてやるべきよ。我の話は長くなるしな」
「すまない。それでどうしたガルドラ」
「あぁ、あんたが怯えてた森の魔物……俺が退治してきてやったぜ‼︎」
そう言って紐で括られた首を見せつけるガルドラ。
すごい残念そうなものを見る目でセッカがガルドラを見ている。
というか小さな声で「うわー」とか言ってる。
「なんと、あの魔物をか」
「あぁ、怯えるこたねえ。森に潜んでたのはこのタイニードラゴンだ。俺にかかれば恐れるに足らねえ雑魚魔物だったぜ」
得意げに胸を張るガルドラ
やめてセッカ。「なんなのこいつ?」という表情で指を指さないで。
あとこっち見るなバレるだろ。
「流石はわしの息子よ‼︎ このような魔物に怯え森を塞いでしまったとは……おかげで村を飢えさせるところだったわ。 わしもそろそろ引退を考えるべきかのぉ」
「そうだぜ親父‼︎ この俺にまかせれば、村はなにも心配いらねえ‼︎」
「ふはは、頼もしく育ちおって。 鼻が高いぞ‼︎」
なにやら楽しそうに笑いあうガルドラとガルルガ。 その笑い方は似た者親子という言葉がぴったりであり、そのいつもの光景をぼーっと眺めながら眺めていると。
「はて、これは異な事を申すものよなガルドラ殿」
ふとセッカが口を挟むようにガルドラの名前を呼ぶ。
その表情は何か良からぬ企みをしているのが丸わかりな笑みを浮かべており、余計なことをするなと視線を飛ばすがあっさりと無視された。
「なんだぁ? お客人……なにが変だってんだ?」
「いやいや、これ以上おかしなことがあろうか? 黒龍の幼体の首を引っさげてこれをタイニードラゴンと叫ぶのだからの」
「こ、黒龍の幼体だと‼︎? それは本当かセッカ殿」
黒龍といえば、神に最も近く、時に神すらも殺すと言われる魔物であり、幼体と言えども一度人の前に現れれば街一つは簡単に消し炭にすると言われる魔物である。
「は、ははは。そうだったのか、弱すぎて間違えちまったぜ。なにせ勝負は一瞬だったからなぁ」
ガルドラは顔を引きつらせながら、わざとらしく笑い声をあげる。
セッカの表情を見るとうんざりしたような顔を作ると。
「それはそれは素晴らしき力。 では一つその力をお見せ願いたいものよな」
「え?」
「人狼族の力、幼体と言えども神を食らう黒龍。その首を落とす様をぜひぜひ我に見せていただきたい。ガルドラ殿……その手に持った首を一部両断して見せてはくれぬかの?」
だらんと垂れ下がった首を指差し不敵に笑う。
「な、なんでそんなこと……」
ガルドラの額から冷や汗が滝のように流れるが。
刺すようなセッカの瞳がガルドラを射抜く。
悪魔も裸足で逃げ出しそうなほど怖い笑顔……絶対セッカは性格が悪い。
「ははは、面白いことをいうなセッカ殿。 同盟の前に力試しというわけか……見せてやりなさいガルドラ。 ワシも息子の成長を見てみたいからな」
「う、うぐぅっ‼︎?」
族長の言葉がさらにガルドラを追い詰め、ガルドラの呼吸が荒くなるのがわかる。
なんだかガルドラが可哀想になってきたので、助け舟を出して見ることにした。
「が、ガルドラはさっきの戦いで……」
「貴様は黙っていろなりそこない‼︎」
まぁそうなるだろうとは思ったけど。
フォローを入れようと俺は口を開くが、族長の一括によりかき消される。
人の話を聞かないのは族長譲りなのだろう。
セッカの方を見ると、口元がヒクついている……あれは絶対に笑いをこらえている顔だ。
「ぷぷっ……こほん。 どうされた? ガルドラ殿、もしや出来ないのでは?」
邪悪な笑顔は完全に悪魔の微笑みであり、その言葉にガルドラはプルプルと震えながらも。最後には観念したのか、叩きつけるように床にドラゴンの首を置く。
「できらぁ‼︎ やってやろうじゃねえか、出来ねえわけがねえ。 俺は次期族長のガルドラ様なんだからなぁ‼︎」
そういうと、ガルドラは自らの体を人狼へと変化させていく。
大口を叩くだけあり、一応実力は村の中でも一、二を争うガルドラ。
若さ故に戦術や体術はベテランの戦士に劣る部分はあるものの、その怪力と肉体の強靭さは他とは一線を画すものがあり、爪の硬度は鋼鉄をはるかに凌駕する。
