上 下
20 / 46

変態の修練場

しおりを挟む
 大通りから少し外れた細道を抜け、街を二分する用水路を端で渡ると、西側の街、ギルド街が現れる。

 人々が行き交い、騒がしく生活をするための区画が東側ならこちら西側はそれらの生活を支える施設の管理を行う区画であり、紡績、鉄工、上下水道、肉屋、製パン、塗装、仕立て屋等々、街に住まう人々の生活を支えるための運営や管理を行うギルド本部が軒を連ねており。

 全体的に街の西側は厳かで物静かな印象を与える。

 そんな街の中央に建つ場違いなドーム状の建物が、訓練場だ。

「いつ見ても、本当街の西側の街並みに似つかわしくないよね。この場所」

 真っ白な訓練場を見上げながら僕はそう呟くと。

「まぁ、主な収益がお祭りの時に開催されるコロシアムの入場料と賭博の金だからな。金持ち貴族や血生臭い生活と無縁の奴らが通いやすいように西側に設置してあるのさ」

 つまらなそうにフレンはそんなことを教えてくれた。

「へー。でも意外だね、貴族向けの賭博施設をこの街の領主様が作るなんてさ」

 兎角この町の領主様は賭博に厳しく、世代交代と同時に国営のカジノまで潰したほどだと言うのに。

「ううん、違うよユウくん。ここはたしかにギルドが委託されて管理はしてるけど、この建物自体は個人で運営されてるんだよ?」

「え?個人で?」

「うん。世界中にあるし、ギルド関係なく誰でも使えるから国営とよく勘違いされるんだけれど、本当はSSSランク冒険者のアーノルドが作った訓練場ギルド【アームストロング】が管理運営している施設なの。詳しい経緯は情報屋のフレン君のほうが詳しいんじゃないかな?」

「そうなの? フレン」

「まぁ、俺も全部を知ってるってわけじゃねえが。もともとアームストロングって団体はギルドじゃなくて冒険者の育成と支援を目的とした小規模団体だったのさ。初めは細々と西の片田舎で運営をしてはいたんだが、当時団体のトップだったアーノルドが魔王軍幹部を倒して有名になってからは、支援団体を利用する客が激増……結果、需要に応えるためにギルド登録をして全国に波及させたらしい」

「なんでギルド登録を?」

「ギルドになると、所属者数に応じて国から援助金と施設の提供を受けられるようになるのと、魔王軍幹部を倒した人間が始めた新規のギルドともありゃ、投資をしたがる人間も多くいるだろうと踏んでの事さ。アーノルドは冒険者としての腕だけじゃなく、経営者としても腕が立つからな……思惑通り、アームストロングは個人経営にも関わらず、世界で5本の指に入る大ギルドにあっという間に成長をしたというわけさ」

「……なんか、色々とすごい人だってことはわかったけれど」

「そもそもじゃが、支援団体のトップが魔王軍幹部倒したって所がわけわからないんじゃけど、支援じゃないじゃん。最前線で殴ってるじゃん。その団体、誰も支援って言葉辞書で調べたことないのか?」

「あはは……アーノルドは少し変わった人だから、というよりSSSランク冒険者はみんな一癖も二癖もあって……だからちょっと苦手なんだよね」

 苦笑いを浮かべてぽつりと呟く姉ちゃん。

「あんたも十分変わりもがっもごっ……」

 それにたいし余計なことを言おうとしたフレンの口をそっと閉じて話を続ける。

「苦手、ということは、アーノルドさんはこの街にはいないんだね」

「うん、アーノルドは隣の国の人だし、ここは中規模程度の修練上だから、滅多なことがない限りアーノルドは来ないから安心して大丈夫だよユウ君‼︎」

「そうなんだ」

 変わり者と姉ちゃんは言うが、魔王軍幹部を倒したのだから腕は確かなのだろう。
 ちょっとあってみたいなとも思ったのだけれど……姉ちゃんのこの様子だと簡単には会うのは難しそうだな。


 修練場の入り口前まで到着をすると、姉ちゃんは慣れた手つきで入り口の扉に手をかけて手招きをする。

「はい、ここが入り口! 私は中の人たちとも顔馴染みだし、おねーちゃんがみんなにユウ君を紹介してあげるね。それじゃあ、たのもー……ってあれ?」

 外枠を朱色に塗られた木製の扉を姉ちゃんは勢い良く開ける……と。



「んんんんーーー‼︎ いいYO‼︎ すんごくいいいいい‼︎ もっと、もっと私を叩くんだ、その鞭がその力が私の上腕三頭筋をプルプルさせるんだYOOOOO‼︎」

「「「ハイ‼︎ 兄貴‼︎」」」


 そこには、海パン姿で四つん這いになった筋肉もりもりマッチョマンの変態。
 そしてその周りを複数で取り囲み鞭で叩く男たち。

 そんな想像すらしていなかった光景に……僕たちは(姉ちゃんも含め)茫然と立ち尽くすことしかできなかった。


   ……一体何を修練しているんだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

処理中です...