夢のまた夢~豊臣秀吉回顧録~

恩地玖

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新・賤ヶ岳合戦記

又左投降

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「一方、わが軍はと言えば、庄介を討ち果たした後、北の庄に向けて進軍を始めた。但し、日も暮れてきたので二十一日は越前の今庄で宿営した。そして、翌二十二日、小姓一人を引き連れ、又左の守る府中に出向いていった。」
「手勢も引き連れず、向かわれたのでございますか!?万一、前田様が心変わりされて、殿下のお命を狙われたらなんとされるおつもりだったのですか!?」
「玄蕃が敗走したのち、又左が救援に来なかったことを見て、奴に余と戦う気が無いことはわかっていた。先に言うたであろう。奴は、織田家の安泰をこそ願っていたと。北の庄へ向かう道すがらにも現れなかったのじゃ。権六の負けが決まったいま、余を殺してしまっては、権六は助かるであろうが、肝心の織田家の内紛は泥沼化するであろう。余が出向いたのは、奴の自決を防ぐためじゃ。」
「前田様は、本当に柴田様に殉じるおつもりだったのでございますか!?」
「何度も申しておろう。恐るべき男じゃと。わが身一つの犠牲で、前田家の勢力はそのまま余の勢力に組み入れられ、織田家の勢力は安定し、前田家も安泰となる。そして、権六への忠義立ても申し分ない。奴にとっては、切腹が最良の道というわけじゃ。じゃからこそ、このような男に死なれてはならない。余にとってこれほど頼れる男はおらぬ。このような大事を余人には任せられぬ。余自ら、一人の男として、奴と対峙せねば、奴を生かすことは出来ぬ。」
「そこまで前田様に執着なさるということは、そのとき殿下もあるご覚悟をお決め遊ばされていたのではございませぬか?」
「勘違いするでないぞ。余は、あくまで織田家あっての者じゃ。そうでなければ、又左を説得することはできぬ。ともあれ、府中に着いてすぐに又左への対面を所望した。又左は飛んできおったわ。余と目が合うや否や、がばっとひれ伏し、面目もございませぬ、追っ付け切腹の上、城を明け渡すと申しおったわ。余の読みどおりじゃ。当然余はその儀には及ばぬ、と答えたわ。そして、こう言い添えた。そもそも、お主と余は心底を語り合う仲ではないか。武士の習い故、敵と味方に分かれることがあろうともそれは天の采配に過ぎぬ。もとより、我らに遺恨など微塵もない。この度、権六を成敗する運びとなったが、権六は三七殿にたぶらかされたに過ぎぬ。やり方は違えど、権六も余も織田家の安泰を願ってやまない者同士じゃ。織田家を盤石にするため、是非お主の力を貸してほしい。よろしく頼む、とな。」
「前田様の懐に飛び込まれたわけでございますな。殿下にそうまでされては、前田様も従う他はありますまい。これでまた、殿下のもとにきら星の如き部将が揃ったというわけでございますな。さりながら、織田家中で殿下が並び無きお方とおなり遊ばされた暁には、よからぬことを企てる方もおられるでしょうな。」
「余は、織田家の安泰にとって必要なことを粛々と行っているに過ぎぬ。それを余人がどう思うかまでは、あずかり知らぬことよ。ありがたいことに又左は余と運命を共にする道を選んでくれた。あとは、速やかに権六を成敗するだけとなった。そこで、又左に北の庄まで先導を頼んだ。」
「さすがに柴田様も風前の灯といったところでございましょうか。」
「さにあらず。北の庄は、権六が心血を注ぎ、数年かけて築き上げた城じゃ。また、権六敗れたりとはいえ、場内には三千ばかりの兵士が残っておった。また、権六も旗指物を城中の至る所に立て、鼎の軽重を問われることの無いよう、最期の戦いに臨んだ。」
「一軍の将たるもの、たとえ負け戦であろうとも、かくあるべしということでございますな。」
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