薄毛貴族とその家族、ドラキュラ以前とその弟、そして吸血鬼。〜ボクは国の行く末より、自分の髪の毛の方がよっぽどか心配!!〜

広田川ヒッチ

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第五章 復活のはじまり

第五十八話 入れないっっ!

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 またきっと気持ち悪くなると半ば諦めていたバサラブだったが、オクタヴィアンが気をつけていた事もあり、夜空の中をゆっくり飛行を始めると、思いの外気持ちよく感じた。

「こりゃいいわあ~~♪」

 少し興奮気味で喜んでいるバサラブを見て、オクタヴィアンは少し安心した。

 こうして森を抜け、あっという間にオクタヴィアンとバサラブは、ブカレストの滞在先のモゴシュの屋敷の前に着いた。

「おほほほほほほほほ~~! 速いんだねえ~~っっ! オロロックちゃんっっ! まだみんな全然森の中だよっっ。いやもう目も覚めちゃった♪ いや~、気持ちよかった~~♪」

「あ、ホントですか! そりゃよかったです♪ では早速誰か屋敷の人を呼んで来てもらえますか?」

「分かってるよオロロックちゃん~♪ ちゃんと呼んでくるから、ここで待ってなさいよ~♪」

 こうしてバサラブは一人、モゴシュ邸の門の中へ消えていった。

 オクタヴィアンは不安でいっぱいである。

 今はまさに真夜中。
 使用人もモゴシュ夫人も寝ている確率が高い。
 こんな真夜中に誰かが起きて、自分を招いてくれるだろうか? 

 それにここで追い出されたら、朝までにトゥルゴヴィシュテの自分の屋敷跡まで戻らないと行けない。

 それはけっこうしんどい。

 オクタヴィアンはお願いだから誰か起きていますように~! と、神に祈った。
 神は苦手だけど。

 バサラブが門をくぐって、だいぶ時間が経った気がするが、なかなか誰も門に来てくれない。
 オクタヴィアンはさらに不安になった。

 ひょっとして、バサラブ様、寝ちゃったんじゃ……

 こう考えてしまうくらいオクタヴィアンは門の前で待った。
 誰もいない門の前で、長い時間が過ぎ、オクタヴィアンはここ数日に起こった事を思い出していた。

 ちょっと前まではあんなに楽しくやっていたのに……ヴラド公が帰ってきた辺りから、ボクの人生は訳がわからなくなってしまった……。エリザベタやヨアナやローラを失って……兄のように慕っていたラドゥを自分の手で殺して……。しかもヴラド公ももう死んでしまうだろう……あんなに楽しかったのに……もうあの頃には戻れない……ウソみたいだ……。何で……

 オクタヴィアンは夜空に浮かぶ月を見ながら涙が流れてきた。

 その時、門の内側から激しい足音と共に、怒り狂った罵声が聞こえてきた。

「オクタヴィアンーーーーーっっ! あんたのせいでエリザベタは~~~~っっ!」

 ギョッとしたオクタヴィアンは、すぐに門から離れて門の内側を見た。
 すると、明らかに常軌を逸したモゴシュ夫人が、剣を片手にオクタヴィアンめがけて走ってきている。

「げっっ!」

 オクタヴィアンはつい逃げようとしたが、逃げてる場合じゃないと我に返った。

「お義母さんっっ! ボクが殺したんじゃないです~~~~っっ!」

 オクタヴィアンは門の外からそう叫んだ。
 するとモゴシュ夫人はオクタヴィアンの場所を把握したようで余計に走ってきた。

「ウソをつくな~~~~! ラドゥ様がそう言ってたんだから~~~~っっ!」

 モゴシュ夫人は、オクタヴィアンの姿があまり見えていないのか、それとも頭に血が昇っているのか、オクタヴィアンの話など聞こうとはせず、剣で襲いかかってきた。

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっっ! お義母さん! 話聞いてよっっ!」

「うるさーーーーい! この人殺し~~~~っっ!」

 オクタヴィアンは逃げながらモゴシュ夫人を説得しようとするが、今のモゴシュ夫人には全く効果がない。
 こんなやり取りがしばらく続いたので、屋敷の使用人が目を覚まして外に出てきた。

