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フレンの力
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フレンの入った店へ入ると、珈琲の香りがツンと鼻をつき、聞くからに古めかしい音楽が店の中に響いている。
ここは喫茶店だろうか?
見回すと、こじんまりとした店内には客は少女一人だけ。
静かにコーヒーを片手に本を読む姿は一見普通に映るが、本の背表紙に描かれた「殺人をする前に覚えたい100の死体の隠し方」という文字に慌てて視線を逸らす。
普通の喫茶店に見えても、ここもしっかりと裏社会の中のようだ。
「ちょっと物騒な人もいるみたいだけど案外普通の場所だねユウくん、お姉ちゃんブラックマーケットの喫茶店ってナイフをベロベロ舐めながら賭博するようなヒャッハーのたまり場ってイメージだったんだけど」
「何そのカオス空間……」
大体姉ちゃんがおかしなことをしたり語り始める時というのは、本や歴史書に影響をうけた時なのだが。
今度は一体何に影響をされたのやら……。
「期待に添えなくて悪いがどこもこんなもんだぞ? 治安が悪いっつったって、ウーノの街中に比べればってだけだからな……それでも人攫いや強盗はしょっちゅうだから近寄りたくはねえけどな」
「なんだ、そうなのね」
「なんで残念そうなんだよアンネ………」
残念そうに口を尖らせる姉ちゃんにフレンはは呆れたようにため息を漏らすが、まぁいいかと呟いて酒場のカウンターへと向かい、後ろを向いて作業をしている女性の元へと歩いていき声をかける。
「よぉマスター、今日は珍しく繁盛してんじゃねえか」
ガラガラの店に対するいつものような皮肉。
そんな失礼極まりないセリフに、声をかけられた女性はゆっくりと振り返る。
褐色の肌に茜色の髪の女性は、フレンの姿を見ると嬉しそうに口角をく、と上げて微笑んだ。
「あらあら……誰かと思えばフレンじゃないかい。随分と久しぶりだねぇ、何してたんだい?」
「まぁ最近は忙しくてな」
「あんたがかい? はっ、世も末だねぇ」
「おいこらどういう意味だよ」
「そういう意味さね……あんたが忙しい時は大体騒ぎが起こるからね。疫病神には年中暇していて欲しいってもんさ」
「ったくどいつもこいつも……まぁいいや。それよりも、今日は聞きたいことがあってな」
「だろうと思ったよ……お友達を連れてくるような場所じゃあないからねぇ……とするとあんた達がこいつがよく話してる勇者様御一行かい?」
「あ、はい……ユウって言います。一応、勇者です」
「ほぉ……可愛い子じゃないか。 私はミコト、このブラックマーケットで酒場と、ついでにこの辺りの相談役を請け負ってる。 呼び方なんてどうでもいいけれど、ここいらの奴らからは姉御……なんて呼ばれてるね」
「姉御……むむっ、つまりはお姉ちゃん……」
「姉ちゃん……対抗心燃やさなくていいから」
警戒するように唸る姉ちゃんに、ミコトさんは気分を害する様子もなくカラカラと笑う。
「ははは、そう警戒しなくたってつまみ食いなんてしたりしないよ。その話ぶりからしてあんたがアンネだね?」
「むっ……ユウくんのお姉ちゃんのアンネです」
警戒するように唇を尖らせてそう挨拶をする姉ちゃん。
それに続くようにして、マオは行儀悪くカウンターの椅子の上に立つと胸を張る。
「そしてすーぱーせくしーでぷりちーで偉大なる妾は、マオリーシャ・シン・ウロボロスじゃ‼︎ ふははははは、この妾の素晴らしさを恐れ敬うが良いぞ‼︎」
「お前はいちいち叫ばねえと自己紹介ができねえのかロリっ子。店中で叫ぶんじゃねえよ迷惑だろ」
「何を言うか、偉大なる存在の自己紹介は常に四方三里に届くものなのじゃ‼︎ 品格あるが故なのじゃ‼︎」
「どっちかって言うと……元気いっぱいの幼児の挨拶って感じだけどな」
「誰が幼児じゃ垂れ目こらぁ‼︎?」
フレンの軽口に、歯を剥き出しにして唸るマオ。
そんな二人のやりとりをミコトさんは諫めるではなく、代わりに何か引っかかるような表情を浮かべる。
「ウロボロス? その名前ってどっかで聞いたことがあるような……」
「‼︎?……」
「あぁ、そうだ思い出した、確かその名前、大昔のまお……」
「さ、さーて‼︎ 自己紹介もこれぐらいにして本題に入ろうぜミコト‼︎」
何やら勘付いたようなミコトさんに対し、フレンは慌てて会話の流れを変える。
あまりにも不自然な流れにミコトさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべるが。
すぐに状況を察してくれたのだろう。
「そうだね……長くなりそうだしコーヒーでもいれようかね。サービスするよ」
それ以上は何も問うこともせず、ひとつ貸しだよ……とでも言うようにウインクを一つなげてくる。
なるほど、この対応力……姉御なんて呼ばれるわけだ。
感心をしながら僕はつい隣の姉ちゃんと見比べてみる。
「? どうしたのユウくん、あ、分かった、お姉ちゃんとギューしたくなったんでしょ?」
……うーん完敗。
ここは喫茶店だろうか?