その威力は、鎧を身にまとった人間を鎧ごと両断するほどであり。
「うおりゃあああああぁ‼︎」
そんな強靭な一撃を、ガルドラは全霊を持ってドラゴンの首へと叩き込む。
だが。
―――ポキン
「あ、折れた」
「なっ……なっ……」
先ほどの説明がバカらしくなるほどあっけなくガルドラの爪が音を立てて折れる。
しかも一本だけではない、ガルドラの右手の爪全てが小枝のように折れて床に転がる。
もちろんドラゴンのクビには傷一つない。
呆然とするガルドラを前に、セッカは満面の笑みを向けた。
「おやおやおやぁ? 首を切るどころか爪が折れてしまったようだのぉ? 確かに勝負は一瞬だったが」
「こ、これはどう言うことだガルドラ!?」
「ち、違う……これは、本当は……」
慌てて言い訳を模索するガルドラ。しかし弱った獲物を追い詰めるようにセッカは瞳を光らせて逃げ道を塞ぐ。
「本当は? なんだろうかの、本当は誰かほかの人間に倒してもらいました、かの?」
ちらりと俺を目を見るセッカ。 その言葉に族長とガルドラの目が一斉に俺へと集まる。
「お、おい約束しただろ‼︎? そのことは言うなって……あっ」
俺の馬鹿……自分で話してどうする。
知らぬ存ぜぬを通せば良かったのに、今の自分の言葉で完全に自分の首を絞める。
「テメエ‼︎ 計りやがったな、なりそこないが‼︎ 追放だ‼︎ いや、ここでぶっ殺してやる‼︎」
人狼の姿のまま、牙をむき出しにして迫るガルドラ。
正直自業自得にも思えるが、それでもそんな言い訳が通じる相手ではない。
それに、族長の前でこれだけガルドラに恥を書かせてしまったのだ。
当然俺はこの後追放だろう。
牙とガルドラの残った爪が振り下ろされるまでの間の刹那。
俺は少しだけ思案をすることにした。
まず、このまま気分良く殴らせてもきっと追放は変わらない。
恨みを込めてセッカを見るが、気分良さそうにコロコロと笑うその表情は約束を破った反省どころか満足げだ……この野郎。
こうなると痛い思いをして追放されるか。
抵抗をした後に追放されるか二つに一つ。
「……よし、潰そう」
ならば当然、最後くらいは自分の満足できる行動を取ろうと、俺は銅の剣に手をかけ。
今までのお礼も込めて、俺は銅の剣を抜き、迫る左手の爪全てを丁寧に切り落とす。
「へ? なっ……ぶっふおおぉ」
あの程度の硬さのドラゴンの首すら落とせない爪など小枝同然であり、呆然とするガルドラの顎を鞘で思いっきりぶっ叩く。
鈍い音が響き、牙が音を立ててボロボロと崩れた。
うん……もう失うものがないって思うと意外とスッキリするものだ。
武器を使って卑怯かもしれないし、誇りもないかもしれないが、もうこの村にいられなくなるならそんなものに縛られる必要もない。
「な、なんで……なんで俺が、なりそこないなんぞに」
涙目で床を転がりながらそう零すガルドラ。
「さぁ、武器を使ってるからじゃないか? それよりも覚悟はいい?」
「ひっ‼︎? た、助けて……助けて‼︎?」
「ダメだね」
そんなガルドラに対して俺は率直な感想を述べ、戦いという名の蹂躙をガルドラが意識を手放すまで続けたのち、泣き叫びながら止めに入った族長の命令により、晴れて村を追放されることになる。
聞き飽きた怒声……。
その言葉に俺はうんざりしながらも無言で首を差し出す。
「ごめん、襲われたからつい魔物を殺してしまった」
「なっ‼︎? この馬鹿野郎‼︎ おびきだせって言っただろうが、人の話聞いてなかったのか?」
襲われたからという説明を聞いてなかったのかと言おうとしたが、その言葉をぐっと飲み込んで俺はさらに謝罪を重ねる。
「本当にごめん。 首だけ持ってきたから」
「まったく……本当に使えない奴だ」
そういうと差し出した首をガルドラは奪い取る。
文句を言いつつもその顔はどこか嬉しそうだ。
「こいつは、タイニードラゴンか。 この程度の魔物に親父も恐れをなすとは。老いて腰抜けになったか、情けない」
ニヤニヤと笑うガルドラに俺はハッとする。
確かに体の部分は溶けてなくなってしまったため、首だけを見ればただの龍の首にしか見えない。
