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第五章 復活のはじまり

第六十四話 また馬車の中

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 ドラクリアと名乗り変えたヴラド公がグリゴアとテスラと話している三十分ほど前、オクタヴィアンはゴトン、ゴトン、と揺れる棺桶の中で目が覚めた。

 うわ~~……。ゆ、揺れる~~~~~っっ……それに何か外が騒がしい気がする~~~……。

 オクタヴィアンはまるで前日のデジャブでも起こっているかのような感覚に嫌な予感がした。
 しかしこのまま棺桶の中にいるのも不安がつのるだけで嫌だったので、棺桶の蓋をコソッと開けて、外の様子を見てみる事にした。

「イタ!」

 蓋を開けたとたん、目の中にこれでもかという眩い光が痛みと共に入ってきた!
 オクタヴィアンは思わず声を出して蓋を閉じた。

 え~~~~~~~~~~~っっ! 今、何が起きてんの~~~~~~~っっ。

 オクタヴィアンは混乱した。すると棺桶の蓋をノックされた。

「吸血鬼さん。今、十字架退けるから、ちょっと待ってて」

 これは子供の声だ。あ、あの子……えっと~……なんて言ったっけ? ローラになついてた子……あ、ベルキベルキっっ! 間違いない! つーか、十字架?

「き、君! ベルキ君だったよね? 今、何がどうなってんの?」

 オクタヴィアンの質問にベルキは答えない。ガタガタと音がしているので、十字架を退けるのに必死なようだ。
 オクタヴィアンは仕方なく待った。

「開けますよ」

 しばらくしてベルキが声をかけて棺桶の蓋を開けてくれた。

 オクタヴィアンは恐る恐る顔を上げた。
 すると案の定、ここは走っている馬車のほろのついている荷台の中で、人の大きさ程ある十字架には毛布が被せられていた。

「驚いた?」

 ベルキは少しニヤつきながらオクタヴィアンに話しかけた。

「えっ……と……、これどういう事?」

 オクタヴィアンは棺桶から出ると、馬車の後方を見ようと、ほろから顔を出した。

「熱!」

 オクタヴィアンは慌てて顔を引っ込めた。
 顔から少しだけ煙が上がった。それを見たベルキはびっくりした。
 すると御者席にいた使用人のおじさんがオクタヴィアンに気がついた。

「起きたのか。驚いただろ? バサラブ様の提案でな。吸血鬼退治をする部隊が作られたんだ。あんたが見たのはその十字架だろう」

「ええ?」

 オクタヴィアンは今朝の事を思い出した。

 そういえば、妙に張り切ってた気がする~……

 顔を出す事のできないオクタヴィアンは、おじさんの後ろに座った。

「バサラブ様、ホントに部隊作ったんだ」

 おじさんは馬を馬車の運転をしながらも、返事に答えてくれる。

「ああ、昼過ぎ……前かな? 起きてきて、自分の部下達を集めて、皆で慌てて十字架だの作って……かなりな部隊を結成してな。神父達も連れて森に向かったよ」

 オクタヴィアンは少しほくそ笑みながら話してきたのが、少しだけ気になった。

「そしたらな、森の中に怪物みたいなヤツらが何人かいてな。それを倒すのも一苦労してたよ」

 おじさんは思い出し笑いをした。

「え? 何で笑ってるの?」

「ああ、あの時の奴らの驚き方がな、みんな腰が抜けちまって。なあベルキ」

「うん。ちょっと間抜けだった。それにバサラブ様も情けなくて怒ってた」

 ベルキも笑っている。
 どうやらよっぽど即席の対吸血鬼部隊はダメっぽい。
 それとバサラブが部隊を指揮している事は理解した。

 それよりも、その事により逆に被害が広がっていないかとオクタヴィアンは心配になった。

「ね、ねえ、おじさん。それで誰か殺されたり、返り血を浴びて屍食鬼……怪物になっちゃったりしてる人とかはいなかった?」

「いや、それはないと思う。返り血を浴びた奴もいないと思う。かなり長いヤリを使って動けなくして十字架で燃やす方法をとってたからな」

 オクタヴィアンは関心した。
 確かにその方法なら返り血はよっぽど浴びる心配はない。
 と、こんな話をしていると、おじさんが話を変えてきた。

「ところで、もうすぐ宮廷の近くに来るんだが、どこへ行けばいいんだね?」

「あ? もうそんなトコ?」

 オクタヴィアンはおじさんの横から外を見た。日も落ちて、人の目では少し馬車の運転が難しくなる時間である。しかしオクタヴィアンには関係ない。

「そしたらボクの屋敷に向かってほしいから、この道をそのまま真っ直ぐに行けば着くよ。それよりまだ後ろに何台も部隊がついてきてると思うんだけど、何台くらい来てるの?」

 オクタヴィアンはおじさんのいるほろがない馬車の前方からも、後方からの眩しい光が見えていた。それがどれくらいか分からないが、かなりな数にのぼる気がしたのだ。
 するとベルキがおもむろに後方のほろを開けて数を数え始めた。

「熱っっ! ベ、ベルキっっ! 閉めてっっ!」

「あ、ごめんなさいっっ」

 ベルキはオクタヴィアンから一気に煙が上がったのを見て、謝った。

「えっと、二十くらい」

「どうだ? それぐらいいたら、ヴラド公は倒せるか?」

 おじさんがおもむろに質問をしてきた。

「……分からないよ。会ってみないと。味方かもしれないし」

「そうだといいがな」

 おじさんは表情一つ変えず、前を向いたまま、オクタヴィアンの屋敷を目指した。

 その時ベルキが何気なくオクタヴィアンが寝ていた棺桶から、ローラが身につけていた赤と黒のチェック柄のスカーフを見つけ、手に取っていた。

「いいよ。ベルキにあげる」

「いいの?」

 ベルキは喜んで、そのスカーフを首に巻いた。
 オクタヴィアンはローラが最後に言っていた事を思わず思い出してしまった。

 ……みんなで旅がしたいな……

 ベルキは首に巻いたスカーフを大事そうに触り、見つめている。
 それを見たオクタヴィアンはつい言葉が先に出た。

「ねえベルキ。これが済んだら、ボクとおじさんと、どこか旅に出ないかなあ?」

 ベルキは目を丸くした。そして明らかに困った顔をした。

「あ、ああ、ごめん。いきなり過ぎたねっっ。実はね、ローラが死ぬ前にみんなで旅ができたらって言ってたからついねっっ」

 オクタヴィアンは変な汗をかいた。しかしベルキは顔を横にふった。

「朝、吸血鬼さんがちょっと言ってた」

 そう言うと、ベルキはおじさんの横に移動して、おじさんに耳打ちをした。

「え? ああ、今朝言ってたやつな。旅、いいじゃないか。別にこの土地に何か未練があるか?」

「ない。お父さんもお母さんも死んじゃったし……」

「じゃあそうしよう」

 こうして話は速攻でまとまった。

 そしてこんな話をしている間に、馬車は屋敷の前に到着した。
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