見回すと、こじんまりとした店内には客は少女一人だけ。
静かにコーヒーを片手に本を読む姿は一見普通に映るが、本の背表紙に描かれた「殺人をする前に覚えたい100の死体の隠し方」という文字に慌てて視線を逸らす。
普通の喫茶店に見えても、ここもしっかりと裏社会の中のようだ。
「ちょっと物騒な人もいるみたいだけど案外普通の場所だねユウくん、お姉ちゃんブラックマーケットの喫茶店ってナイフをベロベロ舐めながら賭博するようなヒャッハーのたまり場ってイメージだったんだけど」
「何そのカオス空間……」
大体姉ちゃんがおかしなことをしたり語り始める時というのは、本や歴史書に影響をうけた時なのだが。
今度は一体何に影響をされたのやら……。
「期待に添えなくて悪いがどこもこんなもんだぞ? 治安が悪いっつったって、ウーノの街中に比べればってだけだからな……それでも人攫いや強盗はしょっちゅうだから近寄りたくはねえけどな」
「なんだ、そうなのね」
「なんで残念そうなんだよアンネ………」
残念そうに口を尖らせる姉ちゃんにフレンはは呆れたようにため息を漏らすが、まぁいいかと呟いて酒場のカウンターへと向かい、後ろを向いて作業をしている女性の元へと歩いていき声をかける。
「よぉマスター、今日は珍しく繁盛してんじゃねえか」
ガラガラの店に対するいつものような皮肉。
そんな失礼極まりないセリフに、声をかけられた女性はゆっくりと振り返る。
褐色の肌に茜色の髪の女性は、フレンの姿を見ると嬉しそうに口角をく、と上げて微笑んだ。
「あらあら……誰かと思えばフレンじゃないかい。随分と久しぶりだねぇ、何してたんだい?」
「まぁ最近は忙しくてな」
「あんたがかい? はっ、世も末だねぇ」
「おいこらどういう意味だよ」
「そういう意味さね……あんたが忙しい時は大体騒ぎが起こるからね。疫病神には年中暇していて欲しいってもんさ」
「ったくどいつもこいつも……まぁいいや。それよりも、今日は聞きたいことがあってな」
「だろうと思ったよ……お友達を連れてくるような場所じゃあないからねぇ……とするとあんた達がこいつがよく話してる勇者様御一行かい?」
「あ、はい……ユウって言います。一応、勇者です」
「ほぉ……可愛い子じゃないか。 私はミコト、このブラックマーケットで酒場と、ついでにこの辺りの相談役を請け負ってる。 呼び方なんてどうでもいいけれど、ここいらの奴らからは姉御……なんて呼ばれてるね」
「姉御……むむっ、つまりはお姉ちゃん……」
「姉ちゃん……対抗心燃やさなくていいから」
警戒するように唸る姉ちゃんに、ミコトさんは気分を害する様子もなくカラカラと笑う。
「ははは、そう警戒しなくたってつまみ食いなんてしたりしないよ。その話ぶりからしてあんたがアンネだね?」
「むっ……ユウくんのお姉ちゃんのアンネです」
警戒するように唇を尖らせてそう挨拶をする姉ちゃん。
それに続くようにして、マオは行儀悪くカウンターの椅子の上に立つと胸を張る。
「そしてすーぱーせくしーでぷりちーで偉大なる妾は、マオリーシャ・シン・ウロボロスじゃ‼︎ ふははははは、この妾の素晴らしさを恐れ敬うが良いぞ‼︎」
「お前はいちいち叫ばねえと自己紹介ができねえのかロリっ子。店中で叫ぶんじゃねえよ迷惑だろ」
「何を言うか、偉大なる存在の自己紹介は常に四方三里に届くものなのじゃ‼︎ 品格あるが故なのじゃ‼︎」
「どっちかって言うと……元気いっぱいの幼児の挨拶って感じだけどな」
「誰が幼児じゃ垂れ目こらぁ‼︎?」
フレンの軽口に、歯を剥き出しにして唸るマオ。
そんな二人のやりとりをミコトさんは諫めるではなく、代わりに何か引っかかるような表情を浮かべる。
「ウロボロス? その名前ってどっかで聞いたことがあるような……」
「‼︎?……」
「あぁ、そうだ思い出した、確かその名前、大昔のまお……」
「さ、さーて‼︎ 自己紹介もこれぐらいにして本題に入ろうぜミコト‼︎」
何やら勘付いたようなミコトさんに対し、フレンは慌てて会話の流れを変える。
あまりにも不自然な流れにミコトさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべるが。
すぐに状況を察してくれたのだろう。
「そうだね……長くなりそうだしコーヒーでもいれようかね。サービスするよ」
それ以上は何も問うこともせず、ひとつ貸しだよ……とでも言うようにウインクを一つなげてくる。
なるほど、この対応力……姉御なんて呼ばれるわけだ。
感心をしながら僕はつい隣の姉ちゃんと見比べてみる。
「? どうしたのユウくん、あ、分かった、お姉ちゃんとギューしたくなったんでしょ?」
……うーん完敗。
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