「んん? あれは夫人……と、何か怪物? 吸血鬼?」

 屋敷から出てきた使用人は慌てて部屋に戻ると、十字架とニンニクを持って屋敷の門へやってきた。そしてその使用人の後ろには、やはりニンニクと十字架を両手に抱えた少年もいる。
 
「奥様! その怪物は私が相手しますので、どうかお下がりください!」

 使用人はそう言うと、モゴシュ夫人の横にやってきて、十字架をオクタヴィアンに向けて差し出した。

「わ! まぶしっっ!」

 オクタヴィアンは思わず引き下がった。

「やはり吸血鬼か! わしが退治してやる」

「ちょ、ちょっと待ってってっっ!」

 オクタヴィアンは慌てて空中へ上がった。

「くそ~っっ! 降りてきなさい! もう暗くて良く見えないわっっ」

「奥様、アイツは吸血鬼です。門の内側に入ればワシらが攻撃される事はありません。とりあえず下がりましょう」

「嫌よ! 娘と孫の仇を取るんだから!」

 モゴシュ夫人と使用人は、オクタヴィアンを倒す気満々である。
 オクタヴィアンは困ってしまった。

「も~っっ! ちょっとボクの話を聞いてくれよっっ! ボクはキミ達を襲いに来たんじゃないよっっ! ローラがここに友達ができたからって言うから来たんじゃないかっっ! キミ、使用人だろ? ローラっていうラドゥの奥さんになってたジプシー娘を覚えてないか?」

「ローラ……」

 その時、後ろの少年が声をかけた。

「ねえ? ローラを知ってるの?」

「知ってるも何も、いっしょに育った中だよ」

「ベルキ。騙されるな。吸血鬼は狡猾だ」

 少年との会話を使用人がさえぎった。さすがにこれにはオクタヴィアンも頭に来た。

「ねえちょっと! ボクはその子と話をしてるんだよ! それにお義母さん! さっきから娘と孫の仇って言ってるけど、エリザベタとヨアナが死んだ原因を作ったのは、ラドゥだよ! ラドゥが屍食鬼……怪物を屋敷に放って、それにエリザベタは襲われたんですよっっ! それにヨアナだって……」

 さっきまで感傷に浸っていた事もあって、オクタヴィアンはエリザベタとヨアナが焼け死んだ情景を思い出し、言葉をつまらせた。
 それを少年は感じとった。

「……ねえ? 泣いてるの? 吸血鬼さん?」

「ベルキ! たやすく声をかけるんじゃない!」

「え~? でも~……」

 少年はオクタヴィアンが悪い怪物に思えなくなってきた。
 それにモゴシュ夫人も何か感じとったようだった。
 
「オクタヴィアン! 答えなさい! さっき言った事は本当なの? ラドゥが二人を殺したの?」

「そ、そうです……直接ではないけど……でもラドゥがいなかったら、こんな事には……ローラだって……」

「え? ローラがどうかしたの?」

 少年が空中にいるオクタヴィアンに詰め寄った。

「ローラだって……ボクを助けなかったら、あんな目にはあわなかったのに……ぐ、ぐわああ~~~~~んっっ」

 ついにオクタヴィアンは空中で泣き始めてしまった。

 モゴシュ夫人と使用人と少年は顔を見合わせて困ってしまった。
 そこにバサラブが駆けつけた。

「もう~、いつまで経っても帰って来ないから夫人は~っっ。……? あれ? オロロックちゃん?」

 このヘンテコな状況を見たバサラブは、三人に説明して、オクタヴィアンは無事に屋敷に入る事ができた。
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