夢のまた夢~豊臣秀吉回顧録~

恩地玖

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天下静謐

南部仕置

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「小田原が落ちたと今となりましては、もはや、奥州の大名方も表立って、殿下に歯向かってくることはありますまい。」
「相模守、陸奥守切腹が各地に知らされるや否や、こぞって小田原に集まってきたわ。最上(義光)、伊達(政宗)などは、飛ぶように来おったわ。」
「祝着至極に存じます。いよいよ、この日本から戦がなくなるのでございますな。」
「そう願っていたのじゃがな…。確かに、北条家のように、余と対等な立場を自負して、楯突く大名どもはいなくなった。事実、最上や伊達は、自ら頭を下げた訳じゃからな。天下静謐に、もはや武威はいらぬ。我が意に沿って領国を治めてさえしておれば、所領は安堵する。これを、奥州で果たすことにしたのじゃ。」
「つまり殿下は、在京のまま、奥州の大名家に対して、仕置を下知遊ばされると?」
「左様。それこそが、天下静謐よ。どのような戦であれ、この日本で戦を起こしては、撫民にならぬ。そして、北条家無き今、武力で歯向かってくるものはおらぬ。ようやく、諸大名が余の下知に従う体制がととのったのじゃ。」
「なるほど。奥州の大名家は、殿下に所領を安堵してもらう代わりに、殿下の思召すとおりに領国を治める必要があるわけですな。」
「そうじゃ。かねてより、余に誼を通じてきた南部大膳大夫(信直)には、こう下知した。“一つ、南部領七郡については、南部大膳大夫が覚悟をもって治めること。一つ、妻子は在京させること。一つ、南部七郡において検地を行い、領国財政を安定させること。一つ、家臣が持つ城郭は悉く打ち壊しの上、その妻子は本城城下町に住まわすこと。一つ、これらの下知に従わぬ場合は、成敗を覚悟すること。”とな。」
「有無を言わせずとは、まさにこのことでございましょう。もし、南部様のご家臣が、南部様の意向に背くことがあらば、それは、すなわち、殿下に歯向かうことを意味する。誠に恐れ入るばかりでございます。」
「施薬院、余とて大名の箸の上げ下げにまで口を出すつもりはない。余は、南部には検地を“行え”と申したのであって、検地にあたって“奉行に従え”とは申しておらぬ。相応の領国を持つ大名には、領主としての才覚には期待しておる。じゃからこそ、まずもって、“覚悟をもって”治めよと下知したのじゃ。」
「なるほど。殿下一流のご配慮というわけでございますな。さはさりながら、奥州の大名家が“覚悟をもって”治めたかどうかは、如何にして量るわけでございますか?」
「鋭いな。それこそ、勘所よ。そこは、治部(石田三成)によく言い含めたわ。」
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