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2023年10月31日
第三話 19:36
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大きな炎が消えた後、城の中庭に集まっていたモンスター達は、今日はお開きとばかりに城の門の通用門のような小さなドアから、一人ずつちゃんと並んで帰り始めました。
そのモンスター達を、私はなぜかルースヴェンという仮面の男と並んで見送っていました。
そのモンスター達の後ろ姿が、妙にかわいらしかったのですが、
あの門から入ってきたと思うんだけど……私の乗った馬車はどうやってこの世界に来たんだろう……?
などと考えていました。すると、
「本当に今回の事はすいませんでした」
仮面の男は目線はモンスター達に向けたまま、丁寧な口調で話しかけてきました。
「……私はフリードリヒ・ルースヴェン・ファントム・シュレックと申します。この世界では伯爵の爵位を頂いている者です。ルースヴェンと呼んで頂ければ幸いです。よろしく頼みます」
「あ、はい。私はエレン・シュレーダーと言います。こちらこそよろしくお願いします」
「エレン……エレン……素敵なお名前ですね。よろしくお願いします」
先程までは、まるでミュージカルでも観ているかのような動きを見せていたルースヴェンさんは、今はとても落ち着いています。
でもよくよく考えてみると、何で私が敬語で気を使わなきゃいけないの?
この人が間違えて私を連れてきて、結婚の約束までさせられたのにっっ。
まあ、落ち着いたルースヴェンさんは物腰の柔らかい素敵な紳士に見えるし、さっきかばってくれた時カッコよかったからいいんですけどっっ……。
「あ、あの……ルースヴェンさん。私が乗ってきた馬車ってこの門から入ってきたと思うんですけど……ここって……」
「はい。エレンさん……。エレンさんとお呼びしますがよろしいですかね? あなたの言う通り、この門から馬車は入って来ました。そしてここは魔界、魔物たちの住む魔界です。ハロウィンのこの一日だけ、あの門の中心が……中心だけが人間界と繋がっているのです。今彼らが通っている通用門は人間界とは繋がっていません。そして今日の夜明け、ハロウィンが終わると、あの門は閉まり、また一年待たなければいけなくなるのです」
「は、はあ……」
「エレンさん、あなたは信じられないかと思いますが、ここは魔界。決して人間の住んでいい場所ではないのです。しかし私はどうしても結婚をしたいと思っていた方がいたのです。……結果、部下があなたを間違えて連れてきた訳ですが……。とにかく日の出までにそちらの世界に戻り、まことに申し訳ないのですが、一度ご主人と離婚をして、私と結婚をしてもらいたいのです。そうしないとエレンさん、あなたの命も危ない」
あ……やっぱり結婚相手を間違えたんだ。もうウソみたいっっ。
「じゃあその相手は……」
「はい。あれがここの支配者ベリアルです。彼は炎さえあれば、いつでも現れる事ができますし、いつでも監視しています。今もあの炎を使って私達を見ているはずです」
いや、聞きたいのはそこじゃなくって結婚相手の……まあ、いいかっっ。べ、ベリアルって言うのね。まんま悪魔の名前じゃないのっっ。ウソみたいっっ。でもウソじゃないんだわ、だって手首の脈がドクンドクンと波打ってるもの。
こうして私はこのウソみたいな、夢の中の出来事にしか思えない現実を、何とか理性が無くさないように必死で受け止める努力をしていました。
しかし当然ながら、目の前の仮面の男、ルースヴェンさんはそんな事には気がついていません。
「さあ早く馬車に乗って、人間界に戻りましょう。少しでも早い方がいい」
「は、はいっっ」
私はルースヴェンさんに促されるまま、馬車へ乗り込みました。
そこで今何時なんだろうと、おもむろにバッグに手を入れてスマホを取り出しました。
ここで自分自身、驚いたんですが、あまりの非現実な出来事の連続に、スマホの存在すら忘れていたのです。
そしてスマホの画面を見て、かなりホッとする自分がいました。
その画面にはいつものように家のペットの愛猫、ミナの子供の頃の写真。
ちょっとホッとする……
しかし電波の繋がりを示す四本線が一つもついていません。やっぱりネットは繋がらなさそう……
そして時間は十九時三十六分。
日の出が朝七時くらいだから、日の出まで後十一時間半ちょっと……
それまでに全ての事をしなければいけない……
私はルースヴェンさんにこの事を伝えようとした時、隣に座ったルースヴェンさんもスマホを見て、すぐに残り時間を把握したようでした。
「それは『携帯』という代物ですね。人間界ではほとんどの方が持っていると聞いています。しかし時間も分かるのですね。灯りにもなるし、人間の発明はすごい!」
ルースヴェンさんは妙に感動してスマホを眺めています。存在は知っていても、どうやら初めて見たようです。
「でもここでは何の役にも立ちませんわ。だってネットが繋がっていませんから……」
「……ネットとは?」
「あ……えっと~……、まああっちに戻ったら説明しますねっっ」
この魔界にネットなんてある訳ありませんっっ。
「お願いいたします。それよりこれからご主人にお会いしたいのですが、どこへ向かえばよろしいでしょうか?」
「え? あ! 病院の近くのホテルです。今日はハロウィンパーティーをそこでしているんです。えっと…ヴィスボルグ中央ホテル!」
「ヴィスボルグ中央ホテルですね。分かりました。御者君、聞こえましたか? そのホテル目指して行きましょう!」
この掛け声とともに、私達を乗せた馬車は元いた世界へ戻るのでした。
そのモンスター達を、私はなぜかルースヴェンという仮面の男と並んで見送っていました。
そのモンスター達の後ろ姿が、妙にかわいらしかったのですが、
あの門から入ってきたと思うんだけど……私の乗った馬車はどうやってこの世界に来たんだろう……?
