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2023年10月31日

第二十三話 3:49

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「グ、グスタフ! な、何でもないわよっっ! あ、あなたもいつまでも寝てるから、存在忘れちゃってたわよっっ!」

「ボボボボボボボボ……ボボ、ボク、か、かかかか仮面をとと取ってき来ますっっっっ!」

 私は明らかに顔が真っ赤でほてりまくりですっっ。
 でもありがたい事に部屋の電気は消してあって、スマホの灯りだけなので、グスタフにはそこまで認識出来ていません。たぶん。

「おまえ、ずいぶんいい気なもんじゃないか? え? さっきは……何かあんまり覚えてないけどオレに離婚を突きつけてきたと思ったら、しっかりおまえもあんな色男を部屋に連れ込んでよお」

「な! 何言ってんのよ! そもそもあなたが離婚しろって言ってきたんじゃないの! し、しかもセブリーヌと不倫してたし!」

 グスタフは頭を抑えながらリビングのソファに腰掛けました。
 そして灯りもしっかりつけました。

「うるせい! このバカ! おまえなんか、オレのいい足でまといなんだよ! そんな足でまといがいい度胸だわ! 全く! ホントに早くここから出てってもらいたいから、早くこの離婚届に……」

 グスタフは自分の服のポケットを探るだけ探ると、私を睨みつけました。

「エレン! 離婚届はどうした?」

 また怒り始めました。寝起きなのに気性が激しい……
 機嫌の悪いグスタフは、もう一度胸ポケットなどをまさぐり始め、また私を睨みつけました。

「このヤロてめー! タバコも取り上げたのかっっ!」
「タバコだったら今は吸わないでっっ! また大変な目にあうからっっ」
「何?」

「そうですね。タバコの火が原因で、あなたは意識を失っていますからね」

 リビングの奥のお風呂場からルースヴェンさんが戻ってきました。

「おお~。色男が戻って……は! 何でおまえ、仮面つけてんだ? 何だこりゃ?」

 仮面をつけたルースヴェンさんを見てグスタフは驚きと戸惑いでやたら派手なリアクション。
 でも仕方ないですよね~っっ。家の中で仮面つけられたら、コントですもん。

「申し遅れました。私、フリードリヒ・ルースヴェン・ファントム・シュレックと申します。この度は私の手違いで、奥様をトラブルに巻き込んでしまい、誠に申し訳なく思っています」

 あら? そこから?

 ルースヴェンさんは優雅にグスタフの座っている机を挟んで向かい側のソファの前へ来ると、私もこちらに来るようにと合図をしました。
 なので私はグスタフの向かい側に座ろうとしました。

「エレンさんはそちらにお座りください」

「え? グスタフの隣?」

 こうして私は仕方なくグスタフの隣に座りました。
 当然グスタフも私も居心地が悪くて仕方がない。
 そんな私たちを見ながら、ルースヴェンさんは向かい側のソファに「失礼します」と腰掛けました。

「……それでオペラの怪人さん? オレとコイツをここに座らせてどうするってんだよ? あ? それよりさっきのタバコ吸ったら意識を失うって何だ?」

 もうグスタフはマフィアのような口調です。
 しかしルースヴェンさんはそんな事、全く気にしてなさそう。

「はい。では今晩タバコに火をつけたと思うのですが、その後の事を、ご主人は覚えていらっしゃいますか?」

「何? ん? …………あれ? え? いやいや、ちゃんと覚えてるぞ……」

 グスタフは、私とルースヴェンさんの顔を見て、自分の意見に自信をなくしていったようでした。

「ご主人。確かに目が覚めた時あなたは普通に話しかけてきていたと思います。しかし、妙に場所が違っていたり、置いてある物の配置が変わっていたりなど、何か違和感がありませんでしたか?」

 ルースヴェンさんの言葉に、グスタフは身に覚えがあったのか、またタバコを探し始めました。

「ご主人、今タバコを吸うと、また同じ目にあいますよ」

「な! な、どういう事だ! 怪人! 説明しろ!」

 もう、何でそう上から物を言うのよっっ。
 私はグスタフの行動に情けなさすら感じていました。
 しかしルースヴェンさんは全く気にしてなさそうです。

「ご主人、あなたがタバコを吸った後、いきなり白目を向いて倒れたそうなのです。それを奥様が証言しています。それだけでも問題があるのですが、その後、何もなかったかのように起き上がり、意味不明な事を言いながら歩き回ったり、その場にあった物……例えばコップとかですね、そういう物を持って振り回したりなどしたとの事。そしていきなり何事もなかったかのように目を覚ますのです。今晩、そういった事が数回起こったようなのですが……。ご自身では覚えがありませんか?」

「…………ま、待て、待ってくれ! エ、エレン! 今の話、本当か?」

「ええ、本当よ!」

 私はしっかり嘘をつきました♪

「な、な、なんて事……タバコで気を失う……呼吸器系の疾患か? それとも脳……伝達物質がどうかしちまったのか? 酒が入ってたからか?」

 グスタフは自問自答を始めました。グスタフは腐っても医師です。ある程度症状を絞り込む事ができるのです。まあデタラメな話をしてるんですけど♪

「お、おいおまえ! エレン! 今は離婚どころじゃないぞ! 急いで自分の身体を調べんといかん!」

「え? 私、あなたの面倒見ないといけないの? あんなにずっとさげすまされてバカにされて、不倫までされたのに?」

「その代わり、いい生活をさせてやったろ!」

「え……」

 そりゃ確かにいい生活はできてた。でもそこに愛はなかった……。いつも待ちぼうけのつまらない生活。

 私は何だかまた子供扱いされたみたいで、頭に血が昇るのが自分でも分かりました。

「え、ええ~! いい生活させてもらったわよ! でもね! あなた全く帰ってこないし、何かやりたいって言ってもお金がかかるからダメだ! とか、反対して、私、なんにも楽しくなんかなかったわよ! しかもその間にあなたはセブリーヌと浮気してたらなんて考えたら腹が立って腹が立ってっっ! もうあなたなんかとは離婚で充分よ!」

「うるせい! ギャーギャー! これだから女は嫌なんだ!」

 グスタフはふてくされて顔も見ようとしません。
 私はヒステリーを起こして少し泣いてしまいました。
 向かい側のソファに座っているルースヴェンさんは、私たちの様子をしばらく静かに見守っていました。
 そして私が泣き止んだのを見計らって話し始めました。

「ご主人、あなたが身体を検査されるのは大いに結構です。しかしどうでしょう。今晩はお二人の間に離婚のお話がずっと出ていましたね。ここに私が入る訳にもいきません。なので……特にエレンさんにお聞きしたいのです」

「な、なんですか?」

「本当に離婚してよろしいのですか?」

「え?」

 ルースヴェンさん、何でそんな事言うのよっっ。
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