「……あ、その魔物は」
その為俺は、実際に戦った際の形状を伝えようとしたのだが……。
「うるさい! いつまでそんなところにいるんだルーシー! やることが無いんだったら鎧磨きでもしてろ‼︎」
話を聞くどころか新しい仕事を押し付けてくる始末。
もう少し労いの言葉の一つもあっていいと思うのだが……まぁ、文句を言ったところで待遇がかわるわけでもないので、俺は命令通り黙って次の仕事に向かうことにする。
とぼとぼと帰るひとりの帰り道。
ふと頭に、先ほど助けた女性の声が響く。
もし、今よりはるかに高待遇な場所が其方を受け容れるって言われたらどうする?
「そりゃ、行きたいけどさ」
そんなことはありえない。 そう呟いて俺はその場を後にした。
◇
「おい、人モドキ。族長様がお呼びだ、すぐに迎え」
押し付けられた鎧磨きを一人黙々とこなしていると、族長補佐のアクルがそう声をかけてきた。
「すぐにって……俺鎧磨きをしててドロだらけなんだけど」
俺は鎧の山をアクルに見せる。
だがアクルはせせら笑うように鼻をならすと。
「どんな格好だろうと変わらんだろうお前は。いいからさっさと行けのろま」
「むぅ、なんだよもう」
どやされるように俺は立ち上がると、そのまま族長の家へと向かう。
藁で作られた俺の家とは違う、立派なレンガで作られた族長の家。
「ああは言われたけど、流石にこれはまずいよなぁ」
族長は気位が高く、特に俺のような人モドキを毛嫌いしている。
まだ、同じ村で生まれたよしみで情けをかけてもらっているが。気分を害せば藁よりも軽く俺は村を追放されてしまうだろう。
せめて砂ぐらいは落としておこう。
俺はそう思案して、家の前で簡単に体の泥を落とす。
と。
「ん? なんだこれ」
ふと手の甲をみると、なにやらあざのようなものが浮かび上がっている。
さっきのドロドロとの戦いでついたのだろうか? 羽、もしくは尻尾のような模様にも見える。
「変な形……」
俺はそんな感想を漏らし、あざを触ってみるが痛みはない……特段体に別状はないし、ただ単に先ほどの戦いでぶつけただけのようだ。
「てめぇルーシー、何サボってやがる」
そうやってあざを眺めていると、背後から響く聞きなれた声。
振り返ると案の定、先程倒したドラゴンの首を手に持ったガルドラの姿があった。
「あぁガルドラ、サボってるわけじゃ無いよ。ただ族長に呼ばれて」
「おまえが親父に? はんっ、丁度いい。 親父にこいつの首を見せてやるからお前もこいつを俺が仕留めたって証人になれ」
ニヤリと含み笑いをするガルドラ。
自分の手柄を主張したところで何もいいことはないので。
「わかったよ」
そう頷いて、意気揚々と扉を開けるガルドラの後に続いていった。
「来たようだな……おや、ガルドラも一緒か」
中に入るとそこには族長であるガルルガの姿。
白い髭に眉を携え、狼の毛皮を背中に羽織った老人であるがその眼光は衰えることとはなく俺を射抜く。
「よう親父、いい知らせが……ってなんだぁ? 客人か」
この村に珍しい、と呟くガルドラ。
ガルドラの後ろから、家の中を覗くと、そこには森で助けた女性、セッカが座っている。
人間と対立状態にある人狼族の村に用事があるなんて、珍しいとは思ったが族長のお客さんだったのか。
「っ……!」
ちらりと目が合ったが、約束はしっかり守ってくれているようで。
愛想笑いを浮かべるのみで目線をそらしてくれ、俺はほっと心の中でそっと息をつく。
「客人かぁではない……まったく、すまぬのぉ。うちの倅は体は大きいが外を知らぬゆえに礼儀を知らぬ」
「何、我は構わぬよ。なにやら大事な話のようじゃし、聞いてやるべきよ。我の話は長くなるしな」
「すまない。それでどうしたガルドラ」
「あぁ、あんたが怯えてた森の魔物……俺が退治してきてやったぜ‼︎」
そう言って紐で括られた首を見せつけるガルドラ。
すごい残念そうなものを見る目でセッカがガルドラを見ている。
というか小さな声で「うわー」とか言ってる。
「なんと、あの魔物をか」
「あぁ、怯えるこたねえ。森に潜んでたのはこのタイニードラゴンだ。俺にかかれば恐れるに足らねえ雑魚魔物だったぜ」
