上 下
36 / 46

またまた一難去って

しおりを挟む
   その後の話だが。
 
   魔王軍幹部不在のアジトの末路は悲惨なもので、不機嫌なままに魔法を乱打するねーちゃんにより、巨大であった建物はものの三十分程度で瓦礫しか残らない廃墟となった。

   中にいた魔王軍の残党は、騒ぎを駆けつけた衛兵に助けを求める形で会えなく御用となり、こうして魔王軍幹部レッドブルによるウーノの街侵略は見事失敗に終わったのであった。

   空の彼方に吹き飛ばされたレッドブルの行方や運び込まれた麻薬についての栽培場や販売先についてだが、それは僕たちの手には負えないからとアーノルドさんに(姉ちゃんが半ば一方的に)引き継いだのだが。

   アーノルドさんは「本当に相変わらずだね」と苦笑をひとつ浮かべはしたが、それ以上は何も言わずに承諾をしてくれた。

   この時僕は、二人の間にある奇妙な友情のような信頼関係に嫉妬をしたのだが。
  
   それはさておいて、こうして行方不明者の捜索クエストは幕を下ろしたのであった。


「……それで、奴さんの容体は?」

   ブラックマーケットでの一件からすぐに、僕たちが行ったのはサイモンの治療であった。
  
   とはいえ、冤罪ではあったものの、一応彼女は指名手配を受けているお尋ね者。
  
   アーノルドさんが麻薬についての捜査と一緒に彼女の無実を証明するために動いてくれてはいるが、それまでは普通の診療所に連れていくわけにもいかない。

   苦肉の策として懇意にしているお医者さんを姉ちゃんが拉致し……呼びつけて僕の家で治療をすることになったのだが。

「あんまり芳しくないね。容体は安定したからってお医者さんは帰ったけど、麻薬の中毒症状に加えて衰弱もしてるから、しばらくは魔法で眠らせ続けた方が良いって」

「眠らせるだけねぇ。 アンネの魔法を持ってしても、薬物中毒は治らないってか」

「そうみたい……こればっかりは時間をかけて直すしかないってさ」

「はぁ……金にならねぇばかりか看病までしなきゃいけねぇのかよ。厄日だな全く」

「別にいいだろ? 君は何もしてないんだからさ」

「俺だって扉の鍵開けとか色々やっただろーが‼︎」

   フレンはそう言って不貞腐れると、ソファの上に横になった。

   フレンがこうして荒れている理由は、今回の依頼についての報酬はもらわないという方向で落ち着いたからである。

   サイモンに賞金がかけられているのは、あくまであの薬を盗み出し売り捌いている人間であると冤罪をかけられたがゆえだ。

   もちろん、彼女を突き出せば約束通り報酬はもらえるだろうが、国を守るために体を張った上に冤罪をかけられた少女に追い討ちをかけるようなやり方はできないということで、僕たちは報酬を諦めざるを得なかったのである。

「まったく。フレンだって、彼女を保護するってことには賛成しただろ?」

「それとこれとは話は別ですー!」

「まったく」

 不貞腐れるフレンにこれ以上言っても無駄だと判断して、反対のソファに腰を落ち着かせる。

「そういや、医者は帰ったんだろ?……アンネは何してんだよ?」

「せめて少しでも良くなるようにって、回復の魔法をかけてるみたい。気休め程度にしかならないけれども少しぐらいは役に立つからって」

「へぇ、案外いいところあるんだな」

   意外そうにフレンは呟くが「案外じゃないよ」と僕は唇を尖らせる。

「元々姉ちゃんは優しい人だよ。そりゃ、ちょっと暴走気味になる時もあるけど……でも、昔から傷ついた人や苦しんでる人は放っておけない根っからのお人好しだよ」

「お人好しねぇ……」

   訝しげにフレンは顔を顰めるが。

   姉ちゃんは昔から……優しくてお人好しで、おっちょこちょいのただの普通の人だった。

 そう、普通の女の子だったのだ。
  

   ────本当の弟じゃないから、姉ちゃんは僕を助けてくれないの?


 ふと、昔の思い出が胸を抉る。
  
  そんな普通だった姉ちゃんを、歪めたのは他でもない僕なのだと、改めて戒める様に。
  
「ユウ?」

「‼︎ え、あぁごめん」

「急にぼーっとして、大丈夫か?」

   心配そうにこちらを見るフレン。

 おそらくよほど呆けた顔をしていたのだろう。

「大丈夫大丈夫。少し考え事してただけだから」

「そうか? ならいいんだけどよ」

「うん、心配してくれてありがとう。それで、何だっけ?」

「いや……そういえばアンネはともかく、マオの奴どこいったのかなって」

「あぁ。マオも姉ちゃんと一緒にサイモンの看病をしているよ」

   容体も落ち着いたからマオも少し休憩するようにと誘ったのだが。

「少しアンネと話があるのじゃ」と言ってサイモンが寝ている部屋に残ったのだ。

「アンネと? おいおい大丈夫なのかよ、あいつら二人きりにして」

   まるで妹を心配する兄みたいな顔でフレンはそう聞いてくるが。
  
「まぁ大丈夫じゃないの? 本人が残るって言い出したんだし」

「そうだけどよぉ」

 納得をしていない表情でフレンはソファから体を起こす。

 なんだかんだマオのこと好きだよなフレンのやつ。

「心配しすぎだよ……それに姉ちゃんだって、マオが悪い子じゃないって言うのはもう分かってるわけだし、万が一バレても大事には……」

   ならない……そう僕が口にしようとした瞬間。

「──────ッ私達のッ邪魔をしないでっ‼︎」

   怒りに満ちた姉ちゃんの怒号が部屋に響き渡った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

処理中です...