68 / 108
天下静謐
島津降伏
しおりを挟む「ぃやぁぁぁっ……も、いかせてっ……ぁぁぁまた、またっ! それしないでっ」
「どうしてだい? こうしてお腹を押された方が私のを感じると言っていただろう……たっぷり味わって何度でも達きなさいっ」
「ひぃぃ! ぁぁっ……まぁぉさっ……ぃく! ぃっちゃ……っ!」
欲望を咥えたまままた、朔弥は遂情を伴わない絶頂を迎えた。大きく腰が前後するのを逞しい腕が止め、収まるのを待ってまた苛んでくる。それを何度も繰り返され、朔弥は自分が何を叫び何をねだったのかも分からないまま、ひたすら翻弄されるしかなかった。
立ったまま凄まじい絶頂を味わい、立てなくなった朔弥が膝を突いても柾人は苛み続けた。
薄い下腹を押されながら欲望を抜き差しされるとその形がまじまじと感じ取られ、一層興奮する朔弥はひたすら狂うしかなかった。
久しぶりの交情に容赦ない絶頂を繰り返し、やっと遂情を許されたのは柾人が大量の蜜を最奥に放ってからだった。
出会った頃よりも達く回数が減った分、一回が長くなった柾人に手加減なしで感じさせられた朔弥は痙攣する身体のまま床で何度も腰を跳ねさせた。あまりにも深い愉悦にわけが分からなくなった身体を抱きあげた柾人は、ソファへと腰掛け愛しい身体を膝に乗せる。
「こんな朔弥を見るのは久しぶりだ……入社してから抑えていたからね。遠慮するのはもうやめよう……あの子が戻ってきても、欲しくなったら場所など構わず貪らせて貰うよ」
チュッと激しい呼吸を繰り返す唇を吸い音を立て、まだ終わらせないとまた口を開いたままの蕾に欲望を潜り込ませる。
次の日、朔弥は柾人に抱きかかえられながら出社する羽目になるまで、たっぷりと愛しい恋人を啼かせ続けた。
*****
「では書類は以上です」
タブレットで説明をともに読み上げたペットショップの店員が店の奥でプリントアウトされた用紙の束を持ってきた。飼育に関する確認事項がびっしりと記載されている。
ペットショップ経由で迎え入れるのはこんなに面倒なのかと疲弊した二人は、書類を鞄の中にしまうとようやく逢えた仔猫を抱き上げた。
「遅くなって申し訳ない、ミー」
その声に仔猫は「ミャー」と小さく鳴いた。その声すらもミーに似ていて懐かしさがこみ上げてくる。柾人が事前に買った小さな首輪を取り付けると籐で編んだ籠のキャリーバッグに入れた。フリースの膝掛けを下に敷いたおかげで寒くはないようだ。仔猫はそのままバッグの中で丸まった。
「やっぱり帰ってきたね」
柾人が嬉しそうに笑い、大事にそれを膝に乗せる。
「タクシーを呼んできますね」
朔弥は抜けない仕事モードのまま、いつものように車を止めに行こうとして柾人に止められた。
「ちょっと待ってくれ」
対応してくれた店員が奥へ入って何かをしているようだ。休日なので流しているタクシーは多いだろうと柾人に従ってその隣に腰掛ける。
すでにサーシングの社内では猫の話題で持ちきりだ。あの後、容赦ない和紗によって仔猫相手に脂下がった顔を晒した動画を社内で回覧された。丁寧に動画配信サイトにアップし、セキュリティコードを知っている人間しか閲覧できないようにして、柾人と朔弥以外の全員にURLを送られた。
どうやら徳島は柾人の行き先を知っていたらしい。新宿二丁目の入り口に近いここにペットショップがあり、かなりの数の猫を置いていることを。なんとか和紗の勢いを押さえようと画策したが、ペットショップと知ってなお張り切る彼女を止めることはできなかった。
ふにゃふにゃの腰で出勤した日、わざわざ秘書室に詫びに来た彼に、逆に申し訳なくなってしまった。
朔弥が直接柾人に訊けば終わる話だったのだからと反省して、今ではできる限り自分の口で伝え聞くようにしている。でなければまたすれ違いが起きあんな激しいセックスで愛情確認が必要になったなら、身体が持たない。
だが猫を飼うと知ってからはあんなに迷惑を掛けてしまった面々も、仔猫の写真を共有することで許してくれたのは救いだ。
