至高の騎士、動きます〜転生者がこの世界をゲームと勘違いして荒らしてるので、最強騎士が分からせる〜

nagamiyuuichi

文字の大きさ
46 / 64

イブキミコト

しおりを挟む
「第三番魔法クレイドル。ふむ、二人きりになりたいとは言ったが、随分と強引なデートのお誘いだな。ミコト・イブキ」

 カランとグラスを鳴らし、ナイト=サンは喉を鳴らして蒸留酒を飲み干す。

「あら、お嫌いだった? でも私、人の目があると気になっちゃうのよね。誰にも見られたくない場合は、隠れるんじゃなくてこうしてみんな眠らせちゃうの」

 背後を振り返ると、そこには今朝であった女性の姿。

 黒い服を身にまとい、クリーム色の髪を揺らしてギルドの中に入ってくる女性は。

「今朝方ぶりね、ナイトさん」

 なんて挨拶をしながら店の中を歩く。

「あぁ、随分と早くお前と夜を過ごせてうれしい。金貨銀貨になど興味はないが、これならば今日の労働の対価としては十分と言えるだろう」

 ナイトさんはくるりと振り返ると、両手に持ったグラスをカチンと打ち鳴らす。

「まるで来るのが分かっていたって言いたげね」

「あぁ。わかっていたとも。朝、わざと俺にぶつかったことも、ずっとそこのネズミに監視をさせていたこともな」

 そういうと、ナイト=サンはおつまみとして出された小さな豆を人差し指ではじくと。

「ひゅい!」

 声をあげて一匹のネズミが打ち抜かれ、煙を上げて消滅をする。

「ふぅん。あんたほどの男にばれてないのはおかしいとは思ったけど、踊らされてたのは私の方ってわけ? 気に入ったわよナイト=サン。素敵な夜になりそうね」

「あぁ、ぜひともそうしたいものだ。一パーセントほどは、ソニックムーブのかたき討ちの可能性も考慮していたが、その心配は無用のようだしな」

「あぁ、それに関してもお礼を言わなきゃね、本当は蜻蛉切に始末させる予定だったんだけど。手間が省けたわ」

「なるほどね、まんまと利用されたわけだ」

「まぁね。お礼に付き合ってあげるから勘弁して」

 立ち上がるとナイト=サンは空のグラスに蒸留酒を注ぎ、投げてよこす。

 お酒はこぼれることなくゆっくりと平行移動をし、やがてミコトの手の中に納まった

「ブレイブは使えないんじゃなかったかしら?」

「ナイトに不可能はない。三度も見れば簡単に体得出来よう」

「本当、怪物ね」

「誉め言葉として受け取っておこう。レディ」

 にこりと笑みをこぼすと、ナイト=サンは自分のグラスに蒸留酒を注ぐ。

「この出会いに乾杯、とでも言っておくか?」

「君の瞳に、の方がロマンチックよ。古臭いけれどね」

「ではそれで」

 グラスを少し上げて、ナイト=サンとミコトはグラスを合わせる。

「まさか、こんなにも早く攻め込んでくるとは、予想外だったよ」
  
 こくりと口元にグラスを運びナイト=サンはおどけて見せる。
 
 ミコトもそれにつられるように口に酒を含み、右隣に腰かけた。

 寝息を立てる人々は、転生者が現れたことに気づくこともなく健やかな眠りについており、そんな人々を彼女は一瞥すると、まるで我が子を慈しむかのような穏やかな笑顔を見せた。

「いい顔して寝てるわ」

「お前もな。とても国崩しなどを考えるようには見えない」

「ソニックムーブと同じかと思った? それとも、伝説の騎士様は私もあいつも同列に見えてしまうのかしら?」

  グラスをカウンターに置くと、ミコトはじとりとした目でナイト=サンを睨むが。
 
  ナイト=サンは気にする様子もなく酒を注いでその言葉に応える。

「いいや、比べるべくもないだろう。君は賢くそして強い」

「酒と言葉で酔わせたからって、簡単には落とせないわよ? それともその言葉も私が本心でのぞむ理想だったりするのかしら?」

「さぁな。俺は理想の騎士ではあるが理想の恋人ではない。この言葉はただ事実のみを口にする余計なものだ」

 呆れるように嘆息をつくと、ナイト=サンは再度蒸留酒をグラスに注ぐ。

「そう、貴方もしかして自分が何者なのか薄々気づいているのかしら?」

「いいや、この世界の人間でも、転生者でもない。虚ろでぼやけた魍魎のようなもの。その程度の認識しかない」

「それでよく自我を保てるわね」

「どこにいたかなど問題ではない。ただ俺は理想の騎士であればそれでいい」

「なるほどね、随分ととんでもないものが作られたわけね」

  からりと、女性のグラスの氷が音を立てる。
 
  ナイト=サンはそのグラスにお酒を注ぐことはなく。 

「さて、ここに来たということは、教えに来てくれたのだろう。俺がいったい何者なのか」

 ナイトさんは代わりに質問を注ぐ。

 交差する視線。敵意ではなく異常なまでの好奇心がお互いの心臓を高鳴らせる。

「あなたの所の局長さんが推理した通りよ。あなたを呼んだのは私、そしてあなたは私が作り出した理想の怪物」

 やがて少女は、そんな答えをナイト=サンに伝える。

「理想の怪物? 随分と変な名前だ」

「ええ、正式な名前は【多相の戦士シェイプシフター】召喚主の理想を読み取り、敵が想像する最強の存在に姿を変えて敵を倒す伝説の怪物。それがあなた」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

処理中です...