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見果てぬ夢
追及
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「先の関白様も!?」
「左様。…毒を含んだような物言いでな。“殿下は、一体、何を恐れ遊ばしておいでですか?一体、誰が殿下に歯向かうというのです。むしろ、この朝鮮での戦いが豊臣家にとって命取りになりはしませぬか?まずは、朝鮮から撤退遊ばし、撫民に精励すべきではありませぬか?民百姓を慈しむ限り、豊臣家は盤石でございましょう”、とな。」
「聞くところに寄れば、大友様改易後の豊後にて、百姓の離散が相次いでいるとの由。また、それも朝鮮向けの兵糧の拠出に百姓が耐えられなくなっているからとも聞き及んでおります。もしや、先の関白様も、それらを踏まえての談判だったと…。」
「有体に申せば、そういうことじゃ。日本にとって、この戦では失うものばかりで得るものは何もない。この戦を、早々に終わらせることこそが、日本のためにも、豊臣家のためにもなる。民百姓の心が離れてしまっては、殿下とて、豊臣家の権威を維持することは困難でございましょう、と、したり顔で詰め寄ってきおったわ。」
「まさか、先の関白様は、豊臣家の長者の地位までお求め遊ばされたと…。」
「後世に残すのは、“豊臣家”であって、余の血筋ではないはず、それは殿下が誰よりもよくご存じのはず、とまで申したわ。」
「一体、先の関白様は、何を仰されようと?」
「お拾(豊臣秀頼)が生まれたのは、文禄二年(1592年)八月九日じゃ。施薬院、お主ならわかるであろう。その前年の十月、余がどこにおり、お茶々(淀殿)がどこにおったのかを。先の関白は、こう続けたのじゃ。“もし殿下が、豊臣家の血筋をお残し遊ばそうとされているのであれば、猶更、拙者ほどふさわしい者はおりますまい。お拾殿では、いずれにせよ豊臣家は持ちますまい。朝廷も薄々気づいておりますぞ。殿下付きの女房が、病で暇をもらった後、里で婚儀を済ませ、一子を授かった後、殿下のお見舞いにいったところ、殿下は喜ぶどころか、女房とその子、夫、乳母に至るまで火刑に処された。勘のいい者どもは、その意味分かっておりますぞ”」
「先の関白様は、そこまで仰せ遊ばしたのでございますか!?一歩間違えば、謀叛になりかねませぬ。」
「間違うどころの騒ぎではない。先の関白は、余に反旗を翻したのじゃ。余に朝鮮渡海の責を負わせ、あろうことかお拾の出自まで取り沙汰し、それこそ、豊臣家を乗っ取る算段じゃ。飼い犬に手を噛まれるとは、このことよ。」
「畏れながら、先の関白様の言い分、真実がどうあれ、理屈としては通ってしまいます。それこそ、先の関白様が音頭をとれば、先の関白様に靡く方々がいないとも限りますまい。」
「左様、“真実”がどうあれ、このまま手をこまぬいておれば、豊臣家を二分した戦が起こってしまう。それでは、折角の天下静謐も水泡に帰す。先の関白とて、そこまで口にした以上、一歩も引けぬ覚悟であろう。先の関白が去った後、直ちに、“泣いて馬謖を切る”決断を下した。」
「是非も無いことかと存じます。さりながら、諸大名の皆様方には、どのようにお伝え遊ばしたのでございましょう?」
「伝えるも何も、謀叛以外の理屈がどこにある?先の関白も、権力の虜になった亡者よ。」
「権力の虜、でございますか…痛ましいことではございますが、豊臣家が一枚岩となるためには、避けて通ることはできなかったのやも知れませぬな。畏れながら、先の関白様は、朝鮮渡航を取りやめる旨仰せ遊ばしたということは、むしろ、殿下にあらせられましては、猶更、朝鮮を完全に膝下に置かねばなりますまい。」
