実験体として勇者にされた僕 最強賢者の姉ちゃんに助けられて溺愛されたけど 過保護すぎるせいで全然強くなれません

nagamiyuuichi

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僕は姉ちゃんにいじられる

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   ─── 3年後。
  

「あっ……うぅ、ね、姉ちゃん‼︎ だめだよそれ……そ、そんなにいじったらおかしくなっちゃうよ‼︎」

   風に青々と揺れる平原に太陽の光を映す果ての見えない巨大な湖。

   のどかな昼下がりの街道に……僕の喘ぐ声が響きわたる。

   湖の淵を沿うように走る馬車の中……。

   こんな昼間から僕は大事なものを姉ちゃんにいじられている真っ最中だ。

「大丈夫大丈夫、心配しないでユウ君。お姉ちゃんに全部任せて……ね?」

   姉ちゃんが手を動かすと、ねぷねぷという不思議な音が響き渡る。

   助け出されたからもうこれで何度目だろう……こうして姉ちゃんにいじられるのは。

「へ、変な音出ちゃってるよ‼︎ ネプネプって、こ、こんな馬車の中で‼︎ あっ、そ、それ以上は、こ、壊れちゃうから‼︎?」

「大丈夫、この程度じゃ壊れないから……ほら、もう少しだからね、もうちょとねぷねぷってしようね?大人しくしててねぇ……ほーら、もう少しで終わるからねぇ」

   モノを通じて、僕の体が変化していくのがわかる。

   少し姉ちゃんが手の動きを早くすると全身に電気が走ったかのような感覚が全身を巡る。

   体が別のものに作り替えられていくような感覚に、思わず声が漏れてしまう。

「あっ……だ、ダメダメ‼︎ それ以上は……変になる‼︎ 変になるからあぁ……あっ、あっ、あぁッ……へ、変に……なっちゃったぁ」

「うふふ、はーい。いーっぱい変になっちゃったね。偉い偉い……これでまた頑張れるね?」

「うぅ……ひ、ひどいよ姉ちゃん。こんなにたくさんいじって……元に戻らなくなったらどうするのさ」

「大丈夫よ、その時はお姉ちゃんがいつでもネプネプして元どおりにしてあげるから……ほら、それより見てユウ君、だよ?」

「え? あぁうそ……こ、こんなにおっきくなっちゃったの!? あ、あんなに小さかったのに」

「小さいのも可愛いけれど、やっぱり男の子だもの……おっきい方がかっこいいでしょ?」

「そ、そんなぁ……」

   満足げに語る姉ちゃんに僕は呆然とそれを見つめることしかできない。

   姉にいじられ大きく膨らんだ僕の大事な大事なその……。


   ーーーーー勇者の剣を。


「はいこれ、改造の内容ねー……見た目は大きくなったけれど、重さ自体は変わらないから、振り回すだけで良い分むしろ扱いやすくなったんじゃないかなー?」

   のんきに姉ちゃんは、改造完了いじりおわったした勇者の剣のステータスを映した羊皮紙を僕に手渡してくる。

─────────────────────────────────

【改造された勇者の剣】Level 100
 攻撃力 100
 防御力 50
 魔法   0
 強度  ――
 スキル 龍属性特攻ドラゴンスレイヤー
 解説:賢者により幾度も改造された勇者の剣の成れの果て。今回の改造でスキルが龍属性に対し8倍ダメージ2回攻撃に変更された。

─────────────────────────────────
「ああっ‼︎? な、なんてことしてくれたんだよ姉ちゃん……見た目だけならまだしもスキルまで勝手に弄って……さっきまで【全体攻撃】のスキルだったはずなのに、なんで【龍属性特攻】なんて使いにくそうなスキルに改造してるのさ‼︎ 毎回毎回‼︎ 僕の大事な剣モノを勝手にいじらないでよ‼︎」

「あ、あれれ‼︎?もしかして気に入らなかったユウ君?でもでも、ドラゴンだけに最強の力を誇るって、男の子にとってはロマンだしかっこいいでしょ?お姉ちゃんそっちの方がユウ君が喜ぶと思って……それにほら、今からドラゴン退治のクエスト受けにいくんだしちゃんと役にも……」

「たしかに最終目的はドラゴン退治だけど、巣を作ってる神殿の周りはゴーレムが守ってるんでしょ? そうなったら汎用性のある【全体攻撃】の方が強いに決まってんじゃないか」

「え、そうだったっけ……」

   姉ちゃんは慌てたようにクエストシートをみると「あ、ほんとだ」なんて惚けた声を漏らした。

「姉ちゃん……またろくに確認もせずにクエスト持ってきたな?」

「だ、大丈夫だよ‼︎ ゴーレムはお姉ちゃんがなんとかするか︎ら、 ユウ君は最後にその勇者の剣でどっかーんって格好良くドラゴンを退治しちゃって‼︎ ほら、格好いいでしょ?勇者っぽいでしょ?」

