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第二章 吸血鬼初心者

第三十一話 もう……疲れた……

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「いやーーーーー! ヨアナ様ーーーーー! 何で、何で~~~~~~!」

 目の前の炎の海になった屋敷の本館を見ながら、今にもその炎の中に身を投げ出しそうなローラを、オクタヴィアンは必死に身体を抱きかかえて行かない様にした。

「オクタヴィアン様! 離して! 離してーーーーーーーーーっっ!」

 ローラは子供の様に泣きじゃくりながら叫び、炎の中へ行こうとするが、オクタヴィアンはそれを許さなかった。
 そしてオクタヴィアンも涙が止まらなかった。

 何で? 何でこうなった。

 ローラは泣きじゃくり、激しい抵抗を見せたものの、そのうち身体の力が抜けて、抵抗するのをやめた。

 こうして二人はしばらくそのまま、目の前で燃え崩れようとしている自分達の屋敷を眺めていた。

 そして自問自答を繰り返した。

 何で……何で……

 この時間は、まるで無限に続いているかのように、長く感じた。

 しかし屋敷がゴゴゴゴオオ! と、音を立てて崩れた時、放心状態のローラはゆっくりと立ち上がった。

 そしてオクタヴィアンの顔を眺めた。
 オクタヴィアンもローラの顔を見た。

 二人の顔は泣きすぎて、目がおかしくなっている。

「……私、行きます。さよなら」

 オクタヴィアンは慌てた。

「ま、待って! 行くって? ラドゥの所? 何であんなヤツの所へ行くんだよ! こんな事になったのも、あいつのせいじゃないか! 頼むから行かないで! ローラ!」

「……違うわ。オクタヴィアン様。あなたのせいよ。あなたがちゃんとしてたら、こんな事にはならなかった」

 ローラは冷たくオクタヴィアンを突き放した。

 そしてラドゥのいる上空へ上がっていった。

「……ローラ……なんで……?」

 オクタヴィアンはもうどうしていいのか分からなくなった。
 目の前で屋敷が燃え尽きて、跡形もなくなろうとしている。

 このままボクも死んでしまった方がどれだけ楽か……

 オクタヴィアンはそう思った。

 そんな時、別館から人間ではないうめき声が聞こえた。

 屍食鬼!

 オクタヴィアンは一気に怒りのスイッチがはいった。

 目の前で燃えている本館の柱を軽々と持ち上げると、それを別館に叩きつけた。
 すると別館に火が飛び移り、柱が落ちた地面にも火が広がり始めた。

 そしてオクタヴィアンは別館に入ると、屍食鬼を捜しては首に噛みつき、血を吸ってはその首をもぎ取った。
 そうやって何体もの屍食鬼の首をはねていると、別館が炎に包まれつつある事に気がついた。

 オクタヴィアンは残りの屍食鬼がいないか確認を瞬時に行い、いない事を確信すると、二階の窓から飛び出した。

 そして中庭に降り立ち、別館が完全に燃え尽きるのを見守った。

 エリザベタ……ヨアナ……使用人のみんな……まさかあんな最期を迎えるなんて……
 それにローラ…………
 何で……何でこうなった……?

 オクタヴィアンには、もう涙も残っていなかった。
 ただ、もう生きていくのもイヤになった。

 ……このまま朝日が昇って、ボクに日が当たれば、ボクも燃えるはず……

 もう……疲れた……

 オクタヴィアンはそう思うとその場で崩れ、地面に大の字になった。

 空を眺めると、キレイな朝焼けが始まっていた。

 ……ボクももう逝くよ……待ってて、ヨアナ、エリザベタ……

 オクタヴィアンはゆっくりと目を閉じた。





「なんて事だ……」

 オクタヴィアンの城の最上階で、火事の様子を見ていたグリゴアは、あまりの火の速さになすすべがなかった。

 しかも火事が確認した際に、助けに行こうと地下の連絡通路を使おうとしたところ、何故か普段は開きっぱなしになっている扉が、屋敷側から何故か閉まっていて全く開かなかったのだ。

 一方で部下達が向かった屋敷の正門も、硬く何かで開けれなくなっており、助けたくても助けれない状態だったという事であった。

 そんな中、屋敷の本館も別館も、信じられない速さと大きな炎を巻き上げ、煙もモクモクと出して、城の中にもその煙がどんどん入ってきて大変で、城からも屋敷の状態がよく見えなくなってしまった。

 そして屋敷はあっという間に全てが燃え尽きてしまった。

 屋敷で残ったのは、石で作った外壁くらいで、庭に植っていた木などまで燃えてほとんどが炭の状態のようだ。

 グリゴアは自分があまりの事に呆然と、ただ燃え尽きて煙が立ち込めている屋敷を見ていると、部下が声をかけてきた。

「連絡通路のドアを開けました!」

 その連絡を聞いたグリゴアは、早速地下の連絡通路まで走って行った。

「大丈夫か!」

 グリゴアがまず目にしたもの、それは生存者の男だった。
 しかし全身が血まみれで、首筋にまるでオオカミにでも襲われたかのような鋭い咬み傷があり、意識も朦朧としており、何があったか聞き出せるような状態ではない。

「とりあえず客間のベッドに運んでやれ!」

 グリゴアの部下達は、その男を担架に乗せて、階段を上がっていった。

 しかしグリゴアはそう言いながら、別のモノのその恐ろしさのあまり、目が離せなくなっていた。

 ハンマーによって破壊された扉、それは壁側によけてある。
 その扉が付いていた奥、連絡通路の屋敷側にそれは立っていた。

 全身怪我だらけの血まみれの男。

 ただ、その怪我というのが、右腕の上腕部分と左足のももとふくらはぎが、先程救助した男と同様に獣に襲われたかのような欠損と出血。

 これだけでも異常な事態なのだが、更に口が異常にさけており、よく見ると歯が全て犬歯になり、全てが個別に動いている。

 そしてこの男は顔の左半分くらいがもぎ取られたかのように欠落していたのだ。

 そんなこの世の者とは思えない怪物が、目の前、屋敷側の連絡通路の城との境界線で、仁王立ちしてこちらを見ているのだった。

「か、怪物……」

 グリゴアはどうしていいのか分からず、剣も持っていなかったので、とにかく静かに境界線から遠のいた。

 しかし不思議な事に、その怪物はそこからこちらに来ようとはしない。
 ただ眺めているだけである。

 グリゴアは意味が分からなかった。

 そこに先程、生存者を運んだ二人の部下が、剣を持って降りてきた。

「グリゴア様! 離れてください!」
「この怪物が、あの男を襲っていたのですっっ!」

 二人は恐怖心でいっぱいの顔だが、城を守らなければという強い使命感の元、精一杯の気合いでその怪物に剣を向けていた。

 しかし怪物は動かない。

 この状況がしばらく続いた。
 何も変わらない状況に、グリゴアは頭をかいた。

「これ……ど、どういう事だ?」
「わ、分かりませんっっ」
「な、何でこっちに来ないんですかねえ?」

 するとそのうち怪物がその場でしゃがみ始め、横になって寝てしまった。
 三人はすっかり拍子抜けした。
 そこでグリゴアは二人に頼んだ。

「なあレオナルド、ヤコブ。申し訳ないんだが、交代交代で構わないので、コイツの見張りをしていてもらえないか? その間に俺はヴラド公に報告書を書く」

「分かりました!」

 そうして怪物の見張りはレオナルドとヤコブの二人に任せ、グリゴアは自分の部屋へ向かった。
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