以前と違い上品な様相になったミーの写真を、柾人はまたスマホのチップメモリがいっぱいになるまで撮ることだろう。
ショップで与えていたのと同じ銘柄のキャットフードを持ってきた店員から大袋のそれを受け取り、店を後にした。休日でごった返す新宿の街を、人の隙間を縫うようにして通り、タクシーを拾う。店内にずっといた仔猫には冬になったばかりの風は厳しいだろう。一刻でも早く家に連れ帰ってやりたい。
混んだ道をタクシーは慣れているのか、マンションの前まで四十分ほどで走りすぐさま部屋へと入る。
初めて訪れたにもかかわらず、仔猫は本当にミーの生まれ変わりのように玄関で箱から出せばするするとリビングへと入り、自分の定位置はここだと言わんばかりにキャットタワーの足下に置いたドーム型のベッドへと入っていった。
「本当にミーみたいですね……この子の名前はどうしますか?」
二人で仔猫の緩やかな動きをとろりとした眼差しで見つめながら訊ねれば、柾人がさも当たり前のように「ミーだな」と答えた。
「その名前、オレが適当に付けたヤツなんです……できればもっと可愛い名前にしませんか?」
「いや、ミーが良い。朔弥と結婚したときからずっと家族なんだ、そのままの方が君もいいだろう」
「え?」
朔弥は大きく目を見開かせじっと柾人を見た。何を言っているのか頭に届いたがうまく処理できない。柾人がふっと口元を綻ばせた。
「どうしてそんなに驚いた顔をしているんだい」
「だって……えっ、結婚って」
「指輪を贈って戸籍を同じにしたらそういう意味だと思っていたが、朔弥は違うのかい? ついでにミーは娘だと思っていたよ。最初の子は随分と歳がいってたが、帰ってきてくれて本当の娘になったね」
病院や法的な部分で一番近くにいる人間。そんな意味合いだとばかり思っていた。
未だ驚きを隠せずにいる朔弥に苦笑して艶やかな黒髪を撫でる。昔とは違い整髪剤で整えた少し堅い感触すら楽しそうに指で弄ぶ。
「覚えているかい、蕗谷と同じことはしたくないから君に選んで欲しいと言っただろう、忘れてしまったのかな」
「覚えてます……そっか、パートナーってそういう意味だ」
なぜだろう、一生側にいるとあれほど口にしていたはずなのに、忙しない日常で忘れてしまった。自分が柾人のとても特別な存在だということを。
「ごめんなさい」
「いや、私も悪かった。少しだけ朔弥に嫉妬したんだ。あんなに可愛がってもミーが本当に信頼していたのは朔弥だったから……初めての娘を独り占めしたかったんだ。大人げなかった」
今回の件の根底はそんな気持ちがあったのか。全く気付かなかった。
「そりゃ……実家にいたときはずっとオレがご飯をあげてましたから。でも柾人さんが可愛がってくれたのはミーにも分かっていたと思います。オレは……ちょっとだけミーに嫉妬してました」
恥ずかしくて今まで飲み込んでいた心の裡を曝け出す。ミーが自分よりも柾人に大事にされているのが、少しだけ嬉しくて、妬いた。ミーのように当たり前に柾人の膝に乗ることができない恥ずかしがり屋な自分を棚に上げて。
「それは……嬉しいな」
「嫉妬されて嬉しいんですか?」
「新しいミーと私の取り合いをしてくれたらこの上ない幸せだろう」
柾人がいつものように朔弥のウエストを抱いてきた。あの日からミーが来る前のように親密なスキンシップをしてくるようになった。仔猫が来たら終わるだろうと思っていたのに、ちょこちょこと重い頭とお尻のバランスがうまく取れなくて歩き方がおぼつかない仔猫が側にいるのに、柾人の目は蕩けるように朔弥を見つめてくる。
「柾人さん……ミーがいますよ」
「今度はいてもしっかりと朔弥を可愛がろうと思ってね。ミーだって両親が仲良しの方が良いだろう」
チュッと頬にキスして、その先の行為に入ろうとするのが分かった。
「柾人さんっ、ここで?」
「ダメかい? もっと朔弥を可愛がりたいんだ、許してくれ」
「ぁっ……んん」