などと考えていました。すると、
「本当に今回の事はすいませんでした」
仮面の男は目線はモンスター達に向けたまま、丁寧な口調で話しかけてきました。
「……私はフリードリヒ・ルースヴェン・ファントム・シュレックと申します。この世界では伯爵の爵位を頂いている者です。ルースヴェンと呼んで頂ければ幸いです。よろしく頼みます」
「あ、はい。私はエレン・シュレーダーと言います。こちらこそよろしくお願いします」
「エレン……エレン……素敵なお名前ですね。よろしくお願いします」
先程までは、まるでミュージカルでも観ているかのような動きを見せていたルースヴェンさんは、今はとても落ち着いています。
でもよくよく考えてみると、何で私が敬語で気を使わなきゃいけないの?
この人が間違えて私を連れてきて、結婚の約束までさせられたのにっっ。
まあ、落ち着いたルースヴェンさんは物腰の柔らかい素敵な紳士に見えるし、さっきかばってくれた時カッコよかったからいいんですけどっっ……。
「あ、あの……ルースヴェンさん。私が乗ってきた馬車ってこの門から入ってきたと思うんですけど……ここって……」
「はい。エレンさん……。エレンさんとお呼びしますがよろしいですかね? あなたの言う通り、この門から馬車は入って来ました。そしてここは魔界、魔物たちの住む魔界です。ハロウィンのこの一日だけ、あの門の中心が……中心だけが人間界と繋がっているのです。今彼らが通っている通用門は人間界とは繋がっていません。そして今日の夜明け、ハロウィンが終わると、あの門は閉まり、また一年待たなければいけなくなるのです」
「は、はあ……」
「エレンさん、あなたは信じられないかと思いますが、ここは魔界。決して人間の住んでいい場所ではないのです。しかし私はどうしても結婚をしたいと思っていた方がいたのです。……結果、部下があなたを間違えて連れてきた訳ですが……。とにかく日の出までにそちらの世界に戻り、まことに申し訳ないのですが、一度ご主人と離婚をして、私と結婚をしてもらいたいのです。そうしないとエレンさん、あなたの命も危ない」
あ……やっぱり結婚相手を間違えたんだ。もうウソみたいっっ。
「じゃあその相手は……」
「はい。あれがここの支配者ベリアルです。彼は炎さえあれば、いつでも現れる事ができますし、いつでも監視しています。今もあの炎を使って私達を見ているはずです」
いや、聞きたいのはそこじゃなくって結婚相手の……まあ、いいかっっ。べ、ベリアルって言うのね。まんま悪魔の名前じゃないのっっ。ウソみたいっっ。でもウソじゃないんだわ、だって手首の脈がドクンドクンと波打ってるもの。
こうして私はこのウソみたいな、夢の中の出来事にしか思えない現実を、何とか理性が無くさないように必死で受け止める努力をしていました。
しかし当然ながら、目の前の仮面の男、ルースヴェンさんはそんな事には気がついていません。
「さあ早く馬車に乗って、人間界に戻りましょう。少しでも早い方がいい」
「は、はいっっ」
私はルースヴェンさんに促されるまま、馬車へ乗り込みました。
そこで今何時なんだろうと、おもむろにバッグに手を入れてスマホを取り出しました。
ここで自分自身、驚いたんですが、あまりの非現実な出来事の連続に、スマホの存在すら忘れていたのです。
そしてスマホの画面を見て、かなりホッとする自分がいました。
その画面にはいつものように家のペットの愛猫、ミナの子供の頃の写真。
ちょっとホッとする……
しかし電波の繋がりを示す四本線が一つもついていません。やっぱりネットは繋がらなさそう……
そして時間は十九時三十六分。
日の出が朝七時くらいだから、日の出まで後十一時間半ちょっと……
それまでに全ての事をしなければいけない……
私はルースヴェンさんにこの事を伝えようとした時、隣に座ったルースヴェンさんもスマホを見て、すぐに残り時間を把握したようでした。
「それは『携帯』という代物ですね。人間界ではほとんどの方が持っていると聞いています。しかし時間も分かるのですね。灯りにもなるし、人間の発明はすごい!」
ルースヴェンさんは妙に感動してスマホを眺めています。存在は知っていても、どうやら初めて見たようです。
「でもここでは何の役にも立ちませんわ。だってネットが繋がっていませんから……」
「……ネットとは?」
「あ……えっと~……、まああっちに戻ったら説明しますねっっ」
この魔界にネットなんてある訳ありませんっっ。
「お願いいたします。それよりこれからご主人にお会いしたいのですが、どこへ向かえばよろしいでしょうか?」
「え? あ! 病院の近くのホテルです。今日はハロウィンパーティーをそこでしているんです。えっと…ヴィスボルグ中央ホテル!」
「ヴィスボルグ中央ホテルですね。分かりました。御者君、聞こえましたか? そのホテル目指して行きましょう!」
この掛け声とともに、私達を乗せた馬車は元いた世界へ戻るのでした。
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