実験体として勇者にされた僕 最強賢者の姉ちゃんに助けられて溺愛されたけど 過保護すぎるせいで全然強くなれません

nagamiyuuichi

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魔王軍幹部レッドブル

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   僕の質問を誤魔化すような轟音と共に、姉ちゃん雷が通気口を破り頭上から魔物を穿つ。

「なんーーー‼︎? べほまぁ‼︎?」

   雷の直撃を受けた魔物は言葉にならないような悲鳴をあげながら壁に叩きつけられる。

「……よし、今だよユウくん」

   姉ちゃんの合図と同時に僕たちは破られた通気口から部屋へと降り立ち、囚われたサイエンの様子を確認する。

「……よし、目立った怪我はないし、注射の後もないね。よかった」

「あ、えと……あなた方は?」

    突然の乱入者に、ぽかんとした表情で僕たちをみるサイエン。
 
   魔物と密着状態であった彼女だが、意識もはっきりとしており髪の毛一本焦げ付いた様子はない。

   雷から発生するダメージを全て魔物に集約するように操作をしたのだろう。

   流石は姉ちゃん、抜群の魔力コントロールだ。

「貴方の捜索依頼を受けて助けにきました。 僕はユウ……その、一応勇者です」

「勇者? では、あなたがあの……」
  
   サイエンさんは少し驚いたような表情を見せながら、眼鏡を掛け直して何かを言いかけるが。

「うがあああああああ‼︎」

   会話を遮るような雄叫びと同時に、壁に叩きつけられていた魔物が立ち上がる。


「嘘でしょ?」

   ――思わず息を飲む。

   姉ちゃんの魔法は間違いなく命中をしていた。

   魔物の体から焚き火のように煙が上がっていることから、幻影やトリックの類ではないことは間違いない。
 
    つまり……この魔物は姉ちゃんの魔法を耐えるだけの力を有した魔物だということだ。

「お、おいおい、アンネの魔法を食らったってのに……まさかアンネの魔法が効いてないんじゃ‼︎?」

「う、うそぉ!? お姉ちゃん結構強めに魔力を込めたんだけど‼︎?」

   魔法を耐えられ慌てた様子の姉ちゃんに魔物は不適に笑みを零しーーー。


 
「ふ、ふふふ、当然だろう。俺の体は魔物との融合により強力な魔力耐性を付与されているたかが人間ごときの魔法が、この俺様に効くわけ……わけ……おえぇ」

   ――えずくように口から血を吐いた。 

「……という訳でもなさそうじゃぞ?」

   よく見れば、煙を上げる魔物の体はあちこち焦げ付いており。
 
   威風堂々と立っていたかのように見えた足も、ガクガクと膝が笑っている。

    ……いや、そもそも姉ちゃんの魔法を受けてその程度で済んでいるだけでもすごいのだが。

「なんだよ、ただの痩せ我慢か……驚かせやがって」

「はあぁ‼︎? 痩せ我慢なんてしてねーし‼︎ ぜんっぜん余裕だから‼︎ まだあと三発ぐらいなら余裕で耐えられっから‼︎」

「……意外とギリギリじゃな」

「うるせえぇ‼︎ 大体、お前らは一体なんなんだよ‼︎? いきなり頭上から爆撃なんて仕掛けやがって、いったいどう言う教育受けてんだてめえら‼︎」

「いたいけな女の子をいたぶるような赤べこさんに教育うんぬんを言われたくないわよ。言っておくけれどお姉ちゃん本気で怒ってるんだからね赤べこさん。お姉ちゃんの魔法とユウくんの勇者の剣のサビになりたくなかったら、さっさと盗んだ研究サンプルを返して農家のおじさんに乳搾りでもしてもらいなさい‼︎」

「誰が赤べこで乳牛だてめぇ‼︎? 勇者だかなんだかしらねぇが……え? 勇者? 勇者復活って失敗したんじゃ……いやまぁこの際そんなこたどうでもいいか。 とにかく、誰だか知らねえがこれだけは覚えておけ‼︎俺は歴とした闘牛の魔物だし、ちゃんとレッドブルって名前だってあるんだよ‼︎」