「むっ……」

   そう言われ、一騎討ちでドラゴンを討ち取る自分を想像する。

   …………確かに格好いいかもしれない。

「ま、まぁ姉ちゃんがそこまでいうなら、今回はこの剣でいいけれど」

「やったー!ほらね、やっぱりお姉ちゃんのやることに間違いはないんだから!」

「でもこれからは気をつけてよ?魔王と戦う時もそんな調子じゃ……」

「大丈夫大丈夫、お姉ちゃんはやるときはやる女の子ですから!」

「どこから出てくるんだよその自信……」

   自慢げに豊満な果実を揺らして胸をはる姉ちゃんに僕はため息をつくと、いつもいじり倒されている哀れな勇者の剣を鞘に納めて、外に広がる湖に目を向ける。

   この大陸のどこにいても見ることができる巨大な湖。
  
   ~ハザドの湖~と呼ばれるこの湖は、大陸の三分の一を覆う世界最大の湖にして災害跡地だ。


   故郷だったハザドの国は今やこの様な姿に変わっている。

   3年前にハザドの国を滅ぼし、姉ちゃんにより僕が救出された大災害はブレイブハザードと名付けられ、人類史上最大の大災害として歴史に刻まれることとなった。

   広大な領土と武力を有していたハザドの国の消失。

   それは、当然魔王軍をさらに勢いづかせる結果となり、この3年でいくつかの国が既に魔王と配下の魔物たちの手により滅ぼされている。
 
   それこそ、このままではいずれ世界全土が魔王により掌握されかねない勢いだ。

   だと言うのに。

「あ、ユウ君お魚が跳ねたよ‼︎ 釣りでもしていこっか‼︎?」

「いや、釣りなんてしてる場合じゃないでしょ……仕事しなきゃ」

「つれないなぁ……折角二人きりでお出かけなのに~。楽しもうよ!」

「観光じゃないんだよ姉ちゃん。ここのドラゴンを倒して、家畜の被害に悩む近隣の村の人を……」

「みてみてユーくん、神殿が見えてきたよ‼︎ おっきくて綺麗ぇ、いいなぁ、わたしもユウ君とあんな神殿でくらしたいなぁ」

「聞けよ」

    マイペースな姉ちゃんにいつも振り回されるせいで、お世辞にも魔王討伐の旅は順調に進んでいるとは言えない状況。

   それどころか初心者冒険者の集まる始まりの街~ウーノ~に、もう一年近く滞在している始末だ。

「……はぁ、早く魔王を倒したいんだけどなぁ」

   思わず僕はそう漏らすと、姉ちゃんは慌てるように首をぶんぶんと左右にふった。

「ダメダメ‼︎ 魔王っていうのは一番強い最強の魔物なんだよ? 倒すには誰よりも強くなくちゃいけないの。私にも勝てないようなのに魔王と戦えるわけないじゃないの」

「……それはそうだけど、でもせめて幹部を倒したりとか」

「だめです。お姉ちゃんに勝てるようになるまでは危ないことはさせられませーん‼︎ そんなことよりほら見て、あのお城のテラス‼︎ 二人で夜に並んで星とか見たら綺麗そうじゃないかな?お金貯めてあんなお城作ろうよユウ君‼︎」

「そんなことって……はぁ、もういいや」

   楽しげに神殿を指さす姉ちゃんにため息を漏らしながら、僕はその指の先に目を向ける。

   風に揺られて草花が踊る大平原には不釣り合いな黒色の巨大な神殿。

   魔界の神殿とも呼ばれる神話時代から残る遺跡の一つである。

   そんな歴史ある遺跡を僕は気だるげに見上げていると、姉ちゃんは鼻歌を歌いながら胸から依頼書を取り出して広げる。

「さーて今回のお仕事はっと……ふむふむ、依頼によるとあの遺跡には巨大な龍が封印されているみたいなんだけど、その封印が最近解かれちゃったんだって……」

「遺跡の封印って神話時代の魔法でしょ?それが解かれたってことは、やっぱりブレイブハザードの影響かな?」

「どうだろう?私神話時代の魔法は専門外だし。なになに?依頼を読む限りここは元々近づくだけで中型ゴーレムがワンサカ襲ってくる危険地帯で、そんなところにドラゴンなんかが復活しちゃったから迂闊に国の騎士団も調査団も手が出せなくて、情報も少ないんだって……なるほど、だから報酬が豪華なのねぇ」

   丸めたクエストシートを再び胸に収納しながら姉ちゃんはそういうと、「あ、ほらみてみて」なんて呑気に神殿を指差す。

   見るとたしかに神殿から無数のゴーレムが巣を突いた蜂のように湧き出てくるのが見えた。

「うっわ本当だ、すごい数だよ姉ちゃん」

「よーしクエスト開始よ‼︎ 露払いは私に任せて、ユウ君は馬車を止めてドラゴンが出てくるまで待機しててね‼︎」

「了解」

   姉ちゃんは楽しそうにそう言うと、馬車から飛び降りて迫りくるゴーレムに狙いを定めるように杖を構えた。

   中型ゴーレム。

   一つ一つの大きさは、人より一回り大きい岩の塊といったところだが。

   岩の塊だからこそ侮れない。
  
   魔法防御、物理防御双方にすぐれ、その重量から並の人間ならば一撃で命を絶つことができる一体一体が非常に手強い魔物だ。

   だが、これを本当に姉ちゃん一人で全滅させられるのかなんて不安はない。

 なぜなら。

「みててねユウ君、私のロマン‼︎ 究極魔法アルティメットスペル‼︎」

 姉ちゃんは今や、世界に4人しかいないSランク冒険者の一人だからである。
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