得意げに胸を張るガルドラ
やめてセッカ。「なんなのこいつ?」という表情で指を指さないで。
あとこっち見るなバレるだろ。
「流石はわしの息子よ‼︎ このような魔物に怯え森を塞いでしまったとは……おかげで村を飢えさせるところだったわ。 わしもそろそろ引退を考えるべきかのぉ」
「そうだぜ親父‼︎ この俺にまかせれば、村はなにも心配いらねえ‼︎」
「ふはは、頼もしく育ちおって。 鼻が高いぞ‼︎」
なにやら楽しそうに笑いあうガルドラとガルルガ。 その笑い方は似た者親子という言葉がぴったりであり、そのいつもの光景をぼーっと眺めながら眺めていると。
「はて、これは異な事を申すものよなガルドラ殿」
ふとセッカが口を挟むようにガルドラの名前を呼ぶ。
その表情は何か良からぬ企みをしているのが丸わかりな笑みを浮かべており、余計なことをするなと視線を飛ばすがあっさりと無視された。
「なんだぁ? お客人……なにが変だってんだ?」
「いやいや、これ以上おかしなことがあろうか? 黒龍の幼体の首を引っさげてこれをタイニードラゴンと叫ぶのだからの」
「こ、黒龍の幼体だと‼︎? それは本当かセッカ殿」
黒龍といえば、神に最も近く、時に神すらも殺すと言われる魔物であり、幼体と言えども一度人の前に現れれば街一つは簡単に消し炭にすると言われる魔物である。
「は、ははは。そうだったのか、弱すぎて間違えちまったぜ。なにせ勝負は一瞬だったからなぁ」
ガルドラは顔を引きつらせながら、わざとらしく笑い声をあげる。
セッカの表情を見るとうんざりしたような顔を作ると。
「それはそれは素晴らしき力。 では一つその力をお見せ願いたいものよな」
「え?」
「人狼族の力、幼体と言えども神を食らう黒龍。その首を落とす様をぜひぜひ我に見せていただきたい。ガルドラ殿……その手に持った首を一部両断して見せてはくれぬかの?」
だらんと垂れ下がった首を指差し不敵に笑う。
「な、なんでそんなこと……」
ガルドラの額から冷や汗が滝のように流れるが。
刺すようなセッカの瞳がガルドラを射抜く。
悪魔も裸足で逃げ出しそうなほど怖い笑顔……絶対セッカは性格が悪い。
「ははは、面白いことをいうなセッカ殿。 同盟の前に力試しというわけか……見せてやりなさいガルドラ。 ワシも息子の成長を見てみたいからな」
「う、うぐぅっ‼︎?」
族長の言葉がさらにガルドラを追い詰め、ガルドラの呼吸が荒くなるのがわかる。
なんだかガルドラが可哀想になってきたので、助け舟を出して見ることにした。
「が、ガルドラはさっきの戦いで……」
「貴様は黙っていろなりそこない‼︎」
まぁそうなるだろうとは思ったけど。
フォローを入れようと俺は口を開くが、族長の一括によりかき消される。
人の話を聞かないのは族長譲りなのだろう。
セッカの方を見ると、口元がヒクついている……あれは絶対に笑いをこらえている顔だ。
「ぷぷっ……こほん。 どうされた? ガルドラ殿、もしや出来ないのでは?」
邪悪な笑顔は完全に悪魔の微笑みであり、その言葉にガルドラはプルプルと震えながらも。最後には観念したのか、叩きつけるように床にドラゴンの首を置く。
「できらぁ‼︎ やってやろうじゃねえか、出来ねえわけがねえ。 俺は次期族長のガルドラ様なんだからなぁ‼︎」
そういうと、ガルドラは自らの体を人狼へと変化させていく。
大口を叩くだけあり、一応実力は村の中でも一、二を争うガルドラ。
若さ故に戦術や体術はベテランの戦士に劣る部分はあるものの、その怪力と肉体の強靭さは他とは一線を画すものがあり、爪の硬度は鋼鉄をはるかに凌駕する。
その威力は、鎧を身にまとった人間を鎧ごと両断するほどであり。
「うおりゃあああああぁ‼︎」
そんな強靭な一撃を、ガルドラは全霊を持ってドラゴンの首へと叩き込む。
だが。
―――ポキン
「あ、折れた」
「なっ……なっ……」
先ほどの説明がバカらしくなるほどあっけなくガルドラの爪が音を立てて折れる。
しかも一本だけではない、ガルドラの右手の爪全てが小枝のように折れて床に転がる。