「赤べこじゃねーか」

「レ ッ ド ブ ル‼︎‼」

   耳から煙を吹き出しながら怒りをあらわにする赤べこ。
 
   なんだか見ている限りはとても姉ちゃんの魔法に耐えられるほどの高位の魔物には見えないのだが……。

   しかし僕たちのやりとりにサイエンは怯えたように僕の袖を引いた。

「どうしたの?」

「あ、あんまり刺激をしては危険です……あいつはああ見えて、魔王軍の幹部を務める魔物なんですから‼︎?」

「魔王軍……幹部?」

    サイエンの言葉に、僕は振り返ると、レッドブルは勝ち誇ったかのように高笑いを始める。

「ふははは‼︎ そうとも、その女の言うとおり俺様こそが魔王軍幹部……侵略のレッドブル様だ‼︎」

「「「「ふーん」」」」

   サイエンを除く全員の気の抜けた返事が部屋に響いた。
  
「ふーん‼︎?  いや、なんだよその感想‼︎? もっとこう、驚くとかじゃねーのか普通‼︎?」

「そう言われても……」

「なぁ、ちょっとインパクトに欠けるっつーか二番煎じっつーか」

    もうすでにその下りはマオでやったし。

 「インパクト‼︎? いやいやおかしいだろ? 魔王軍幹部だよ俺様‼︎? もっと、わーー、とか、ぎゃーーとか、助けてーとか、そんな感じの悲鳴を上げるのが普通……」

『エクステッドファイアーボール‼︎』

「わあああああああぁ、ぎゃあああああぁ‼︎? たす、助けてえええぇ‼︎? 」

   狼狽えるレッドブルに姉ちゃんの火炎魔法が容赦なく叩き込まれる。

   文字通り火達磨になったレッドブルは、悲痛な声を上げながらゴロゴロと床を転がる。

   ……部屋に美味しそうな匂いが漂い始めた。

「本当だー……消し炭にしようと思ったんだけどまだ形が残ってる-!」

   そこには、火達磨になりながら床を転がる魔物を見下ろしながら微笑む女性がいた。
 
   姉だった。

「てめぇこのくそ女‼︎? 今俺が話してる最中だっただろうが、さっきといい今といい不意打ちばっかりしやがってこの卑怯者が‼ お前ら勇者とか言ってなかったか‼︎? これが勇者のやることかよ‼︎」

   体に纏わりついていた火が沈下すると、レッドブルは身体中から煙を上げながらゆらりと立ち上がり、姉ちゃんを指差し正論を語るが。

   姉ちゃんはその言葉にキョトンとした表情で首を傾げ……。

「え? だってあなた魔王軍なんでしょ? 魔王軍は全員ユウくんの敵なの。ユウくんの敵には燃えるゴミか燃えないゴミかのどちらかしかないから……生ゴミの処理に、卑怯って言葉は使わないよね?」

   ……暴論を投げ返す。
 
「わ、悪びれるどころか生ゴミ処理って……あぁもぅなんだよこの街は‼︎ 平和ボケしてるお陰で資金調達で使ってる間は問題なかったのに……魔王様の命令でいざ落とそうと進軍してみりゃろくなことが起こりやがらねえ‼︎? 突撃隊長のオーガは変な石の巨人に爆殺されるし、増援で送られて来た兵士たちは身ぐるみ剥がされたので養ってくださいって泣きついてくるし!? 挙げ句の果てにはわけのわからん魔法使いに生ゴミ扱い…… あああぁぁ、本当何なんんだこの街はあぁ‼︎」

   怒り狂うように地団駄を踏む魔物に僕はちらりと横目で姉ちゃんを見ると、姉ちゃんはそれに合わせるように顔をそっぽに向けた。

「ねぇあの人が怒ってるのって、全部姉ちゃんの……」

『エ、エクステッドライトニングボルトオおおお‼︎』

「ひああああああああぁ‼︎」

   質問を遮るように、姉ちゃんが放った雷は轟音を響かせて魔物を穿つ。
 
   犯行の発覚を恐れ、魔物の抹殺を目論む女性がいた。

   姉だった。
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