「そこじゃよ。結局、奴らは余を虚仮にしただけだったのじゃ。」
「左様。…毒を含んだような物言いでな。“殿下は、一体、何を恐れ遊ばしておいでですか?一体、誰が殿下に歯向かうというのです。むしろ、この朝鮮での戦いが豊臣家にとって命取りになりはしませぬか?まずは、朝鮮から撤退遊ばし、撫民に精励すべきではありませぬか?民百姓を慈しむ限り、豊臣家は盤石でございましょう”、とな。」
「聞くところに寄れば、大友様改易後の豊後にて、百姓の離散が相次いでいるとの由。また、それも朝鮮向けの兵糧の拠出に百姓が耐えられなくなっているからとも聞き及んでおります。もしや、先の関白様も、それらを踏まえての談判だったと…。」
「有体に申せば、そういうことじゃ。日本にとって、この戦では失うものばかりで得るものは何もない。この戦を、早々に終わらせることこそが、日本のためにも、豊臣家のためにもなる。民百姓の心が離れてしまっては、殿下とて、豊臣家の権威を維持することは困難でございましょう、と、したり顔で詰め寄ってきおったわ。」
「まさか、先の関白様は、豊臣家の長者の地位までお求め遊ばされたと…。」
「後世に残すのは、“豊臣家”であって、余の血筋ではないはず、それは殿下が誰よりもよくご存じのはず、とまで申したわ。」
「一体、先の関白様は、何を仰されようと?」
「お拾(豊臣秀頼)が生まれたのは、文禄二年(1592年)八月九日じゃ。施薬院、お主ならわかるであろう。その前年の十月、余がどこにおり、お茶々(淀殿)がどこにおったのかを。先の関白は、こう続けたのじゃ。“もし殿下が、豊臣家の血筋をお残し遊ばそうとされているのであれば、猶更、拙者ほどふさわしい者はおりますまい。お拾殿では、いずれにせよ豊臣家は持ちますまい。朝廷も薄々気づいておりますぞ。殿下付きの女房が、病で暇をもらった後、里で婚儀を済ませ、一子を授かった後、殿下のお見舞いにいったところ、殿下は喜ぶどころか、女房とその子、夫、乳母に至るまで火刑に処された。勘のいい者どもは、その意味分かっておりますぞ”」
「先の関白様は、そこまで仰せ遊ばしたのでございますか!?一歩間違えば、謀叛になりかねませぬ。」
「間違うどころの騒ぎではない。先の関白は、余に反旗を翻したのじゃ。余に朝鮮渡海の責を負わせ、あろうことかお拾の出自まで取り沙汰し、それこそ、豊臣家を乗っ取る算段じゃ。飼い犬に手を噛まれるとは、このことよ。」
「畏れながら、先の関白様の言い分、真実がどうあれ、理屈としては通ってしまいます。それこそ、先の関白様が音頭をとれば、先の関白様に靡く方々がいないとも限りますまい。」
「左様、“真実”がどうあれ、このまま手をこまぬいておれば、豊臣家を二分した戦が起こってしまう。それでは、折角の天下静謐も水泡に帰す。先の関白とて、そこまで口にした以上、一歩も引けぬ覚悟であろう。先の関白が去った後、直ちに、“泣いて馬謖を切る”決断を下した。」
「是非も無いことかと存じます。さりながら、諸大名の皆様方には、どのようにお伝え遊ばしたのでございましょう?」
「伝えるも何も、謀叛以外の理屈がどこにある?先の関白も、権力の虜になった亡者よ。」
「権力の虜、でございますか…痛ましいことではございますが、豊臣家が一枚岩となるためには、避けて通ることはできなかったのやも知れませぬな。畏れながら、先の関白様は、朝鮮渡航を取りやめる旨仰せ遊ばしたということは、むしろ、殿下にあらせられましては、猶更、朝鮮を完全に膝下に置かねばなりますまい。」
「そこじゃよ。結局、奴らは余を虚仮にしただけだったのじゃ。」
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