もちろんドラゴンのクビには傷一つない。
呆然とするガルドラを前に、セッカは満面の笑みを向けた。
「おやおやおやぁ? 首を切るどころか爪が折れてしまったようだのぉ? 確かに勝負は一瞬だったが」
「こ、これはどう言うことだガルドラ!?」
「ち、違う……これは、本当は……」
慌てて言い訳を模索するガルドラ。しかし弱った獲物を追い詰めるようにセッカは瞳を光らせて逃げ道を塞ぐ。
「本当は? なんだろうかの、本当は誰かほかの人間に倒してもらいました、かの?」
ちらりと俺を目を見るセッカ。 その言葉に族長とガルドラの目が一斉に俺へと集まる。
「お、おい約束しただろ‼︎? そのことは言うなって……あっ」
俺の馬鹿……自分で話してどうする。
知らぬ存ぜぬを通せば良かったのに、今の自分の言葉で完全に自分の首を絞める。
「テメエ‼︎ 計りやがったな、なりそこないが‼︎ 追放だ‼︎ いや、ここでぶっ殺してやる‼︎」
人狼の姿のまま、牙をむき出しにして迫るガルドラ。
正直自業自得にも思えるが、それでもそんな言い訳が通じる相手ではない。
それに、族長の前でこれだけガルドラに恥を書かせてしまったのだ。
当然俺はこの後追放だろう。
牙とガルドラの残った爪が振り下ろされるまでの間の刹那。
俺は少しだけ思案をすることにした。
まず、このまま気分良く殴らせてもきっと追放は変わらない。
恨みを込めてセッカを見るが、気分良さそうにコロコロと笑うその表情は約束を破った反省どころか満足げだ……この野郎。
こうなると痛い思いをして追放されるか。
抵抗をした後に追放されるか二つに一つ。
「……よし、潰そう」
ならば当然、最後くらいは自分の満足できる行動を取ろうと、俺は銅の剣に手をかけ。
今までのお礼も込めて、俺は銅の剣を抜き、迫る左手の爪全てを丁寧に切り落とす。
「へ? なっ……ぶっふおおぉ」
あの程度の硬さのドラゴンの首すら落とせない爪など小枝同然であり、呆然とするガルドラの顎を鞘で思いっきりぶっ叩く。
鈍い音が響き、牙が音を立ててボロボロと崩れた。
うん……もう失うものがないって思うと意外とスッキリするものだ。
武器を使って卑怯かもしれないし、誇りもないかもしれないが、もうこの村にいられなくなるならそんなものに縛られる必要もない。
「な、なんで……なんで俺が、なりそこないなんぞに」
涙目で床を転がりながらそう零すガルドラ。
「さぁ、武器を使ってるからじゃないか? それよりも覚悟はいい?」
「ひっ‼︎? た、助けて……助けて‼︎?」
「ダメだね」
そんなガルドラに対して俺は率直な感想を述べ、戦いという名の蹂躙をガルドラが意識を手放すまで続けたのち、泣き叫びながら止めに入った族長の命令により、晴れて村を追放されることになる。
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高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~
平山和人
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主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。
三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。
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アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。
襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。
果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。
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