またあの日のように臀部を揉みしだかれるとすぐに蕾が疼いてしまう。このまま仔猫の前でしてしまうのだろうか……恥ずかしい反面、自分が一番愛されているんだと感じられる心地よさに流されていく。
「ミャー」
か細い鳴き声とともに餌皿をひっかく音がした。少し息を上げたままチラリと見れば、小さいのにしっかりと食事の催促をしている仔猫の姿があった。
「あっ、ご飯!」
すぐに柾人の腕から離れ、渡された大きなフード袋から体重に見合った量を計ってお湯でふやかす。
「ごめんな、ミー。すぐに食べさせてあげられないんだ」
「ミャー、ミャー」
「今日はサンプルに貰ったヤギミルクを入れるね」
粉状のヤギミルクを餌皿に投入し軽く混ぜて、火傷しない温度まで下がるのを待つ。その間気を紛らわせるために、買ったばかりのおもちゃを出そうとして、フードが入っていた袋の底に見慣れないものが入っているのに気付いた。
「あれ、これは?」
大型犬向けの太い首輪だ。革製の赤いそれはミーに付けているものと比べものにならないほど重く堅い。
「柾人さん、ペットショップの人が間違えてこんなものを……」
「いや、間違いじゃない。私がお願いしたんだ」
「どうして? もしかして犬も飼うつもりですか?」
どうしても仕事で年に数回二人とも宿泊込みの出張に出ることがあるのだ。二人暮らしでも猫なら散歩の必要がないし、自動の給餌器や猫トイレに任せれば一泊の出張も大丈夫だが、犬だとそうはいかないだろう。
「いや、犬は飼わないよ。これはこうして使うんだ」
首輪を手に取った柾人は躊躇うことなく朔弥の、男にしては細い首にそれを巻き付けた。
「な……っ!」
「うん、やっぱり朔弥の白い肌には赤が良く映える。もう私から逃げないように、心を縛る代わりに物理的に縛ってしまおうかと思ってね」
しっかりとバックルをはめ込んだ首輪の縁をそっと撫でられ、嫌なはずなのに、柾人に酷く執着されているような気がする。トクンと胸が跳ね上がればそれを隠すようにまだ少し熱さが残る餌皿をミーの前に置いた。
「何を考えてるんですかっ」
「いつも朔弥のことを考えているんだが……おかしいかい?」
「変です……こんなの……」
「そう言いながらどうしてこの顔は赤くなっているんだろうね。相変わらず綺麗で、可愛い」
赤くなっている頬を舐められ、柾人のために巻いた首輪へ意識が強くなる。
「これから裸に首輪だけ巻いた朔弥を見たいんだが、私のワガママに付き合ってくれるかい?」
嫌とは言えない。また下肢の前に熱が集まりトクンと大きくなってしまったから。
「……今日だけ……ですよ」
「それについては確約はしないが、今は早く猫のように可愛く啼く私の朔弥を存分に堪能させてくれ」
またチュッと頬にキスすると、柾人は躊躇うことなくその場で朔弥の服を脱がし始めた。
-END-
「どうしてだい? こうしてお腹を押された方が私のを感じると言っていただろう……たっぷり味わって何度でも達きなさいっ」
「ひぃぃ! ぁぁっ……まぁぉさっ……ぃく! ぃっちゃ……っ!」
欲望を咥えたまままた、朔弥は遂情を伴わない絶頂を迎えた。大きく腰が前後するのを逞しい腕が止め、収まるのを待ってまた苛んでくる。それを何度も繰り返され、朔弥は自分が何を叫び何をねだったのかも分からないまま、ひたすら翻弄されるしかなかった。
立ったまま凄まじい絶頂を味わい、立てなくなった朔弥が膝を突いても柾人は苛み続けた。
薄い下腹を押されながら欲望を抜き差しされるとその形がまじまじと感じ取られ、一層興奮する朔弥はひたすら狂うしかなかった。
久しぶりの交情に容赦ない絶頂を繰り返し、やっと遂情を許されたのは柾人が大量の蜜を最奥に放ってからだった。
出会った頃よりも達く回数が減った分、一回が長くなった柾人に手加減なしで感じさせられた朔弥は痙攣する身体のまま床で何度も腰を跳ねさせた。あまりにも深い愉悦にわけが分からなくなった身体を抱きあげた柾人は、ソファへと腰掛け愛しい身体を膝に乗せる。
