薄毛貴族とその家族、ドラキュラ以前とその弟、そして吸血鬼。〜ボクは国の行く末より、自分の髪の毛の方がよっぽどか心配!!〜

広田川ヒッチ

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第四章 ワラキア公国の未来が決まる日

第四十九話 目が覚めたら最前線

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「モゴシュの私兵団? それホントか?」

 グリゴアは床に横になっているローラの前で正座して、動く気配のないオクタヴィアンに聞き返した。

「ああ、本当だ。このままブカレストにヴラド公が向かうと、森で不意打ちを食らうよ! だから今から奴らを叩きに行こう!」

 グリゴアは腕を組んで考えた。

「オクタヴィアン……それが本当だとして、今から叩きに行くのもいいとして、オクタヴィアン。おまえは戦えるのか? もう日が昇っているぞ? おまえこそ死んでしまうんじゃないのか?」

「そ、そんな事はないよ! ローラの仇をとるんだ!」

 グリゴアは困った顔をした。

「オクタヴィアン……その情報はヴラド公にちゃんと伝える。だから今はその娘の横でもいいから一度寝ろ。いいな? 今のおまえは冷静さに欠けている。今行ったら本当に死ぬぞ」

 オクタヴィアンは「冷静さに欠けている」と言われて、少し落ち着きを取り戻した。
 そしてローラに目を移した。

「……分かった。一度寝るよ。ローラ……子の棺桶も頼むよ」

「分かった。お休み」

 グリゴアとヤコブは隠し通路から去っていった。
 
「アンドレアス……キミもここで寝るかい?」

「ヘ、ヘイ、ダンナ~っっ。ゔゔ~~~……」

 涙と鼻水でぐしょぐしょのアンドレアスもこの通路でローラの横にしっかりピタっとくっつくように並んで横になった。
 オクタヴィアンは、ちょっと嫌な気分になったが、アンドレアスも悲しいんだと思う事にして、ローラと並ぶように横になり、ローラを挟んで川の字になって三人は寝た。



 ガタガタガタガタガタガタガタガタ……

「ぐああああ! や、やられたっっ! い、痛いっっ!」
「し、死にたくないよお~!」

 ……え?

 オクタヴィアンはやたら身体全体が揺らされている振動と、騒音と、人の叫び声の中、目が覚めた。
 しかし、起きたその場所は真っ暗な箱の中のようである。

 ……何? 何? ボク、昨日ローラの横で寝たはず……

 ドカーンッ!

 オクタヴィアンが全く理解できていないその時、自分が入っている箱の上に誰か倒れて来たような衝撃がきた。

「な、何?」

 オクタヴィアンは慌てて箱を開けた。
 するとその箱からずるりと倒れる男の姿が。
 そして何故かここは走っている馬車のホロのついている荷台の中のようだ。

「もう一度突っ込むぞ!」

「オ、オラ死ぬのはごめんだわ~~~っっ」

「痛いよおーーーーっっ!」

 オクタヴィアンはとっさにここが戦場で、馬車にはグリゴアとアンドレアスとヤコブが乗っているを察した。
 それとヤコブが矢に撃たれて自分の寝ている箱に倒れ込んできた事も理解した。

 オクタヴィアンは箱のフタをあげて荷台に出ると、目の前に倒れているヤコブを抱きかかえた。
 ヤコブは背中から身体の中心に矢が刺さっており、普通なら助からない。

「お、おいっっ」

「わ、わし、死にたくないっっ。だ、だってまだ結婚したばっかで……嫁さ……、た、頼む、わ、わしも吸血鬼に……っっ」

 ヤコブは事切れそうだ。
 オクタヴィアンは悩んだ。

「キ、キミ、それはしない方が……嫁さんとむしろ会えなくなるよ……」

「それもヤダ……で、でも死にたくない……お願い……」

 ヤコブは放っておいたら死ぬ。

「また矢が飛んでくるぞーーーーーっっ! 気をつけろーーーーッッ!」

 グリゴアが御者席から大声で叫んでいる。
 アンドレアスはもうこの箱の横で頭を抱えてブルブル震えて動けない。

 オクタヴィアンに悩む暇もない。

「……後悔しないでね」

 オクタヴィアンはそう断りを入れると、ヤコブの首筋に牙をたてた。
 オクタヴィアンの立てた牙が、ヤコブの皮膚を突き抜け、赤い血がオクタヴィアンの口の中にジワ~っと入ってくる。

 美味い! 美味すぎる!

 オクタヴィアンはぐびぐびヤコブの血を吸い出す。しかしすぐに我に返った。

 ああ~! ダメダメダメ~っっ! これでこの子が死んじゃったら、吸血鬼どころか屍食鬼になっちゃう!

 オクタヴィアンはヤコブの首筋から口を離した。
 案の定、ヤコブはグッタリしている。

「おいっっ! キミ、生きてるか?」

 ヤコブは返事をしない。
 そしてガタガタとした振動と周りの騒音もあって、オクタヴィアンはヤコブの生死を見分ける余裕がなかった。

「と、とりあえず、この中で寝てて……」

 オクタヴィアンはとっさにヤコブをさっきまで自分が寝ていた箱の中に入れた。
 そして御者席に移動してグリゴアに事情を聞こうとした。
 するとここが森の中という事に気がついた。

「こ、これ、どうなってんの?」

 しかしグリゴアに事情を話す余裕がない。

「あ、オクタヴィアン! あそこにヴラド公がいる! この馬車で助けたいけど、これじゃ間に合わないし、近寄れないんだ! 行ってくれ!」

 いきなりヴラド公を助けてと言われても意味が分からなかったが、オクタヴィアンはとりあえずヴラド公のいる所へ一気に移動した。

 いきなり目の前に現れたオクタヴィアンにヴラド公は驚いたが周りも驚いた。
 そしてオクタヴィアンも驚いた。
 なぜならオクタヴィアンが移動して来た時、ちょうど剣がヴラド公めがけて振り下ろされている最中だったからである。

 オクタヴィアンは「ヤバイ!」と、思ったと同時にその振り下ろしている剣を持った右手首をスパンと切り下ろした。
 
「グワ!」

 右手はオクタヴィアンの切り方に勢いがあり過ぎたのか、思いのほか遠くへ弾き飛ばされ、斬られた男は右手を失った驚きと痛みでその場にしゃがみ込んだ。

「貴様、今目が覚めたのか?」

 ヴラド公が汗ばみながらも笑顔で話かけてきた。

「ええ、ついさっき。これ、どういう状況です?」

 オクタヴィアンは周りを見た。
 背中越しにヴラド公がいる以外、モゴシュの私兵団、バサラブが連れてきたトルコ軍、それに味方のはずのテオフィルの私兵団達もヴラドに剣を向けている。

「うむ。話すと長くなるがな、要するにテオフィルもブルーノも裏切ったという事だ」

「ええ?」

 オクタヴィアンは驚いた。
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