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アンロック

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「ぬあああああああああぁ!!?!」

 辺り一帯を薙ぎ払う勇者の剣の一撃。

 威力の底上げのため、覚えたての「スマッシュ」のスキルも併用した正真正銘、僕の出せる最大火力。

 その光の剣は一瞬にしてレッドブルと、その配下、加えてマオの呼び出した魔物達を飲み込む。

 やがて勇者の剣は光を失い、ゆっくりと世界に夜が戻る。

 残されたのは僕とマオとフレン。

 そして、胴体が真っ二つになった状態で倒れるレッドブルのみ。

「や、やった。 やった!! 倒した!!?」

 安堵に僕は息を漏らしてその場にへたり込む。
 間違いなくレッドブルは息絶えており。

 町に被害は一つもない。

 勇者として、僕は魔王軍幹部を倒したのだ。

 「は、ははは。やったよ、姉ちゃん」

 嬉しさに僕は震えながら勝利を噛み締める。

 だが。

「ほぅ、勇者の力を使わずにレッドブルを打ち倒しますか。ふふふ、素晴らしい、さすがは私の最高傑作です。だけど、こんなものでは終わりませんよ。何せ、彼は改造されてますからね?」

   水を差すような聞き覚えのある声。

   思わず背後を振り返るとそこには、僕を連れ去った白衣の男が立っていた。

   昔と変わらぬ薄ら笑いを浮かべるその男は……。

「お前は……ルシド」

  僕を連れ去り、勇者復活の実験体にしようとした張本人であり、ブレイブハザードを引き起こした元凶である。

「随分と成長をしましたね。流石は勇者だ……だが、人を見る目は養う必要がありそうですね。まさかあんなゴミを仲間にしているなんて」

  ニヤリとルシドは笑い、視線を背後に向ける……その視線を追うとそこには、ボロボロの状態で倒れているマオとフレンの姿があった。

「マオ⁉︎ フレン………‼︎」

 変わり果てた二人の姿に僕は左腕を獣人化させ拳を握る。

  こいつは……こいつだけは生かしてちゃいけない男だ。

 この男が、今回の事件に関わっているなら。

 一刻も早く、◼️さなければ、じゃないと……また……。


「おぉ怖い怖い……ですがいいんですか? まだ、後ろの怪物は諦めていないようですが?」

「!!!!」

    余裕に満ちたルシドの言葉……その言葉に我にかえり、背後を見る。

「おおおおおおあああああああああ!!!」

 そこには、もはや動ける状態ではないはずのレッドブルが、全身から血を撒き散らしながら迫ってくる姿。
 
 どう見ても死んでいるようにしか見えないと言うのに。
 それでも、レッドブルは意識もない状態で僕へと突進を仕掛けてきていた。l

 全力の一撃を放った後。

 魔力も力もほとんど残っておらず、僕はただその突進を見つめることしか出来ない。

 だが。

「ユウ君!!!」

 僕がレッドブルに貫かれる直前。

 
 聴き慣れた声と共に、待ち望んでいた声と共に、その人は僕とレッドブルの間に立ち、その突進を受け止める。

「!?」
 
 魔王軍幹部の全霊の突進を、杖一本で受け止める。

 そんなことができるのは、この世でたった一人しかいるはずなく。

「遅いんだよ、姉ちゃん」

 僕は泣きそうになりながらも、そう呟いて膝をつく。

 でもそれは間違いだった。

 姉ちゃんが来たからもう安心なのだと。

 これで終わりなのだと油断した。

 だから。

「ユウ君……これから起こることはユウ君のせいじゃないから、気にしちゃダメだよ」

 姉ちゃんが最初、何を言ったのかわからなかった。

 だが。

【アンロック】

 突進を受け止められたレッドブルは、姉ちゃんの杖を掴むと、最早言葉とは思えないほどに歪んだ声で確かにそう言い放ち。

 同時に、何かが割れるような音と共に。

「え?」

 僕の体を食い破るように、無数の腕が、触手が、皮膚を破り吹き出したのだった。


 「がっ、はっ、あ、な、な、な、なにこれ!? なんだよこれええぇ!!?!?」

「っユウ君!!」

 体からこぼれ落ちるように、血や臓器と一緒に僕の体から触手や魔物の腕や顔のようなものがこぼれ落ち、その全てが地面に落ちた後生き物のように僕の体にまとわりつく。

 気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!

 振り払おうともがくが、スライム状の肉は剥がれることなく僕の体を覆っていく。
 
【寄越セ、オ前ノ体ヲ、寄越セ】

 這い寄る肉塊から声が聞こえる。

 これはなんなのか、どうしてこんなものが僕の体の中から出て来るのか。


 それは分からない。

 分からないけど。


「ユウ君⁉︎ この───ッ‼︎」

   杖から剣を抜き、姉ちゃんは怒りに任せるようにレッドブルの首を刎ねると。

   杖を投げ捨てて僕へと駆け寄ってくる。

   何が起こっているのかは分からなかったが、少なくとも僕を怪物にしたのは姉ちゃんじゃない。

 それだけは何となくわかった。

「姉、ちゃん? これ、どう、どうなってるの?」

「大丈夫……お姉ちゃんがすぐに元にもどしてあげるから‼︎」

   助けを求めるように僕は手を伸ばすと、姉ちゃんは姉ちゃんは僕の手を握ってその場に魔法陣を展開する。

 それは封印の魔法であり、封印を施されると体を這う肉塊が、ゆっくりと引いていく。

   だが。

「あぁ、これで厄介な封印と貴方を同時に始末できます。感謝しますよ、レッドブルさん」

「っ────姉ちゃん後ろ‼︎」

   ねっとりとした声が響き、白衣を着た男は姉ちゃんの仕込み杖を拾い上げると、その背後から姉ちゃんを突き刺そうとする。

   姉ちゃんなら、僕を守りながらその剣を弾き飛ばすことなんて簡単なはずだった。

   だけど。
  
「いいの……」

   姉ちゃんは振り返ることも微動だにすることもなく、その一撃を受け入れた。
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