「こんな朔弥を見るのは久しぶりだ……入社してから抑えていたからね。遠慮するのはもうやめよう……あの子が戻ってきても、欲しくなったら場所など構わず貪らせて貰うよ」
チュッと激しい呼吸を繰り返す唇を吸い音を立て、まだ終わらせないとまた口を開いたままの蕾に欲望を潜り込ませる。
次の日、朔弥は柾人に抱きかかえられながら出社する羽目になるまで、たっぷりと愛しい恋人を啼かせ続けた。
*****
「では書類は以上です」
タブレットで説明をともに読み上げたペットショップの店員が店の奥でプリントアウトされた用紙の束を持ってきた。飼育に関する確認事項がびっしりと記載されている。
ペットショップ経由で迎え入れるのはこんなに面倒なのかと疲弊した二人は、書類を鞄の中にしまうとようやく逢えた仔猫を抱き上げた。
「遅くなって申し訳ない、ミー」
その声に仔猫は「ミャー」と小さく鳴いた。その声すらもミーに似ていて懐かしさがこみ上げてくる。柾人が事前に買った小さな首輪を取り付けると籐で編んだ籠のキャリーバッグに入れた。フリースの膝掛けを下に敷いたおかげで寒くはないようだ。仔猫はそのままバッグの中で丸まった。
「やっぱり帰ってきたね」
柾人が嬉しそうに笑い、大事にそれを膝に乗せる。
「タクシーを呼んできますね」
朔弥は抜けない仕事モードのまま、いつものように車を止めに行こうとして柾人に止められた。
「ちょっと待ってくれ」
対応してくれた店員が奥へ入って何かをしているようだ。休日なので流しているタクシーは多いだろうと柾人に従ってその隣に腰掛ける。
すでにサーシングの社内では猫の話題で持ちきりだ。あの後、容赦ない和紗によって仔猫相手に脂下がった顔を晒した動画を社内で回覧された。丁寧に動画配信サイトにアップし、セキュリティコードを知っている人間しか閲覧できないようにして、柾人と朔弥以外の全員にURLを送られた。
どうやら徳島は柾人の行き先を知っていたらしい。新宿二丁目の入り口に近いここにペットショップがあり、かなりの数の猫を置いていることを。なんとか和紗の勢いを押さえようと画策したが、ペットショップと知ってなお張り切る彼女を止めることはできなかった。
ふにゃふにゃの腰で出勤した日、わざわざ秘書室に詫びに来た彼に、逆に申し訳なくなってしまった。
朔弥が直接柾人に訊けば終わる話だったのだからと反省して、今ではできる限り自分の口で伝え聞くようにしている。でなければまたすれ違いが起きあんな激しいセックスで愛情確認が必要になったなら、身体が持たない。
だが猫を飼うと知ってからはあんなに迷惑を掛けてしまった面々も、仔猫の写真を共有することで許してくれたのは救いだ。
以前と違い上品な様相になったミーの写真を、柾人はまたスマホのチップメモリがいっぱいになるまで撮ることだろう。
ショップで与えていたのと同じ銘柄のキャットフードを持ってきた店員から大袋のそれを受け取り、店を後にした。休日でごった返す新宿の街を、人の隙間を縫うようにして通り、タクシーを拾う。店内にずっといた仔猫には冬になったばかりの風は厳しいだろう。一刻でも早く家に連れ帰ってやりたい。
混んだ道をタクシーは慣れているのか、マンションの前まで四十分ほどで走りすぐさま部屋へと入る。
初めて訪れたにもかかわらず、仔猫は本当にミーの生まれ変わりのように玄関で箱から出せばするするとリビングへと入り、自分の定位置はここだと言わんばかりにキャットタワーの足下に置いたドーム型のベッドへと入っていった。
「本当にミーみたいですね……この子の名前はどうしますか?」
二人で仔猫の緩やかな動きをとろりとした眼差しで見つめながら訊ねれば、柾人がさも当たり前のように「ミーだな」と答えた。
「その名前、オレが適当に付けたヤツなんです……できればもっと可愛い名前にしませんか?」
「いや、ミーが良い。朔弥と結婚したときからずっと家族なんだ、そのままの方が君もいいだろう」
