実験体として勇者にされた僕 最強賢者の姉ちゃんに助けられて溺愛されたけど 過保護すぎるせいで全然強くなれません

nagamiyuuichi

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不穏な影

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「ゔっ……ぐぅ」
  
 ───賢者アンネの一撃により敗北したレッドブルが意識を取り戻したのは、薄暗い洞窟の中であった。

「……偶然ここに落ちてきたってわけじゃなさそうだな」

  全身に走る痛みを堪えながら体を起こしてみると、あたりには治療のに使用された霊薬や魔法陣の跡が残っており、体を見れば勇者と魔法使いに付けられた傷のほとんどが癒えていた。

  一体誰が……。

  そうレッドブルが思案をめぐらしたのとほぼ同時に。

「おや、お目覚めになったようですねレッドブル様」

  そんな声が洞窟の奥から響く。

 「誰だテメェ?」

  警戒をするようにレッドブルは唸るように声の主に問いかけると。

「おぉこわいこわい。手負いで気が立っているのは分かりますが、私は命の恩人なのですからもう少し敬意を払っていただきたいものですねぇ」

  洞窟の暗がりの中から、白衣に身を包んだ一人の男が現れた。

「恩人……ってーと、治療はお前が?」

  レッドブルの問いかけに、男は肩を竦めながら「まぁね」と呟いて肯定をする。

「苦労したんですよ? 全身の大火傷に加えて内臓破裂……骨なんて頭蓋を含んだ半分以上が粉砕骨折……私じゃなければ間違いなく死んでいましたよ?」

  嘘を言っている様子はなく、気さくに話しかけてくる男。
  だが、暗闇から光るその瞳は虚で、まるで何かの品定めをしているかのような表情に、レッドブルは言いようのない不気味さを覚える。
 
「人間のくせに魔物に……それも俺を魔王軍幹部と知っていながら手を貸すなんてな。お前、いかれてるってよく言われるだろう?」

   皮肉を込めながらレッドブルはそう男に対して軽口を叩くと。

「ふふふ、まぁ天才にはつきものの誹謗中傷ですよ。それに、貴方を助けることはわたしの利益にも繋がります」

「あん? まさか助けてくれたお礼に俺がお前の言う事を聞くとでも思ってんのか?」

「それこそまさかですよ。貴方を助けたのは簡単な話です、私が邪魔に思っている女と貴方が復讐したい女。それが合致していると言うだけです」

   その言葉に、レッドブルの脳裏に自らをここまで追い詰めた頭のイカれた賢者の姿が浮かぶ。

「はっ、力を合わせりゃあの化け物に勝てるって? たしかに回復魔法の腕はあるみてぇだが。お前があの化物に対抗できるほどの魔法使いにゃ見えねえぞ?」

 ヒョロヒョロの体に、魔力こそ高いがそれでも内包する魔力はあの賢者の1000分の1程度。

 とてもでは無いが力量差を埋める要因にはならない。
 加えて、あちらには賢者だけでなく魔竜ファブニールを一撃で屠った勇者がいるのだ。

 レッドブルはため息を漏らして要求を却下しようとするが。

「たしかに力はありません。ですが、私は弱点を知っている」

 男はそんなレッドブルを蠱惑的な言葉で誘惑した。

「なに?」

「あの賢者はたしかに馬鹿げた力を持っていますが、それには理由があります。そして貴方の能力を使えば、あの馬鹿げた力は無効化できる」

 ニヤリと笑う男の言葉は、自らの持つ【アンロック】の力のことを指しているのだとレッドブルは悟る。

「だから俺を助けたのか? てめぇ、何処で俺のことを知りやがった」

「ふふふ、それは企業秘密ということでお願いします」

「あん?」

「私にも色々とあるのですよ。それに、貴方だって本気でそんなことを知りたいわけではないでしょう?」

「ちっ、ふざけた野郎だ」

 ふざけた態度にレッドブルは悪態をつくが、この男の言う通り、そんなことはたしかにどうでもいい。

 大事なのは、勇者の抹殺に魔王軍の脅威を排除することだ。

「それで、如何いたします?」

「決まってんだろ?力を貸してやる。だが、裏切ったらタダじゃおかねえぞ」

「心得ておりますよ。では、契約成立ということで、早速あの女の弱点ですが」

「まて、その前に一つ聞かせろ」

 饒舌に話を進めようとする男を、レッドブルは静止する。

「はて、まだ何か?」

「素性はどうでもいいが、お前の目的を聞かせろ。じゃなきゃ信用ができん」

 正直目的があろうがなかろうがこの男が信頼できるか否かに変化は訪れない。

   だが、魔物の味方をするでもなく、それでいて人間の味方である賢者を敵視するその白衣の男。

   レッドブルはそんなどっちつかずの男に興味が湧いたため、そんな質問を投げかける。

「変なこと聞きますねぇ」

「うるせぇ、さっさと教えろ」

 半ば強引な態度に男は仕方ないですねぇとため息を漏らすと。

「私はただ、自分が作った作品を返してもらいたいだけですよ」

 そう、悪辣さと執着心を混ぜ合わせたような歪な顔で微笑ったのであった。

  □
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