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第三章 思惑

第四十三話 見張りを操る

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 オクタヴィアンは暗闇の中、目を覚ました。

 ここ……どこだっけ? ああ……また隠し通路の床か……

 そう思って目を横に向けると、そこに松明を灯したヴラド公がいた。

「わ、わあ! ヴラド公!」

 オクタヴィアンは慌てて起き上がった。

 何で? 何でここに? あ、違う! 自分が手紙を届けたんだった!

 オクタヴィアンは我ながら色々と恥ずかしい気分になった。



 時間をさかのぼり、その日の夜も更けてすでに朝に差し迫った頃。

 城に戻ったオクタヴィアンとグリゴア、ヤコブとアンドレアスの四人は、これからどうするかを話し始めた。

「やはり俺がヴラド公に直接会おう! それしかない!」

「ダメだってグリゴア! ヴラド公に会う前にブルーノに捕まっちゃうし、ちゃんと話も聞いてもらえないって!」

「グリゴア様、レオナルドの首を何とか見せれないですかねえ? あれを見せれば、ヴラド公もこちらの話を聞いてくれると思うんですけど……」

「じゃあここにヴラド公を呼ぶ?」

「どうやって? みんな来るよ、絶対」

 ここで話がストップしてしまう。四人は黙ってしばらく考えた。しかし何も出てこない。
 しばらくこんな時間が過ぎた後、オクタヴィアンはふと、テスラの言っていた言葉を思い出した。

【知能の低い動物や理性の低い人間なら操れる】

「そ、そうだ! いいかい? ボクには人を操る能力があるかもしれない。だから手紙で『ヴラド公に大事なお話があります。必ずお一人で来てください』って書いて、宮廷に行って、ボクが見張りを操って手紙を渡させてみせるよ! それで見張りがそれを忘れちゃえばいいんじゃない?」

 その提案に、グリゴアとヤコブは「ええ?」と言った。アンドレアスはニコニコしている。

「オクタヴィアン? それ、本当に出来るのか? 出来なかったら……シャレにならんぞっっ」
「そ、そうですよオクタヴィアン様っっ。わしはその案、ちょっと怖いですっっ」

「な、何だよっっ! じゃあ他になんか案があるのかよ? ないでしょ! 絶対ボクの案ならやれるし、やってみせるから!」

 オクタヴィアンはつい二人の態度にカチンときて、見栄を張ってしまった。
 その見栄もグリゴアにはお見通しである。
 そして、こうなったオクタヴィアンがめんどくさい事も分かっていた。

「分かったっ。分かったよオクタヴィアン! おまえの言う通りにするよっっ。だからそのとんがった口を元に戻してくれっっ」

「え?」

 オクタヴィアンは自分の口がとんがっている事に全く気がついていなかった。
 それを部下の目の前で指摘されたので、オクタヴィアンはまた頭に血が上った。

「だ、だ、だ!」

「分かったっっ。悪かったオクタヴィアンっっ。俺がその手紙を書くから落ち着いてくれっっ」

 こうしてグリゴアはヴラド公に一人で内密で来てもらう内容の手紙を書くと、それをオクタヴィアンに渡した。

「よし、じゃあ朝になる前に帰ってくる!」

 こうしてオクタヴィアンは宮廷に向かって飛んだ。
 外に出てみると、少しだけ夜空の色が変わりかけているのが分かった。

 これはヤバい!

 オクタヴィアンは全速力で飛んだ。そして速攻で宮廷の前までやってきた。

 するといきなり目の前に現れたオクタヴィアンに、宮廷の見張りの兵がかなり動揺した。しかも少し明るくなってきているので、オクタヴィアンの怪物な顔がちゃんと見えた。

「か、怪物っっ?」

 見張りの兵は慌ててヤリをオクタヴィアンに向かって構えた。
 オクタヴィアンもヤリを構えられてかなり動揺した。

「ちょっ、ちょっと待って! ボ、ボク、オロロック・オクタヴィアンです! ヴラド公にこれを渡してほしくてやって来ましたっっ!」

 オクタヴィアンは見張りを操るという事なんてすっかり忘れて、手紙を出した。
 しかし見張りも相当な動揺をしている。

「な、何を訳の分からん事を言っとるかあ! お、おまえなんぞの手紙! 預かる訳なかろうが!」

 見張りは持っていたヤリでさらに牽制してきた。

 あ! もうダメだっっ! ど、どうしよう! あ、操るんだった!

 ここでようやく操る能力を思い出したオクタヴィアンは、見張りに向かって手紙を握りしめた右手を突き出した。

「そ、そこの男~……。今からボクの言う事を聞く……聞きなさい~……。このグリゴアが書いた手紙をヴラド公に渡してくるんだ~~……。そしてその事~……? じゃなくて手紙を渡した事は全て忘れなさい~~……」

 見張りの兵はキョトンとしている。

 ど、どうだ?

 オクタヴィアンはその姿勢のまま、様子を伺った。

「……グリゴア? グリゴ……あの今夜逃亡した! あのグリゴア?」

 見張りの兵は事の重大さに気がついたようで、オクタヴィアンからその手紙を恐る恐る奪い取った。

「グリゴアからの手紙だと! ヴラド公に報告しなくては!」

 見張りの兵は慌てて宮廷内に入っていった。

「…………これは……ただ手紙を渡しただけなんじゃあ……」

 オクタヴィアンは、やらかした気持ちでいっぱいになった。

 空を見上げるともう明るくなってきている。
 オクタヴィアンは開き直って慌てて城に戻った。
 すると帰りを待っていたグリゴアとヤコブが声をかけてきた。

「あ! オクタヴィアン! どうだった?」
「どうでした?」

「ごめん」

 オクタヴィアンは口をとんがらかしたまま、そそくさと隠し通路へ戻っていった。

「オクタヴィアン~!」
「ど、どう言う意味ですか~っっ!」

 グリゴアとヤコブが慌てて隠し通路に追っかけて来たが、オクタヴィアンはもう横になってガッツリ寝はじめた。



 こうして日中オクタヴィアンはグッスリ寝て、目が覚めたのだった。

「ヴラド公? ……き、来てくれたんですか?」

「貴様とグリゴアが来いと手紙によこしたからな。しかし……貴様……髪の毛はどうした?」

 自分が知りたいくらいですっっ。
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