「え?」
朔弥は大きく目を見開かせじっと柾人を見た。何を言っているのか頭に届いたがうまく処理できない。柾人がふっと口元を綻ばせた。
「どうしてそんなに驚いた顔をしているんだい」
「だって……えっ、結婚って」
「指輪を贈って戸籍を同じにしたらそういう意味だと思っていたが、朔弥は違うのかい? ついでにミーは娘だと思っていたよ。最初の子は随分と歳がいってたが、帰ってきてくれて本当の娘になったね」
病院や法的な部分で一番近くにいる人間。そんな意味合いだとばかり思っていた。
未だ驚きを隠せずにいる朔弥に苦笑して艶やかな黒髪を撫でる。昔とは違い整髪剤で整えた少し堅い感触すら楽しそうに指で弄ぶ。
「覚えているかい、蕗谷と同じことはしたくないから君に選んで欲しいと言っただろう、忘れてしまったのかな」
「覚えてます……そっか、パートナーってそういう意味だ」
なぜだろう、一生側にいるとあれほど口にしていたはずなのに、忙しない日常で忘れてしまった。自分が柾人のとても特別な存在だということを。
「ごめんなさい」
「いや、私も悪かった。少しだけ朔弥に嫉妬したんだ。あんなに可愛がってもミーが本当に信頼していたのは朔弥だったから……初めての娘を独り占めしたかったんだ。大人げなかった」
今回の件の根底はそんな気持ちがあったのか。全く気付かなかった。
「そりゃ……実家にいたときはずっとオレがご飯をあげてましたから。でも柾人さんが可愛がってくれたのはミーにも分かっていたと思います。オレは……ちょっとだけミーに嫉妬してました」
恥ずかしくて今まで飲み込んでいた心の裡を曝け出す。ミーが自分よりも柾人に大事にされているのが、少しだけ嬉しくて、妬いた。ミーのように当たり前に柾人の膝に乗ることができない恥ずかしがり屋な自分を棚に上げて。
「それは……嬉しいな」
「嫉妬されて嬉しいんですか?」
「新しいミーと私の取り合いをしてくれたらこの上ない幸せだろう」
柾人がいつものように朔弥のウエストを抱いてきた。あの日からミーが来る前のように親密なスキンシップをしてくるようになった。仔猫が来たら終わるだろうと思っていたのに、ちょこちょこと重い頭とお尻のバランスがうまく取れなくて歩き方がおぼつかない仔猫が側にいるのに、柾人の目は蕩けるように朔弥を見つめてくる。
「柾人さん……ミーがいますよ」
「今度はいてもしっかりと朔弥を可愛がろうと思ってね。ミーだって両親が仲良しの方が良いだろう」
チュッと頬にキスして、その先の行為に入ろうとするのが分かった。
「柾人さんっ、ここで?」
「ダメかい? もっと朔弥を可愛がりたいんだ、許してくれ」
「ぁっ……んん」
またあの日のように臀部を揉みしだかれるとすぐに蕾が疼いてしまう。このまま仔猫の前でしてしまうのだろうか……恥ずかしい反面、自分が一番愛されているんだと感じられる心地よさに流されていく。
「ミャー」
か細い鳴き声とともに餌皿をひっかく音がした。少し息を上げたままチラリと見れば、小さいのにしっかりと食事の催促をしている仔猫の姿があった。
「あっ、ご飯!」
すぐに柾人の腕から離れ、渡された大きなフード袋から体重に見合った量を計ってお湯でふやかす。
「ごめんな、ミー。すぐに食べさせてあげられないんだ」
「ミャー、ミャー」
「今日はサンプルに貰ったヤギミルクを入れるね」
粉状のヤギミルクを餌皿に投入し軽く混ぜて、火傷しない温度まで下がるのを待つ。その間気を紛らわせるために、買ったばかりのおもちゃを出そうとして、フードが入っていた袋の底に見慣れないものが入っているのに気付いた。
「あれ、これは?」
大型犬向けの太い首輪だ。革製の赤いそれはミーに付けているものと比べものにならないほど重く堅い。
「柾人さん、ペットショップの人が間違えてこんなものを……」
「いや、間違いじゃない。私がお願いしたんだ」
「どうして? もしかして犬も飼うつもりですか?」
