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改造の力

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   反響をしながらもはっきりと聞こえる悲鳴を頼りに僕たちはダンジョンの奥へと走っていく。

 魔物との遭遇を警戒していたが、まるで魔物たちは何かに怯えるように隠れ潜んでおり、目的地にはあっという間に到着をする。

 このダンジョンの中心部であろうか?

   一際広い空間が広がる巨大な部屋。
  
 その中心には巨大なドラゴンが一匹佇んでいた。

  洞窟の中で鈍い光を放つ黒い鱗に、その頭部には黄金に輝く巨大な大角。
  
  ドラゴンの強さは、魔力を内包する角の大きさで判別できるとよく言われるが。

  頭部から背中まで伸びる5メートルほどの巨大な角を持つその竜は、間違いなく最上位種のもので間違いないだろう。
 
   そんな災害レベルの魔物の視線の先に、腰を抜かしてその場に座り込む一人の少女がいた。

「……まじかよ本当にいたよ女の子……あれか? 方向音痴の世界チャンピオンか何かか」

   驚いたような、呆れたようにフレンは呟く。

   だがそれも仕方がない、冒険者かと思ったその少女の姿は、鎧も防具も身につけられていないドレスのような出立ちであり、その見た目も本当にただの少女にしか見えなかったからだ。

「……し、しずまれ! しずまらんかお前たちー!? わ、妾をだれと心得る‼︎?」

 おまけにドラゴンに何かを必死に訴えかけているみたいだが、効果があるとは到底思えない。

「……あちゃー……ありゃ本当に典型的なドラゴンの餌だな。 諦めようぜユウ、いくら勇者様だからって、才能ないお前じゃドラゴン相手にはどうしようもないって……な?あの少女を助けられなかった悔しさを胸に秘めて明日からまた頑張ろうぜ? 主人公が力を求めるようになるきっかけにしては上出来じゃねえか?」

「よいしょっと……それじゃあ助けに行ってくるから、フレンは合図したらこれを竜に向けて打ち込んで」

 そう言って僕は、魔法の砲筒をフレンに手渡す。

「無視した上になにちゃっかり巻き込もうとしてんだお前‼︎? サイコパスか‼︎? 本当、そういうところはアンネそっくりだよお前‼︎?」

「何言ってんだよ、こういう時に利用し会えるから、お前と僕は親友なんだろ? お前が言ったことじゃないかフレン。まぁ、いやならあの竜をここで焚きつけるだけだけど」

 もともと盾にするつもりだったし。

「こ、このやろう‼︎? いい子ちゃんみたいな顔して悪魔か‼︎ あぁもうわかったよ‼︎? やりゃいいんだろやりゃ……言うこと聞けば安全なんだよな? そうなんだよね?」

「契約成立、行ってくるね‼︎」 
 
「無視すんなってだからぁ‼︎」

 フレンを無視し、勇者の剣を構えて回り込むようして龍の側面……視界の端から接近をする。

【―――――ッ‼︎】


 予想外の乱入者に竜は気分を害したのだろう、少女からこちらに視線を向けると虫を払うかのように前足を振るってくる。
 
 ちっぽけな人間程度、それで十分だろうとでも言いたげなその一撃ではあるが。

 それは確かに擦りでもすれば致命傷に至るほどの威力と鋭さを持っている。

 だが。
 
「これぐらいなら……‼︎」

 巨大な爪と爪の隙間に体を滑り込ませるように飛び込んでその一撃を回避。

   作戦通り少女の前に躍り出る。

「なっ‼︎? お、お主……一体?」
  
「困惑するのもわかるけれど、話は後‼  とりあえず怪我はない?」

「︎う、うむ怪我はないが……しかしお主……って上、上‼︎?」

 少女の悲鳴に僕は上を見ると、どうやらドラゴンは二人丸ごと捕食しようと考えたらしく、大顎がこちらに向かってくるのが見える。

「ちょっと失礼‼︎」

「のじゃ‼︎?」

 受け止めることは当然不可能。
 なので僕は仕方なく少女を抱き抱えて、後ろに飛んで牙を回避する。

 ―――――刹那。
 
 ダンジョンの床にドラゴンの首が突っ込み、瓦礫が四方に跳ねる。

   驚異的な膂力ではあるが……動きは止まった。

「フレン、お願い‼︎‼︎」

「だああ!!? 大声出すな馬鹿野郎‼︎」

 僕の合図に、フレンは渡してあった砲筒の引き金を引く。

 姉ちゃん特製護衛砲。

 何かに襲われた時は使ってね……なんて気軽に渡された掌サイズの魔法道具だが。

 あの姉ちゃんの事だ、まともなものが入っている訳が……。

「……ゑ?」

 間の抜けたフレンの声と同時に放たれる複数の小型の銃弾。
 しかし小粒ながらもその弾はドラゴンに触れると、連鎖的に大爆発を引き起こした。

「連鎖爆撃って……軍隊に襲われる事でも想定したのか姉ちゃんはーーーっ‼︎」

「な、なんじゃかとんでもない魔法じゃが、あれじゃダメじゃ!? ドラゴンに魔法は……」

「大丈夫わかってるよ」

 絨毯爆撃のように連鎖を続ける大爆発に僕は呆れながらも、少女を下ろして剣を抜く。

 ドラゴンの鱗は対魔力に優れた一級品。 

   たとえ姉ちゃんの魔法だろうと上級魔法程度では傷一つつけられない……あの一撃ではただ単にドラゴンの怒りを買うだけ。

【‼︎‼︎――――――ッ】

 想定通り、爆撃が収まると同時にドラゴンはフレンへと向かい一直線へと走り出す。
 
「ちょっ‼︎? ユウ、話が違うんだけど、なんかドラゴンさんすごい怒った表情でこっち見て……ぎゃあああ、こっちきたあああ‼︎? 助けてユウ‼︎? ユウ様あああ?‼︎」

 そのおかげで僕は無防備に背中を晒すドラゴンに対し、安全に一撃を叩き込むことができるのだ。

「起きろ‼︎ バルムンク‼︎」

 姉ちゃんが名付けた名称を叫ぶと共に、勇者の剣が-――歪められたーーーその力を発現させる。

 現れたのは天井をも貫く程の巨大な光……。

 そしてその刃の力は……龍特攻八倍ダメージ二回攻撃‼︎

「お主……その剣は一体……」

 驚いたような少女の声。
 それに少しばかりの高揚感を覚えつつ、迷いなくその一閃を振り下ろす。

『破局訪れし龍への手向け破局訪れし龍への手向けニーベルング!!』

   振り下ろされた刃は一度ドラゴンの首を叩き、首を守る黒い鱗を全て吹き飛ばし……続けて時間を巻き戻したかのように光の刃が再度ドラゴンに襲いかかり、今度は首を完全に跳ね飛ばす。

「……じ、時空屈折による斬撃の分身じゃとぉ‼︎ そ、そんなのもはや究極魔法の領域ではないか‼︎? そ、そ、そんなふざけた力の剣なんてこの世に一つしか……まさかお主‼︎?」

 何やら背後の少女が叫んでいるが耳に入らない。

 今僕の中にある感情は。

「……き、きもちいいいいぃーーーー」

 それだけだ。

 巨大な剣でドラゴンの首を跳ね飛ばす爽快感……筆舌に尽くしがたいこの高揚感。
 これが姉ちゃんの言うロマンか。
 
 ごめん姉ちゃん。正直ロマン、甘く見ていたよ。
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