薄毛貴族とその家族、ドラキュラ以前とその弟、そして吸血鬼。〜ボクは国の行く末より、自分の髪の毛の方がよっぽどか心配!!〜

広田川ヒッチ

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第三章 思惑

第四十二話 同族を襲わないで

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 ローラは慌ててベルキを抱きしめた。

「んん~? その子は?」

「こ、この子はここにたまたま迷い込んでしまった使用人の子供ですっ。今、この子を使用人の親に戻そうと思っていたところですっっ」

 ラドゥはじっくりとローラとその手の中にいるベルキを眺めた。

 ローラはラドゥがベルキに手を出すんじゃないかと気が気ではない。

 そしてベルキは開いたドアから入る月明かりで初めてローラの顔を少しだけ確認したが、人間の顔ではない事にはすぐに気がついた。
 それに抱きしめられていても、温かみをまるで感じない。

 ベルキは焦った。

 しかしそれよりも、目の前のラドゥのシルエットがあまりに恐ろしく、声がまたでなくなり、身体が震え始めた。

「ふ~ん……使用人の子供ねえ……こんな夜更けに……。でもいいさ。君がそう言うんならそうなんだね。ここの使用人の子供を安易に食べちゃいけないね。じゃあ早くこの子を使用人達に返してあげよう」

 ラドゥはそう言うと、ローラとベルキを外に出るようドアを全開に開き、その横に立ってうながした。

「そ、そうね。ありがとう」

 ローラはベルキの手を握ると、少しだけ早足で部屋の外に出た。

 その様子をラドゥは冷ややかな目で見ている。
 そんなラドゥにローラはぎこちない笑顔を見せると、ベルキを連れて廊下を歩きだした。

 この時ベルキは、ローラの手が、指があまりに長かったので、恐怖のあまり逃げようとした。

 ローラはベルキのその行動に焦った。まだラドゥが見ている。

「ベルキっっ。そんなにはしゃがないでっっ」

 ローラは必死に誤魔化した。そして使用人達の部屋を探した。しかしここにきてまだ一日経っていない。分かるはずもなかった。
 その時ラドゥが声をかけた。

「ローラ。使用人達の部屋は突き当たりを右に行った所の別の建物だよ。行けば分かるよ」

「あ、あ、そうなのね。ラドゥ、ありがとうっっ」

 ローラはベルキを抱き上げると、一瞬で使用人達の住居の前に移動した。
 そして建物のドアをドンドン! と、叩いた。

 すると中から怪訝そうな声と共に松明を持った男がドアを開けた。

「こんな夜更けに何用で?」

 しかしローラとベルキを見た途端、その男は固まった。

 ローラの顔を見れば、人間ではない事が直感で分かる。
 コイツはラドゥが連れてきた怪物だ! 同じジプシーとしても、その怪物の女がジプシーの子供を抱いている。

 ただ事ではない!

 男は身構えた。しかしローラはそんな事に構っていられない。

「すみません。この子……。どこのジプシーの子供か分からないんですけど、ここで預かってください。お願いします!」

「……この子……あんたと同じ、怪物じゃないのかね?」

「違います! この子は人間です! 未来ある子供です! どうか、ここで育ててあげてください!」

 このやり取りを聞いていたベルキは、ローラが必死になって自分を助けようとしてくれていた事を、ようやく理解した。

 ローラは怪物だけど、怖くない!

 ベルキはそう思った。

「ここにいても未来なんてないけどね」

 ジプシーの男はローラにそうぼやいたが、怪物であるジプシー女が必死になってこの子供を助けようとしている。
 男はベルキを預かる事にした。
 確かにここにいればよほどの事がない限り、危険はないだろう。

 ベルキはジプシーの住居に入る時、ローラの顔をしっかり見た。
 しかしその顔に恐怖はなく、むしろまだ別れたくないという顔であった。

「ローラ、また会える?」

「うん、夜ならね。また会いましょ♪」

 その言葉を聞いて少し安心したのか、ベルキは男に連れられてドアの向こうへ消えていった。
 
 ローラはラドゥのいる寝室に戻った。

 ラドゥはやはり冷ややかな顔を見せている。

「ローラ。僕の妻ならば、あんな子供の一人くらい、サッサと飲んでほしかったな」

 ローラはその言葉を信じられなかった。

「ラ、ラドゥ。お願いがあります。お願いですから、今後、同族……ジプシー達を襲うのはやめてください! 同族だけは……」

 そう言うと、ローラの目から涙が溢れ始めた。

 ラドゥはそんな言葉が返ってくるとは思っていなかったらしく、少し驚きの表情を見せた。

「……そうか。君の同族に対する想いは僕の思っている以上だったみたいだ。すまなかった。僕にはない感情なんだ。本当に申し訳ないんだけど、僕は同族をなんとも思っていない。今や人間は僕にとっては食料でしかない。でも君にとっては違ったね。分かった。もうジプシー達はもう襲わない。彼女達にもそう伝えよう。すまなかった」

 ラドゥはすぐに理解してくれた。
 ローラは、その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした。

 そして次の日、屋敷から馬車が一台、首都トゥルゴヴィシュテに向かって出発した。
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