どうしても仕事で年に数回二人とも宿泊込みの出張に出ることがあるのだ。二人暮らしでも猫なら散歩の必要がないし、自動の給餌器や猫トイレに任せれば一泊の出張も大丈夫だが、犬だとそうはいかないだろう。
「いや、犬は飼わないよ。これはこうして使うんだ」
首輪を手に取った柾人は躊躇うことなく朔弥の、男にしては細い首にそれを巻き付けた。
「な……っ!」
「うん、やっぱり朔弥の白い肌には赤が良く映える。もう私から逃げないように、心を縛る代わりに物理的に縛ってしまおうかと思ってね」
しっかりとバックルをはめ込んだ首輪の縁をそっと撫でられ、嫌なはずなのに、柾人に酷く執着されているような気がする。トクンと胸が跳ね上がればそれを隠すようにまだ少し熱さが残る餌皿をミーの前に置いた。
「何を考えてるんですかっ」
「いつも朔弥のことを考えているんだが……おかしいかい?」
「変です……こんなの……」
「そう言いながらどうしてこの顔は赤くなっているんだろうね。相変わらず綺麗で、可愛い」
赤くなっている頬を舐められ、柾人のために巻いた首輪へ意識が強くなる。
「これから裸に首輪だけ巻いた朔弥を見たいんだが、私のワガママに付き合ってくれるかい?」
嫌とは言えない。また下肢の前に熱が集まりトクンと大きくなってしまったから。
「……今日だけ……ですよ」
「それについては確約はしないが、今は早く猫のように可愛く啼く私の朔弥を存分に堪能させてくれ」
またチュッと頬にキスすると、柾人は躊躇うことなくその場で朔弥の服を脱がし始めた。
-END-
0
お気に入りに追加
14
あなたにおすすめの小説

【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。

猿の内政官の息子 ~小田原征伐~
橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~という作品の外伝です。猿の内政官の息子の続編です。全十話です。
猿の内政官の息子、雨竜秀晴はある日、豊臣家から出兵命令を受けた。出陣先は関東。惣無事令を破った北条家討伐のための戦である。秀晴はこの戦で父である雲之介を超えられると信じていた。その戦の中でいろいろな『親子』の関係を知る。これは『親子の絆』の物語であり、『固執からの解放』の物語である。
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。

強いられる賭け~脇坂安治軍記~
恩地玖
歴史・時代
浅井家の配下である脇坂家は、永禄11年に勃発した観音寺合戦に、織田・浅井連合軍の一隊として参戦する。この戦を何とか生き延びた安治は、浅井家を見限り、織田方につくことを決めた。そんな折、羽柴秀吉が人を集めているという話を聞きつけ、早速、秀吉の元に向かい、秀吉から温かく迎えられる。
こうして、秀吉の家臣となった安治は、幾多の困難を乗り越えて、ついには淡路三万石の大名にまで出世する。
しかし、秀吉亡き後、石田三成と徳川家康の対立が決定的となった。秀吉からの恩に報い、石田方につくか、秀吉子飼いの武将が従った徳川方につくか、安治は決断を迫られることになる。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

空母鳳炎奮戦記
ypaaaaaaa
歴史・時代
1942年、世界初の装甲空母である鳳炎はトラック泊地に停泊していた。すでに戦時下であり、鳳炎は南洋艦隊の要とされていた。この物語はそんな鳳炎の4年に及ぶ奮戦記である。
というわけで、今回は山本双六さんの帝国の海に登場する装甲空母鳳炎の物語です!二次創作のようなものになると思うので原作と違うところも出てくると思います。(極力、なくしたいですが…。)ともかく、皆さまが楽しめたら幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる